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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.09 ファラオ店長、再び

   Act.09 ファラオ店長、再び


 境界空間…ルークは、ギルティアが指定した場所へ向けて飛んでいた。

 大破したエルヴズユンデは、先程の世界の集落の方々が預かってくれる事になった。


「…で?目的地はどんな場所なのだ?」

 ルークが尋ねる。

「…『異形』が集まりやすい絶対座標に位置する宇宙です。

 異形は、私がこの宇宙群に初めて訪れた時に一度、そして、一ヶ月ほど前にもう一度、

 ほぼ完全に駆除しましたが、恐らく、他の宇宙や世界よりは集まっているはずです。

 …もっとも、まだ駆除が必要なほど危険なレベルではありませんがね」

「成る程。そういえば、異形の力を蓄積、と言っていたが、それは一体どういう事だ?」

「私は本来、宇宙群の化身として宇宙群の核へとアクセスする能力を持っています。

 それは、宇宙群の核そのものから直接、根源的エネルギーを供給してもらう事を意味しますが…

 他の生体部品どころかコアが損傷した今のエルヴズユンデ…そして、力の大半を失った今の私には、それすらも不可能です。

 異形は、純度は低いですが、それと同じく根源的エネルギーを持っています。

 …その他の生物も持ってはいますが、異形はより多く持っており、そして何よりそれが一番正しいやり方です。

 それは、人を喰う訳には行きませんし、それでは異形と同じになってしまいますよね…フフ。

 こうなってしまっては…それを使って、少しずつ修復していくしかありませんから」

「…本当にすまない。色々と時間を無駄にさせてしまったらしい…」

 ルークが重ね重ね謝る。律儀な男である。

「良いのですよ…ルーク、あなたのせいではありませんから。

 …それに、ただ戦うだけの旅に、目的をくれた…それだけで、私はとても嬉しいんです」

 ギルティアが微笑む。

「そう言ってくれると、救われた気がする…ありがとう、ギルティア」


 そうこうしている内に、目的の世界につく。

 技術レベルは、大体現在だろうか?町並みはごく普通だ。

「…ここです。目立たないように降下してください」

「分かった」

 山の森の中に降りる。時間が夜だった事が幸いして、恐らく誰も見ていないだろう。

「我が姿はこの世界では目立つのだろう?」

 ルークが小さくなる。

「配慮に感謝します。さて、では早速…駆除を開始したいのですが」

「ここの地形は分かるのか?」

「ええ、何度か来ていますから…ルーク、私の肩に」

 ルークがギルティアの肩に乗る…まるで鷹匠だ。

 ちなみに、今ギルティアは昨日のドレスではなく、

 それ以前にこの技術レベルの宇宙で着用していたワンピースをいじって着用している。

「異形の出現地点の割り出しを…。

 くっ、エルヴズユンデとのリンクが無いというのが、こうも面倒だとは…かくなる上は私自ら計算…」

 異形の出現地点を割り出すには、過去のデータ、この世界の空間座標な等、非常に複雑な計算が必要だ。

 その他には、大きい一群ならば空間の歪みを探す事で探索が可能だった。

 大抵の『旅人』は、計算からではなく過去の事例から、

 異形が人の少ない場所で、一人だけの人間を襲う事を知っており、

 それ故に、遭遇するまでその足でいそうな場所を徘徊して異形を探すのだ。

 普段ギルティアはエルヴズユンデにアクセスする事で、出現地点を割り出してその場所をピンポイントで攻撃してきた。

 それ故に、通常では不可能な、『その世界に存在する異形の根絶』を可能としてきたのだ。

 しかし、エルヴズユンデとのリンクが無い今、ギルティアはその驚異的頭脳で暗算を…

「…できますかッ!!」


 …できなかった。


 実際の所、彼女の頭脳は相当明晰だ。

 しかし、この計算は既にそういう領域のものではないのだ。

「…足で探すしかありませんね…」

 ギルティアはため息をつき、夜の街へと歩き出した…。

 いくら異形が集まりやすい宇宙とはいえ、彼女は一ヶ月前にほぼ全て駆除していた。

 それ故に、そう簡単に見つかるわけが無かった…。

 降りた場所は以前最も異形が集まっていた町。しかし、町を幾ら歩いても見つからない。

「…見事な殲滅っぷりだな、ギルティア」

「ええ…流石は私…ここまで根絶できていましたか…」

 そして、ギルティアは今の体の不便さを実感することになった…。


「こら!そこの君!」

「?」

 突如として男性の声がする。

「こんな夜中に子供がうろうろしていちゃ駄目だ!」

 巡回中の警官だった…


 …補導された。


 親?いるわけも無い。

 保護者?自分が世界全体に対してそのような立場だ。

 答えられる事も、出来る事もなかったので、取り敢えず隙を見て逃走する事に成功した。


「…ふぅ、危なかった」

 ギルティアが安堵の息を漏らす。

「人間社会というのは、難儀なものだな…」

 ルークが苦笑する。

「私たちの存在する『世界』と併せて考えれば、もっと複雑になりますよ…。

 まぁ、私も、複雑な世界、というのはあまり好きではありませんがね」

 ギルティアとルークが目立たないように路地裏に座る。

「…今宵は収穫なし、ですか…はぁ…元に戻る道のりは遠いですね…」

 ギルティアが、旅用に準備してきた鞄を開ける。

「取り敢えず、路銀には余裕がありますが…さて、どうしたものか…。

 この姿では迂闊に活動できない、という事が分かってしまいましたからね」

 人目を避け、ギルティアが再び歩き出す。


 路地裏から、なるべく人目につかないように表通りに出る。

 流石にもう人はそう多く出歩いてはいないようだ。


 周囲を見渡す。少し向こうに歓楽街が見える。夜更けだと言うのに、あそこだけは人がまだかなり歩いている。

 ギルティアは少し軽蔑するような眼差しでそれを眺め、別の方に目をやる。

 そして眼に飛び込んできた『見覚えのあるもの』にギルティアは思わず、口に出して自分の気持ちを言ってしまった。

「…い、一体…何故?」

 ギルティアは、その『見覚えのあるもの』に向けて歩き出す。

「ファラオ店長、何故ここに…?」

 今、ギルティアの目の前には、屋台が、しかもしっかりとツタンカー麺という看板つきの、

 あの、共に戦ったファラオ店長の屋台がある。

「おう、嬢ちゃんか、無事で何よりだ…って、小さくなったなぁ…」

 ファラオ店長がギルティアを見て言う。

「普通、そういう時は、大きくなったなぁ、と言うのではないでしょうか…まぁ、事実ですし気にもしませんが…フフ。」

 ギルティアが屋台の前の椅子に座る。

「ツタンカー麺二つ」

「二つ?」

「ルークの分も、です」

「成る程な。おい、竜よ、こいつが、ラーメンって奴だ」

 ファラオ店長が、ギルティアの肩に相変わらず乗っているルークにニヤリと笑う。

「ほう…成る程、お手並み拝見、と行こうか」

 ルークが、興味津々の表情でニヤリと返す。


 ファラオ店長がラーメンを調理しながら、ギルティアから事情を聞く。

「こりゃ、後始末を引き受けてさっさと帰ったのが裏目に出ちまったようだな…」

「まぁ、私としても小さくなるのは想定外でしたが…」

「取り敢えず、夜はこうして相変わらず屋台だが…また店を持つ事にした。

 …しっかし、まさか嬢ちゃんまでここに来るとは…」

 ファラオ店長が笑う。

「異形が集まりやすい宇宙ですから、私が元の姿に戻るのには都合が良いと思いまして。

…店長がここに来たのには理由が?」

「いや何、俺の故郷がここってだけさ…修行の成果を確かめるなら、生まれ育った場所が一番だと思ってな」

「成る程…」

 ラーメンが完成する。

「ほう…これがラーメンか…」

「これを使うんです」

 ギルティアが、割り箸をルークに渡す。

「こうやって、こう」

 割り方と持ち方を説明する。

「理解した。こういう事だな?」

 ルークのもの覚えの良さも驚異的だった。

 ルークが麺を食べ始める。

「…成る程、これは美味だ」

 ルークが、頷く。

「ファラオ店長、と言ったな…ものは提案なのだが…

 …もし店を持っているのなら、ギルティアの保護者代わりを頼めないだろうか?」

 ルークが、唐突に言い出す。

「…ちょっ…ルーク!?一体何を…!?」

 ギルティアが慌てる。

「…見ての通り彼は成人している。保護者がついていれば邪魔が入る事はあるまい?

 どうだ?頼めないだろうか…」

「俺は別に構わんぜ」

「…い、良いのですか!?」

 ギルティアが思わず立ち上がる。

「ああ、別に拒む理由は無いからな…その代わり、仕事は手伝ってもらうぜ?」

「…当然です。任せてください」

「勿論我も働かせてもらう」

「よし、なら明日からよろしく頼むぜ、嬢ちゃん、竜」



 こうして、ギルティアが元に戻るための戦いが、始まった…。



 ギルティア日記

 ファラオ店長…何故ここに…理由は確かに分かりましたが、驚きを感じえません。

 ともあれ、彼の助力があれば少しは早く元に戻れるでしょう…。

 …頑張らなくては…!



続く

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