Act.74 不退転の死闘
Act.74 不退転の死闘
一方、憐歌がギルティアを発見したのは、自宅に着いてからだった。
「見つけた…!!」
憐歌は、家の外に出る。空間を閉鎖し、ヴェネディクスを呼び出す。
「ギルティア…今度こそ、あなたの使命を、終わらせてあげる…!!」
ヴェネディクスが境界空間へと飛び立とうとした次の瞬間だった。
憐歌の携帯から、メール着信を告げる音が響く。
「…せーや…!?」
憐歌が、メールの内容を確認する。
『これから、ギルティアと戦いに行くんだな?なら、もし良ければ、でいいが…その結末、見届けさせて欲しい』
憐歌は、返信する。
『連れていく事は出来ないけど…見せるだけなら…今何処?』
すぐに晴夜から返信が来る。
『家の前に一人で待ってる。』
『じゃ、ちょっと待ってて…今行くから』
ヴェネディクスは、空間閉鎖を利用して晴夜の所まで移動する。
晴夜は、連絡どおり一人で待っていた為、憐歌は彼をそのまま閉鎖空間の内部に招き入れる。
ヴェネディクスの核から、憐歌が降りる。
「…せーや、何でいきなり?」
「俺達の未来に関連した事だ…目を逸らさず、見届けたいんだ。
憐歌が、どんな戦いをして来たのか…少しでも、知りたい」
晴夜のその言葉に、憐歌は頷いた。
「分かった。なら…確か、せーやの携帯って、テレビ見れるよね?」
「あ、ああ…」
「…ちょっと貸して」
憐歌が、晴夜から携帯を預かると、それをヴェネディクスの核と接続する。
「空間震動通信、固有周波数セット、と…電波へのコンバート…完了」
ヴェネディクスとの接続を外し、晴夜に携帯を返す。
「はい、ちょっと携帯のデータをいじって、私専用の機密通信を傍受できるようにしたわよ…そこから生配信してあげる」
「な、何か、言葉を聞くと偉く物騒な気がするんだが…」
その言葉に、憐歌が笑う。
「まぁ…私の機動兵器はそもそも軍用の兵器じゃないから、そこまで物騒じゃないわよ…使って無かったしね」
そして、憐歌は続ける。
「さて、行ってくるわ…私達の未来の為に…!!」
「ああ、気を付けてな…必ず、必ず生きて帰って来いよ」
その言葉に、憐歌は笑顔で頷くと、ヴェネディクスに乗り込んだ。
そして、ヴェネディクスは、境界空間へと飛翔して行った…。
「けど…憐歌が生きて帰ってくるって事は…彼女は…」
晴夜の頭に、先程のギルティアの、去り際に見せた寂しげな笑顔がよぎる。
きっと彼女は、最後まであのままで散っていくのだろうな、と、晴夜は思う。
かと言って、憐歌に負けてくれと言う事も出来ない。
どちらかが生き、どちらかが滅ぶ、その二択なのだ。
更に言えば、他に、それらよりも良い選択肢は、思い浮かばない。
「人は…そんなに多くを愛せはしない、か…」
ヴェネディクスが飛び去って言った空中を眺めながら、晴夜は呟く。
「なら、人ではない彼女は、どれだけ多くの人を愛し続けてきたんだろうな…」
晴夜はそう呟くと、家の二階にある自分の部屋へと歩く。
「どんな結末になっても、それは、俺と憐歌、そして彼女が招いた事だ…。
当事者の一人として、俺は、最後まで目を逸らさずに見届けなきゃならない…!」
ベッドに寝そべりながら、憐歌に調整してもらった携帯電話を取り出す。
テレビ機能を起動すると、確かに、チャンネルが一つ追加されている。
「…憐歌…」
そして、晴夜は、そのチャンネルを選択した…。
エルヴズユンデと、ヴェネディクスが対峙する。
「…待っていましたよ、憐歌!!」
エルヴズユンデが、ヴェネディクスに剣の切っ先を向ける。
「…探したのよ、ギルティア!!」
ヴェネディクスも同じく、それに応える。
「今度は、こちらの仲間が割って入る事はありません…さぁ、決着を付けましょう!!」
エルヴズユンデが、剣を構える。
「それはこちらの台詞よ…あなたを倒して、私はせーやとの幸せな時間を手に入れてみせる…!!」
ヴェネディクスもまた、剣を構える。
二機が、同時に突進する。
「亡霊は…闇の彼方へ帰りなさい…!!」
剣の一撃が交差する。
更に、反転して両者同時に再度斬り込む。
「認めない…認められる訳が無い…私が貴女に羨望を抱いているなどッ!!」
ギルティアも、分かってはいた。
確かに、先日彼女が戦況を逆転できた理由も、先日、ギルティア自身が暴走した理由も、理解は出来ていた。
しかし、ギルティアは、認める訳には行かなかった。
確かに、自分の、使命への執着は、きっと異常なものだったのだろう。
しかし、使命そのもの、そして、その守られた命に、偽りは無かったはずだ。
ならば、自分が今までやってきた事は、誇るに足るもののはずだ。
だから、自分が、それから逃げたものに憧れを感じるなど、嫉妬するなど、ギルティアは断じて認める訳には行かなかったのだ。
それを認める事は、今までの旅の意味そのものを否定する事と同義だ。
剣の激突、続けて、エルヴズユンデがヴェネディクスに蹴りを叩き込む。
ヴェネディクスが吹き飛ばされたところに、追撃でブラスターが叩き込まれる。
「くっ…やっぱり、アクセス無しであなたを倒すのは無理、ね…」
ずっと戦い続けてきたギルティアは、強い。
アクセスによる圧倒的な力の差が無ければ、憐歌と言えど、歯が立たなかった。
「…祝福されし世界よ」
白い光の翼が、ヴェネディクスの背から放たれる。
「私のこの手の中にある幸せを…今少しの時間で良い…守る力を!!
…イノセントウィング…アクセスッ!!」
「こちらのアクセスは未だブロックされたまま、ですか…しかし、私とて…ここで退く訳には行きません!!
そして…易々と散るつもりも…ありません!!」
ギルティアの言葉に、ギルティアの左腕、そして、エルヴズユンデの左腕が反応する。
左腕の爪に、一瞬、紅い光のラインが走る。
「…この力が、異形の力であると分かった以上…使いようはあります!!」
左腕の爪に、紅の光が集まる。
アクセス状態ではないにもかかわらず、エルヴズユンデの目に、紅の光が宿る。
「はあああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
エルヴズユンデの周囲に、衝撃波が何重にも障壁のように展開する。
その姿は、まさしく、魔神と呼ばれるに相応しい姿だった。
「憐歌…私は、確かに亡霊…きっと、これが私の正体なのでしょう…。
しかし、私が振るうのが異形の力だとしても…この力は、今まで、私が人々を護る為に力を貸してくれた…!!
たとえ、私が亡霊でも…この力が異形の力だったとしても、その力で救われた人々の笑顔に、偽りは無い!!」
エルヴズユンデの左腕の爪に、再び光が集まる。
そして、巨大な紅のレーザーの刃が展開される。
「その笑顔すらも涙に変わるのよ!そう、他ならぬあなた自身のせいで!!」
ヴェネディクスの剣に、光が集まる。
「まだ…分からないでしょう!!」
エルヴズユンデが、ヴェネディクスに突進する。
ヴェネディクスは、エルヴズユンデが周囲に展開した衝撃波を、背の翼が放つ光で相殺する。
剣と剣がぶつかるが、直後、エルヴズユンデは横に敵の剣を受け流し、左腕の爪から展開された光の剣を、ヴェネディクスの胸部にぶち込む。
「でえええええええええええええええいっ!!!」
「くっ…その程度の攻撃で!」
ダメージは殆ど無い。
ヴェネディクスが、エルヴズユンデを盾で殴り飛ばす。
エルヴズユンデの胸部の砲身が、欠ける。
そして、ヴェネディクスはそのまま、盾からブラスターを放つ。
ブラスターの凄まじい熱量が、エルヴズユンデを飲み込む。
エルヴズユンデ周囲に展開された衝撃波で軽減されてはいるが、その熱量はエルヴズユンデを容赦なく焼く。
「う、うう…ぐ…まだまだ…この程度では!!」
再生能力は、鍵としての力を使っている状態よりも遥かに強力になっている。
「再生能力は高いわね…流石は、異形…」
「簡単に負けるつもりは無い、と…言った筈です!!」
エルヴズユンデの剣に、衝撃波が集まる。
「ええええええええええええいっ!!!」
剣の一振りで、紅の刃が、ヴェネディクスを襲う。
「無駄!」
ヴェネディクスが、周囲に熱量の槍を展開する。
「オーバーヒート・プリフィケーション…アターック!!」
熱量の槍が、紅の刃を飲み込み、展開された衝撃波ごとエルヴズユンデを射抜く。
「ぐうっ…!!」
更に、連続的にエルヴズユンデの周囲に槍が発生する。
ブラスターで迎撃したいが、砲身が、先ほど、盾で殴られてから、再生前に攻撃を受け続け、未だに再生しきれない。
この攻撃が続けば、再生など不可能だ。
前にシールドを張っても、後方から攻撃が来る。
「く、う…ま…だ…まだまだ!!」
エルヴズユンデが、熱槍の包囲網を、強引に突撃して抜ける。
一方、ズィルヴァンシュピスでは、皆が、艦橋のモニターでその戦いの行方を見守っていた。
「こんな所でお別れなんて…絶対に嫌だよ…お姉ちゃん…」
イセリナのその呟きに、シリウスが応える。
「お嬢ちゃんは、それでも行くだろう…そう、お嬢ちゃんは、この艦と、宇宙をはさんで反対側で戦っている…。
それは、わしらを巻き込まぬため、無事に脱出させるためなのだ」
「小生達には…最初から、見守る事しか出来なかったのかも知れません…」
その言葉に、イセリナは泣きながら首を横に振る。
「けど…けど、これじゃ…お姉ちゃんが報われないよ!!
何で…何でお姉ちゃんだけ…いつも、最後は独りで…!!」
その言葉に、ファラオ店長がため息をつき、言葉を紡ぐ。
「それが嬢ちゃんの宿命…と言うのは、あまりに酷だが、な…。
本来ならば、きっと、今戦ってる相手が、同じ場所に立てていた筈だったんだろうよ…。
だが…あの鍵は幸せになる道を見つけてしまった…」
「宇宙群の命運をかなぐり捨てての幸せなんて…!!」
イセリナの言葉に、アルフレッドが苦笑する。
「もしそう言うのならば、小生達がギルティアさんを助けた理由は何なのですかな?」
「それは…!」
「宇宙群の命運を考えて行動する限り、小生達に、彼女はどうやっても救えないのですよ」
その言葉に、イセリナは、渋々頷く。
「確かに、実際、八方塞を何とかする為に、結局お姉ちゃんは独りで…。
お姉ちゃんが独りなのは…人間が共に背負うには、その使命は重すぎるから、なのかも知れない…。
けど…受け入れられないよ…お姉ちゃん…」
「わしとて…まさか、こんな事になるとは、思わなかったぞ…くっ!」
シリウスは、アークトゥルースの修理を続行する為に格納庫へと駆け出す。
「…私も…!」
イセリナが、シリウスの後に続く。
残った四人は、戦闘を見続ける。
「…で、俺達はどうするんだ?」
じっと、やり取りを聞いていた藤木が、ようやく言葉を紡ぐ。
「フレアドイリーガルを修理するに決まっているだろう…行くぞ、藤木」
レディオスが、歩き出す。
「待てよ、今行くって!!」
藤木がそれに続く。
「…で?俺達は?」
残ったファラオ店長が、アルフレッドに尋ねる。
「…艦の修理だ」
「あいよ」
アルフレッドとファラオ店長が、艦橋のコンピュータを操作し、遠隔操縦による損傷箇所の手動修復を再開する。
「…だが、ありゃ…」
ファラオ店長が、修理のための操作をしながら、モニターの戦況がかなり芳しくない事を悟る。
「…俺達を寄せ付けなかった理由が分かるな。皆で行っていたら、それこそ、死者が出るか、悪けりゃ全滅だ…」
「…この艦の力を以ってしても、鍵の相手は厳しい。
あの機体と同程度の力を持った戦艦と戦うのとは、訳が違うからな…人間とは、神々の前ではかくも無力か…」
アルフレッドは、そうため息をつくと、モニターを切って黙々と修理を続け始めた。
その様子に、ファラオ店長も黙って、作業を再開した…。
ヴェネディクスはほぼ無傷だ。
エルヴズユンデの方は、逆に無傷の部分が無い。
「哀れね…そんなになっても、諦める事すら許されない…」
熱量の槍が、飛び散る羽根に重なり、光の矢になってエルヴズユンデに襲いかかる。
迎撃の手段がほぼ大破している状況、爆発を回避する事は不可能だ。
エルヴズユンデが爆風に飲み込まれる。
「ううう…あああああああああああ!!」
爆風に吹き飛ばされ、エルヴズユンデの目から、光が消える。
…機体が、動かない。
「応えなさい!私に応えなさい!!エルヴズユンデ!!」
「無理よ。もう既に、核も機能停止を待つだけという程に損傷してるわ…もう、良いの…もう、あなたの戦いは…終わったのよ」
ヴェネディクスの胸部に、光が集まり始める。
「バニシングララバイ…チャージ…!!」
「この程度で…この程度でもう終わりなどと!!」
しかし、エルヴズユンデは沈黙したままだ。
「応えなさい!!応えなさい…応え…」
ギルティアの目から、涙が流れる。
「…お願い…エルヴズユンデ…私の願いを…願いを聞いて…!」
一粒の涙が、エルヴズユンデの核に零れ落ちる。ギルティアは、使命自体は間違った物ではないと信じた。
守った人々の笑顔がギルティアにくれた力は、きっと彼女の晴夜への想いにも負けてはいない筈だ。
しかし、もし憐歌の晴夜への想いと、晴夜の憐歌への想いが、ギルティアが守った人々の笑顔がくれた力よりも強いのであれば、
そうだ、真正面から打ち破られて散るのならば後悔はない…しかし、だ。
「こんな終わり方…私は望んでいない…!」
二粒。三粒。涙はこぼれ続ける。すると、それに微かに核が反応する。
「私の心はまだ、折れてはいない…どうせ散るのならば…私はその最期の瞬間まで全力で戦って散りたい…。
…だから…せめて、その瞬間まで…私から翼を奪わないで…!!」
ギルティアは、ただ、どうあっても、最期まで真正面から向き合いたかった。
真正面から向き合えねば、ギルティア自身が持つ、嫉妬と羨望を認める事になってしまう。
核が、鳴動を始める。
「異形の力よ、もし…その力が願いを叶える力であると言うのならば…!」
核に、紅の光が走る。
「ファーウェルララバイ…グッド・ナイト!!!」
ヴェネディクスの胸部から、光が解き放たれる。
「…たった一人の亡霊の願い程度…叶えて見せなさいッ!!!」
ギルティア自身の叫びに応えるように、エルヴズユンデの目に、再び紅の光が灯る。
そして、エルヴズユンデは、閃光を、回避した。
「なっ…!?」
「あなた自身が言ったでしょう…私が、異形であると…異形の力は…願いを叶える力です」
「…そのボロボロの機体で…今更何をする気なのよ!!」
「私は…最期まで戦います!!消滅するその瞬間まで、私は戦います!!」
ギルティアの叫びに応じるように、左腕の爪に、更に強い光が集まる。
機体の損傷が、凄まじい速度で再生していく。
同時に、爪の形状が、より大きく、鋭いものに変わる。
その表面には、紅のイルミナルパターンのラインが走っている。
「これは…!!」
ギルティアは、自らの身に起きた事に、驚愕する。
それは、自らの異形としての力の、進化だった。
その力が、以前よりも遥かに強くなっている事を感じる。
そして、それと同時に、ギルティアの眼前に、一つの文字列が、表示される。
『WorldAccess-Hacking Unlock』
ギルティア自身、その能力が、鍵が本来から持っている能力である事を、瞬間的に理解する。
そう、それは、宇宙群の核に対して、ハッキングを仕掛ける能力だった。
ギルティアの強い願いに、異形の力が、ギルティアが本来持つ鍵としての能力を解き放ったのだ。
『AccessBlockCracking Leady...』
そして、自動で、プログラムが展開されていく。
かつて、ギルティアが封印された際に使われたアクセス封じの手段は、空間の閉鎖を応用した物理的なアクセス遮断だった。
もちろん、その空間の中では誰もアクセスする事は出来ない。
しかし、今回は、相手だけはアクセスが可能である。ただ、アクセスにブロックが掛かっているだけなのだ。
つまり、こちらからハッキングを仕掛ける事は不可能ではないという事だ。
しかし、それと同時に展開されたプログラムは、鍵の能力ではない。
本来ならば、アクセスブロックを破壊する能力など、鍵には存在しない。
…そう、それは、新たに生み出されたのだ。それこそが、異形の力だった。
「…これが、私の力…」
プログラムが実行を開始する。
ギルティアは、憐歌を、ヴェネディクスを睨む。
「憐歌…まだ勝負はついていません!!」
あとは、何としても、ハッキング成立まで、時間を稼がねばならない。
エルヴズユンデが、ヴェネディクスに突進する。
「ギルティア!勝ち目が無いと分かって、何故戦うというの…!?」
剣と剣が真正面からぶつかる。
「勝算が無い?笑わせてくれますね…私は、まだ負けてはいません!!」
「力の差が分からないほど、あなたは愚かなの!?」
力負けで、エルヴズユンデが吹き飛ばされる。
「力の差が分かっていても、皆は私を助けに来てくれた…!!
ならば、私とて…その最期の瞬間まで戦わねば、それに報いる事は出来ません!!」
エルヴズユンデの左腕の爪から、紅のレーザーが放たれる。
ヴェネディクスの翼で軽減されるが、完全には止められずに、ヴェネディクスにレーザーが直撃する。
「私はここで散るとしても後悔はしないと言った…しかし、それは、私自身の全てが燃え尽きるまで戦えればの話…。
その瞬間まで戦って初めて、私は私の旅を肯定できるのです…!!」
「元々あなたの旅なんて正しい物じゃないわ!!」
ヴェネディクスが、盾からブラスターを放つ。
「確かに私の使命への執着は間違ったものかも知れない…。
しかし、私がしてきた事は…鍵として正しい!私は、そう信じます!!
ここで途中で諦めてしまえば…その正しかった事まで否定されてしまう…!」
エルヴズユンデが、ブラスターで、ヴェネディクスのブラスターを相殺する。
「そもそも、結果として、宇宙群を更に大きな脅威にさらす事になった、そんな旅に…!!」
その言葉を、ギルティアが遮る。
「そこから先は、私を倒してから言いなさい…まだ、結果は出ていません!!結末も…まだ定まってはいません!!」
アクセスブロックに対するハッキング作業進捗状況、六十五パーセント。
ギルティアは、それを確認し、続ける。
「さぁ…あなたが言う言葉の続きを、私に示しなさい!私に、結末を定めてみせなさい!!」
「良いわ…なら、私の望むハッピーエンドを…せーやとの未来を、私は、守ってみせる!!
オーバーヒート・プリフィケーション…アタァァァァァック!!!」
熱槍の雨が、エルヴズユンデに襲い掛かる。
更に、シールドからのブラスターが、続け様にエルヴズユンデに迫る。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァァァァストッ!!!」
ブラスターが拡散し、熱量の槍とブラスターを迎撃する。
しかし、敵の攻撃の方が手数が多い。
「まだまだ…これで!!」
エルヴズユンデが、左腕の爪から紅色の閃光を放つ。
何と、その閃光もまた拡散し、全ての攻撃を叩き落とす。
ヴェネディクスは、更に攻撃を続ける。
飛び散る羽根に熱槍が重なり、光の矢がエルヴズユンデ目掛けて放たれる。
「ライトニング・レクイエム!!」
更に、ヴェネディクスが、黄金に輝く剣を、エルヴズユンデに叩き込もうと突進してくる。
「私は認めない!認める訳には行かないのです!!あなたと同じハッピーエンドを、私自身が心のどこかで望んでいるなど!!」
目から流れ続ける涙を拭いながら、ギルティアは叫んだ。
その姿は、まるで、未だに涙を流し続ける自分自身に鞭を打つかのようだった。
エルヴズユンデが、光の矢の爆発を利用してヴェネディクスの一閃を回避する。
「回避された…!?」
「そこです!!コンヴィクション・スラァァァァァァァァッシュ!!!!」
ブラスターを集中した一閃が、ヴェネディクスに叩き込まれる。
しかし、やはり軽減され、特段大きな損傷には繋がらない。すぐに、再生するだろう。
「無駄よ…幾ら異形の力があっても、完全なアクセスを行使出来る今の私を倒す事は出来ないわ。
そして何より、私にはせーやがいる…宇宙群よりも私を愛してくれた、大切な人がいる…!!」
アクセスブロックに対するハッキング作業進捗状況、九十八パーセント、九十九…。
ギルティアは、とめどなく溢れる涙を今一度拭うと、叫んだ。
「しかし…それでも…まだ戦いは終わっていません!!
…私もまだ、消滅してはいません!!」
そして、ギルティアは続ける。
「見せてあげましょう…亡霊の底力を!!」
その言葉と同時に、エルヴズユンデの黒い翼が、紅の光に呑み込まれ始める。
「祝福されし世界よ…!」
そして、その光は、エルヴズユンデの背に輝く、光の翼となる。
それは同時に、ギルティアのアクセスブロックが解除された事を意味する。
「我が全ての敵を祓い、この宇宙群の未来を切り開く刃となれ!!
…鮮血の光翼…アクセスッ!!」
紅の翼が羽ばたく。
「さぁ、祈りましょう、謳いましょう、踊りましょう!!お互いの信じる結末の為に!!
…勝負は、これからです!!」
ギルティアが言うように、本当の勝負は、これから始まるのだ…。
一方、ズィルヴァンシュピスの方では、艦のレーダーに、凄まじいエネルギー反応が確認されていた。
空間潜行でこちらの存在には気付いていないようだが、ズィルヴァンシュピスの、すぐそばを抜けていった。
その方向から、間違いなく、そのエネルギー反応は、ギルティアの戦っている方向へ向かっている。
格納庫の方にいたシリウスから、通信が入る。
「おい!何か凄まじいエネルギー反応がお嬢ちゃんの方に向かったぞ!!」
「ええ、こちらでも探知しています」
「…わしは行かせて貰うぞ。あのエネルギー反応、紛れも無く、彼奴だ」
その言葉に、アルフレッドが驚愕する。
「な…!?」
「今の所、イセリナちゃんの機体は主力となる武装が欠落している。
藤木とレディオスの機体は、決定力となる武装が足りず、まして、修理も終わっていない今、死にに行くようなものだ」
「し、しかし、それはシリウス社長とて…!」
その言葉に、シリウスはニヤリと笑った。
「…応急修理は終わった。
装甲の修理が不完全で防御力は多少心許ないが、フェイト・スレイヤーの展開する障壁で補える。
…どの道、彼奴の攻撃の直撃では、修理が万全でも一撃で終わりぞ。
何より、彼奴にわしはプライドを傷つけられておる。
…お嬢ちゃんが彼奴を倒すにしろ、せめて我が社とわし自身のプライドを賭け、一太刀報いたいのだ。
お嬢ちゃんと鍵の戦いに乱入する気は無いが、それに彼奴が絡むのならば話は別だ…わしらの誇り、見せてくれる…!!」
「…シリウス社長…」
そして、アルフレッドは頷く。
「…分かりました、ご武運を」
「うむ、お主らの分も戦ってやる、任せておけい!!」
そして、フェイト・スレイヤーとデモンズ・スローターを携えたアークトゥルースは、飛んで行いった『それ』を追って、境界空間へと飛び立って行った…。
続く




