Act.73 亡霊の願い
Act.73 亡霊の願い
憐歌との戦いから、四日が経過した。
ギルティアは、ベッドに横たわったまま、眠り続けている。
イセリナが、それに付きっ切りで看病していた。
一方、ルークも、帰還してすぐに倒れてしまった。
それだけ深い傷を負った状態で、最大出力で時空震ブレスを放ったのだ。
ルークは、ズィルヴァンシュピスの動力直結の医療用培養槽の内部で、傷を治療し続けている。
暫くは、動けないだろう。
他の皆の機体も、中破か大破、このまま旅を続けるどころか、
今襲撃を受けたら、間違いなくアウトだ。
もちろん、工業地帯から来たメンバーとアルフレッドが全力で修理は続けてはいるが、まだ、完全に修理が完了した機体は無い。
だから、損傷を負ったまま、ズィルヴァンシュピスは空間潜行を続けていた…。
ギルティアが寝かされたベッドの前に、全員が集まっていた。
「お嬢ちゃん、なかなか目覚めないな…」
シリウスが呟く。
「多分、お姉ちゃんはあの戦いで相当負担が掛かったから…。
一体、いつ目が覚めるのかは、私にも分からない」
「…まずい、ですな…」
アルフレッドが呟く。
「…何がだ?」
藤木が尋ねる。
「ここまで巨大な艦の空間潜行は、幾ら強力な本艦でもかなりの負担が掛かります。
…本来ならばその負担に耐えられるように設計されていますが、この損傷…これ以上、潜行しながら航行するのは不可能でしょうな。
今は航行を停止して少しでも潜行できる時間を稼いでいますが、このまま時間が経過しては、八方塞になるでしょう」
「…うむ…」
そして、ギルティアの方を向く。
「…あとは、お嬢ちゃん、か…」
「うーん、私が小さい頃に聞いたおとぎ話では、眠り続けるお姫様は王子様のキスで目覚めるってお約束があるんだけど…」
イセリナが、苦笑しながら周囲を見回す。
「…王子様…」
その言葉に、そこにいた全員が溜め息をつく。
社長はいるが王子はいない。そもそも王子を名乗れる年齢の男性がいない。
若くてもおじ様、そして大半はおじい様に近い。
「…駄目ぞ」
シリウスの一言に、イセリナが頷く。
「…うん」
しかし、その直後だった。
「…ん…」
ギルティアが、ゆっくりと目を開けた。
「…私は…」
「お、お姉ちゃんが目を覚ました!!」
「イセリナ…それに、皆…」
上半身を起こしたギルティアが、周囲の様子を確認する。
「…流石お姉ちゃん、お約束なんかに頼らないね!」
「…お約束?」
ギルティアの問いに、イセリナが慌てて首を横に振る。
「ううん、何でも無いよ!」
「そう、ですか…現在の状況は?」
皆が、ギルティアに現状を説明する。
「皆…私の為に…本当に、申し訳ありません…憐歌の言う通り、きっと、元凶は私です。
彼女の説明で、ようやく、インフィナイトの目的の全貌が見えてきました…インフィナイトの目的は、この私の力です」
「鍵のアクセス能力と、異形の『願いを叶える力』の融合、か…」
「ええ、インフィナイトにとっては、私の存在こそが、インフィナイトの目的の理想形そのもの…」
そして、続ける。
「ですから…私がその力を強く発揮すれば発揮する程、敵の計画は進行してしまいます。
彼女の言う通り、私はきっと、ここに存在してはならない存在なのでしょう」
そして、ギルティアがベッドから降りる。
「取り敢えず、皆が無事で本当に良かった…私を守って誰かが死んだら…私の使命はその時点で失敗に終わりますから」
「すまぬな、お嬢ちゃん…勝手な事をしてしまった、それは分かっておる…だが、わしらは…」
シリウスの言葉を、ギルティアは遮る。
「分かっています。あの時の皆の言葉、とても嬉しかった…。
そして、皆のその想いこそが、彼女の言っていた人の持つ力なのでしょうね…。
…私も、それを感じました。確かに、力は彼女にも、私にも劣ります。
しかし…あの想いが、もっと多く集まれば、恐らく、究極生命であろうと倒す事が出来るでしょう。
私には…到底真似できない力です」
そう言って、ギルティアは寂しげに笑った。
「…取り敢えず、まずは、少しルークの様子を見てきます。
皆も、休むにしろ修理を続けるにしろ、あまり、無理しないで下さいね」
そして、ギルティアは、格納庫に併設された医務室の、ルークの元へと歩き出す。
「…お姉ちゃん…」
「やはり…辛いのだろうな…だが、わしらは…わしらのするべき事をするしかあるまい。
それが、今のわしらに出来る事だ…皆、作業に戻ろうぞ」
シリウスのその言葉に皆が頷き、それぞれの作業する場所へと歩き出した…。
ギルティアがルークの元へと向かう途中で、エルヴズユンデを見上げる。
自己修復は既に完了しているが、背中の翼が元の翼に戻っていない。
「これが、きっとエルヴズユンデの…本当の姿なのでしょう…やはり、私は異形なのでしょうね…」
そして、再び歩き出す。
医務室、培養槽の中に、ルークが丸まっている。
「ギルティア、か…」
ルークが、ギルティアを認識し、言葉を紡ぐ。
「あの時、貴公がどれだけの事をしたのか、良く分かったよ…少々、無茶が過ぎた」
「ルーク…」
「究極生命は異形と違って、深い傷の再生にはかなり時間が掛かる…。
…この状況、恐らく、完治には一ヶ月以上は掛かるだろうな…あの時の貴公と同じだ」
ルークは、そう言って笑った。
「…すまんな…貴公の戦いを、邪魔してしまった。
だが…貴公が我らの為にしてくれた事、その借りだけは、貴公が散る前に、返しておきたかったのだ」
「それで、ルークがこんな傷を負っては、私にとって意味はありませんよ」
「ああ、正直、借りを返す事が、ここまで大変だとは思わなかった。
貴公は、身一つで、我が防いだあの攻撃よりも更に強力な攻撃から、我らを守ってくれた。
…その痛みを、その苦しみを、我自身、多少たりとも理解する事が出来た。
だから、自らを顧みずに躊躇い無く身を呈する貴公の優しさに、我は改めて感謝したい…そして、無事で良かった」
その言葉に、ギルティアは微笑む。
「ええ、ルークも、生きていてくれて…本当に良かった…皆が無事でいる事が…私の最大の願いですから」
「…きっと、皆は、貴公が無事でいる事が、最大の願いだったのだろうな」
その言葉に、ギルティアは苦笑する。
「相容れない願いは…不幸しか生みませんね…。
皆が助けてくれた事は、本当に嬉しかった。しかし、その結果はこの通り…八方塞になってしまった…。
やはり、彼女の言う通り、鍵は鍵であろうとする限り、人と繋がる事など出来ないのでしょう。
もっとも、あなたもまた、人ではない…私は、鍵ですら、ありませんがね」
「ああ、我は人間ではない…だから、貴公に借りを返す事だけは出来た。
我々は、人間とどう関わって行ったら良いのだろうな…」
「…私にも、分かりませんよ。
ただ、私は…人を守る使命と共に生きてきて、そして、人を守る使命と共に死んでいく事を、後悔してはいません。
私が使命に縛られた亡霊であっても、異形であっても…その誇りだけは、変わりません」
ルークは、安心したように笑う。
「…貴公らしいな。安心した…貴公はきっと、それで正解なのだろう」
「ええ…きっと、これで良いのですよ」
ギルティアは、ルークの笑顔に、笑顔で答えた。
「…そろそろ、私は失礼します」
ギルティアは、笑顔で会釈すると、歩き出す。
「…行くんだろう?」
ルークの言葉に、ギルティアが足を止める。
そして、振り向かずに、ギルティアは言葉を紡ぐ。
「ええ…止めても、無駄ですよ。
幾ら皆が私に望んでも…私には、それ以外にありません…このままでは、この八方塞から抜け出す事は出来ません。
もしも、インフィナイトの目的が彼女の鍵としての力ではなく、この私の亡霊としての力だというのならば、
最悪、私が滅びても、それによってインフィナイトの目的達成を遅らせる事は可能です」
それに何より、と続ける。
「私は、私の今までの旅すらも否定されたくはありません…彼女相手に、逃げたままでは終われないのです。
それは、使命しか無い私の全てを否定する事になる…」
その言葉に、ルークは言葉を紡ぐ。
「…ならば生身で出た方が良い。皆、今は持ち場で作業を続けている。
恐らくはそちらの方が、抜け出した事に気付くまでの時間を稼げるし、何より、この艦の近くで戦うというリスクを避ける事が出来るだろう」
「…!!」
ルークの意外な言葉に、ギルティアが驚く。
「…それと、機体を呼ぶ時は、遠隔操縦で、この艦の後部ノズルの基部四点をブラスターで狙撃させてからにすると良い。
そこならば、艦体への損傷は最小限に抑えられ、潜行は続けられるが、暫くは追ってくる事が出来ない」
「…何故、そんな事を私に?」
ルークは、笑った。
「貴公は、それが望みなのだろう…?
ならばもう、我が止めることは出来ぬよ…我ももう借りは返した。
ここから先は…貴公が己が望むままに切り開けば良い。
…散る事が貴公の望みなら、我はそれでも構わぬ。
我が貴公に願うはたった一つ…貴公が、最期に後悔しないでいてくれる事だ」
「…ルーク…」
ギルティアの目から、一粒の涙が落ちる。
「…行ってきます」
「…ああ、どんな結末が待っているとしても…貴公の、健闘を祈る」
ルークの言葉を背に受け、ギルティアは自室に戻った。
そして、ギルティアは自らが封印される以前に着ていた、誕生した時に着ていた服に着替える。
「あの時と同じ…だから、私は始まりに戻りましょう…勝つにしても、負けるにしても…私は、後悔はしません。
ルーク、それに皆…ありがとう…私は立ち止まりません。その先で私が散るとしても、私は足を止めません。
私には、そうする事しか出来ません…だから、私は躊躇ったりしません。
それが、私の誇り…皆の笑顔がくれた、歩みを進める勇気なのですから…」
そう、かつてギルティアが封印されたときに着ていた服…。
それは、彼女がまだ故郷の守護者として存在していた…存在していられた、その頃の記憶そのもの…。
そして、元々、封印が解かれていなければ、彼女はそこで宇宙群の寿命まで…つまり、自らが死ぬまで封じられ続けていた。
『生まれるべきではなかった、封印を解かれるべきではなかった』と彼女は言った。
ならば、もしも自分が彼女と最後に対峙するなら、この服が適切だ。
ギルティアは、着替えを終えると、静かに歩き出す。
「だから、皆…ごめんなさい、私には、どうやっても、こうする事しか出来ないのです。
そして、皆の言葉、私は散るその瞬間まで、決して忘れはしません…ありがとう」
そして、ギルティアは、ズィルヴァンシュピスから飛び立つ。
本来、鍵は生身で境界空間を飛ぶ事が出来る。
だから、ルークが言った通り、生身で飛び立てば、仲間達に気付かれはしない。
「…しかし、これは、少し寄り道していく必要がありますね」
生身で出れば、まだ少し時間がある。
ギルティアには、憐歌と戦う前に、どうしても一度会っておきたい相手がいた。
ギルティアは、まず、その相手の元へ向かった…。
一方、時間は、丁度下校時刻だった。
憐歌と晴夜が、公園脇の歩道を腕を組んで歩いている。
「相手が何処に潜ってるのか分からない…見つけたら、今度こそ決着を付けてみせるわ」
「…だが、本当に、彼女を倒してしまって、いいのか…?」
晴夜が、小声で呟く。
「え?」
憐歌が、微かに聞こえたのか、聞き返す。
「いや、本当に、彼女に協力したら、俺達は不幸になるのかなって。
…俺は、お前と一緒なら、何処にだって行けるぞ。だから…な」
「せーや…確かに、きっと、せーやと一緒に旅をしても、楽しいと思う。
けど、せーやは…人々に追われながら場所を転々とし続けて、それだけで、一生を終えたいと思う?
…もし、せーやだけ、普通の人より長く生きられるなら…それも良いと思うよ。
けど、せーやは人間…一緒にいられる時間は、限られてるから。
私が落ち着く事が出来る頃には…もう、晴夜はきっと死んでるよ」
その言葉に、晴夜は頷く。
「…そうか…人の一生のサイクルで物を見れないんだもんな。
なら、一緒にいられる時間が短くても、その時間を幸せに生きたい、それは分かる…けど、他に何か、方法はないのか?」
憐歌は苦笑しながら頷く。
「…あると言えば、あるわ。
けど…それをしたら、今度は、私が死ぬかも。
その手は、彼女に私の命を、力を預けるようなものだから…。
…ねぇ、何でそんなにあの娘を庇うの?」
「…別に、庇ってるつもりはない。
ただ…手を差し伸べてくれる相手がいても、それらはただ傷ついていくだけで、結局その手は自分には届かないなんて、寂しいだろうなって…そう思ったんだ。
…それは、お前が、昔感じていた事、なんだろ?」
「せーや…相変わらず、優しいね…けど、彼女は私とは違う。
そうやって生きる事しか、彼女には許されていない…私と違って、彼女はその為…戦い続ける為だけに、その存在を特化されているのよ。
…だから、誰かが終わらせてあげなきゃ…彼女の旅は終わらないわ」
その言葉に、晴夜は複雑な表情で頷く。
「異形の力を持つってのは、そういう事なのか…本当に、死ぬその瞬間まで、救われないのか…?」
「少なくとも、私が彼女にしてあげられる事は、それしかないわ。
彼女の戦いは、この宇宙群を滅びへと加速させるから…終わらせてあげないと…。
彼女が倒れれば、敵の目的達成の時間は遅くなるわ…だから、私達の幸せのためにも…ね」
そして、公園の歩道が終わる。
「…さて、それじゃ、また明日!
…そう、あの子と違って私には、待てる、楽しみに出来る明日がある…私は、本当に幸せ者ね…!」
憐歌は、そう言って微笑み、走り出す。
「ああ、また明日、ここでな!」
晴夜は笑顔で手を振り、歩き出す。
人気のない、薄暗い公園の中を歩く。昼間の登校時間は子供達が多く、歩道を歩いた方が早かったが、既に子供達は家に帰っている。
だが、それにしても周りが静かすぎる。晴夜は、違和感を感じ、立ち止まった。
「…こんばんは、晴夜さん」
自分を呼ぶ声に、晴夜は振り返る。
そこにいたのは、四枚の黒い翼を生やした、少女だった。
「…あんたは…確か…!」
そう、ギルティアだった。晴夜が思わず身構える。
「…直接話をするのは、初めてですね。
既に名前は知っていると思いますが、改めて自己紹介させて頂きます。
…私は、ギルティア。ギルティア=ループリングと申します。
驚かせてしまいましたね…少し、空間を閉鎖させて頂きました。
怖がらなくても、別に取って喰おうという訳ではありません。
ただ、憐歌があそこまで惚れ込み、そして、彼女を宇宙群の命運よりも愛した人と、一度話をしてみたかったのです。
…憐歌が一緒だと、その前に戦いになりそうですのでね」
ギルティアは、そう言って苦笑した。
「…そっか」
晴夜はあっさりと警戒を解いた。
公園のベンチに、二人で座る。
「話すっても、何を話すんだ?」
「晴夜さん…憐歌に、手を差し伸べたのは、何故です?」
「…そうだな…ただ…本当に、それこそ、今にも死にそうな程に、寂しそうな目をしていたから、かな」
「ふふ…そうですか…」
ああ、いい奴なんだな、と、ギルティアは思う。
「…少し、あなたと憐歌の出会いから、聞いてみたくなりました」
「ああ、分かったよ」
晴夜は、憐歌と出会ってから、今までの事を話してくれた。
「あなたは、本当に彼女の心を孤独から救ったのですね…彼女は、私について、何か言っていましたか?」
「誰かが終わらせてあげなければ、あんたの旅は終わらない、そう言っていた」
その言葉に、ギルティアは笑う。
「確かに…憐歌の言う通りです」
「俺は、犠牲になる事を望まないただの女の子一人の犠牲で、この世界の平和が守られるなんて、間違ってると思う。
…それは、あんたにだって言える事だ」
「そう、ですか…」
なぁ、と、晴夜は続ける。
「…あんたは、その使命を果たし続ける事に、疑問は無いのか?」
「…続ける事に疑問はありません。私は、沢山の人の笑顔を守れました…それが、私に旅を続ける力をくれます。
辛く苦しい旅路でも…私は、この使命を果たせる事を誇りに思っています。
そして、私が生きる限り…私はこの使命を果たし続けます。例え、それが、一人で旅を続ける事でも…ね」
ギルティアは、そう言って寂しげに微笑んだ。
「あんたは、そうやって、一人で歩いてきたんだな…。
だからこそ、言わせて欲しい。犠牲になる事を受け入れないでくれ…きっと、あんたに助けられた皆が、それを望む筈だ」
「もし、私が犠牲にならずに、他の全ても犠牲にならないと言うのならば、それも良いでしょう。
しかし、結局、誰かが犠牲になる…一人の犠牲が拒絶されれば、被害は拡大する…。
それよりもは、その為に生み出された、その為に特化された私が傷つき続けるほうが、まだマシです」
「…あんたを大切に思う相手が、それを見た時、どう思うか、考えてるか?」
ギルティアは、苦笑する。
「ええ…事実、皆、私を助けようとしてくれました…しかし、その結果は…。
…だから、きっと、私は大切にされないほうが良いのだと思います」
「間違っている、とは、言えないな…そこまで、世界を大切に思っているのなら。
他の誰かが傷つくよりは…自分が傷ついたほうが良い、って事だろ?
…なら、何故憐歌に協力を求めた?何故、憐歌をそっとしておいてくれなかったんだ?」
「私も、憐歌と出会い、最初はそっとしておこうと思っていました。
事実、私も、普通の少女として生きている彼女を戦いに引き戻すのは、先程言った、私の使命に…存在意義に反します」
しかし、と、ギルティアは続ける。
「その後、私は今回の事件の黒幕と交戦しました…残念ながら…この私の力では、全く歯が立ちませんでした」
ギルティアは、ため息をついてから、言葉を続ける。
「…私では、絶対的に力が足りなかった。しかし、それでも、私は皆を守りたかった…。
私自身の使命が、存在意義が壊れれば、あとは、私は滅ぶだけです。
しかし…それでも、皆は、そして皆が生きるこの宇宙群だけは、何としても守りたかったのです」
「…そこまでの覚悟で、交渉しに来たのか…」
「ええ、交渉が成立しても、失敗しても、いずれにしろ、この事態が解決すれば、存在意義に矛盾を抱えた私は、その役目を終え、自らを滅ぼすでしょう」
その言葉に、晴夜は、ギルティアの覚悟を感じた。
「…優しすぎるな、あんたは」
「それが、私の中の異形の部分がもたらすという、使命への執着から来る物なのか、それとも、私自身のものなのかは…分かりませんがね」
さて、と、ギルティアは立ち上がる。
「最後に、一つだけ聞かせてください」
「ん?」
「もし、最初に出会ったのが憐歌ではなく私でも、あなたは、手を差し伸べましたか?」
その言葉に、晴夜は頷いた。
「…ああ、きっとな」
即答に、ギルティアが笑う。
「ふふ、躊躇わずに頷きましたか。
嬉しいですが…これは、最初に出会ったのが彼女で良かったですね…しかし、憐歌の気持ち、少しだけ分かった気がします。
少しの時間ですが、話せてよかった」
「…その口ぶり、まさかあんた…」
ギルティアが羽ばたき、宙に跳ぶ。
「…ええ、これから、憐歌と決着を付けます。今度は、私の側にも邪魔はさせません。
…私が負ける事になれば、今度は間違いなく滅びるでしょう」
「…なら、何故俺なんかに会いに来たんだ…?」
ギルティアは、笑う。
「あの時、彼女が急に力を取り戻した理由が…私が勝てなかった理由が知りたかったのです。
私は、あなたと、そして彼女と向き合わねばなりません。
そして…今、あなたと話して、私が向き合わねばならないものが、何となく分かった気がしました。
そう、それが彼女の言う、人間の力…私には無い、素晴らしい力…最後に、それが分かって良かった…ありがとう」
ギルティアは、寂しげに微笑んで軽く会釈すると、飛び去っていく。
空間の閉鎖が解けると、既にギルティアは姿を消していた…。
境界空間、ズィルヴァンシュピスとは反対側の場所で、ギルティアは、エルヴズユンデを呼ぶ。
「これで後は全力で戦うだけです…エルヴズユンデ!!」
ズィルヴァンシュピスの内部で、エルヴズユンデが起動する。
「なっ!?」
アークトゥルースの整備をしていたシリウスが、エルヴズユンデが動き出したのを目撃する。
「エルヴズユンデが…!?」
艦橋にいたアルフレッドも、それを確認する。
その時、皆は、ギルティアがいない事に気付いた。
エルヴズユンデは、ズィルヴァンシュピスの格納庫の扉を蹴り破って外に出る。
そして、ブラスターで、ズィルヴァンシュピスの推進力を奪う。
エルヴズユンデは、それを済ませると、ギルティアの元へと転移していった…。
エルヴズユンデの胸部のコアに、ギルティアが乗り込む。
「…さぁ、これで彼女も私の存在に気付くでしょう」
そして、ズィルヴァンシュピスから通信が入るが、ギルティアはそれを遮断する。
「…ごめんなさいね、皆。もう、これ以上…皆と一緒にいる事は出来ません。
そこは、私にとって暖かすぎる…亡霊の私が居て良い場所では、ありません」
そして、通信に応答する代わりに、ギルティアは、文字で通信を行った。
『皆、こんな私の為に命まで賭けてくれて、本当にありがとうございます。
しかし…私には、こうやって生きる事しか出来ません。
きっとそれが、私が異形であるという、その異形たる所以なのでしょう。
あのまま動けずいても、いつか見つかっていた筈です。
…いずれにしても、戦わなければならない相手…。
そして、全員で当たっても、そして、たとえ勝つ事ができたとしても、多大な損害が出ます。
ですから、少々強引ですが、邪魔が入らないように足止めをさせて頂きました。
そして、インフィナイトの目的が私であれば、私が倒されれば、少なくとも、インフィナイトに挑む以上の時間は稼げます。
その時間があれば、一人でも多くの人を、宇宙群の外に脱出させる事が出来ます。
他に方法はありません。ですから、私は一人で行くと決めました。
もう、私のために傷つかないで…私は、傷つくために生まれてきたようなものです。
これ以上、私から、役目を取らないで下さい。
だから、この戦いの結末がどうなっても…皆、生きて。
それだけが、私の願い…最後まで、私に、私の使命を果たさせてください。
ここで逃げる事は、使命しか無い私にとって、今までの旅を、守れた皆の笑顔を、その全てを否定する事になってしまいます。
私の使命への執着が、正しくないものであっても…異常なものであっても、私は、私のしてきた事を否定したくはないのです。
だから、私は行きます…私が今までしてきた事を、肯定するために』
そう送信し、ギルティアは、前を見据える。
境界空間の彼方に、機影が見える。
「…来ましたね、憐歌…!」
ギルティアが、それをヴェネディクスと確認する。
例え負けて散る事になっても、ギルティアに後悔は無かった。
皆が生き延びてくれるなら、それが、ギルティアの勝利なのだから。
エルヴズユンデが、遥か遠くに見えるヴェネディクスに向き直る。
「…憐歌…今度こそ、決着を付けましょう!!」
果たして、この戦いには、どんな答えが待ちうけているのか…。
続く




