Act.64 復活の刻
Act.64 復活の刻
オレンジと茶色が基調の無骨な機動兵器が、境界空間を飛翔する。
「どうやら、二人とも元気そうだね…けど、まさか白銀の槍の起動が必要な事態が起こってるなんて…」
コクピットで、少女が呟く。
「…ともあれ、詳しい事は直接、だね…急がなきゃ!」
機動兵器が、スピードを上げた…その先には、アルセント宇宙群が見えていた…。
一方、ファラオ店長達は、目的の境界空間座標に到着していた。
凄まじい空間震動の荒波が、渦巻いている。
しかし、ただ空間が不安定なだけで、そこには何も無い。
「…おい、何もねえぞ?」
藤木の言葉に、アルフレッドがニヤリと笑り、端末を操作する。
「亜空間ステルスを解除、メインシステムをアイドリング状態に移行。さぁ、姿を現しなさい…ズィルヴァンシュピス!!」
アルフレッドの言葉に応えるように、空間が、波打ち、轟音が響く。
そして、空間を突き破って、銀色が基調の巨大な機械構造物が、境界空間上に姿を現した…。
「これが…そうなのか?」
思わず、藤木がそう呟く。
「そうさ…こいつが、昔俺達が活動拠点として使用していた、超大型要塞戦艦スーパーソルクラウン級零番艦、ズィルヴァンシュピスだ」
ファラオ店長が、そう言って自慢げにその雄姿を眺める。
「成る程な…危険な空間に封印するだけの事はある…良く分かった。そして、良い物を見せてもらった」
レディオスが、そう言ってニヤリと笑う。
「後部機動兵器格納用ハッチ開放、そこから内部へ入ってください」
アルフレッドの言葉に従って、二機が、後部のハッチから内部へ入る。
「…内部はかなり広いです。まずは艦橋で艦の機能を復旧しますので、小生についてきて下さい」
「起動前に迷うと結構ヤバいから、気を付けてな」
居住ブロックから降りたアルフレッドとファラオ店長が、歩き出す。
「あいよ、そこら辺はお前らに一任するぜ」
藤木と、レディオスがそれに続いた…。
一方、その頃…。
「先程のルークの時空震ブレスのせいで、ティタニックが起動した!?」
わき腹を抉られたヴェルゼンが、治療用の培養槽の中で、隣の培養槽に入っているオーガティスに言う。
「ああ、隔壁をぶち破って外に出ちまったよ…」
「…目的地は分かっているのですか?」
「境界空間の一地点、と言う事だけは分かってるが…そこに何があるかは分からない」
オーガティスの言葉に、ヴェルゼンがため息をつく。
「まぁ、あれは未だ試作段階でしょうし、実戦データの回収には、丁度良いでしょう…」
そして、アルフレッド達のいる境界空間座標へ向かう、複数の大型機動兵器と、一隻の艦影があった…。
「…レディオス、藤木…あの愚かなるシリウスを片付ける前に、貴様らから片付けてくれる…!!」
艦の艦橋から、声が響く。しかし、艦橋には人影は無い。
「貴様らに復讐する為ならば、私は、例え神にだろうが悪魔にだろうが、魂を売ると言った…。
そして、私は力を手に入れた…貴様らを倒すための、力を…今に見ておれ…避けられぬ不幸を、今そちらに届けようぞ…!!」
それらは、間もなく、ズィルヴァンシュピスのいる境界空間座標へと、到着するだろう…。
四人は、艦橋に到着していた。
「ここが艦橋です」
かなりの広さだ。
「…これを四人で動かせるのか?」
レディオスが尋ねる。
「生活環境の事ならともかく、今の状況だと二人でも十分ですよ。殆ど全てコンピュータ制御で動作可能です」
「成る程、機能は良いが…少し面白みには欠けるな」
「もちろん、人数を増やした方が、何かと便利ですがね」
アルフレッドはそう言って笑った。
「…さて、起動と行きましょう」
「おう、先に起動してしまってからの方が、説明も早いな」
アルフレッドとファラオ店長が、艦長席と思しき場所に向かう。
艦長席には、三枚のカードを差し込むと思しき三つの穴がある。
アルフレッドは、自らのコートの内ポケットにしまってあった、十字にクロスしたスパナのマークが描かれたカードを、そこに差し込む。
すると、艦橋が一気に明るくなり、計器類に光が灯る。
「さて、んじゃ俺も」
ファラオ店長が、ツタンカーメンの黄金のマスクとおたまが描かれたカードを差し込む。
すると、艦橋のモニターに、火器管制の制御ロック解除を告げる表示が出る。
「これで、一応通常火器も使える。戦艦としてはこれで使えるな」
「…おい、もう一枚差し込める場所があるが、どうしたんだ?」
藤木が尋ねる。
「そこは、かつて我らのリーダーだったイセリナ様のカードを差し込む場所です。
呼びかけてはいますが、我々の呼びかけが届く場所にいるかも、賭けですな」
「と言う事は、まだ、この艦は完全には目覚めていないって事か?」
その言葉に、アルフレッドが頷く。
「ええ、しかし、それは最終兵装を含む、一部の高威力兵器のみで、通常火器だけでも、この艦は十分の戦闘能力を持ちます」
「成る程な…しかし、凄いもんだ…俺達がいた世界から出てから今まで、驚きの連続だ…な、レディオス」
レディオスは、その言葉に何も言わずに頷いた。
「さて、少し動かしてみますか?」
「…そうするか」
アルフレッドが、艦長席の前の席に座る。
「おい、艦長席はそこじゃないぞ?」
「艦長は小生達のリーダーです…かつても、小生はここで操作をしておりました」
そして、ファラオ店長が、艦橋の最前席に座る。
「火器管制は問題ない、いつでも行けるぞ」
「…では、改めて…連鎖式縮退炉起動、ツインニュートリノブースト動力炉との共鳴を開始!」
艦の中核にある、三つの動力炉が、一斉に運転を開始する。
「全システム異常無し、ズィルヴァンシュピス、発進!!」
艦尾のブースターに火が灯り、ゆっくりと艦が動き始める。
「おお!動いた!!動いたぞレディオス!!」
藤木がはしゃぐ。
「…はしゃぐな、子供じゃあるまいし…」
とは言うが、レディオスも顔がにやけている。
「よし、何も異常は無いようだ。さぁて、早速このまま嬢ちゃんに合流するか?」
ファラオ店長が尋ねる。
「…そうは行かないようです」
アルフレッドの言葉と同時に、警報が鳴り響いた。
「…何だ!?」
艦の遥か彼方に、複数の大型機動兵器、そしてその後方に、ズィルヴァンシュピスと同規模の、超大型艦が見える。
「あれは…グレートラーゼル…!?」
「…間違いねぇ…あれは間違いなくグレートラーゼルだぜ!?
だが、奴は倒した後にまた出てきた時、シリウスからこてんぱんにされたって聞いたぜ?」
藤木の言葉に、アルフレッドが頷く。
「…二度出た以上、三度も出るでしょうな」
「冗談を言っている場合かよ!!」
藤木の言葉に、アルフレッドが静かに返す。
「しかし事実です、そして、何度出ようが、やるべき事は一つ…でしょう?」
「…そう、だよな。確かに…で?俺達は機体で出ればいいな?」
「ええ、お願いします…頼みましたぞ」
アルフレッドの言葉に、藤木が満足そうに頷く。
「…おう、任せとけ!行くぜレディオス!!」
藤木が駆け出す。
「了解した…ラーゼル…この手で地獄に叩き落としてやる…!!」
それに、レディオスも続いた…。
「何だ?皆えらく反応が早いじゃないか」
ファラオ店長が尋ねる。
「カーメン、主砲の試し撃ちの標的に丁度良いものが出た」
「…何者だ?」
「小生の妻、そして息子夫婦の仇、と言えば一言で納得してもらえるか?」
アルフレッドのその言葉に、ファラオ店長は、思わず頷いた。
「…任せろ、お前さんの幸せをぶち壊した野郎なら、俺にとっても敵だ…!!
敵の有効射程圏内に入る前に、先に主砲をぶち込んでやる!!全ニュートリノ粒子砲、照準、敵機動兵器後方の艦影!!」
艦の両横の大型の砲門が、艦影に照準を定める。
「撃てーッ!!!」
砲撃の射線上に、機動兵器が集結する。
「…なっ!?」
直撃だ。高圧縮されたニュートリノ粒子が、壁となった機動兵器を容赦なく分解していく。
「相変わらずの威力だな、カーメン…」
「ああ、こりゃ、やはり完全開放しなくても十分戦えそうだな。第二射、用意!!」
しかし、その直後、ファラオ店長は気付いた。
「…あれは…!!」
そう、半身を、圧縮されたニュートリノに吹き飛ばされた機動兵器達が、次々と再生していく。
「おい、アルフレッドよ、これはもしや…」
「そのもしや、だな…奴はもはや異形、そうなっていてもおかしくは無い。
後ろの艦を沈めないと、前の機動兵器は一機も倒せないだろうな…お二人とも、聞こえていましたか!?」
藤木とレディオスに、アルフレッドが通信を入れる。
「このタイプの異形とは先日交戦したと聞いています。後方の艦を沈めなければ、どうやら前の機動兵器は倒せないようです!!」
「特殊異形…だと!?」
「やれやれ…ラーゼルめ、厄介なもんになりやがって…で、俺達はどうすればいいんだ?」
その問いに、アルフレッドが少し考え、口を開く。
「敵は、こちが主砲を撃つ瞬間にその射線上に割り込んで主砲を防いでいます!!
敵の機動兵器の方を、主砲発射時に射線に割り込めないようにして欲しいのです!!」
「…了解」
「分かった、まぁ、やってみるぜ…!!」
フレアドイリーガルと、ジェネラルが出撃する。
「副砲の有効射程圏内に到達、射程圏内の敵に砲撃を開始する!!」
ファラオ店長がものすごい勢いで端末を操作していく。
ズィルヴァンシュピスの各部が展開し、無数の砲門が姿を現す。
「一斉砲撃、撃てーッ!!」
凄まじい量の砲撃の嵐が、敵を飲み込む。
「…おい、これ、俺達の出番あるのか…?」
「あるのか、ではない…もし出番が欲しいのならば、力ずくで作ればいい、ただそれだけだ」
フレアドイリーガルが剣を構える。
「ま、そうだな…行くぜ!!」
ジェネラルが、榴弾砲を構える。
「ククク…三人纏めて地獄へ送ってくれる!!」
敵から、聞き覚えのある声が聞こえる。
機動兵器の全て、そして後方の戦艦の全てから、だ。
「…やはりお前か…ラーゼル!!」
「シリウスの際にはしくじったが…今度はこれだけの戦力…止められる訳が無い!!」
相変わらずの高笑いが、戦場に響き渡る。
主砲の咆哮が、その高笑いを飲み込む。
グレートラーゼルの群れが射線に割り込もうとするが、それを、爆発が遮る。
「止められる訳が無い?シリウスに出来て、俺達に出来ない訳が無い!!」
藤木の高笑いが、境界空間に響く。
そして、主砲が、奥の戦艦に直撃する。
「…ク、クク…無駄だ、その程度でこの、ティタニックラーゼルを止めることは出来ぬ!!」
敵戦艦が、前進する。中破、と言った所か。
しかも、敵は異形だ。既に再生が開始されている。
「な、主砲の直撃であの程度の損傷だと!?」
「さぁ、死ぬがいい!!」
敵戦艦が、主砲を放つ。
「回避機動を取りつつ重力シールド、展開!!」
ズィルヴァンシュピスが重力シールドを展開して、砲撃を受け止める。
「損傷は軽微、やるじゃねえか、この艦に傷を付けるたぁ…主砲、副砲、全照準を敵艦に集中、撃てーっ!!」
「フ、愚かしい!!」
敵艦から、二つの大型の自律兵器と思しき物が射出される。
それらが、敵艦の前方で回転し、砲撃を全て防ぐ。
「成る程、高出力型フィールド発生装置か…いや、エネルギーが吸収されている!?」
そして、回転しているその中央に、エネルギーが収束されていく。
「まさか!」
咄嗟に、ズィルヴァンシュピスが回避機動を取る。
「自らの力で地獄に落ちよ!!」
そして、ティタニックラーゼルから凄まじいエネルギーの奔流が解き放たれる。
重力シールドも展開されていたが、砲撃が掠るだけで、凄まじい衝撃が起こる。
「く…直撃ならば、幾らこのズィルヴァンシュピスと言えど、そう何度もは耐えられんな…」
「おい、大丈夫だったか!?」
藤木から通信が入る。
「ええ、直撃は避けました…しかし、これをそう何度もは喰らえませんぞ…」
「…どうやら、俺達があの艦を攻撃したほうが良さそうだな」
レディオスが呟く。
「ああ、そうだな…」
藤木が頷く。
「早々から何てェ修羅場だ…ま、これでこそ面白ぇ…行くぜ、レディオス!!」
「ああ…!」
フレアドイリーガルとジェネラルが、一気に前進する。
そして、それを、たくさんのグレートラーゼルが遮る。
「どけよ!!」
ジェネラルの榴弾砲が変形する。
「重力子榴弾砲、発射!!」
そして、榴弾砲から放たれた黒い塊が、立ち塞がったグレートラーゼルを押し潰す。
「…これでどうだ!!」
フレアドイリーガルが、ライフルを構える。
銃撃がグレートラーゼルを射抜くと、そこから、明らかに銃弾とは思えない爆発が発生する。
「…成る程、これが超新星弾か…流石だな、アルフレッド」
二機が、グレートラーゼルの群れを強行突破する。
「捉えたぜ、ラーゼル!!」
ジェネラルが、再び黒い塊を放つ。
「ふん、我が社を乗っ取りし裏切りの徒が!!」
砲撃の嵐が、黒い塊をかき消す。
「…くっ…!!」
「…砲撃で駄目ならば、直に叩き斬れば良いだけの事だ…!!」
ジェネラルの横を、フレアドイリーガルが抜ける。
「レディオス…長い間私の邪魔を続けて来た事…後悔して貰おう!!」
艦の横部のハッチが開き、そこから、夥しい量のミサイルが射出される。
「…そんなもの…!」
フレアドイリーガルのライフルが放たれる。
発生した爆発が、ミサイルに次々と誘爆する。
しかし、それでもミサイルは無くならない。
「くっ…このっ!!」
更に、そこに的確に砲撃が叩き込まれる。
「ぐっ…!!」
「レディオス!!」
ジェネラルが、フレアドイリーガルとミサイルの間に再び榴弾砲を叩き込む。
ミサイルの幕に隙間が発生し、フレアドイリーガルがそれを突破する。
「…礼は言わんぞ…!」
「んなもん、期待しちゃいねえよ…だが、どうするよ?これじゃ、現実問題近づけやしねえ…」
「…油断をするな…!」
フレアドイリーガルが、ライフルを放つ。
いつの間にか、ジェネラルの背後で、グレートラーゼルが拳を振りかざしていた。
「…借りは返した、次は無いと思え」
「なら、また貸すだけさ…」
藤木はそう言ってニヤリと笑った。
「さーて、どうするか…」
いつの間にか、グレートラーゼルにも囲まれている。
しかし、次の瞬間、グレートラーゼルは巨大な質量によって押しつぶされ、突破口が開かれる。
ズィルヴァンシュピスの巨体が、敵艦へと前進を始めていた…。
「藤木さん、レディオスさん!本艦で突っ込みます!!」
「おいおい、大丈夫なのかよ…?」
藤木の問いに、アルフレッドはニヤリと笑う。
「元より、衝角戦は本艦の十八番です!!
…本艦の横まで後退してください!!」
「お、おう、了解!」
「…分かった」
藤木とレディオスが、ズィルヴァンシュピスの横まで後退する。
「重力シールドを艦首に最大出力で展開!!アルフレッド、こいつぁ、久しぶりだなあ…!!」
「フ…さぁて、どうなるか…勝負だ、ラーゼル!!」
艦首に、凄まじい光が集まる。
「推力全開、白銀の槍の名の意味を知るがいい!!突撃ィィィィィィィィィィ!!!!」
そして、艦が一気に前進を開始する。
「なっ、何だと…!?」
ラーゼルが、思わずグレートラーゼルを進路上に集結させる。
しかし、ズィルヴァンシュピスの展開している重力シールドに蹴散らされる。
「馬鹿な、そんな馬鹿な手が…!!」
ティタニックラーゼルの砲撃が来る。
しかし、前方に集中した重力シールドは、砲撃を一切受け付けていない。
「来るな!!来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
再び、ティタニックラーゼルが、自律兵器を前方に展開する。
その中央の力場が、ズィルヴァンシュピスを捉える。
「その程度で、本艦を止められると思わない事だ!!オーバーブースト!!!」
自律兵器の展開した力場を、ズィルヴァンシュピスは強引に突破する。
「今だ、カーメン!!」
「おう!全砲門、目標、敵艦艦橋!撃てーっ!!!」
ズィルヴァンシュピスの砲撃が、ティタニックラーゼルを捉える。
そして、ズィルヴァンシュピスが、ティタニックラーゼルに激突した…。
槍は、ティタニックラーゼルを刺し貫いていた。
しかし、貫き切るには至っていない。
「ク、クク…そ、その程度か…!!」
ラーゼルの明らかに焦った声色で、言葉が響く。
艦橋にも、砲撃は直撃している。
しかし、声は聞こえてきている。ラーゼルは、一体何処にいる?
それとも、ラーゼルはこの艦と融合しているのか。いずれにしても、今、すべき事はただ一つだ。
「今です!」
「おう!」
「了解…!」
ズィルヴァンシュピスの艦橋の横を、ジェネラルとフレアドイリーガルが抜けていく。
ここまで接近すれば、いくら敵の火力が高くても確実に仕留められる。
「こちらの手が、尽きたとでも思っているのか…?
…頼んだぞ、デストヴァール!!」
「フ…任せよ!!」
ティタニックラーゼルのハッチが開き、異形が融合した黒い機動兵器が姿を現す。
「黒騎…デストヴァールだと!?」
その姿に今度は、ファラオ店長の顔色が変わる。
「おいおい、今日は死人の同窓会か…?」
「今度は、カーメンの知り合いか?」
アルフレッドが尋ねる。
「…ルークを眠りから覚ました張本人だ。藤木!レディオス!そいつは結構強い、気を付けろ!!」
「遅い!遅いって!!」
デストヴァールに背後を取られた藤木が、思わず叫ぶ。
「貴様らに恨みがあるわけではない、が、そこの艦橋にいるファラオ面の男と、
そして、かの忌々しき鍵、そして最も憎き竜、ルークを血祭りに上げる前座に、貴様らを血祭りに上げてやろう…!!」
「そうはさせん…!」
黒騎の背後からの突然の一閃を、咄嗟に黒騎が回避する。
「何ッ!?」
「…藤木、これで今度はこちらが貸しだ」
「ほう…まさか余の背後を取るとは…身の程知らずがァァァァァ!!!」
黒騎の、鞭のような形状に変化した剣が、フレアドイリーガルの長剣を絡め取り、へし折る。
「な…!!」
「ふふ…何と脆き剣だ…!」
更に、直後、複数のグレートラーゼルが、黒騎に合流する。
「…くっ…」
「倒せば良いだけ…なんだが、流石にこれはヤバい気がするな…」
藤木が、冷や汗をかく。
「まさか、デストヴァールが出てくるとは計算外だな…アルフレッド、砲撃しながら後退は無理か?」
「今試してみているが、敵艦に艦首が刺さったまま抜けない!!」
「何ッ!?」
アルフレッドが、端末を操作する。
「装甲表面に侵食反応、これは、奴め、このままこちらを取り込む気か…!!」
「フ、フフ…どうやら、我々の勝利は決まったようなものだな」
ラーゼルの高笑いが、再び境界空間に響く。
「くっ…一か八か、この距離で主砲を撃ってみるか?」
ファラオ店長が、端末を操作しようとした、次の瞬間だった…。
「それには及ばないよ!!ここは私に任せて!!」
境界空間に、少女の声が響く。
「そ、その声…!」
境界空間の彼方から、何かがものすごい速度で突っ込んでくる。
オレンジと茶色が基調の無骨な機動兵器だ。
大きな斧を構えている。
「はあああああああああああああああああああっ!!!」
叩き込まれた斧は、的確にティタニックラーゼルとズィルヴァンシュピスの接合部分を破壊する。
「今です!!」
ズィルヴァンシュピスが、後退を開始する。
同時にその機動兵器が、ハッチからズィルヴァンシュピスの内部に入る。
見た目十一、二歳ほどの少女が、そこから降りて、艦橋へと走る。
「…待たせたね、二人とも!」
少女の言葉に、二人が同時に応える。
「イセリナ様!」
「リーダー!」
艦長席に、イセリナと呼ばれた少女がちょこんと座る。
「何が何だかわかんないけど、取り敢えず目の前の奴が悪党って事だけは…見れば分かるよ!!」
そして、自分の胸元に入れていた、リボンでラッピングされた斧が描かれたカードを、艦長席の最後の一つのスロットに差し込む。
「…これで、全武装と、動力のオーバードライブのロックは外れたよ!私はまた出てくるから、後よろしくね!!」
イセリナの言葉に、二人が同時に頷く。
「了解!!」
「おう!!」
「…任せたよ!」
イセリナが、再び格納庫へと駆け出す。
「…後退と同時に艦首超次元閉鎖破砕砲のチャージを開始!!」
「照準は手動ロックでやる!トリガーは任せろ!!」
ファラオ店長の前に、照準機とトリガーが出てくる。
そして、機動兵器が、ジェネラルとフレアドイリーガルの前に出る。
「さて…この異形共!良くも私の旅仲間をいじめてくれたわね!!
ここからは、私とこのジオカイザーが相手になるよ!!」
「こんな少女が…!」
「あの二人のリーダー…!?」
藤木とレディオスが唖然とする。
「ふふ、私も見た目で物を言われるのには慣れてるよ、けど、あなた方も戦士なら、そこから先は戦いを見てから判断してね」
そう言うと、ジオカイザーと呼ばれた機動兵器は、眼前の敵に突進していく。
「お、おい!」
藤木の言葉を尻目に、立ち塞がったグレートラーゼルが一体、真っ二つになる。
「まず一体…ッ!!」
四機のグレートラーゼルが、両腕の砲を放つ。
その砲撃を斧で防ぎながら、四体纏めて横一閃で両断する。
その動きは、まるで嵐のようにも見える。
「凄ェ…あの動き、シリウス以上だぜ…!」
「フフ…面白い…負けてはいられんな、俺達も行くぞ…!」
「…お、おう!」
ティタニックラーゼルが、砲撃を再開する。
そして、ジオカイザーと、黒騎が対峙する。
「…そこの二人!この黒いのは私が相手をするから、そっちに群れてるでかいのは任せるよ!!
あと少し時間が稼げれば、私達の勝利…その時間まで何とか持ちこたえて!!」
「ほう…小娘の分際で余の相手をすると言うか…しつけがなっておらぬ小娘だ…」
その言葉に、イセリナはニヤリと笑った。
「ふふ…それが私のチャームポイントだよっ…!」
ジオカイザーの左腕が、ドリルへと変形する。
「さーて…それじゃ、行くよ!!」
「良かろう!」
黒騎が、鞭となっている剣を振るう。
凄まじい金属摩擦音と共に、それがドリルに引っ掛かる。
「なっ、しまっ…!」
そして、斧でそれを斬る。
「…さて、と」
ドリルを逆回転させて巻き取った鞭を外し、再びドリルを回転させる。
「ええええええええええええええええええいっ!!!」
ジオカイザーが、ドリルを構えて突進する。
ティタニックラーゼルの砲撃は、ドリルに弾かれてしまう。
「くっ!これでも喰らえェ!!」
黒騎が離れながら両肩の棘を伸ばす。
「無駄無駄っ!ジオ・バースト!!」
ジオカイザーの全身が開き、凄まじい量のエネルギー誘導弾が放たれる。
「!!!!」
黒騎の、棘の先が消える。
そして、誘導弾が黒騎に直撃する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「アルフ!カーメン!タイムリミットまでは!?」
イセリナが、ズィルヴァンシュピスに通信を入れる。
「あと三十秒、そろそろ離れて下さい!!」
「お二人さん、聞いてたね?すぐにそこから離れて!巻き込まれたら消し炭どころじゃすまないよ!!」
「な、何だァ!?」
藤木が聞き返す。
「あの艦の切り札だよ…さぁ、早く!」
「…了解した、その切り札とやらの力、見せて貰おう」
イセリナの言葉に、グレートラーゼルの群れと交戦していた藤木とレディオスも後退を開始する。
「む?奴ら退いて行くぞ!?さっさと追撃を仕掛けぬか!!」
ラーゼルがデストヴァールに叫ぶ。
「待て、何か嫌な予感がする…エネルギー反応を確認してくれたまえ」
デストヴァールの返答に、ラーゼルが確認する。
「…何だ、これは…」
ラーゼルの顔を見る事は出来ないが、恐らくは青ざめた表情をしていた事だろう。
ズィルヴァンシュピスの艦首に、凄まじい光が集まっていく。
「…よし、全敵機体を射線内に捕捉!!」
ファラオ店長がニヤリと笑う。
「これで終わりにしましょうぞ、ラーゼル!!」
アルフレッドの言葉に、ファラオ店長が続く。
「艦首超次元閉鎖破砕砲、発射ァァァァ!!!!」
凄まじい光が解き放たれ、ティタニックラーゼル、グレートラーゼル、黒騎を纏めて飲み込む。
「な!何だと!?ぐあああああああああああああああああああ…!!」
「おのれ!おのれアルフレッドめええええええええええぇぇぇぇぇ…!!」
光が収まると、そこには何もなかった。そう、残骸すら、残らなかったのだ。
それを、藤木とレディオスが、呆然と眺める。
「…これは、封印される訳だな」
「ああ…悪用されたらヤバ過ぎる…」
「…さて、一丁上がり、だね!」
ジオカイザーが斧をブンブン振り回す。
「…アルフ、カーメン!今から戻るから、事情の説明、よろしくね!それと、そこの二人とも…お疲れ様!」
「…藤木敏雄だ、よろしくな」
藤木が、そう言って笑う。
「レディオス=アイルレード」
レディオスは、ただそれだけ言う。
「…あ、自己紹介まだだったね。私はイセリナ。イセリナ=ノアル。
カーメンやアルフがいた、『白銀の旅団』の元リーダーだよ、よろしくね!
…さて、戻ろうか、二人とも!」
「おう!」
「了解だ」
そうして、三機はズィルヴァンシュピスへと帰還していった…。
一方、ギルティアとの戦いから帰還したインフィナイトは、インフィナイト不在中の事態の顛末を知り、ため息をつく。
「全く…何があったかと思えば…貴重な戦力がまた減ってしまったではないか…。
いくら余とはいえ、補充は片手間ではないのだぞ…」
そして、インフィナイトはヴェルゼンとオーガティスを説教すべく、治療用の培養槽へと歩いていくのだった…。
続く




