Act.65 知られざる過去
Act.65 知られざる過去
イセリナは、ファラオ店長とアルフレッドから説明を受けていた。
そして、ギルティアの事を説明された時、途中でイセリナはその言葉を遮る。
「あ、あのさ…もしかしてその人、本当にもしかしてなんだけど…ギルティア=ループリングって名前じゃない?」
イセリナのその言葉に、その場にいた全員が驚愕する。
「何故…それを…!?」
「お姉ちゃん…封印、解けてたんだ…私の戦い、無駄じゃなかったんだ…!!」
イセリナが呟く。
そして、表情が一気に明るくなる。
「合流を急いで!一刻も早くお姉ちゃんに会いたい!!」
「お姉ちゃんだと…?」
ファラオ店長が尋ねる。
「そう…私の故郷は、『過ちの鎖輪』の宇宙群…ギルティアお姉ちゃんが守っていた宇宙群…」
「なっ…!?」
「今まで、私の過去を話さなかったのは、私がもし彼女を助けられていなかったら、これを話しても悲しいだけだから…だよ。
…私でも、向き合う自信は無かったから。だから、もしお姉ちゃんが元気でやってるなら、安心して、私の過去を話せる」
そう言って、イセリナは語り出す。
「戦争で真っ二つになって新生した宇宙群、二つに分かれる前から、戦争の難民が居住していた一つの世界、唯一の集落で、私は育った…。
外で何があったかは、その頃の私は知らなかった…けど、その世界を突然の天変地異が襲ったんだ…」
集落は、パニックになっていた。
それはそうだ、本来ならまだ起こるはずの無い、世界の崩壊が、唐突に始まったのだ。
このままでは逃げる事も出来ずに、ここで死ぬだけ、そんな時、その紅の翼は舞い降りた。
「皆さん!エルヴズユンデの近くに!この機体周辺では重力異常を抑えています!!」
エルヴズユンデに乗ったギルティアは、翼で重力異常を抑えながら、住民達を集める。
「まず、皆さん落ち着いてください。この世界は、間も無く崩壊します。
…ここにも旧文明の遺産はある筈です。それを利用し、急ぎ脱出してください!」
しかし、自力で境界空間に出られる船は、この集落の住人がこの世界に降りた時に、既に壊れていた。
ギルティアは、それを確認すると、再び言葉を紡ぐ。
「分かりました。ならば、あの艦船の脱出艇は使えますか!?
境界空間へのゲートを開き、脱出艇を境界空間へと脱出させます!さぁ、エルヴズユンデの両手に乗って!!」
エルヴズユンデが、人間達を乗せて、大型艦船の横につける。
「…さぁ、早く!!」
大人達が次々と避難する中、少女が一人、ギルティアの方を向いて立ち止まる。
「どうしたのです!早く!」
ギルティアが叫ぶ。
「…お姉ちゃん、名前…!」
少女が問う。
「私はギルティア。ギルティア=ループリング」
名を聞くと、少女は笑った。
「ギルティアお姉ちゃん…ありがとう!またね!」
少女はギルティアに手を振ってから、走り出した。
「ふふ…必ず、生き延びてくださいね」
走り出した少女の背中を見守りながら、ギルティアは微笑んだ。
暫くして、脱出艇の準備が整う。
「境界空間へのゲートを開きます!」
エルヴズユンデが、境界空間へのゲートを開く。
脱出艇が、次々と境界空間へと離脱する。
一方、エルヴズユンデは、たった一機、世界の崩壊によって生じる被害を抑える為に、その場に残った。
「…ワールドコアアクセス…コンプリート…!
我が生を受けし過ちの世界よ!今こそ全てを解き放つ時…!
滅び行く世界よ!共に解き放たれた希望達の未来を祈りましょう…鮮血の、煌翼!!」
紅の翼が、崩壊していく世界の破片が広がらないように、紅の鎖となって世界を抑え、そして、世界は、崩壊していった…。
説明を聞いて、ファラオ店長が頷く。
「成る程な、それで、ギルティアお姉ちゃん、か…鍵である嬢ちゃんに妹がいるのか、と一瞬考えちまった」
ファラオ店長の言葉に、アルフレッドも思わず頷く。
「確かに、人間にしては歳も取りませんしね…一体、何故なのです?」
「その後、色々あってね…ここから先は、お姉ちゃんと合流してからじゃ、駄目?」
「…分かりました」
その言葉に、イセリナは満足そうに頷いた。
「ただ、今取り敢えず説明できるのは、私は一応人間だけど、ある理由があって今の姿のままかなり長く生きてるって事かな」
そう言って、艦の進路上をキラキラした目で見つめる。
「…あー、早く会いたい…!!」
そう言って、イセリナは艦長席にちょこんと座る。
「…ところで、だ」
今まで黙っていた藤木が、会話を切り出す。
「何です?藤木さん」
「気になったんだが、この艦、サイズも数キロ級なのは分かる。
だが、武装や貯蓄、格納スペースだけじゃ、どうやってもその規模にはならないだろ?
一体どんな艦なのか、気になってな」
「それは…」
アルフレッドの言葉を、イセリナが遮る。
「…よしっ、じゃ、協力のお礼に私自らが艦内を案内してあげよっか!」
イセリナが再び艦長席からぴょん、と立ち上がり、階段も使わずに艦長席から飛び降りる。
「お、おお?良いのか?」
藤木の問いに、アルフレッドが頷く。
「ええ、どの道、当面はギルティアさんの航路を、後追いでトレースするように探さなければなりませんからね。
自動運行中ですから、別にブリッジ要因は我々だけで十分ですぞ」
「そういう事だ、気にせず見て来い」
「…俺も行く。その…気になるのでな」
藤木に、レディオスが加わる。
「おっけー、それじゃ、二名様ご案内~!」
イセリナが、艦橋から降りるエレベーターに乗り込む。
藤木とレディオスが、それに続く。
「…何なんだ、このテンション…」
レディオスが思わず呟く。
「…楽しいから良いじゃねえかよ」
藤木が、そう言って笑った。
「…そう言えば、お前、先日ゲーセンのUFOキャッチャーをプレイしていた時も、むやみやたらに、その…『美少女』というのか?
…その手の柄のものばかりを狙っていたな…」
「!!!!」
レディオスの言葉に、藤木の顔が噴火する。
「気付いてやがったのか…!?」
「あまりに狙いがバレバレだったぞ…フ、人は見かけによらないとは良く言ったものだな」
レディオスは、そう言って微かに笑う。
「へぇ…そういうの、好きなんだ」
イセリナもいつの間にか会話に加わり始める。
「その…な、特にラーゼル重工とアンファース・インダストリアルは男所帯過ぎて…その…女っ気が…何にもないんだよ。
社員の連中にも、先日土産で持ち帰ってやった中で、それが一番好評でな…」
「そうか…部下想いの良い社長だな、お前は…笑ってすまん」
レディオスが、謝る。
「で?部下の事はともかく、結局好きなの?嫌いなの?」
しかし、イセリナは更に問い詰める。
「お、男なら可愛い娘を嫌う理由は何も無いじゃねえかよ…!!
…ああ好きだよ!大好きだよ!!好きで悪いかよ!!!
憎まれ役をずっと演じさせられてきたせいで、女にも子供にも嫌われ!未だに嫁の一人も貰えん!!
流石に、俺もこの歳で嫁さんがいないのは寂しいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
藤木が掛け値無しの本音を言い放つと、レディオスが、半ば呆れ顔で言う。
「…謝罪は取り消す」
「ちっ」
「しかし…女などただ邪魔なだけじゃないか?
闘技場での戦いが終わると大挙して押し寄せ、やれサインだ、やれプレゼントだと…正直、鬱陶しい事この上なかったんだが…」
何気ないレディオスの言葉に、藤木が言う。
「ぬぬぬ…こ、このイケメンチャンピオンめェ…!
今に見てろ…今にこの俺が暫定チャンピオンの座から引き摺り下ろしてやるからな…!!!」
藤木の言葉に、レディオスがニヤリと笑う。
「フフ…面白い、楽しみにしているぞ」
「君達、見てて飽きないなぁ…」
二人のやり取りに、イセリナはそう言って笑った…。
「…さて、そろそろ説明に入ろうかな」
「了解した」
「…おう、始めてくれ」
二人の応答に頷くと、イセリナは話し始める。
「まず、この艦の出所から話したほうがいいかな?
この艦は、私の、そしてギルティアお姉ちゃんの故郷の宇宙群で製造された、旗艦級境界空間航行艦の次世代型として設計されたものだよ」
「それを、どうして持ってるんだ?」
「貰った、と言えばいいかな…」
イセリナは、そう言って笑った。
「そもそも、この艦はあくまで試作型、作ってみたはいいけど、発展性が全くないと言うので、試作段階で製造が放棄されていた艦…。
まぁ、それを引き取って完成させて運用してた、って所かな」
その言葉に、藤木が頷く。
「成る程な…」
エレベーターが止まる。
「そして、これが、艦のサイズが大きい理由の一つ」
外に、街路とも見える空間が広がっている。
「…これは…?」
レディオスが尋ねる。
「うん、この艦の居住区だよ。この艦は、宇宙戦艦と境界空間航行艦を兼ねているから、長い間この艦の中で生活する事も想定されてるの。
クルー人員も、当時はもっと多かったしね」
「成る程、人が増えてくるとこの場所は確かに便利だろうな」
「…ちなみに、一応ゲームセンターもあるよ」
その言葉に、藤木とレディオスが同時に反応する。
「…それは良い!」
「おお、良いじゃん!」
「ただ、UFOキャッチャーとか、景品があるのはないからね?」
イセリナの言葉に、藤木がしょんぼりする。
「そりゃ、そうだよな…」
「クルーが増えればもう少しここの使い勝手も良くなるんだけどね…さて、次行こっか!」
別な入り口から、今度は動く床に乗る。
横の窓から、ジェネラルとフレアドイリーガル、そしてジオカイザーが見える。
「まぁ、あそこは分かるよね」
「…ああ、格納庫か。入ってきた場所だ、覚えているさ」
その反対側の窓に、工場のようなものが動作しているのが見える。
「こっちは何なんだ?」
「武器弾薬の生成ブロックだよ、資源の補給さえあればこの艦で弾薬は生産できるから、ここを拠点に活動するなら、実弾も使える、と言う事だね」
「なら、俺達の世界の弾丸も複製できるのか?」
藤木のその言葉に、イセリナが頷く。
「ただし、あの世界、各会社で規格が違ってて統合規格がないせいで、あまりに規格が多岐に渡りすぎてて、その規格データがあるなら、だけどね」
「…分かった」
そして、動く床が終わる。
「さて、ここから先がこのズィルヴァンシュピスの心臓部だよ」
ロックが外れ、扉が開く。
そこにあった三つの動力は、藤木やレディオスが見た事もない物だった。
「これが、この艦の『心臓』か…」
動力を見上げながら、藤木が呟く。
「ええと、早い話が、メイン動力をブラックホール炉、サブにはニュートリノ粒子加速型動力炉を搭載、
メイン動力のブラックホールが発生させる重力を更に利用して、サブ動力の出力を引き上げ、実質はメイン動力が三つ、という状態にしてあるよ」
イセリナが説明してくれるが、藤木やレディオスにとっては未だ工業的な領域のものではない。
「何が何やら、さっぱり分からん…ニュー…何だと?」
レディオスが首を傾げるが、藤木が代わりに言葉を続ける。
「…俺達はちとニュートリノ云々は分からんが、とにかく凄い動力を積んでいるのだけは分かったぜ」
その言葉に、イセリナは満足そうに頷く。
「まぁ、分からなければ分からないで良い物だしね…さて、次行こうか!」
そして、厨房や個室を案内してもらい、三人は艦橋に戻った…。
「ただいまー!アルフ、カーメン!」
「…おかえりなさいませ」
「こっちは航路トレースを続行しているが、その航路上に、世界創生と世界崩壊の痕跡を発見したぜ」
ファラオ店長の言葉に、イセリナの顔が一気に真剣になる。
「…それ、本当?」
「ああ、どうやら、次元兵器と超高エネルギー兵器が、創生された世界で激突したようだ。
周辺の世界、宇宙に被害が全く無い事からすると、恐らくは…嬢ちゃんだ。戦った相手は、最高位異形か、あるいは…」
その続きを、イセリナが言う。
「…究極生命…」
「ああ…無事でいてくれると良いんだが…」
ファラオ店長の言葉に、アルフレッドが頷く。
「ですな…」
「やっぱ、どうにも話についていけねえ…要するに、敵の大元と戦ったかもしれないって事なのか?」
藤木の問いに、ファラオ店長が答える。
「ああ、そうだ…結果は不明だが、痕跡はまだ続いているから、少なくとも嬢ちゃんはまだ旅を続けている筈さ…さて、アルフレッド、急ぐか!」
ファラオ店長の言葉に、アルフレッドが頷く。
「ですな…!」
イセリナが、再び階段を無視して艦長席へと飛び込む。
「…お姉ちゃん…今、会いに行くからね…」
イセリナは、静かに呟いた…。
ズィルヴァンシュピスは、ファラオ店長の店があった宇宙を越えて、境界空間を進む。
目指すは、ギルティア達への合流だった…。
続く




