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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.50 騎士王の帰還


   Act.50 騎士王の帰還


 ギルティアが、二人の警官と出会っている頃、シリウスはアンファース・インダストリアルにたどり着いていた。

「し、社長!?」

 機体搬入用入り口から、機体ごと堂々と入ってきた社長に、社員が一斉に驚愕する。

「我が親愛なる社員諸君!留守番ご苦労!おかげさまで、こちらもこれ以上無い程に充実した毎日を送っておるよ!

 今回は一旦の帰還だ。剣の修理、強化、そしてこの世界に飛来した異形の討伐が済み次第すぐにお嬢ちゃんに合流する!!」

 シリウスの言葉に、社員がアンファースが装備していた剣を見る。

「この傷は…!!」

 シリウスが、社員を集めてエルグリオとの交戦の事を告げる。

「…まさか、我が社の作品の中で並ぶもの無しとまで言われた最高傑作が、ここまでの損傷を負うとは…世界というのは、広いものですね」

「そういう事だ、わし自身も驚いておるよ。

 だが、我らがアンファース・インダストリアルの誇り、このまま傷つけられたままの訳には行かぬ!」

 その言葉に、社員が一斉に歓声を上げる。

「それでこそ、この会社の社長です!」

「我らが、社長の留守を預かるのは、社長が、どこにいる時でも我が社の社長である誇りを絶対に捨てないからなのですから!」

 その言葉に、シリウスが満足気に頷く。

「当然だ、これだけ優秀で話の分かる部下達に恵まれた幸運を、わしはいつも感謝しておるよ。

 それと、先程少し話したが、どうやらこの世界に、お嬢ちゃんが倒して歩いている異形の一部が飛来したらしい。

 わしがここを今、再び訪れた本来の目的は、それだ。

 ここならば、わしのショットガンに弾切れはない。

 素早く片付け、残りの二世界の異形を駆逐、お嬢ちゃんに合流する!!

 こちらの異形の処理が終了するまでに、剣の修復と、多層複合積載エネルギーコーティングを頼む!」

 その言葉に、部下達が一斉に了解!と答え、作業を開始する。

「ほう…随分と面白い事をやろうとしているようじゃないか」

 シリウスが、背後からの聞き覚えのある声に振り返る。

「…俺達も今回のその戦い、参加させてもらう」

 レディオスと、藤木だった。

「どの道、復旧作業にうんざりしていた所だ、三人のほうが早いだろ?」

 二人の言葉に、シリウスが笑う。

「…これでは、こちらが強すぎて勝負にすらならんな。さて、では作戦会議も兼ねて社長室で話をしようぞ」

 シリウスが、二人を社長室に招き入れる。

「…異形の活動は夜だ。最近、行方不明者は増えておらぬか?」

「この世界じゃ行方不明は日常茶飯事だが、あの馬鹿ラーゼルの撃滅以来、行方不明者は一気に激減したな。

 …考えてみれば、確かにここ数日、発生はやや増えたかも知れねえ」

 藤木の言葉に、シリウスが頷く。

「…その一部は、恐らく異形の仕業だ」

「成る程な…つまり、その行方不明者が出た区画を夜に訪れれば、遭遇する可能性が高い、と」

 藤木の言葉に、シリウスが頷く。

「…なら、夜までに装備を整えておけって事だな。

 ところで、お前の剣の事だが、俺達にも詳しく聞かせてくれよ」

「ああ、気付いていたか…実はな」

 二人にも、エルグリオとの交戦記録を話す。

「…成る程、俺のような奴はどこにでもいる、か…そいつとも、いつか戦ってみたい所だな」

 レディオスが、そう言ってニヤリと笑った。

「もし戦う気なら、腕はともかく、決定的な攻撃力不足を何とかする必要がある。

 何せ、我が切り札であるデモンズ・スローターの、オーバーチャージによる攻撃すらも受け止められてしまったのだからな」

「…どんな敵にも、弱点となる部分が必ずある筈だ。

 そこを的確に撃ち抜く事が出来れば、倒す事は可能だろう?」

 レディオスの言葉に、シリウスが、再び返す。

「境界空間を移動する連中を、我々の常識で考えぬほうが良い。

 確かに弱点はあったのだろうが、そこを突くにも、生半可な武器では力不足だ。

 …大打撃を与えたとて、再生されては意味が無い」

「…成る程な、再生能力の事を失念していた。

 確かに、再生能力を上回る攻撃を叩き込めなければ、弱点への攻撃も無意味だ」

 レディオスの返答にシリウスが頷く。

「まぁ、もっとも、今回わしらが戦う相手は、そこまでの化け物ではない。

 普段、刺客を返り討ちにする時と同じペースで叩き潰すだけで問題は無いぞ」

 その言葉に、二人が頷いた。

「よーっし、そうと分かりゃ善は急げだ!俺は準備しに本社に帰らせてもらうぜ!」

「俺も武器の整備をしてくる…夕方にアンファース・インダストリアル前で落ち合おう」

 二人が出て行く。

「…さて、わしはアルフレッドに経過を報告してくるとしよう」

 シリウスも、会社を出て、アルフレッド工業へと自転車を漕いだ。


「アークトゥルースが帰還しましたので、そろそろ来る頃だと思っておりましたよ」

 アルフレッドが、シリウスを出迎える。

「その節は世話になったな、お陰様で大暴れ出来ておる」

「それは何よりです…が、ここに戻ってくるという事は、やはり何かあったのですな?」

「うむ」

「…ここで立ち話もなんです、中へどうぞ」

 そう言って、アルフレッドが家に招き入れる。

「ああ、分かった」

 シリウスは、中で、今まで起こった事をアルフレッドに告げた。

「最高位異形とは…旅の最初から随分とえらいモノに遭遇しましたな、それは…」

「うむ!良き戦いであった!!」

 シリウスは、そう言って笑った。

「そして、究極生命…これは、大動乱の予兆か…」

 アルフレッドが、静かに呟き、言葉を続ける。

「ギルティアさんが赴いたのは、この絶対座標の宇宙ですな?」

 アルフレッドが宇宙群の図表を指差す。

「うむ、そこで間違いは無い」

 シリウスの言葉に、アルフレッドが頷く。

「究極生命が動いているという事は、事態は我々が思っていた以上に深刻です。

 …我々も、我々に出来る事はしなければなりませんからな」

「…そうか」

「シリウス社長、何か小生が提供できるものはありますかな?」

 その言葉に、シリウスは頷き、暫し考える。

「お嬢ちゃんに、実弾は弾切れが危険なので使えないと聞いたが…白兵戦用の武器で、何か使えるものは無いか?」

「…ふむ、確か、シリウス社長の武器はショットガンでしたな…では、これを」

 アルフレッドがシリウスに渡したのは、機械仕掛けの薬莢のようなパーツだった。

「これは?」

「実弾型ショットガンをプラズマショットガンに互換する擬似弾薬です。

 銃身に、対エネルギーコーティングをするだけで使えますので、そこはシリウス社長の専門ですな?」

「ほう…成る程な。早速後で組み込ませてもらおう。感謝するぞ、シリウスよ」

「いえいえ、小生がまだ現役の旅人だった頃に作った余り物ですので、気兼ねせずお使いください」

 アルフレッドは、そう言って笑った。

「そうか…」

「それと、剣をボロボロにされたと聞きましたが?」

「うむ、今、刀身部分の修復と、デモンズ・スローターの粒子砲モードに砲身が耐えられるように試作した、多層複合積載エネルギーコーティングを行っている」

 その言葉に、アルフレッドが頷く。

「…確かに、当面はそれで何とかなると思われます」

「当面は、か…確かに、いくら我が自慢の新開発コーティングとはいえ、そう何度も奴のような化け物とあたる事になれば持たぬだろう。

 だが、わし自身も何も考えずにこのような強化をしたわけではない」

「…と、言うと?」

 シリウスは、持ってきていた板状の端末を操作する。

 すると、図面が空間上に出る。

「エルヴズユンデが本来の力を取り戻した時、左腕に搭載された動力は取り外されるのだろう?

 ならば、それをそのままアークトゥルースに搭載するつもりなのだ。

 そうすれば、デモンズ・スローターのオーバーチャージの時間を短縮する事も出来るだろう」

 その言葉に、アルフレッドが頷く。

「成る程、そういえば、デモンズ・スローターをオーバーチャージで使用できたのでしたな…。

 確かに、縮退炉をダブルドライブで使用するのであれば、チャージ時間は大幅に短縮される筈です」

 しかし、とアルフレッドは続ける。

「幾ら何でも、オーバーチャージを何度も使用しては、砲身が耐えられないと思われますぞ」

「うむ、わしとて、あの攻撃を乱発するつもりはない。

 しかし、ここぞという所でチャージが間に合わなくては大事に関わるからな。

 それに、動力が強化されれば、機体のパワー、レールガンの威力、粒子加速砲の威力、そして脚部ビーム砲と光子爆雷の威力を強化する事も出来るだろう?」

「動力を強化する事で、激化する戦いに対応する、という事ですか…確かに、今現在の状況下では最善の方法と言えますな…ならば」

 アルフレッドが、自らのコンピューター端末を取り出す。

 起動してすぐに、アークトゥルースの設計図が展開される。

「動力の出力が非常に高いため、縮退炉のバイパス部分などの、動力を結合させるパーツは急場しのぎでは製造不能です」

 アルフレッドが、端末を操作していく。

「社長が異形の討伐を完了するまでに、必要なパーツを製造しておきます。ギルティアさんに合流する際に、お持ちください」

「い、良いのか!?」

「究極生命や最高位異形か関わっている事が明らかになった以上、ただの旅にはなり得ません。

 …そして、最高位異形と戦うのならば、今のアークトゥルースでは明らかに不利です…その戦いに敗北は許されない。

 敗北すれば死あるのみ、あるいは、ギルティアさんの足を引っ張ってしまう可能性もあります」

 その言葉に、シリウスは頷いた。

「確かに、先日、お嬢ちゃんを差し置いて最高位異形と戦ったが、オーバーチャージが成功していなければ、間違いなくわしは敗北していた」

「…今の彼女の力でも、本来の彼女の力の半分以下と言っても良いでしょう。

 本来ならば、最高位異形の、しかも本当に強力な個体でも無い限り、彼女と対等に戦う事など出来ません。

 よって、力はあればあるほど良いのです…最低限、自分の身は自分で守らねばなりません」

 その言葉に、再びシリウスは頷く。

「…我々の力の及ばぬ世界、か…彼女は、その場所でたった一人、どれだけ戦い続けてきたのだろうな…」

 本来の彼女の力を見たいと、シリウスはずっと思い続けてきた。

 彼女の力は、シリウスにとって未知の領域、人間では決してその場所に立つ事はできないという、

その領域に立ち続けてきた力というのは、一体どんな力なのか。

 シリウスは、ただそれが知りたかった。

「…わしも、この目で確かめたいと思っておるよ。さて、そろそろ約束の時間が近いか…」

 日暮れが近くなっていた。

「…時に、ランはどうしている?」

「今頃、工場の方でソルジャーをいじっていると思いますよ」

「そうか…良い孫を持ったものだな。よろしく伝えておいてくれ!」

 シリウスは、そう言って笑った。

「さて、ではまた来る!パーツの製造の事、本当に感謝する!さらばだ、また会おうアルフレッドよ!」

 シリウスは、そう言うと、アンファース・インダストリアルに向けて自転車を漕ぎ出す。

「『あれ』を再び目覚めさせる必要が、あるのかもしれませんな…」

 シリウスの後姿を見ながら、アルフレッドは、誰にも聞こえないように呟いた…。


 会社に帰還し、三十分ほど経過してから、二人が合流する。

「行方不明事件のあった場所を照合、リストアップしておいた。

 さぁ、魑魅魍魎狩りツアーの幕開けだ、派手に大暴れするとしようぞ!」

「「おう!!」」

 二人がその言葉に応える。

 薄暗い町並みへと、三人は歩き出した…。


 工業地帯の路地裏…。

 実際は、シリウス達の世界の工業地帯には、このような場所はありふれており、

行方不明事件も、ラーゼルが台頭していた頃は、当たり前のように毎日発生していたが、ラーゼルの撃滅以後、行方不明事件は激減した。

 しかし、ここ数日は、行方不明事件が立て続けに発生していたらしい。

「…まずは、ここか…来るとすれば、そろそろ、か」

 シリウスの言葉の通り、その直後に空気が変わる。

「…!」

「これは…!?」

 二人も、その変化に気付く。

「…来るぞ!」

 三人の前に、異形の群れが姿を現す。

 先日交戦した異形の群れではないが、結構は数だ。

「ほう、成る程、こいつらが、ルギ…おっと、ギルティアが討伐の旅をしている敵か…」

 レディオスが、剣を構える。

「…そういう事だ。もっとも、油断せねば我々の敵ではない、さっさと片付けて、次の…ぬぅ!?」

 シリウスの言葉を遮るように、二人の横にいた藤木が、前に出る。

「二人とも下がってろ!ここは、俺に任せな!!!」

 その言葉に、思わず二人が退く。

 藤木が取り出したのは、榴弾砲だった。

「オラァ!ブッ飛べェ!!!」

 異形の群れの中心目掛けて榴弾が叩き込まれる。

 直後、大爆発。

 目の前にいた異形の殆どが、その爆風で粉微塵に吹き飛ぶ。

 吹き飛ばなかった異形も、致命傷を負って倒れている。

 空間閉鎖も解けた。一撃での、見事としか言いようの無い全滅だった。

「一丁あがりだ!ネオラーゼル特製、新型榴弾の威力、思い知ったか!!ハーッハッハッハッハァ!!!」

「……」

「……」

 二人が、それを唖然としながら見守る。

 かつてより、ラーゼル重工は、重火器、爆薬の製造、扱いに秀でており、こと榴弾にかけてはフルメタルコロッセオ一と言われていた。

 シリウスは、この眼前の爆発と、爆発をバックにした藤木の高笑いから、

ラーゼル重工の腐敗によって遠い昔に忘れ去られてしまっていたその事実を思い出していた…。

「…あ、あやつのおかげで、ラーゼル重工の本領が蘇りおったか…」

「成る程、あれの完成系をフルメタルコロッセオで使われたら、侮れん…!」

「さーて、榴弾はあと十発くらいある、次行こうじゃねえか!」

 藤木の言葉に、シリウスが我に帰る。

「…あ、ああ、そうだな…」

 シリウスが、ギルティアから受け取った水晶の欠片を取り出し、確認する。

 どうやら、倒した異形の根源的エネルギーを、自動的に回収しているらしい。

「…では、参ろうか!!」

 三人は、次の目標地点へと歩き出す。


 次の、と言っても、道路を挟んだ反対側の裏通りだ。

「さて…次も来るか…?」

 一通り歩き回ったが、異形は姿を現さなかった。

「…ハズレ、って奴か?」

 藤木が、苦笑して尋ねる。

「うむ、正確な位置情報を割り出せるのは、完全な状態のお嬢ちゃんくらいしかおらぬよ。

 こうして、ハズレと当たりを繰り返しながら探すしかあるまいて…」

 シリウスが、ため息をついて苦笑する。

「地道な作業だな…」

 レディオスが、ため息をつく。

「…さぁ、次だ。早く戦いたいなら、早く次の場所を調査したほうが良かろう?」

 異形の出現しそうな箇所が、工業地帯には山のようにあった。

 絞り込まれているとはいえ、ハズレも決して少なくは無いのだ。

「そうだな」

 レディオスが、シリウスの言葉に頷く。

 三人は、次の目標地点へと急いだ。


 その道中、だった。

「…何と…!?」

 突如の空間閉鎖に、シリウスは驚く。

 道中も裏通りを通っていたが故に、どうやら、遭遇してしまったらしい。

 目の前に、異形が姿を現す。

「…よっしゃァ!今度も俺に任せろ!!」

 藤木が、嬉々とした表情で榴弾砲を構えようとする。

 しかし、それを、レディオスとシリウスが止める。

「待て!わしらの楽しみを取るでない!」

「そうだ、それを使われるとこちらがつまらん!」

 そう言って、レディオスとシリウスの二人が、藤木の横から駆け出す。


 シリウスが、ショットガンと剣を構える。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 ショットガンを撃ちながら、剣を振り回す。

 ショットガンの銃口から放たれたのは、プラズマで形成された散弾だった。

 直撃を受けた異形が、バラバラに吹き飛ぶ。

 更に、レディオスが、アサルトライフルを連射しながら距離を詰め、長剣を斬り上げる。

「…弱いな、これなら、榴弾一発で全滅するのも頷ける」

 レディオスは、そう言って、鼻で笑った。

「榴弾は使わんから、俺も混ぜろ!!」

 剣を構えた藤木が、二人に合流する。

 そこからは、あっという間だった。

 そして、三人はその夜、更に異形討伐を続けた…。


 …その日、行方不明者は出なかった。

 それもそうだろう、事件を起こそうとしていた人間がたとえいたとしても、この日、事件を起こすのは自殺行為である事が分かる。

 フルメタルコロッセオの猛者達が、こぞって夜の街を徘徊していたのだから…。


続く


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