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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.05 イガ栗兵器の脅威

   Act.05 イガ栗兵器の脅威



 もう、首都が見える場所まで、ギルティア達は到達していた。

 首都はまるで、西洋の城下町に機械が取り付いたかのような様相を呈していた。

「…しかし、ここまではあっさり来る事が出来ましたね…」

「ああ、それだけ軍事力に自信があるんだろうよ…」

 そう会話しながら、二人は歩を進める。

 ファラオ店長の言うとおり、その首都は難攻不落、と呼ぶに相応しい堅牢さと迫力を放っており、

 首都の周囲には夥しい機動兵器が待機している。

 エルヴズユンデならば力にモノを言わせた正面突破も可能なのだろうが、もし正面突破を強行した場合、血の雨が降るだろう。

 意味の無い人死に…それは、ギルティアの望む事ではなかった。


「そこの旅人!止まれ!!」

「!」

 二機の機動兵器が、こちらに飛んでくる。

「…我々に、何か御用ですか?」

 ギルティアが、表情一つ変えずに言い放つ。

 迂闊ではあっても、この程度で怯む彼女ではなかった。

「現在、首都に退去令が発令された!早々にこの地域から立ち去れ!!」

「…ほう、退去令…それは皇帝陛下のご命令、ですか?」

「そうだ!」

 ギルティアの問いに、機動兵器の乗り手が答えた直後、その後方で凄まじい衝撃が発生する。

 首都の中央にある塔の上方だ。衝撃に、首都全体が軋んだような音を立てる。

「…あれに生身で巻き込まれたいか?あれのせいで我々すらも首都に入れんのだ…。

 陛下が何をしようとしているのか、我々にすら分からぬ…」

「成る程…了解です」

「まことに迷惑をかける…貴公らの旅の無事を祈る!」

 ギルティア達が頷き、引き返すルートを取ると、機動兵器達は戻っていった。

「おい、どうする気だ?」

「…あの衝撃波、あれは間違いなく時空震です。

 どうやら、あの座標に向けて干渉が行われているようです」

 ギルティアが、衝撃の発生源を睨む。

「しかし、どうやら…あの外部で守護している機動兵器以外、内部に人員はいないようですね…」

「ああ…強行突破か?」

「…ただし、機動兵器は使いません」

「!」

 ギルティアの発言に、ファラオ店長が、彼女が何をしようとしているか気付く。

「この屋台、境界空間への転移用に相当強力な重力フィールドを積んでますね?」

「ああ…この屋台で突っ込む気か?」

「…ええ、私が屋台を引っ張りますので、ファラオ店長は内部で機械の制御をお願いします。

 内部に入る事さえ出来れば、彼らも手出しは出来ない筈です」

 ギルティアが、ニヤリと笑う。

「俺も随分と面白い事に巻き込まれたもんだ…まぁ良いさ。

 だが嬢ちゃんよぉ、何でわざわざこんな面倒事を?」

「私は、とある宇宙群の化身として…戦うためだけに生を受けた存在…。

 しかし、その宇宙群では私は必要とされなかった…。

 …私だって、誰かの役に立ちたかった。私のこの力を、誰かの笑顔の為に役立てたかった」

 ギルティアは笑っていた。まるで自分を笑うかのようで、その言葉には、どこか悲痛な響きがあった…。

「力があれば、誰かの為に役立てなければならない、か…貧乏くじを引く体質だな、お前さんは…」

「覚悟の上です…フフ」

「ま、そいつを聞いちゃ、俺も手を抜いてはいられないなァ…」

 ファラオ店長がニヤリと笑い、屋台内部の機械を操作し始める。

「すぐに行くんだろう?」

「…行けますか?」

「おう!」

 屋台を光が包む。重力フィールドだ。

 しかし、非常に奇妙な光景だ。光を纏ったラーメン屋台を、ドレスを着た翼少女が引っ張るのだ。

 恐らくこんな光景、二度と見られないだろう。

「…行きますよ、しっかり掴まっていてください」

 ギルティアの背に白と黒の翼が、腰に、黒い二枚の翼が生え、左腕が黒い爪へと変わる。

「おう、いつでも来い!」

 ファラオ店長が、屋台下部に据えつけられた椅子に座る。

「…行きます!」

 ギルティアが、屋台を力一杯引っ張って駆け出す。

 たちまち、機動兵器の砲撃の雨が来る。

「重力フィールド安定!この程度の砲撃…へでもないぜ…!」

 ファラオ店長がニヤリと笑う。全ての銃弾、砲弾は重力フィールドに弾かれ、内部には損害は一切無い。

「喋ると舌をかみますよ…!」

「安心しな、この程度の衝撃、慣れてるからよ!」

 機動兵器の足の隙間をすり抜け、首都内部に突入する。

 案の定、首都内部には入ってこない。

「潜入に成功、ですね…」

「いや、この場合、突入、じゃないのか?」

 ファラオ店長が苦笑しながら突っ込む。

「…確かに」

「んじゃ、中央の…あの場所に行くんだな?」

 ファラオ店長が、首都中央の塔を指差す。

「ええ」

 ギルティアは、再び屋台を引っ張って走り出した。


「迎撃兵器、全機起動…」

 塔の頂上で、豪勢な出で立ちの茶髪の男が目の前のモニターに手をかざす。

「我が野望の邪魔をするものは、何人であろうとも生かしては返さぬ…」

 男が嘲笑う。


 一方、ギルティアとファラオ店長の目の前には、複数の人型機械や戦車が立ち塞がっていた。

「重力フィールドは突撃にも使える…しかし、それではこちらの内部にもダメージが行く…。

 店長、ここは白兵戦で殲滅しましょう!時空震が来たら店長は屋台に退避してください!」

 ギルティアが、剣を、爪を構える。

「おう…!」

 店長が、屋台の内部から二本の包丁を取り出す。

「んじゃ、たまにはラーメン以外の料理でもするか…」

「?」

「機械の生け作り…ってな!!」

「誰が食べるんですか!!」

 ファラオ店長の発言に、思わずギルティアが突っ込む。

「心配するな、どうせ、特にこういう企み事をする奴は、煮ても焼いても喰えないような奴ばかりさ…!!」

「フフッ…違いありません」

 そう言うと、二人が同時に反対側の敵に向けて突進する。


 ギルティアが剣を振るい、立ち塞がった人型の機械が輪切りになる。

「一体!」

 それと同時に、ファラオ店長が包丁を人型機械の装甲の継ぎ目に的確に入れて、解体する。

「二体…!」

 そのタイミングで、四脚の機械からの砲撃が来る。

 ギルティアがそれを一歩踏み込んでかわし、そのまま跳躍、四脚の機械を真っ二つにする。

「三体!」

 ファラオ店長は飛来した弾丸を包丁で微塵にする。

 残った敵は戦車だ。

 しかし、それは、勝利の決定を意味していた。

 戦車の砲塔の反応速度では、幾ら戦車が高性能であろうとも、ギルティアの踏み込みを捕らえられない。

「遅い!四体、五体!!」

 次の瞬間、戦車は、二台纏めてギルティアの爪に貫かれていた。

「…さて、この先でも恐らく出迎えがあるのでしょうね…」

「歯ごたえが無いな…歯ごたえの無い麺なんて、美味くも何とも無い…。

 そういうのは捨てるかとっとと喰ってしまうに限る」

「同感です」

 ギルティアが笑う。

「…先を急ぎましょう」

 ギルティアが再び屋台を引く。


 塔の周囲は開けた場所になっていた。

「…塔の上からの狙撃に注意、ですが…

 屋台のシールドがあればそのまま突破できる事は、敵も気付いているでしょうね」

 ギルティアが、塔の上の方を睨む。

「考えられるのは、拠点型の大火力兵器の設置です」

「ご名答、のようだな…」

 ファラオ店長が、塔の入り口の前を指差す。

「やはりですか…はぁ?」

 ギルティアが、その兵器の姿に唖然とする。

 見た目が馬鹿っぽい。限りなく馬鹿っぽい。

 まるで毬栗のように三百六十度に砲塔がついている。

 まるで子供の『ぼくのかんがえたさいきょうへいき』状態だ。

 そして、浮遊兵器であるならともかく、明らかに転がりそうな気が満々だ。

「…ともあれ、撃破します!!」

 ギルティアが、正面から突っ込む。

 光線の砲撃が、来る。

 そして、その砲撃で、敵兵器の意味が分かった。

 転がっている。確かに転がっている。

 塔の方向以外の部分全てに向けて砲撃しているのだ。

 転がるのはその反動で、対象から距離を離すためなのが分かる。

 …意外なほどに強い。

 強行突破しようにも、こう火力が高いと迂闊に近寄れない。

 ギルティアが左腕のクローでフィールドを展開して防ぐ。

 しかし、完全には防ぎきれず、光線が翼に穴を開け、白い右翼が血に染まる。

「屋台を下げて!早く!この威力では、攻撃が集中されたらいくら重力フィールドでも完全には…!」

「分かっている!」

 広い場所の外に屋台が下がる。

「…嬢ちゃん、大丈夫か!?」

「これしきの事…!」

 ギルティアが、笑ってみせるが、見るからに痛々しい。

 翼がズタズタになり、血が滴っている。体の方にも、あちこちに銃創がついている。

 再生は為されているが、追いついていない。

「だ、大丈夫に見えないぞ?」

 ファラオ店長が汗をかきながら言う。

「慣れてますから」

 ギルティアは、そう言って一歩、また一歩と転がるその兵器へと歩き出す。

 その兵器は、距離を離しながらひたすら砲撃を叩き込んできている。

「エルヴズユンデを呼ぶには狭すぎますね…しかし…!!」

「おい、何をする気だよ!」

「大丈夫…私に任せてください」

 ギルティアは、そう言って笑う。

「お、おい!」

 ギルティアが、左腕の爪のフィールドを解除して、敵兵器へ猛然と突進する。

 四枚の翼が、血のような紅の光に喰われ、四枚の光の翼となる。

 すぐさま、彼女へ砲撃が集中する。

 かなりの量を剣と爪で叩き落し、彼女の翼から発生する光も砲撃をある程度軽減してはいるが、量が多すぎる。

 しかし、ギルティアは強引に敵兵器へと接近する。

 光線が容赦なく彼女の身体を貫くが、彼女はそれでも前進した。

 そして、爪が届くところまで接近し、ギルティアは血だらけの顔でニヤリと笑った。

「でええええええええやあああああああああああっ!!!!」

 敵の砲を引き抜き、装甲を掻き裂き、内部を貫き抉り、そのまま斬り潰す。

 彼女の返り血を浴びた兵器は、むしろ血を流しているようにも見える。

 そして、敵兵器は、あっという間に鉄塊に成り果てた…。

「…確かに、見た目に反して強力だった事は認めざるを得ません…」

 翼が元の姿に戻る。

「しかし、この程度の痛み、問題になりませんね」

ギルティアは、そう言ってファラオ店長に向き直った。

「…大した暴れっぷりだったな…」

「ええ…ありがとうございます」

 ギルティアが微笑む…が、次の瞬間、ギルティアは服に違和感を感じる。妙に軽い。

「…?」

 ギルティアが、自分の服を確認する。

「…!!…」

 服が穴だらけになっており、肌蹴てしまっている。

「…いっ…」

 戦いに集中しすぎて、気付いていなかったのだ。

 ギルティアの顔が、沸騰する。

「いやぁぁぁぁん!!!」

 そして、普段の彼女からは想像もつかないような可愛らしい声を上げ、凄まじい速度で近くの建物に突っ込んでいった。

「…気付いてなかったのか…」

 数分後、何処からか着替えたギルティアが戻ってくる。

「申しわけありません、取り乱しました」

「いや、俺もそれを指摘してやるべきだったな…ところで」

「はい?」

「何故それを着たという問いはここは敢えてしない…だが、数分で『それ』をどうやって着た?」

 ギルティアが着ていたのは、純白のウェディングドレスだった。

 重くないか、と言う事を聞かないのは、先程の事から推測して彼女にとって重量など瑣末な問題なのだろうと理解したからだった。

「いえ、何かあの兵器の砲撃で壊れた店に素敵なのがディスプレイされてあったもので、つい…ね。

 べ、別に火事場泥棒ではありませんよ?置手紙と相応のお金を残して来ましたから」

 マネキンからそのまま着たのだろうか。

「…さて、と」

「いや、どうやって数分でそれを着たんだ!?」

 敢えて聞かなかった問いの答えは聞けたが、聞いた問いの答えが返ってこない。

「ご想像にお任せしますよ…フフ」

 いや、答えになっていないだろう。

 しかし、これ以上聞くのは止そう、ファラオ店長は、何故かそう感じた。

「…行きましょう」

「ああ」

 ギルティアが再び屋台を引いて、塔を登り始める。

 もちろん、スロープなどではない。階段だ。

 屋台は、段差に何度も上下に揺さぶられる。もちろん、中に乗っているファラオ店長ごと、だ。

「う、ぐぐ…船酔いや車酔いはしないが…こいつぁ…」

 ファラオ店長の具合が悪くなり始める。

「しかし、嬢ちゃんも頑張ってんだ…俺がここでくたばってたまるかよ!」

 そう言って耐える。

 登っている間に、時空震が来る。

「うおおおおおおおおっ!!」

 ギルティアが、屋台を引っ張り、衝撃波をものともせず前進する。

 しかし、突入の時以上に奇妙な光景である。

 気持ち悪くなっているファラオを乗せた屋台をウェディングドレスを着た少女が凄まじい速度で引っ張って、塔を登っているのだ。

 …一体、何なのだろうか、この形容し難い光景は。

 そして、その形容し難い光景がとうとう、塔の頂上に到達した…。


続く

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