Act.06 次元竜の目覚め
Act.06 次元竜の目覚め
「…ほう、あの兵器を破壊してここまで来るとは…」
豪勢な出で立ちの茶髪の男が、王座に座っている。
「…ぜぇ…ぜぇ…流石にここまで一気に登るのは辛い…って、店長、大丈夫ですか!?」
「お、おう…少し腹の中のラーメンが逆流しそうになっただけさ…だ、大丈夫だ」
ファラオ店長の顔が青くなっているが、無理して親指を立てる。
「少し、屋台の中で休んでいてください。まずは、話し合い、と行きましょうか…」
ギルティアが、男のほうに向き直る。
「…あなたが、ロートベルグ帝国皇帝…デストヴァール=ガイオライン陛下で、相違ありませんか?」
静かに尋ねる。
「い、いかにも。余がロートベルグ帝国皇帝、いや、この世界を統べる皇帝、デストヴァール=ガイオラインである」
偉ぶっているが、明らかにギルティアに気圧されている。
明らかに皇帝を名乗る器ではない。
「文明外の技術を使う事について今は追及しません。たった一つ。
…『竜』を目覚めさせようとする全行動を、今すぐに止めなさい」
ギルティアが、デストヴァールの微かな虚勢すらも吹き飛ばすように言い放つ。彼女は、それだけの貫禄と威厳を放っている。
彼女が今着用しているウェディングドレスは、花嫁と言うよりも、まるで女王のような威厳を醸し出すのに一役買っている。
「余に指図するな!!」
「もし暴走すれば、この宇宙群全体、いや、この果て無き宇宙の連なり全てに危険が及ぶのです…!」
「制御できるとも…その為の装置も完成させた…!
『竜』が…そう、次元竜ルークが目覚めた時こそ、この世界が、いや、この果て無き宇宙の連なりの全てが余の足元にひれ伏すのだ!!」
デストヴァールはそう言って笑う。
話にならない。自分が世界を手中に収める事しか考えていない。いくら話しても時間の無駄だろう。
「悪党が…」
ギルティアが、不適に笑う。
このような愚か者が相手なら、異形相手とそう変わりない。
「今ここで断罪しましょう…来なさい!エルヴズユンデ!!」
ギルティアが、左手の爪をかざすと、塔の頂上、ギルティアの背後の窓に、エルヴズユンデの巨体が映る。
「言ったはずだぞ、竜が、目覚めると…後は封印の地へ赴くのみよ!来い!黒騎!!」
デストヴァールが笑う。
彼が持っていた錫をかざすと、デストヴァールの玉座の背後に、黒い機動兵器の影が映る。
デストヴァールが窓を破って機動兵器へと乗り込む。
デストヴァールの呼んだ名から、この機動兵器の名が、黒騎、という名である事が分かる。
機動兵器は、細身の、まるで全身が刃のように鋭くなったような姿をしていた。
「ほう…!」
ギルティアが、エルヴズユンデへ乗り込む。
「店長!」
「おうっ!」
塔の壁を突き破り、屋台がエルヴズユンデの掌へと乗る。
一方、黒い機動兵器は塔の上部、時空震が発生する場所へと突っ込んでいった。
「店長は、首都の外で待機している兵士達へ避難を要請してください!!」
「嬢ちゃん、お前さんはどうする気だ…?」
「言うまでもありません…奴を止めるか、あるいは竜と対峙するか…いずれにせよ、私は負けるつもりはありません」
ギルティアは、そう言って笑う。
「気ィ、つけてな」
「ええ、分かっています」
エルヴズユンデが、屋台を下ろす。
そして、黒い機動兵器が突入していった場所へとエルヴズユンデは飛翔する。
案の定そこは、境界空間へと繋がる空間の穴になっていた。
エルヴズユンデが、黒い機動兵器を捕捉する。遥か遠く、空間の穴を抜けた先にいる。
「フ、フハハハハハ…とうとう、とうとうこの時が来た…」
デストヴァールの笑い声が聞こえる。
穴の奥に、微かにその先の空間が見えていた。
何も無い空間。その中央に、紫の竜が丸くなって眠っている。
丸くなっているが故に、遠目ではその姿を詳しく判別する事は出来ない。
そして、既に黒い機動兵器は、竜の目の前にいた。
「我が眠りを妨げるは、誰ぞ…」
竜が、ゆっくりと眼を開ける。
「余の名はデストヴァール…汝の主となる者なり…フハハハハハ!!」
「…貴様が?我の?笑わせるな…我は、誰の指図も受けぬ…」
エルヴズユンデが、空間の穴を抜ける。
この距離なら、竜の姿がはっきりと判別できる。
竜の頭骨を被り、角を持つ。そして骨のような翼、胸部の鎧。威圧感の塊のような姿をしている。
全長は、百八十メートルほどか。かなり大きい。
「間に合わなかった…!?」
「娘よ…貴様も、我が力を欲する者か…?」
竜が、ギルティアに問いかける。
「私はただ、その男を止めに来た、それ以外の用件はありません。
このまま眠り続けると言うのなら、あなたに危害は加えません」
「…そうか…」
ギルティアを真っ直ぐに見つめた竜の眼が、微かに笑った気がした。
「…デストヴァールよ、汝に問う。我が力を欲するは、何のためぞ…」
竜が、デストヴァールに問う。
「知る必要は無い…余が欲するは、汝の力のみ!!」
デストヴァールが叫ぶと、黒騎の胸部から、見慣れぬ機械が竜へと射出される。
そして、その機械が、竜の胸部の宝石に取り付く。
「グ、グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
次の瞬間、竜が苦しみ始める。
「…貴様…何をした…!?」
「フ、フハハハハ!どうだ!?この時の為に研究に研究を重ねたマインドイレイサーの味は!!
間も無く貴様の意識は消去され、我が操縦する『兵器』へと変わる!」
デストヴァールが高笑いする。
「デストヴァァァァァルッ!!!」
激昂したギルティアが、エルヴズユンデが、黒騎に斬りかかる。
「フ、フハハハ!!貴様は知らなかったようだな…。
破壊された過去、そう、この帝国が、かつて世界を手中に収めんと、竜を、この次元竜ルークを目覚めさせた…。
帝国は、ルークの力を利用しようと、様々なプランを立てていた…。
このマインドイレイサーもその一つだ…もっとも、彼らは完成させられなかったようだがな」
黒騎が剣でエルヴズユンデと切り結ぶ。
「しかし、自らの力を利用しようとした帝国を、ルークは許さなかった…。
ルークは帝国を蹂躙し、その後、この世界全体が、ルークを除き去ろうと総力を結集したのだよ…」
「まさか…それでは、世界を壊滅に追い込んだというのは…!!」
エルヴズユンデの胸部ブラスターが火を噴く。
「ルークは世界と戦った。ただ、眠りに就きたいがためだけにな!!
利用のしがいがあると利用しようとし、都合が悪くなったら消す、
人間らしいやり方だと思わんか!?フッハハハハハハハハ!!!
まったく、旅人め…こんな奥深くに封印など施しおって…おかげで時間がかかってしまったではないか…」
黒騎が、フィールドを展開するが、数発直撃する。
デストヴァールの言う事が真実ならば、旅人は戦ったと言うより、ただこの場所を提供しただけ、と言う事になる。
ルークは本来、戦いなど望んでいなかったのだろう。ギルティアは、それを悟った。
「さぁ、このまま蜂の巣にして差し上げましょう!!
ただ自らの野望の為だけに、平穏を願う者の眠りを妨げる貴様は、この私が直々に、断罪します!!」
怒りに燃えたギルティアが、デストヴァールに叫ぶ。
「ほう…中々強力な力を持っているらしい…しかし、そろそろルークが我が制御下に置かれる…タイムアップだ!!」
「…!」
ギルティアが、ルークの方を見やる。
「グ、グウウウウオオオオ…娘…よ…」
ルークが、ギルティアに語り掛ける。
「…!?」
「我を…倒せ…頼む…このような奴の…言いなりになど…!
グ、オオオオアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ルークがひとしきり咆える。
「さぁ、ルークよ!眼前の機動兵器を消去せよ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ルークが、口から凄まじい時空震を放つ。
「何のッ…!!」
エルヴズユンデが、左腕を突き出し、時空震を、抑える。
しかし、抑えきれずエルヴズユンデが吹き飛ばされる。
「流石に…封印されるだけの力はあるようですね…」
しかし、すぐに体勢を立て直す。
「ルーク…ごめんなさい、ね…」
ギルティアが、悲しみに満ちた眼でルークを睨む。
「…あなたの願い…しかと聞き届けました」
ギルティアが左腕の爪を前に突き出す。
「…ワールドコアアクセス…コンプリート…」
ギルティアの爪の前に、紅の魔法陣が展開される。
「祝福を受けし世界よ!汝と鍵たる我が名を以て、我らに仇成す者に遍く滅びを…!」
エルヴズユンデの眼の色が紅に変わる。
「今こそ全てを解き放つ時…さぁ、共に未来を謳いましょう!…鮮血の、煌翼!!」
そして、ギルティアのその叫びと共に、ギルティアの四枚の翼が血のような紅の光に飲み込まれ、
姿を現したのは、四枚の紅の翼。
「…全力で行きます…!!」
エルヴズユンデが、ルークに突撃した。
続く




