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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.39 何処ぞの宇宙か世界で、また会おう


   Act.39 何処ぞの宇宙か世界で、また会おう


 ギルティアが、デストヴァールと交戦した次の日…。

「よう、カーメン。景気はどうだ?」

 アルフレッドは、ファラオ店長に通信を入れていた。

「おお、アルフレッドか…景気はぼちぼちだな…どうしたよ?」

「ギルティアさんが今どの辺りにいるか、分からんか?」

 アルフレッドが尋ねる。

「おう?嬢ちゃんか?そうだな…行き先は分からんが、途中で経由する世界は聞いてるぜ。座標を送るか?」

「頼む」

 アルフレッドが頷いたのを確認すると、ファラオ店長は座標データを送信する。

「だが、一体何だっていきなり嬢ちゃんの行き先を?」

「まぁ、彼女に増援を送る、と言った所か…?」

 座標を受け取り、アルフレッドは話を続ける。

「ギルティアさんから事情を聞いて、是非彼女に力を貸したいという奴がいてな」

「ほう…まぁ、嬢ちゃんが事情を話すって事は信頼できる奴なんだろ?」

「ああ。エルヴズユンデの修理は、その男の協力なくしては成就してない、あるいはここまで早くは出来なかっただろうな」

 アルフレッドは、そう言って笑った。

「何処かで会う事があるかもしれないな…そいつの名前は?」

「シリウス=アンファース…今小生がいる世界の大企業の社長だ」

「大企業の社長?そいつぁ、随分と変わった経歴だな…まぁいいさ。そいつによろしく伝えといてくれ」

「ああ、分かった…それと、お前も、今度この世界にも寄れよ。久々にお前のラーメンが食べたくなった」

 その言葉に、ファラオ店長が笑う。

「ああ、分かった。んじゃ、また会える時を楽しみにしてるぜ、戦友」

「おう、またな」

 通信が切断される。

 アルフレッドは、工場の方に向かって歩き出した…。


 工場では、改造が完了したアンファースと、シリウスが待機していた。

「目標地点の座標は、機体のメインコンピュータに転送しておきました。

 ふふ…情報提供者から、よろしく伝えておいてくれ、と言われましたよ」

「うむ。そやつにもいつか直接会って礼をしなくてはならんな…その者の名は?」

「カーメン=T=尾崎…普段はファラオ店長と呼ばれております」

 その言葉に、シリウスが頷く。

「ファラオ店長…お嬢ちゃんの話にも出てきていたな…承知した、その名、覚えておこう。

 …世話になったな、アルフレッドよ」

 シリウスが、頭を下げる。

「いえ、今の彼女には、少しでも多くの戦力が必要です…頼みましたよ」

「うむ、任せておけぃ!!」

 シリウスはニヤリと笑い、自信満々に頷いた…。


 一方、ギルティアは、再び重傷を負ったルークを看ていた。

「やれやれ…勝手に戦う、と言って意気揚々と出て行って、この傷では…。

…戦力どころか足を引っ張ってしまうではないか」

 ルークが、ため息をつく。

「…しかし、毎回包帯ぐるぐる巻きは、勘弁してもらいたい物だな」

「もしそれが嫌ならば、深手を負わない事です」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「…もっともだ」

 ルークが、苦笑する。

 確かに、先日の、デストヴァールがルークを操った際は、最大まで巨大化した状態でその力を最大限に発揮する事で、ギルティアと何とか真正面から戦う事が出来ていた。

 しかし、それは、その巨大さ、その攻撃の広域さ故に、周囲への被害を一切度外視して戦う事と同義だ。

 …何とかして、サイズの巨大化を抑えた上で、今以上の防御力と攻撃力を確保する事はできないものか。

 最大限に力を発揮する事が出来れば、少なくとも、ギルティアの足を引っ張る事など無いのだ。

 何か、方法はある筈…ルークは、静かに考えていた。

「…さて、私は、少し宮殿の中を見てきます。まだ、内部構造を把握できていません」

「うむ…我は、もう少し休ませて貰おう」

 そう言って、ルークは再び眠りに就いた。

「…さて、行きますか」

 ギルティアは、部屋を出て、歩き始めた。

 所々、まだ作業中の場所がある。

 完成すると、一体何処まで豪華な宮殿になるのか、ギルティアは思わず苦笑してしまった。

「ギルティア様!」

 ギルティアを呼んだのは、エーリッヒだった。

「…エーリッヒですか」

「はっ!…中を見てまわっておいでなのですね?」

「ええ、まだ内部構造が把握できていませんから」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「…素晴らしい宮殿です。私には勿体無い程ですよ」

「そう言って頂けて、光栄です!…ルーク様のご容態は?」

「問題ありません…まぁ、恐らく明日までには完治するでしょう」

 ギルティアの言葉に、エーリッヒがほっと胸をなでおろす。

「良かった…我々にももう少し強力な機動兵器があれば、

 ギルティア様の援護くらいは出来るのですが…」

「お気持ちだけ受け取らせて頂きます…ありがとう」

「いえ、我々一同、ギルティア様がおられなければ今頃ここにはいません。

 あるいは、もしかすると、他宇宙、他世界への侵略に、加担する事になっていたかもしれません…。

 …ギルティア様には、感謝してもしきれないのです」

 ギルティアのしてきた事は決して小さい事ではない、という言葉が、再び脳裏をよぎる。

 しかし、ギルティアにとっては、それが小さい事であろうと大きい事であろうと関係は無い。

 ただ、それが鍵の使命で、自分が成すべき事、当然の事だ。

 …ただ、それだけだった。

「いえ、私は、鍵として当然の事をしただけですから」

 ギルティアは、静かに笑った。

「…さて、それでは私はもう少し宮殿を見て回る事にします」

「はっ!ごゆっくり!!」

 ギルティアが歩き出すのを、エーリッヒは敬礼して見送った…。


 宮殿を回って、ギルティアは思った。

 …とんでもない広さだ。

 一旦、ギルティアは入り口から外に出る。

 宮殿の一番高い場所に、ギルティアの部屋が見える。

「…部屋に戻るなら、ここから飛べば…」

 と、今の自分の背中を確認する。

 今着ているドレスでは、翼を展開するのには邪魔になる。

 上の二枚の羽は出せるが、下の羽は出せない。

 飛べるには飛べるが、これであれば、むしろ走った方が早いだろう。

「いえ…屋根伝いに行きましょうか」

 ギルティアは、宮殿の屋根に跳び、そのまま、ルークが寝ている自分の部屋まで走り出した…。


 …その夜、だった。

「このタイミングで再びあのレベルの敵が出てくると、流石の私も危険ですね…」

 ギルティアが、外の月夜を見ながらつぶやく。

「貴公がそう言うと、本当に出てくる…迂闊な事は言わないでほしいものだ」

 そう言って、ルークが苦笑する。

「ははは…気をつけます」

 そう言って、ギルティアは再び外を眺める。

 眼下には、帝国首都の夜景が広がっている。

 上を見ると、見事な星空に、流れ星が煌めいていた。

「…流れ星?」

 ギルティアが、嫌な予感を感じる。

 そして、流れ星が見えたその数秒後、遥か彼方から轟音が響いた…。

「……」

 ギルティアとルークが沈黙する。

 爆発音と思しき轟音が、遥か彼方から繰り返し響いてくる。

 微かに、光も見えている。

「…ルーク…?」

 ギルティアが、ルークの方に振り向く。

「じ、冗談のつもりだったのだが…」

 ルークが冷や汗をかく。

「…行ってきます」

「うむ…必要があれば呼ぶが良い…もう傷もかなり回復している」

「ええ」

 ギルティアが、窓を開けて飛び出す。

 そして、そのまま飛んできたエルヴズユンデの胸部に乗り込む。

「…行きます!!」

 エルヴズユンデが、轟音の方へと飛び立った。


 轟音が響いていてきた先は、ただの荒野だった。

 その後も爆発が続いているという事は、何らかの戦闘が起こっている事は想像がつく。

「一体、何が…!?」

 ギルティアが呟く。

 何度か非常に大きな爆発も起こってもいた。

 その爆発から、戦闘の凄まじさは容易に想像できる。

 現状から分析すると、戦闘を行っているのは間違いなく境界空間航行兵器だ。

「もうすぐ目標地点ですか…!」

 エルヴズユンデが、もうすぐ目視で戦闘を確認できるであろう距離に到達しようとした、次の瞬間だった。

 凄まじい光が夜空を照らし、凄まじい爆発の衝撃が来る。

「…!?」

 そして、その爆発で浮かび上がったシルエットに、ギルティアは驚愕した。

「アン…ファース…!?」

 そう、それはこの世界にいるはずのない、他の世界の住人の駆る機動兵器だったのだ。

「…おお、ギルティアではないか!

 という事は、どうやらしっかりと目的地につけたらしいな」

 通信も入る。

 声からも、彼がシリウスである事は間違いない。

「…シリウス…一体、何故此処に…!?」

「言った筈ぞ、何処かの宇宙か世界で、また会おう、とな。

 まぁ、理由、と言えば…お主の救援に来た、といった所か」

 シリウスの言葉に、ギルティアは更に驚く。

「救、援…!?」

「お主が今相対している敵は、お主にとっても未知の敵なのだろう?

 …戦力は、多いほうが良い」

 シリウスの言葉に、ギルティアは頷いた。

「…分かりました。

 しかし、私の旅に同行すると言うのなら、事情くらいは説明して頂きたいものです…」

「…うむ、勿論だとも」

「では、私が今滞在している場所に案内します…ついてきて下さい!」

 エルヴズユンデが、転進する。

「了解した!」

 アンファースが、それに続く。

 そして、二機は帝国首都へと帰還していった…。


続く

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