Act.37 嵐の前の舞踏会
Act.37 嵐の前の舞踏会
豪華な部屋での一夜が明け、ギルティアはルークと、次の目的地について考えていた。
ギルティアは、部屋に用意されていた、普段着用しているドレスよりも豪華なドレスを着用している。
「再び異形討伐を続行する必要はありますが、あの危険な異形は、最優先で討伐せねばなりません」
「ああ、だが、あの異形、閉鎖空間の外でも活動できる以上、表立って被害を及ぼすだろう?
だから何処にいるかは丸分かりだと思うが、今の所、我々が交戦した以外で、その情報は入っていない…。
奴等は、我々や旅人を優先的に狙っている気がするのだが…どうだ?」
ルークの言葉に、ギルティアが頷く。
「…確かに。あのタイプの異形には、明らかに不可解な行動、規則性とも取れる行動が目立ちます。
そして、ラーゼルのあの一件…人為的な物を感じずにはいられませんね」
「今まで、我々はあちこち移動してあのタイプの異形と遭遇してきた。
…もし我々がここで待機して、尚、あのタイプの異形と遭遇するなら、奴等は我々を狙ってきている、という確証が掴めると思うのだが…」
ルークの言葉に、一瞬ギルティアが考える。
確かに、ギルティアやルークの交戦以外で、今の所は、各宇宙や世界に表立った被害は出ていないようだ。
もし、あの異形達がギルティア達を狙っているとすれば、こちらから探さずとも、向こうから仕掛けてくるだろう。
突発遭遇かそうでないかは、それで確認できる筈だ。
しかし、ルークもギルティアも、それに対する確証に近い感覚はあった。
「分かりました。ならば、もう暫くこの豪華な生活を堪能させて頂く事にしましょう…。
…まさか、私がこんな場所に寝泊りする事になるとは、思いもしませんでしたがね…」
ギルティアは、そう言って笑った。
と、ドアをノックする音が聞こえる。
「ギルティア様!」
エーリッヒだ。
ギルティアがドアを開ける。
「とても素晴らしい部屋…ありがとうございます」
「はっ!喜んで頂けたようで何よりです!
昨晩、宮殿の大広間の再建が終わりましたので、今宵、ささやかながら、舞踏会を開催したいと思っております。
もしお時間に余裕があれば…ですが、いかがでしょうか?」
その言葉に、ギルティアは一瞬考え、頷く。
「…分かりました。その申し出をお受けさせて頂きます」
「はっ!快諾に感謝致します!」
「…ただし、一つだけ気をつけて頂きたい事があります」
「それは?」
ギルティアが、事情を説明する。
「成る程、つまり、襲撃に対しての警戒を怠るな、という事ですね?」
「その通りです」
「はっ!了解しました!」
エーリッヒが、敬礼する。
「…では、今宵の衣装を手配させて頂きます!!」
エーリッヒは、そう言うとギルティアの部屋を後にした…。
「舞踏会とは…?」
ルークの問いに、ギルティアが思わず苦笑する。
「行われる事を見れば、たまに私が異形に対して言う、踊りましょう、という言葉の意味は分かるでしょう。
私は鍵として一応の嗜みはありますし、嫌いではありません」
「ほう…それは楽しみだ」
ルークは、そう言って静かに笑った。
そして、その夜、帝国の首都守備隊の生き残り達と、首都の生き残った商人が主催する舞踏会が開かれた。
ルークが、目の前の光景を見て頷く。
「これは…成る程、華々しい物だな」
「ええ…しかし、私も、実際に舞踏会に参加した事はありませんでしたよ」
紅色の見事なドレスに身を包んだギルティアが、ルークに並んで立つ。
いつも以上に威厳が増大している気はするが、それ以上に美しさが際立っている。
「そして、確かに、貴公が戦闘の始まりにたまに口走る言葉が良く理解できる。
…貴公の戦いは、確かにこの舞踏という物を髣髴とさせる」
ルークは、そう言って笑った。
「…ええ」
それを眺めるギルティアの眼は、少しだけ寂しそうだった。
「…貴公、もしかして、どこかで夢見ていたのではないか?」
「…え…?」
ルークの呟きに、ギルティアが聞き返す。
「貴公には、こういう壮麗な場所が似合っている…戦場と同じほどに、な。
…戦ってばかりではあったが、ずっとこのような場所に立つ事を夢見ていたのではないか?」
「…良く、分かりません…私は、私の使命に誇りを持っていますし、本来、私の居場所はこのような壮麗な場所ではありません。
…このような場所を夢見た事など…無い…その筈なのです」
ギルティアは、そう言って苦笑した。
「…ともあれ、参加したからには私も楽しませて頂きましょう。
ルークは…無理ですよね?」
ギルティアの一言に、ルークは眼を点にして頷く。
「…うむ、体型的に無理だな」
「…ですよね」
「何、我は食べ物を楽しんでくるさ。
…貴公も、存分に楽しんでくるが良かろう」
そう言って、ルークは食べ物の方へと歩き出した。
「さて、どなたが私のお相手を?」
ギルティアが一歩踏み出す。
「私が!」「自分が!」「拙者が!」「某が!」
今まで他の女性と踊っていた男性の大半が、一斉にギルティアの方へと歩み寄ってきた。
食べ物を食べていたルークが、それを見て思わず笑う。
「流石はギルティア…大人気で何よりだ」
一挙に来られたギルティアが、流石に慌てる。
「じ、順番に並んで下さい!全員まとめてのお相手は私でも流石に無理です!」
「こうなると思った…」
エーリッヒが、ギルティアの方へ歩いてくる。
「?」
「諸君!今から整理券を配る!順番をしっかり守り、ギルティア様に失礼の無いようにせよ!!」
エーリッヒの行動に、ギルティアが思わずずっこける。
「せ、整理券…」
「…ご迷惑をお掛けしました」
エーリッヒが、男たちに整理券を配りながら、ギルティアに頭を下げる。
「いえ…私も、嗜んではいますが、このような場は初めてですので…」
ギルティアが苦笑する。
そして、一人目から順に、ギルティアとのダンスが始まる。
嗜んでいると言う言葉とは裏腹に、ギルティアは絶えず相手をリードしている。
周囲で踊っていた参加者達も、思わず足を止めて見入る。
見ている人々の中には、女性でありながら整理券を受け取りに行く者もいるほどだった。
「…見事なものだな…」
ルークも、食べ物を平らげながら、ギルティアのダンスを見て呟いた。
「…悪くない…悪くない、気分です」
ギルティアは、静かに呟いた…。
そして、夜も更け、舞踏会は終了した。
「ふぅ…本来は不謹慎なのですが…楽しかった…」
再び豪勢な部屋に戻ったギルティアが、大きく伸びをする。
「中々の料理だった。それに、興味深い物も見せてもらったし、我も満足だ」
「…しかし、どうやら…」
ギルティアが、部屋の窓を開ける。
「うむ…楽しい時間と言うのは、早く過ぎ去る物だな…!」
ルークが、その窓から飛び立つ。
空中の空間が、歪んでいる。
何かが、境界空間から首都の上空に出現しようとしているのだ。
「随分と、相手の方も動くのが早いようで…行きましょう、エルヴズユンデ!!」
紅のドレスのままで、ギルティアは飛んできたエルヴズユンデの胸部に乗り込む。
上空に、境界空間から転移してきたものは、紛れも無く、かの機械と融合した異形だった。
数は先回と同じく五体、しかし、リーダーと思しき黒い細身の一体に、ギルティアは見覚えがあった。
「黒…騎…!?」
ギルティアが、思わずその『覚え』を言葉にする。
そこには、かつてこのロートベルグ帝国を支配しようとした、デストヴァール=ガイオラインの愛機、黒騎が異形化したものが、剣を構えて立っていた…。
続く




