Act.11 メイド服とチェーンソー
Act.11 メイド服とチェーンソー
ギルティアは、ファラオ店長が指示した場所へとたどり着いた。
確かに、人通りが少なく、かつゼロではなさそうな場所であり、異形が身を隠している可能性は高い場所だ。
「…ここですか…さて、いるとすれば…そろそろ…」
空間が閉鎖されるのとギルティアが剣を構えたのは、ほぼ同時だった。
「…ビンゴ、ですか」
ギルティアがニヤリと笑う。
今、ギルティアの目の前にいるのは、眼から明らかに異常な紅の輝きを放っているチェーンソーを持った男と、
両腕がカマキリの鎌のような形状をしたもの、土くれで出来た巨人以下、数体の異形だ。
「この姿で言ってもさまになりませんが…さぁ、踊りましょう…!」
ギルティアが、誘うように呟き、剣を構えて突進する。
「『おどり』というものは今一つ良く分からんが、戦うと言うのならば話は早いな!!」
ルークが、ギルティアの肩から飛び立つ。
身体能力が多少下がっているとはいえ、今の彼女でも生半可な異形程度に遅れを取るほどパワーダウンしてはいない。
「ええええええいッ!!」
ギルティアが横薙ぎに振るった剣の一振りが、カマキリのような両腕をした異形の鎌を、その身体ごと真っ二つにする。
切り裂かれた異形が、断末魔の悲鳴をあげて屍となる。
「まず一匹!!」
その隙を突いて、背後から土くれの巨人がその巨大な拳を振り下ろさんと迫る。
「ルークっ!!」
「任せよ!」
少し離れた所で異形と戦っていたルークの時空震ブレスが、複数の異形ごと土くれの巨人をバラバラの土くれに戻す。
「最後ですッ!!」
残りは一体、チェーンソー男だけだ。ギルティアが、突進してきたチェーンソー男の異形を睨む。
男が、奇声を上げてチェーンソーを振り下ろす。ギルティアの剣と、チェーンソーが衝突し、凄まじい火花が散る。
相手のチェーンソーの回転数は、どうやら改造が為されているらしく、普通のチェーンソーを遥かに上回っている。
恐らく、剣や刃よりも、切れ味、破壊力共に上であろう。
「…ぐ、っ…!!」
チェーンソー男の力は意外に強く、今のギルティアの力では多少力負けしている。
「力で、勝っていたところで…!!」
ギルティアが、剣を手放しながら男の股関節を蹴り上げる。
勢いあまったチェーンソー男はチェーンソーを軸に一回転して地面に叩きつけられる。
ギルティアは宙を舞うチェーンソー男の下を抜ける。
「…これで、終わりです!!」
ギルティアは、男のチェーンソーを強引に奪い取り、起き上がったチェーンソー男を逆袈裟切りに真っ二つにした。
「…良い武器です」
そう言って、血濡れのチェーンソーを停止させて肩にかけ、ギルティアは笑った。結構怖いかもしれない。
「さて、根源的エネルギーを吸収しましょうか」
異形達の骸が消滅し、光に変わり、ギルティアの掌の上に集まる。
それと同時に、ギルティアが浴びた返り血も全てその光に戻る。集まって出来た光は、思いの外小さかった。
「これっぽっちですか…」
ギルティアが、ため息をつく。
周囲は静寂に包まれる。空間の閉鎖も解けたようだ。
「…そういえば、気になったのですが、ルークは小さくなっている際にはパワーはどうなるのですか?」
確かに。小さい時も大きい時と同じ程度の力を使えるなら、大きくなっている理由は無い。
「小さい時は扱える全力が下がる。まぁ、その程度でこのような輩相手に遅れを取る訳は無いがな」
ルークが、自信満々に笑う。
「流石ですね、ルーク」
「貴公も、本当に大丈夫らしいな」
「だから、遅れを取ることなどあり得ない、と言ったのですよ。
…さて、店長の所に戻りましょう」
「ところで…」
ふと、ルークが尋ねる。
「貴公、それ、気に入ったのか?」
そう、ギルティアはまだ先程のチェーンソーを持っている。
「はい。異常な改造が為されているようで、普通のチェーンソーを遥かに上回る回転数で刃が回っています。
これならば、普通の剣と同じような、いや、それ以上の運用が可能でしょう…せっかくですから、改造の後私の武器にしようと思います。
この姿だと、剣一本では少々手数が足りないようですので」
「そ、そうか…」
ギルティアとルークが、ファラオ店長の所に戻る。
「おお、無事帰ったな?」
ファラオ店長がそれを出迎える。どうやら、客は来ていないようだ。
「根源的エネルギーはそこまでの量を吸収することは出来ませんでしたが、良いものが手に入りました」
そう言って、ギルティアは笑顔で手に持ったチェーンソーを見せる。
「…嬢ちゃん、笑顔でチェーンソーを差し出すのは怖いから止めてくれ」
「はい?」
笑顔のまま、ギルティアが首を傾げる。余程このチェーンソーが気に入ったらしい。
見た目の年齢相応のような曇り無き笑顔に、思わずファラオ店長は首を横に振った。
「…いや、何でもない。成る程、確かに異形の武器にしては上物だな」
「ええ、改造して私の武器として使おうと思います」
屋台の中にチェーンソーを置く。
「ところで、お客様は来ていないようですね…」
「まぁ、ここはな。まだまだ、これからさ…さて、移動する。片づけを手伝ってくれ」
「了解です、任せてください!!」
そして、二つ目の目標地点に到着する。また確かに少し奥に進めば異形がいそうな路地裏があるのは分かる。
「んじゃ、行ってきな。もしチェーンソーを持ってくなら、客がいなくなるのを見計らってから戻ってくるんだぜ?」
「了解です」
ギルティアが頷き、チェーンソーを持って駆け出す。
やはり、いそうだ。薄暗い、不気味な路地。異形が閉鎖空間内に潜んでいる可能性は高い。
そも、今のギルティアの、幼い少女の姿は、異形の格好の標的に見える。いるなら、すぐ来るだろう。
「…来ます!」
ギルティアが、チェーンソーのエンジンをかけ、もう片方の手に剣を構える。
次の瞬間、空間が閉鎖される。
「背後ッ!?」
ギルティアは、背後気配に向けてチェーンソーを叩き込んだ。金属音と火花が散る。
短刀を構えた、忍者のような容姿の異形だ。成る程、背後を取るのも頷ける。
「ギルティアよ、さらに背後より敵だ!!」
「!?」
ルークが飛び立ち、さらにギルティアの背後から降りてきた同じく忍者のような異形を、爪で迎撃する。
「ぇぇぇええええええええいっ!!!!」
ギルティアが、強引にチェーンソーを振りぬき、異形を吹き飛ばす。
吹き飛んだ先の更に後方から、多数の金属が飛来する。
…手裏剣だった。
「手裏剣!?本当に忍者だとでも…!?」
ギルティアが、剣で手裏剣を叩き落す。
襲ってきた異形の後方にも、紅の眼光が見える。
「成る程、異形の忍軍、というわけですか…」
ギルティアが、冷や汗をかきながらニヤリと笑う。
「ギルティアよ、こちらは我に任せよ!」
ルークが叫ぶ。どうやら、背後にも複数の異形がいるようだ。
「了解、任せます!!」
「さて、『ニンジャ』とか言ったか…身軽さに自信ありのようだが、我が攻撃、見切れると思うな!!」
ルークが、ギルティアの背後を取ろうとした異形へと突進する。
「まぁ、正面突破は望むところです」
ギルティアが、剣とチェーンソーを構えなおす。
「第二幕、と行きましょう…行きます!!」
ギルティアが、手裏剣の雨を剣で叩き落しながら目の前の異形の群れへと突進する。
「まず一匹…!?」
確かに、チェーンソーは異形の一体を捉えていたはずだった。
しかし、その場所にあったのは、ただの木片だった、木片は一瞬で両断される。
「変わり身とは…あじな真似を…!!」
その一瞬の隙を突いて背後に回ろうとする異形に向け、チェーンソーを投げつける。
異形は、一瞬の内にチェーンソーに貫かれ、閉鎖された空間の壁に激突した。
「次ッ!!」
更に前進すると、手裏剣を投げ続けていた異形が、バラバラに散開する。
そして、空中から一気に襲い掛かってくる。
「身体が小さくなった分、身軽になりましてね…その程度の動きなら翼が無くとも…!!」
片手で逆宙返りをし、後方の壁に突き刺さっているチェーンソーを取る。
更に、そのまま空中から落下してくる異形たち目掛けて跳ぶ。
逆手に持ち替えた剣で、一体の異形を両断する。
更に、そのままもう一体の異形を突き刺し、そのまま剣を下に向けて勢い良く手放す。
「やああああああああっ!!」
チェーンソーを縦に振り上げてその勢いでギルティアは縦に一回転する。
頭上の至近距離にいた異形の一体が真っ二つになる。こちらは残り一体だ。
上空から、方向を変えながら突っ込んできている。地面に足が着く。
「今です!!」
丁度足元に突き刺さっていた剣を引き抜き、異形に向けて投げつける。
異形はそれをひらりとかわすが、その直後に突っ込んできたギルティアを避けることは出来なかった。
ギルティアは、思い切り体当たりを決め、そのまま身体の上に回りこむ。
「これで…終わりです!!」
まるで身投げのような姿勢でチェーンソーを振り下ろす。
そのまま、ギルティアは異形にチェーンソーを叩き込んだ状態で地面に落下した。
地面に、異形を突き通した状態でチェーンソーが突き刺さっている。
ギルティアはその持ち手の部分を掴んで、片手で倒立している。
「よっ、と」
一回転してチェーンソーを引き抜く。
「…翼を使わない空中戦闘というのも、気持ちのよいものですね」
ギルティアが、そう言って笑う。
ギルティアが、異形と空中で曲芸のような戦闘を繰り広げていた時、
ルークはルークで異形と戦っていた。
「敵は四体か…参る!!」
大きく羽ばたき、勢い良く異形に体当たりする。
「はあっ!!」
そして、爪で異形を貫く。まずは一体。
手裏剣が飛来する。
「その程度の飛び道具など、叩き落してくれる!!」
ルークが、時空震を拡散放射して手裏剣を消し飛ばす。
そのまま異形を消し飛ばそうとするが、異形はそれを回避する。
異形が、左右から同時に斬りかかる。
ルークは、それを掴んで止めた。
「ぬうううううううっ…でいっ!!」
そのまま力任せに、忍刀をへし折る。
「ぬっ、残り一体は何処に行った!?」
しかし、空気を切り裂く音を、ルークは聞き逃さなかった。
「後ろの頭上か!!」
振り向き様に時空震を放ち、襲い掛かろうとした異形を消し飛ばす。残り二体、左右に展開している。
異形が鎖鎌を取り出し、ルークの両腕を封じる。
「力比べのつもりか?我が負けると、思っているのか!!」
ルークがニヤリと笑う。
鎖を、勢いよく引っ張る。
二体の異形がバランスを崩す。
「貰ったぞ!!」
ルークが、渾身の力を込めて腕を、爪を振り下ろす。
爪から放たれた紅の衝撃波の刃が、異形を二体纏めて真っ二つにした。
「…まあ、こんなものか」
ルークが、静かに呟く。
向こう側から、ギルティアが歩いてくるのが見える。
「そちらも終わったか?」
「はい。私のほうは問題ありません」
周囲の異形の骸が光になり、ギルティアの掌に降りる。
先程のものよりもはかなり強い光だ。
「…これは、良い感じです」
ギルティアが、満足気に頷く。
「これをどれくらい繰り返せば良いのだ?」
「…一度に手に入る量には本当に揺らぎがありますので、まだ分かりません」
空間閉鎖が解除される。どうやら、増援も無いようだ。
「…さて、店長の所へ帰りましょう」
ギルティアが、笑顔で言った。
一方、店長の所には数人の客が来ていた。
「店長、作業を手伝います!!」
「おい、アレはどうした?」
チェーンソーの事である。
「路地裏においておりますので、問題ありません」
「考えたな。なら、早速手伝ってもらおうか」
「了解です!!」
その後、複数の場所をギルティアたちは巡ったが、異形は発見できなかった。
しかし、いつもよりも屋台が繁盛していたのは、事実である…。
ギルティア日記
良い武器を手に入れました。この姿のときだと大分役に立ちます。
…私は戦えれば良いのです。それが私の仕事なのですから。
必要とされない所でどうするかなど、考える必要なんてありません。
私は、私の使命を果たす、それだけで、良いのです…。
さて、明日もお仕事お仕事…!
続く




