プロローグ まだ見ぬ世界へ
「じゃあ、私、行くね。お父さんとお母さんによろしく」
黒曜石の壁に囲まれた巨大な空間の中で、一人の制服姿の少女――秋月遥が旅立とうとしていた。
ミディアムショートの黒髪を揺らし、期待に満ちた表情には、わずかな緊張も見える。
目の前には、一辺が1.5メートルほどの立方体が置かれている。
黒っぽい金属のような表面を淡い青色の光がゆらゆらと覆い、薄暗い空間をぼんやりと照らしている。
「遥、本当にいいのね? 今ならまだ……」
「いいの、お姉ちゃん。私が行くって決めたから」
遥は首を横に振った。
両手でスケッチブックを抱え、画材を入れたカバンを肩から下げている。
まるで、近くへ写生に出かけるかのようだ。
「そう……。分かったわ。気をつけてね。あなたの絵を楽しみにしてるわ。悠真くんに見せた後でいいから、私にも見せてね」
「も、もう、またそんなこと言って……じゃあ、行ってきます」
遥は少し照れたように微笑んで、高さ30センチほどの大きな円形ステージに上がった。
そこには、もう一人の少女がいる。
だが、その少女はどういうわけか、薄い光をまとっていた。
「いってらっしゃい」
遥の姉、薫は軽く手を振り、遥の横に立っていた少女にうなずきかけた。
「はいはい。んじゃ、ちゃっちゃっと行くわよ」
「うんっ」
遥が嬉しそうに返事をした瞬間、彼女たちの姿は消えた。
「……お願い、無事に帰ってきて」
薫は、不安な表情のまま、つぶやいた。




