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エルゼの言葉に傍聴人はざわついた。一方、ボイドは目を逸らすだけだった。ざわめきの中でエルゼは審判であるオルトに向かって話し出す。
「すいません。和解のための話し合いをしたいと思います」
「分かりました」
オルトは認めて、エルゼは話し出した。
「私がエルゼ・ローエングリンである事を証明するために、いくつか証拠をお話ししましょう」
そう言って助産師の報告書を取り出して、オルトに提出した。
「まずは私が生まれた時に出来ていたホクロの位置です。今、ここで脱ぐことは出来ませんが、当時の助産師と一緒に確認しました」
オルトは「なるほど」と言って、ボイドに報告書を渡す。だがボイドはパラパラと見ただけで、オルトへすぐに返した。
「続いて、ローエングリン家にあった家宝についてです。父は極東の島国からいくつかの品物を贈られました」
エルゼは「まずはこの刀」と言って刀の私を見せた。
「何回か決闘裁判で精霊が出ていますが、元々は鞘が抜けない刀として贈られました。ある特定の条件で抜ける物ですが、その条件が分からず極東の島国の人々は刀の模型と思われていたようです」
そしてエルゼは「それから人形と小さな刀と扇子ですが……」と言って、ボイドを睨んだ。
「それらはすべてギャトレー子爵家に遺産として受け取ったそうですね。前当主の方がお客様に極東の島国の品物として見せたって聞きました。その時の説明ですが、極東の人々はとても小人のように小さいから、持っている刀と扇子が小さいと説明したそうですね」
「……覚えていない」
「お客様は珍しい品物だったから覚えていましたよ。ですが、この刀を見ていただいて分かる通り、小柄ではあるものの小人ほど小さな体ではないと思われます。それに父も助けた侍がとても小さかったと言う事を言っていませんでした」
この話しをしたのは白い結婚の契約書で決闘裁判をしたクレアだった。クレアの実家とギャトレー子爵は親交があり、お茶会に参加した時に見せてもらったと言っていた。
エルゼは冷ややかな目でボイドを見て「あなた、あの人形や小物を売ったんですね」と言った。ボイドは苦しそうに呟いた。
「事業がうまく回らなくて、資金難だったんだ……」
「もうあなたの物になったんだから、どう扱っても良いんですけどね。それにあなたから買ってくださった方にお願いして、人形を見せてくれました」
「……」
「はい。そして父から言われていた人形の秘密をお伝えしました。あの人形は元々【人形浄瑠璃】と言われる人形劇で使われていた人形でした。なので人形の中身は操作できるようになっています」
そう言ってエルゼは「証人をお願いします」と言って、証人を出した。それはピクシの民のメイドだった。
「買われた貴族の方は証人として出るのを断られましたが、一緒に見ていたメイドを証人として出ることを許可してくれました」
ピクシの民のメイドは「確かに人形の中身は操作できるようになっていました」と証言した。
「金属は一切使っておらず木材を使った装置で、エルゼさんは人形の中に腕を入れて、右手を動かしました」
「人形は壊れかけなので、この動作しか出来ませんが元々両腕を動かして、小さな刀や扇子を持たせて躍らせていたようです」
エルゼの言う通り、あの人形は【人形浄瑠璃】と呼ばれる人形劇で使われた物だ。この人形は壊れそうで新しい物を使う事になり、異国の珍しい物としてエルゼの父に渡したのだ。その時、操作についての説明をエルゼの父は受けてエルゼ本人に教えたのだ。
傍聴人たちがざわめき、エルゼは微笑みながら「これでも私がエルゼ・ローエングリンでないと言いますか?」と聞いた。
だがボイドは思ったよりも力強い声で言った。
「違う! お前はエルゼ・ローエングリンじゃない!」




