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 さて裁判を取り仕切る神判はバスロ牧師のような古典的教えをする者ではなく、普遍的な教えを説く者となった。

 彼は決闘場の台座に立って原告のエルゼ達を入場させたが、被告のバスロ牧師は現れなかった。ちなみに裁判に遅刻した場合は罰金となる。

 エルゼは「来ない方が嬉しいんですけど」と呟いた。もし来なかった場合、自動的にエルゼ達の勝ちである。


 エルゼはそう呟いていると、リラが「あの、エルゼさん」と話しかけた。


「バスロ牧師は聖職者だから、戦う事は出来ないですよね」


 あの問題牧師は神判でリラに熱した鉄の棒を握れと強要していたが、一応聖職者だ。彼らは人を傷つける行為は禁止されている。


「恐らく代わりに戦ってくれる決闘士を連れてくると思います」


 意外にも教会や修道院を相手に訴える者は多い。そのため普段は守衛として働く決闘士を雇う。だがそれは大きな教会か女性のみの修道院くらいだ。ピクシの民の農園近くの教会には、そのような人間は居なかった。

 この場合、新たに決闘士を雇うしかないのだが……。


「ハーバードクラー公爵が貴族界隈や教会や騎士達にこの話しをしたので、まともな決闘士は来ないと思います」


 そしてエルゼは難しい顔をして「もしくは」と付け加えた。


「私の持つ助太刀のように精霊が出る武器を持ってくるかもしれません」

「教会にもあるんですか?」

「全知全能の神を奉る総本山や歴史の深い教会などにはありますね。そこで貸してもらう事も出来ます」


 と言ってもハーバードクラー公爵は貴族や教会関係者に話しているので、貸す人間は居ない気もするが……。

 エルゼの話しにリラは不安そうな顔になった。それに気づいたエルゼは「不安ですか?」と聞いた。


「はい。今までお父様から教えてもらった事を自分の手柄にしていたので」

「ピクシの民に聞いたけれど、決して自分の手柄のように振る舞ってはいなかったと言っていましたよ。リラさんはこういう方法があると教えたに過ぎないですし、無償で教えたから聖女って皆さんが言い始めただけですし」

「ですが、このような騒動を起こしてしまいました」

「清廉潔白で生きてきても、突っかかる人間は多いものです。私が出会ってきた女性達もそうでしたし」

「そうなんですか」

「都合よく物語のような王子様なんて来ませんからね」


 エルゼはそう言って微笑んだ。


「ここに立つこと自体、リラさんは強い証です」

「私の戦いでもありますので」


 リラは強い眼差しでそう言った。



 しばらく決闘場ではバスロ牧師を待っているが、来る気配が無かった。傍聴席や貴族席でも待ちくたびれて、ざわめきが起こっている。

 審判は時計を見て「もう待つのを辞めにしましょう……」と言いかけた時だった。


「お待ちください!」


 そう言って台車を仲間と引いて被告側の入り口から入ってきた。台車には布で包まれた大きな物が鎮座している。


 あれは、私と同じ存在だ!



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