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医者の屋敷にリラとその母親、そしてハーバードクラー公爵が集まり、エルゼは話し出した。
「リラさんが魔女である神判は私が判決非難しました。だけど、これが終わりではありません。私の判決非難が正当であると証明するため、決闘裁判をします」
「決闘裁判って、エルゼさんが戦うのですか?」
「いえ、私は戦わずこの刀の【助太刀】が戦います」
そう言って私を袋から取り出す。
極東の島国の武器であるから、部屋にいた者達は不思議そうに見ていた。ここ周辺諸国で流通している太く厚い剣とは違い、我が国の剣は薄く細い剣である。頼りない様に見えるがここら辺の国の剣は叩くための武器であり、我が国の剣は斬るための武器だ。
そして刀である私は特別な力を持っている。
「この剣には精霊のような者がついています。真実を訴える弱き者のために助けるため、実体化して戦ってくれます」
エルゼの説明にハーバードクラー公爵は「なるほど。精霊を出すのか」を感心して納得する。普通、精霊を出すと言われると下位貴族や平民は驚くのだが、高位貴族や王族はそう言った武器や貴金属を持っているのであまり驚いていないようだ。
一方、平民のピクシの民であるリラと母親はうまく理解できていない様子だ。
ここでエルゼは重大な話しをする。
「ただ、この刀は条件を満たさないと出てこないんです」
「精霊が出る品物とはそういう物だからな。それで、どういった条件だ?」
「私が正しいという、証拠や証言を見せないといけないんです」
エルゼの言葉にリラの母親は「証拠ですか?」と緊張した面持ちで聞いた。
「この場合、リラさんが普通の少女であると言う証拠になります。例えば豊作になった農業方法とか、寒さに強い種はどうしても持っているのか、リラさんのお父様の事とか……」
この言葉にリラと母親の表情は曇った。エルゼはすぐに気が付いて「もしかして、お話しできないのでしょうか?」と聞くとすぐにリラは首を振った。
「いえ、胸を張ってお答えできます。お父様から教えてくれました」
「どういった人物なのでしょうか?」
リラは泣きそうな顔になり、母親は観念したように「分からないのです」と言った。
「リラの父親は数年前に亡くなったんですが、素性を全く話してくれませんでした。それどころか自分の事を一切話すなとも言っていました」
リラの父親は居て、死ぬまでずっと一緒にいたという。父親の農業の知識は豊富で、あまり人と接触しない生き方をしていたのだが食料には困らなかったという。リラは彼から農業を教えてくれたという。
だが生まれ故郷すら話してくれなかった上に、存在も話してはいけないと言っていた。
「本当は全部お父様から教えてもらった知識なのに、私がすべて考えたと事になっていて心苦しかった」
リラは泣きながら、そう言った。
この発言によってエルゼは難しい顔になった。父親の存在が分からないと【普通の少女】である証明が出来なくなってしまう。
エルゼは「何か、遺品とか残っていませんか?」と聞いた。
「出会う前から持っていた物から考察できるかもしれません。もしよろしければ貸していただけないでしょうか?」
「もちろんです。夫の遺品はいくつかあるので持ってきます」
母親と約束を交わしたエルゼは一枚の書類を渡した。それは決闘裁判の手続きの書類だ。
「ここにサインをして教会に提出すれば、後日決闘裁判が行われます。そして裁判が始まるまでリラさんは教会の方で生活してもらいます」
「ええ! そんな!」
「大丈夫です。バスロ牧師のような古典的教えを押し付ける人ではなく、普通の牧師です。これは決闘まで逃げないようにするためのものです。本来は囚人として牢屋に入れないといけないのですが、ハーバードクラー公爵の知り合いの牧師に頼んで監督者と言う形で生活してもらいます」
リラと母親はホッとした顔になるが、再び不安な顔になって「あの裁判費用は?」と聞いた。
「これについてはハーバードクラー公爵様が全額負担してもらいます」
「今回の件は身内の不祥事だ。領民が悪くないのに、我が息子がよく分からない契約にサインした事から、この騒動と裁判が起こってしまった。こちらで払わないといけない」
ハーバードクラー公爵は当然と言った感じで話すが、リラと母親は「ありがとうございます」とお礼を言う。
ピクシの民に差別的な見方をする人もいるが、話しを聞いているとこの公爵は相手の実力などを見て評価する人間なのだろう。
「ではリラさん。裁判まで時間がありますが、精一杯戦いましょう」
エルゼがそう言うとリラは凛とした表情になり「はい」と答えた。




