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バスロ牧師の信者達が出て行って、消火活動も終わり、ひと段落した。
ひとまずエルゼとラコンテはピクシの民とハーバードクラー公爵は、空き家にあるから使っていいと許可をもらったので、そこで休んだ。
「日中はのんびりしていたのに、夕方から怒涛だったな」
「そうだね。だけど明日も忙しいよ。ハーバードクラー公爵と一緒にリラと母親に事情を聴かないといけないからね」
そう言ってハーバードクラー公爵からもらった夕飯のパンを食べ、ピクシの民から借りた毛布にくるまった。疲れたのか、すぐに眠ってしまった。
翌日、ピクシの民から朝食をごちそうになって、リラがいる医者の屋敷へと向かった。ちなみに医者はハーバードクラー公爵の叔父が領主だった頃に来た方だ。
バスロ牧師の信者が燃やした牧草地は結構広く、黒く焦げていた。ラコンテは「ひどいな」と呟くが、エルゼは「そうね」と答えた。
「でもクローバーって結構、繁殖力強い草なの。また生えてくるわ」
そんな話をしていると右腕を包帯で巻いた少女がしゃがんで、焼野原になった牧草地を見ていた。リラだ。
エルゼが「リラさん?」と呼ぶと、彼女は振り向いた。
「あ、決闘令嬢様! え、えっと……ご機嫌麗しゅう!」
「エルゼで大丈夫ですよ。それと私もピクシの平民ですので、貴族みたいな言葉遣いは大丈夫です」
ぎこちないカーテンシーをするリラは真っ赤になって「すいません」と俯く。こうしてみると聖女にも魔女にも見えない。普通の女の子だ。
「それにしても、右腕は大丈夫ですか?」
「握った瞬間に手をすぐに離したので、さほどひどくは無いとお医者様は言っておりました。利き手なので不便ですけど、すぐに治ります」
気丈に言っているが包帯を巻いた右手は痛々しい。
だけどリラは焼けた牧草地を見て、悲しい顔をして「私なんかより……」と話し出した。
「クローバーの草原、燃やされちゃったんですね。お父様の好きなクローバーを……」
そう言って俯くリラだったが、「あれ?」と言ってしゃがむ。エルゼたちが不思議そうに見ていると、リラは「見つけた!」と言ってクローバーを一つ積んだ。
「どうしたんですか?」
「見てください、エルゼさん! 四葉のクローバーです」
そう言って四つの葉に分かれているクローバーを見せてくれた。エルゼは「えーっと……」と呟き、ラコンテは「それが……?」と不思議そうに見ていた。
二人の反応を見てリラは慌てて、「すいません!」と謝った。
「お父様が四葉のクローバーを見つけたら幸せになれるって教えてくれたから」
「だとしたら、運が向いてきたって事でしょう」
エルゼが微笑みながらそう言うと、リラも嬉しそうに笑った。




