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頭の痛いグラファ子爵の返答に、エルゼはひきつりながらも「あの牧師は、どうして来たんですか?」と聞いた。
「近くの村の人から、気のいい牧師から変わって彼が来たって話していたんですけど」
「ああ。あいつは母親が病で倒れたから一緒に暮らしたいって申し出たんだ。すでに地元の教会の牧師と交換する形で異動する手続きは済んで後は来るだけと聞いた」
「……で、バスロ牧師が代わってきたんですか?」
あんな問題牧師と交換なんて最悪だろ……と思っていると、ハーバードクラー公爵は「これについては私が説明しよう」と話した。
「交換で来るはずだった牧師が来てみると、知らない牧師がいて驚いていたそうだ。前の牧師が書いた紹介状を出しても、門前払いされてしまったらしい。それで国の本部の教会に報告して私の所に連絡があったんだ」
「え? じゃあ、バスロ牧師って何者なんですか?」
「一応、牧師らしいが古典的教えを一方的に伝えるため、ほとんどの者から敬遠されていたらしい。それでもあまりにも古典的教えを強要する事があって、牧師をやめさせようとすると彼の信者が抗議すると知り合いの牧師が言っていた」
エルゼは誰もが思っている「面倒ですね」と言う感想が出た。
ようやく事の重大さに気づいたグラファ子爵は「何したらいいんだ?」と聞く。これにハーバードクラー公爵は「何もするな」と言う的確な指示を与えた。
確かに紹介状を確認しないでバスロ牧師が来て、契約書を読まないでサインした犯人なので何もしない方がまだマシだろう。
***
全員がお手上げ状態の時、ラコンテが窓を見ながら「何だ、あれ?」と言った。
「あっちの方には神判やった舞台が無かったはず。なのに、なんか明るいぞ」
エルゼ達も窓を見ると確かに明るい。農民たちの家は、ほとんどがロウソクかランプで明かりをつけるのでここまで明るくないはずだ。
ラコンテが「火事だ! 人呼んで消火してくる!」と言って、応接間から出て行った。エルゼも「私も行きます」と言って一礼してラコンテに続いた。
だがエルゼが出て行った時、グラファ子爵は不思議そうな顔でつぶやいた。
「おかしいな。農民の家はあそこには無いはずなんだけど……」




