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「やあ、エルゼ、ラコンテ、兄貴、よく来たね」
大きな荷馬車を背に中年太りした男性がいた。荷馬車の周りには奥さんや子供がおり、商品を荷馬車に運んだり、掃除をしたりしていた。
彼はアルコバレーノ・サーカス団長の弟、ラコンテの叔父に当たる人だ。彼は荷馬車を連れて、質屋を経営している。決闘裁判の時のお金の工面が出来ない令嬢のために、高く物を買ってくれる気前のいい旦那だ。
「先日はありがとうございました」
「叔父さん、また太った?」
「エルゼ、またご贔屓に。ラコンテ、太ってないわ!」
エルゼとラコンテの挨拶にそれぞれ返す質屋の旦那。一方、ラコンテの父であり団長は「何かあったのか?」と真面目そうに話し出した。
そう。今回、質屋の旦那から連絡があって三人はやって来たのだ。
「グレーテル国のピクシがやっている農園があるのは知っているか?」
「……あー、確かピクシの民を徴集して閉じ込めている農園だな」
団長の『徴集』という言葉に質屋の旦那は苦笑する。
「徴集だろ? 自由気ままに生きるピクシの民を集めて農業させているんだから」
「ピクシの民の中でも帰る家や住みたい街を持ちたい奴がいるんだよ。国だってフラフラしている住所不定なやつを野放しにしたくないだろ? その利害が一致した農園さ」
「だがグレーテル国はピクシの民を嫌って移封に捕まえたりするからな。好きじゃない」
グレーテル国はピクシの民などの少数民族がいるが、国の連中はそいつらを積極的に捕まえたりするのだ。そうして国の住人として取り込めようとする。自由を愛するピクシの民や先祖代々の伝統を守りたい森の中で生きる民族にとって迷惑な話だ。
だがグレーテル国の人々にとって、正体不明の人々が何をするのか不安でしょうがないのだ。……と言っても、グレーテル国の人々は後から来たんだけどな。なんで後から来た奴が、上から目線で言ってくるんだと思うだろう。
「それで自称文明人のグレーテル国にいるピクシの民がどうしたんだ?」
団長が聞くと質屋の旦那は渋い顔で「その農園がヤバいんだ」と話し出した。
「昔から、あそこの土地は痩せていて作物が成長しにくい土地と言われていたんだ。それを隠してピクシの民を集めたんだけど」
「フン。さすが文明詐欺師国」
「二十年前に起こった飢饉があったから、その地に誰も居なくなったんだよ。そこをピクシの民を入居したんだ。初めは作物が育たなかったんだが、その後に来たピクシの娘が来ると作物が育ち始め、評判になった」
良い話ではないのか? と思っていたが質屋の旦那は忌々しい顔になる。
「これが教会や領主が気に食わないと思ったのか、娘を魔女か聖女か調べるため裁判をしようって話しになったんだ」
「魔女か聖女か調べる裁判。どちらかというと魔女裁判みたいなものでしょうか?」
裁判という言葉を聞いてエルゼが話しに加わり、質屋の旦那は「そんなもんだ」と答えた。これにラコンテや団長は嫌そうな顔になる。
「それで私が決闘裁判に持ち込もうって感じですか?」
「ああ。あそこの農園はピクシやエルフなどの森の民が困っていたら、領主に内緒で助けてくれる人々なんだ。あの娘が魔女として処刑されて、農園が無くなると俺達ピクシの民の商人が困る」
「グレーテル国に行くのはいいが、サーカス団として行くのは大変だ。入国審査が長引くし、次の公演地も決まっている」
「いや、エルゼだけ行けば大丈夫だ。あの国は親族に会いに来たって言えば、すぐに入れる。入国のチケットもこちらで用意している」
「だったら俺も一緒に」
ラコンテも名乗りを上げると質屋の旦那は「もちろん」と言って、エルゼとラコンテ分の入国チケットを出した。準備がいい。
こうしてエルゼとラコンテはグレーテル国へと向かう事になった。
グレーテル国は島国なので船に乗って入国する。搭乗チケットも質屋の旦那は用意してくれたため、すぐに二人は乗れた。
「エルゼ、大丈夫か?」
「大丈夫よ。助太刀はピンチかもしれないけど」
刀である私は鉄で出来ているため、もしここで海の水に当たったら、私は錆びてしまう。それだけは避けたいので、エルゼにはしっかり刀を袋で包んで持ってもらっている。錆びるのは嫌なのだ。
ラコンテは「そう」と心配そうな顔で見るが、エルゼはどこ吹く風で船から見える風景を楽しんでいた。
ラコンテが心配するのも無理はない。エルゼの死んだ父親は船乗りで、彼女もよく船に乗っていたのだ。
「そもそもグレーテル国ってエルゼの生まれ故郷だろ」
神妙な顔をして「……ラコンテ」とエルゼは風景を見ながら言った。
「今の私はただのエルゼよ。自由を愛するピクシの民のエルゼ」
「そうか」
ラコンテは相打ちをして風景を見る。グレーテル国が見えてきた。




