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「これは神の啓示だ! この契約書は無効だっていう事を証明したのだ!」
「違いますよ。虫眼鏡のレンズを太陽にあてて、光の反射を一点に集中させて燃えただけです。ピクシの民もそれで火をつけていますよ」
エルゼが冷静にそう言うが、審判は「私はそんなことをしない!」と怒り出して、びしょびしょになった契約書を投げてきた。
この行為にクレアもオルトも怒りに満ちた目で見て苦情を言うが、審判は取り付く島もない。この様子を見るとこの審判、公平に扱うつもりもなくガスラと手を組んでいるようだ。
濡れているので土もついてしまい、汚いし読めないものとなってしまった契約書をエルゼは拾い、審判に微笑んだ。
空っぽになったコップの水を注いでもらった審判はエルゼのほほ笑みに気が付いた。
「何か?」
「いえ、別に」
そう言いながらエルゼは、ガスラを微笑んで見据えた。その顔にガスラはたじろぐが、「ニヤニヤしてんじゃねえ」と怒鳴った。
「失礼。ところでガスラ様、こちらの契約書は教会の印鑑が付いているんですか?」
「いや、付いていない。クレアと二人で契約したから」
「なるほど。審判は読んだのですか?」
審判は「ああ、読んだ」と憮然とした感じで返事をする。
「そうですか。ところでインクはこの国の物を使っていますか?」
「そうだ」
エルゼは「なるほど」と言って、審判に向かって話し出した。
「もしかしたらクレア様が、この契約書を書いたことを忘れているかもしれません。ガスラ様の持っている契約書を審判と一緒に読んでもよろしいでしょうか」
「駄目だ!」
「お願いします。私ども女はあなた様のように記憶力がよくありません。それに審判の方と一緒に見ていただくので契約書を破くなどの行為はしませんよ」
深々と頭を下げて思いっきり低姿勢で卑屈にお願いするエルゼ。これにはクレアとオルトも目を丸くして呆然としている。
お願いされたガスラは満足げに笑って「そう。そうやってお願いすればいいんだ」とほざく。そして契約書を審判に渡してエルゼとクレア、そしてオルトは一緒に見る。
その時、エルゼは刀の私を牧師の腕にぶつけた。
「あ、申し訳ございません。あ、あらららら」
「あ! 契約書が!」
ぶつかった神父の腕はコップに当たって、水が契約書にかかってしまった。
「お前! 何してんだ!」
「申し訳ございません。本当に、申し訳ございません」
何度も謝って濡れたガスラの契約書を拭くエルゼだが、申し訳ない雰囲気も慌てている様子は無い。そして「おや」と微笑んで、ガスラの契約書を見せた。
「文字が溶けてしまいましたね」
「お前が水をぶっかけたからだろ!」
「私はかけていませんよ。審判の腕を当ててしまっただけです。ただ文字が溶けたという事は、この書類はつい最近に書かれたものでしょうね」
そう言いながらクレアの書類とガスラの書類を見せた。
土もついたクレアの書類は文字が溶けておらず、ガスラの書類はドロドロに文字が溶けている。
これを見せながらエルゼは説明する。
「このインクは周辺諸国と隣接している森から取れる茨です。この茨には少々不便なところがありまして、インクが渇いても一年以内に、水につけてしまうとインクが溶けてしまうのです!」
この知識は国近くの森のエルフたちに教わったものだ。
エルフたちもインクを使うのだが、どうしても湿気や水に触れることが多く文字が溶けてしまうと話していた。
「つまりガスラ様が持っている契約書は一年以内に書かれたもの! そして一年以上修道院にいた彼女にはこの契約書は書けません!」
「……」
「それにガスラ様。あなたのご友人や家の使用人達に話しを聞いたところ、クレアさんは白い結婚であり、突然追い出されてしまって可哀そうだという話も聞きました。またクレア様の実家への手紙で【三年間の白い結婚である】と言う記述もありました。その手紙もお持ちしております! 突然あなたが契約違反と決めつけ、クレアさんを連れ戻そうとしているのは、あなたがやっている事業が大幅に右肩下がりで従業員が減ってしまった。それで安い賃金でクレアさんを働かせようと……」
ガスラはエルゼの話しを遮るように「黙れ!」と怒鳴った。地響きのような声だった。
「クレアは他の家に俺たちがやっている栽培の方法を教えたんだ! それでうちの売り上げが落ちたんだ!」
「……あの、それは私がいた頃からですよ」
頭が痛いとばかりにクレアは顔をしかめて話し出す。
「三年目の結婚の時に他の家が安くて品質もいい商品が出ていると報告しました。ですがあなたは聞く耳も持たずに、愛人と遊んでばかり」
「多分、あなたのお父様の違法薬物の捜査で栽培方法を知ったんでしょうね」
二人の女性から冷静に言われて、ガスラは怒りで震えている。そんな些細なことを気にしないで、エルゼは淡々を話し出す。
「あと、あなた、クレアさんがいる可能性がある修道院や教会に強盗しろって借金を抱えたピクシの民に指示してますよね」
「はあ! あいつら、バラしたのか!」
「いえ。ただカマをかけただけです」
すっとぼけた顔でエルゼは言い、これには傍聴人も苦笑している声が聞こえた。
明らかに馬鹿にしたように言われたガスラはボソボソと何かを呟き、オルトから「何を言っているんだ?」と言われる。
そしてガスラは「黙れ!」と国中に聞こえるくらい怒鳴った。
「女のくせに上から目線で、口答えするんじゃねえ! 俺が契約違反だって言ったら、お前が違反しているんだよ! 認めていれば、もうちょっとマシな待遇にしてやったのによ!」
とんでもない暴論を怒鳴りつけて、一方的に「もういい!」とガスラは言い放つ。よせばいいのに、エルゼは「何が、もういいんですか?」と聞く。
「お前らと和解なんてしない! 決闘で無様に負けろ!」




