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「全知全能の神が紡ぐ言葉の葉よ、お助けください。クレアが契約違反しました。その内容は……」


 決闘裁判が始まり宣誓をする時に、ガスラはつらつらと契約違反した内容を話す。当然、クレアとガスラが書いた契約書にある内容とはかけ離れている。

 まず三年間の白い結婚だったはずなのに勝手に出て言った件から始まり、他家に事業の機密流出、ガスラの母親が腰を痛めて動けなくなった、なので家がめちゃくちゃ……などなど契約書に書く必要のない事まで項目に入れている。

 ガスラが契約違反をした内容を言っている間、クレアは呆れた顔で見つめていた。

 ちなみに審判と原告、被告には決闘場にいる傍聴席にも聞こえるように、声が大きくなる石が付いている。ガスラの非常識な契約内容を聞いていた傍聴人たちは騒めく。

 

 ようやくガスラは宣誓を終えた後、次にクレアが宣誓をするのだがオルトが突然、「すいません」と話し出した。


「この件は裁判する必要は無いと思います」


 オルトはそう言うとクレアから預かった契約書を見せた。


「ガスラ様。こちらの契約書は覚えていますでしょうか? 結婚式の前にあなたとクレア様が全知全能の神に誓った契約書です。私が証人で教会の印鑑を押しました。いささかガスラ様有利の契約内容だったと思いますが、クレア様はすべて了承してサインしました。そして約束通りに三年間の白い結婚を終えて、彼女は国を出ていきました。それなのに契約違反で決闘裁判するというのはどういう事でしょうか?」

「えーっと……」

「あなたが結婚式当日に誓った契約は嘘だったって事でしょうか!」

「えー……、それは……」


 さっきまで饒舌に契約違反を述べていたガスラだったが、オルトの熱弁にしどろもどろになって目が泳ぎだした。そしてたっぷりと時間をかけて言葉を紡ぎだした。


「あなたと一緒に誓った契約書なんですが、不備があって、また書き直したんです」

「私は書いた覚えが無いですね」


 ガスラの言い訳にクレアはスパッと言い返す。それにガスラは「嘘つけ!」と怒鳴った。


「口答えするな! 俺は覚えているぞ! 書いたって事を! 女のくせに生意気にも証人と決闘士の女を連れてきて! しかも偽物の契約書を持ってきて!」

「この契約書が本物です! あなたがお前は用済みだから、と言ってこの契約書を私と一緒に捨てたじゃないですか! それにあなたが契約書には教会の印鑑はついていないわ! 私は第三者の人間を入れて契約書にサインを入れたいと言いました!」

「黙れ! 女のくせに口答えしやがって! だから可愛くないんだ、お前は! 教会の人間まで連れてきて! 俺が書いたと覚えているんだから、書いているんだ!」


 ガスラの一方的な暴言を聞いて、エルゼはボソッと「最低の底以下」と呟く。このガスラ、かなりの男尊女卑だ。

 しばらくガスラとクレアの言い合いをしていると、突然オルトは「審判!」となぜが決闘を見守る審判である牧師に話しかけた。


「神に誓った契約書が偽物か本物かという裁判をするというなら、この世にある契約書はすべて偽物ではないか? という疑問が生まれるぞ! そうなった場合、全知全能の神を裏切る事になって不敬になるし、神を信仰する民衆に不信感を与える! 都市部にいる商人たちや貴族の事業などで書かれる契約書に対して意味なく非難する輩も出るぞ!」


 オルトの主張に民衆は騒めいた。確かにこれで裁判なんてしていたら、他で商売や事業をする者達にケチをつけたり、詐欺をする輩も出てきて、決闘裁判だらけになる。

 審判は「実を言うと被告側の契約書があると知りませんでした」と落ち着いた声で話した。中年くらいの年くらいで経験豊かである雰囲気が漂う審判だった。


「原告であるガスラの契約書は見たのだが、被告であるクレアの契約書は読んでいません。私も確認してもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ」


 クレアは審判に契約書を渡した。すると審判は「……随分と字が小さいな」と言って、虫眼鏡を取り出した。じっくりと時間かけて審判は契約書を読んでいて、クレアとオルトはイライラし始めた。

 エルゼは太陽を見て、ハッとした顔になった。そして「審判、木陰でお読みになって……」と言いかけた瞬間だった。

 契約書が燃え出したのだ。


「うわ!」


 慌てふためく審判をよそに、エルゼは審判が置いた台座にあるコップの水をかけた。濡れてしまった契約書は教会が押した印鑑部分が燃えて無くなってしまった。


「あー、教会の印鑑が燃えてしまった。これは全知全能の神がこの契約書は無効と言っているに違いない」


クレアが「え?」と戸惑い、オルトが「はあ?」と怒り気味の声を上げた。


「これは神の啓示だ! この契約書は無効だっていう事を証明したのだ!」




 契約書が燃えて、ピンチになっておりますが、ここで補足です。

 中世ヨーロッパの都市部に住む商人からは決闘裁判は嫌われていました。理由は物の取引や土地の売買でいちいち決闘裁判をするのが大変だからです。なので宣誓のみ行なっていたようです。

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