第22話 101匹ねこちゃん
バラバラに砕かれた甜菜畑を見て、クロちゃんが気まずそうに小さく鳴く。
「くぅ~ん……」
どうやらクロちゃんは、喋らずにこれから先ペットキャラでいくつもりらしい。
「しっかし、改めて見てもほんと派手に食い荒らされたもんだなぁ~」
「……」
クロちゃんはバレルの長女ユレルの腕の中を自分の居場所と決めたらしく、彼女の柔らかそうな腕の中でちんまりと縮こまる。
「ツカサ兄ちゃん、これをどうにかするって無理だよぉ~……」
くりくりお目々の末っ子マロンが泣き言を吐く。
「ツカサ兄ぃ、悪いがこりゃ一からやり直して、また来年まで時間をかけないと……」
次男キリツも現実的なことを言う。けど。
「大丈夫」
僕たちにはニャモがいる。
「ニャモ、できそう?」
自信満々にニャモは答える。
「余裕ですにゃ!」ฅ(`•ᆺ•´)ฅ
「え~!? いくらニャモちゃんが高性能なロボットでも無理だよ~!」
マロンが素直な反応を口にする。
逆にニャモのすごい力を知ってるバレルとクロ──濃茶色、コーヒー色の巨大ニャモを見た二人は、実際余裕で出来るだろうことを察して力ない笑顔を浮かべる。
「じゃ、出来るかどうか。ニャモ、見せてあげて」
「はいですにゃ!」
半信半疑な三姉弟の前に進み出たニャモの体がピンク色に光る。
「わぁ! ニャモちゃん光ってる!」
マロンのくりくりお目々が、さらにくりくりになる。
「にゃにゃにゃ~! それでは行くにゃ~! 【百一匹猫猫招開墾術】にゃ~!」ԅ(ФωФԅ)
ぽんっ。
ニャモの体を覆ったピンクの霧が、ぽこっと小さな猫へと変化する。
「わあっ! 猫ちゃん!」
ぽぽんっ。
一匹、そしてまた一匹。
で、途中からぽぽぽぽぽ~ん! と、ぶわ~っ! と出てきた。
「わぁ~! いっぱいネコちゃん~~~!」
ぽこぽこ生まれてきた手のひらサイズのピンク子猫たちが畑を覆い尽くしていく。
「ニャン♪」「ニャン♪」
ほんとに多い。どれくらいいるんだろう? たぶん百一匹くらい?
子猫たちは互いにぶつかったり、時折ひっくり返ったりしながらも横一列に広がっていった。
「ピピ~っ! 整列~にゃ!」
『ニャッ!』
ニャモの声に従い、ピンクの子猫たちはピシッと整列する。
すごい、マスゲームを見てるみたいだ。
「ピッ! では、開墾、開始にゃ~~~!」
『ニャッ~!』
ニャモの合図で、ピンク子猫たちは招き猫の手でどんどん畑を耕していく。
「ニャン♪」「ニャン♪」
ザクっ! ザクっ!
「ニャン♪」「ニャン♪」の声に合わせてザクザク。
すごいペースで畑を掘り返していく子猫たち。
ズタボロだった畑から甜菜の残骸や小石が次々と掻き出されていく。
「うわ~! 畑が見る見るきれいになっていく!」
掻き出すだけじゃない、子猫たちの通り過ぎた後には、きれいな畝ができている。
「旦那……これは……」
バレルが口をぽかんと開ける。
ニャモのすごさはわかっていたものの、想像を超えているんだろう。
うん、それは僕も同じ。
ニャモって一体何なんだろう……。
けど、僕も一緒に唖然とするのもなんか違うと思うので「えへん」と胸を張る。
「ニャモにかかればこんなもんさ」
すっかり縮こまったクロちゃんも、ユレルの温かそうな腕の隙間から覗かせた目を驚愕の色に染めている。
でしょうね。モンスター基準でもこれはさすがにヤバいとわかるのだろう。
「ニャン♪」「ニャン♪」
ザクっ! ザクっ!
可愛すぎる開墾猫子猫軍団の活躍によって、十分も経たずにボロボロだった畑は見るも美しい畝の整った畑へと生まれ変わっていた。
畑の脇には、石や枝。使い物にならない甜菜。まだ使えそうな甜菜。の三つに分かれて掻き出されたものが山積みになっている。
おお、これでお店に使えそうな分も計算して使えそうだな。
使い物にならないやつはクロちゃんの餌にでも充てるか。
「にゃにゃ~! 整地だけではなく、土にも栄養を満点に注入しれおきましたにゃ! これであとは甜菜の株を植え直すだけですにゃ~!」
『ニャッ!』
ピンク子猫軍団も声を揃える。
けど、それをバレルが止める。
「ちょ……ちょっと待ってくれねぇか……!」
「なにか問題が?」
「旦那様、ニャモさん! あんたたちはすげぇ、マジですげえよ! けど。けどな……この畑は俺が先祖から受け継いできたもんなんだ。だから旦那には申し訳ねぇ! こっから先の作業は俺たちにやらせちゃくれねぇか!? それが、俺に残された農家としての最後の意地なんだ! 頼むっ!」
そう言ってバロムは頭を下げる。
「うん、どのみち僕たちは畑のことまでわからないからね。言ってみたらニャモはすんごいトラクターみたいなのさ。ってことで、手伝えるのもここまで。あとはプロにお任せしてもいいかな?」
「トラクター? よくわかりませんが、任せてくれて感謝します! 最高の準備をしてもらったんだ、農家のプライドをかけて最高の甜菜を作らせてもらいますぜ、旦那っ!」
ソフィーの誘拐以来、ずっと生気の失せていたバレルの顔に熱が入る。
「お父さん、僕も手伝う!」
「俺も! ツカサ兄ぃに恩返しするぜ!」
「商品になりそうな甜菜を包んでくるね。ツカサさん、必要なんですよね?」
三姉弟が機敏に動く。
「うん、助かる! ありがと!」
お腹を空かせてうなだれていた一家が、見違えるように明るくなる。
「クロちゃんも、しっかり畑の番を頼むね?」
「くぅ~ん……」
早くもすっかり飼い犬っぷりが板に付いてきた黒狼、クロちゃんが上目遣いで情けなく微笑む。う~ん、頼りない……。
「ちゃんと番をしてくれたら、ちゃ~んとスイーツを持ってきてあげるから」
「うぅ……がうぅ!」
小さく尻尾を振って答えるクロちゃん。
ま、大丈夫そうかな。近い内にまた様子を見に来よう。
「さ、じゃあ後はみんなに任せて大丈夫かな?」
「はい! ありがとうございます、旦那様!」
「ツカサ兄ちゃん、ありがと~!」
「ツカサ兄ぃ、待っててくれよ! すぐにチョ~うめぇ甜菜作ってみせるからよ!」
「はい、ツカサさん、これ。すぐ使えそうな甜菜を選り分けていきました」
「ありがと」
僕はユレルからいくつかの無傷な甜菜を受け取る。
「それじゃ、あとは任せて大丈夫かな。頼りになる番犬もいることだし、ね?」
「ば、ばう……」
こうしてサジからの刺客、バレルと出会ったことによって一週間後の対決で使う甜菜をゲットした僕らは、日の暮れる前にソフィーとヨルの待つ喫茶『アンタルテ』への帰路についた。




