第20話 子狼ゲット
森。
バレルの畑を荒らしたモンスターの足跡を追ってニャモに乗って移動すること約二十分。
僕らは鬱蒼と生い茂った森の入口へとやってきていた。
「ここからわざわざ荒らしに来てたんだ」
「へぇ、俺も懲らしめてやろうと思ってここまでは来たことはあるんですけどね、その……ヤツの恐ろしい唸り声を聞いちまっただけで情ねぇ話ですが腰が抜けちまって……ははっ……」
「うん、大丈夫。あとは僕たちに任せて」
「へぇ……ほんとにすみません。何から何まで……」
僕たちはバレルを家に帰すと、まるで獲物を待ち受けるかのように禍々しく開いた森の入口と向かい合う。
「さて、と……。じゃあ行きますか。甜菜を食い荒らす恐ろしいモンスター退治に」
「にゃ! 不届きな害獣はニャモたちがし~っかりと駆除いたしますにゃ~!」
ニャモがノリノリ。心強い。
けど、いかんせん相手は異世界のモンスター。
さすがにちょっと不安もある。
「なんか武器とか持ってくればよかったかなぁ……」
「ニャモが御主人様をお守りするから大丈夫ですにゃ!」
「うん、ありがと」
「にゃにゃにゃ~! ズバッとバシッとお任せくださいなのにゃ!」(๑•̀ㅁ•́ฅ✧)
張り切るニャモが可愛い。
可愛いけど、そもそも守るって言ってもニャモの能力自体がよくわからない。
あの色んなものに変化するピンクの霧はなに?
キラキラ光る茶色の霧は?
四次元収納空間みたいなのも持ってるよね?
喋ったりアプリをインストールしたり(僕の脳にも勝手にインストールしてたし)も謎。
っていうかワープってなによ?
などなど疑問は尽きない。
ひいては「ニャモってなに?」ってところから、
最初にやった次元跳躍ってのをもう一度やれば日本に帰れるのでは?
というところまで、時間が出来たら確認しておかなきゃいけないことがたくさんあるわけで。
「けど! けどですにゃ! 万が一、億が一、兆が一、御主人様になにかあったときのため、たしかに防具なりを作らせたほうがいいかもしれませんですにゃ……。ってことで、街に帰ったらさっそく世界最強の武具を作らせますにゃ!」
「いや、お金的なことを考えたら木刀とかでもいいんだけどさ。ほら、気持ち的な問題だから」
「にゃるほど、気持ち的……。にゃにゃ! 勉強になりましたにゃ!」
いくら勉強になっても、ニャモはロボットだから人間の気持ちはわからないよなぁ。
なんて思っていると、森の方でなにかがガサッ──と動いた。
「ニャモ……」
「にゃ。足跡に残されてた粒子と森から漂ってくる粒子が一致ですにゃ」
「じゃ、そこに隠れてるのがバレルの畑を荒らしたモンスターか。ニャモ、気をつけてね。それと……やりすぎないように」
「にゃ! やりすぎないようにボコボコにいたしますにゃ!」
微妙に難しそうなことを言い終わらないうちに「ガルルゥッ!」と唸り一閃、茂みの中から塊が飛び出してきた。
キィン──!
ニャモの作り出したピンク色の霧シールドがそれを弾く。
シールドにもなるんだ、それ。無敵じゃん。
「御主人様、ご無事ですかにゃ!?」
「うん! 助かった、ありがと!」
「にゃ~、御主人様に褒められて嬉しいですにゃ~」ฅ(*´ω`*ฅ)
緊張感なくふにゃふにゃになるニャモ。
「グルルルゥ……何者だ……?」
ニャモに弾かれた黒くてデカい──『狼』。
全長4mほどはあろうかというそれが、人語で喋りかけてくる。
「バレルの甜菜畑を荒らしたのはお前か?」
「てんさい……? あぁ、あの美味いやつか。ありゃあオレ様のもんだ。人間ごときにゴチャゴチャ言われる筋合いはねぇ」
「いやいや、筋合いって。むしろ筋しかないんだよなぁ。あれはバレルって人が種を植えて、それから丹精込めて時間をかけて育てた植物なんだ。バレルのおかげで美味しく出来てるんだぞ? そこをわかってるか?」
「ハッ、だからどうした! オレ様のために作ってることを光栄に思えよ! あれはオレ様のもんだ! これから先、何度でも食いに行くぞ! あそこはもうオレ様のテリトリーだからな! 言う事聞かせたいってんなら実力で聞かせてみろや! 貧弱な人間ごときにゃ無理だろうがなぁ!」
巨大な黒狼が僕の頭ほどもある大きさの牙を剥いて笑う。
「へぇ、実力で聞かせれば言う事聞いてくれるんだ?」
「ギャハハ! 出来れば、だがな!」
「ふ~ん、じゃあニャモ、やっちゃって」
「はいにゃ」
ニャモの体からキラキラ光る濃茶色の霧が立ち上がる。
「ギャハハ……ハ?」
狼の笑いが引きつったまま止まる。
「ななな……なんだこれはぁぁぁぁぁ!?」
コーヒー色の霧は、一瞬で狼の十倍はあろうかという巨大な狼の姿を成した。
さっきまで威張り散らしてた黒狼が素朴な瞳でこちらを見つめる。
「キュ……キュル~ン……」
「今さら媚びてももう遅い、かな」
「それではいくにゃ~!」
「待て! 待て待て待て! 降参! 降参するから命だけは! ……ひぃっ!」
ニャモが作り出した超巨大濃茶狼が前脚を軽く振るう。
ブォン──ッ!
前脚はコーヒーの香りをほのかに残しつつ、しゃがみ込んだ黒狼の頭の上を通過。
グゴゴバキバキバキィ──!
そのまま周囲の木々をまるっとゴソッと吹き飛ばしていた。
「………………」
黒狼は顔を上げると呆けた顔ですっかり草原と成り果てた周囲をきょろきょろと見回すと、ゆ~っくりと仰向けにひっくり返り、こちらに向かってウインク☆ 「きゅるんっ♪」と鳴いた。
しかも4mくらいあったその姿はシュルルと小さくなっていき、今はもう子犬くらいのミニミニサイズに縮んでいる。
「それが本当の姿?」
「きゅん♪ きゅんきゅ~ん、きゅるる~~~ん♪(ウインク)」(ᐡ-ܫ•ᐡ)
う~ん、その全力で媚びてくるスタイル、嫌いじゃない。
ふと僕の心に芽生える。
(これ、飼っちゃダメ……かな……?)
脳裏をよぎる子供の頃に描いてた幸せの光景。
庭付き一戸建ての庭で子犬とじゃれ合っている自分の姿。
(う~ん……でも、喫茶店で動物を飼うのは衛生的に自分の中で「なし」だしなぁ)
あんな庭もない町中で飼うのも可哀想だし。
「むむむ……! この狼、可愛さ【SSS】級ですにゃ……! ニャモもかなりの可愛らしさにゃれど、これは思わぬ強敵が出現ですにゃ……!」
いつの間にか濃茶色の霧も収まったニャモが狼をライバル視する。
っていうかロボットなのに可愛さを意識してたんだね、ニャモ……。
その時、天啓僕に至る。
(これ、バレルのとこで飼えばよくない?)
「?」狼はまだ愛くるしい瞳でこちらを見つめている。(ᐡ •͈ ·̫ •͈ ᐡ)
「よし、決めた!」
僕は子狼に近づくと、ビクッと震えるその体を抱きかかえた。
「キミ、うちの子になりなさい!」
こわばっていた子狼の体から、フッと力が抜ける。
「クゥ~ン♪」
ほんとは喋れるはずの狼は、獣の本性丸出しで僕の鼻の頭をぺろぺろと舐めると嬉しそうにハッハッと息をした。
こうして。
害獣退治に来た僕たちは、なぜかラブリーな子狼を飼うことになったのだった。




