第18話 災い転じて超奇跡
男が言う。「わ、私はここで始末されるのですかぁ……!?」
ドッ!
喫茶アンタルテの店内が笑いに包まれる。
僕らはじっくりと話を聞くために、男をアンタルテへと連れ帰ってきていた。
「どうかお慈悲を~!」
スッ。男の前に僕はブレンドを差し出す。
「こ、これに毒が……!? これを飲んで死ねと……!?」
再びに笑いに包まれる店内。
「いいから飲んでみて」
「いや、でも……」
「いいから。早く」
「飲むのだ」
「飲むにゃ」
「どうぞ、お飲みくださいな~」
僕らが勧めると、男は観念した様子でカップを掴み、グビッ! と一口。
「──! う、美味い……!」
「でしょ? あんたが危害を与えようとしたソフィーは、こんなに美味しいコーヒーを淹れる人なんだ。まず……それを知ってほしかった」
男は何かを考えるように俯き、黙り込こむ。
「そうなんですね……。自分は目先の欲に惑わされて、こんな素敵な飲み物を作る人を……。俺ってやつはほんとに救いようのない大バカ野郎だ……!」
それから。
少しずつ彼は語った。
自分の名前が「バレル」であること。
農家を営んでいて、主に動物の餌となる野菜を作っていること。
魔物の影響で、バレルの畑の収穫高が激減したこと。
お金がないため、魔物の討伐依頼すら出せないこと。
そして、出荷量が減ったことによって契約を切られてしまったこと。
その取引先への嘆願をしにディナレントへとやってきたこと。
けれどあっけなく断られ、途方に暮れていたこと。
そんな時、紫髪の痩躯の男に声をかけられたこと。
ソフィーを拐い、一週間監禁していれば大金を渡すと言われたこと。
断ろうと思ったが、子供たちの「お腹空いた」と言う顔が頭に浮かび、その仕事をつい引き受けてしまったこと。
それからバレルは「本当にすまなかった」とソフィーの足元で何度も何度も頭を下げた。
「誘拐を依頼したのはサジで間違いなさそうだね」
「にゃ。バレルの話に出てきた風貌と99.999%一致にゃ」
ニャモの頭の上にピンクの霧で描かれたサジのモンタージュが浮び、ぽんと弾けた。
「ソフィーさん、この町の犯罪者とかって捕まったらどうなるの?」
「ん~、他の地区なら自警団に引き渡すんだけど~、スラムの犯罪には誰も首を突っ込まないわね~」
「捕まえても野放し、なのか……」
「そうね~、スラムだからね~」
「よくそんなところで半年も無事に営業できてましたね……」
「きっと運がよかったのね~、うふふ~」
あっけらかんと言い放つソフィーの横でヨルがいきり立つ。
「ツカサ! 法が及ばないとは好都合なのだ! では、この男の四肢をもいで入口に串刺しにしておくのだ! そうすれば、もう二度と不届き者はこの店に現れないのだ!」
「ひぃぃぃ、お助けを~……!」
「ヨル? 死んじゃうでしょ? それに、お店にお客さん来なくなっちゃう。ヨルはお店を潰したいのかな?」
「そんなことないのだ! で、でも……じゃあこの男の処分はどうするのだ?」
「う~ん、このお店の二人目の常連さんになってもらおうと思ったんだけど……。畑が上手くいってないんじゃ、それも厳しいか~」
災い転じて福となればと思ってたんだけど……ま、残念。
そういうこともある。
そう上手く事は運ばない。
「にゃ。ちなみにバレル、その畑ではどんな野菜を育ててるにゃ?」
「はぁ、これです」
ことり、と男がテーブルの上に野菜を置く。
それは、土の付着した不格好な白い根菜だった。
「……カブ?」
「いえ、甜菜と言います。葉っぱも根っこもアクが濃いってんで、動物の餌にしかならねぇクズ野菜です」
「みゃみゃみゃ~~~ん! 御主人様!」
ニャモの頭の上に「!」マークが現れる。
「なに? どうしたの?」
ニャモがわなわなと震える。ฅ(°͈ꈊ°͈ฅ)
「こ……この甜菜からは……」
「からは?」
「さ……砂糖が作れますにゃ!」
「砂糖? 砂糖ってサトウキビから出来るんじゃないの?」
「はい、そうですにゃ。ただ、もう一つ主な原材料がありましてにゃ……」
「それが……」
「にゃ、この甜菜ですにゃ」
「はえ? 砂糖って? こんなクズ野菜からそんなもの……うわっ!」
僕は男の手をむんずと掴む。
「これは……この野菜は……黄金だ!」
「へぇ? 黄金?」
「ああ! 災い転じて福となすどころの騒ぎじゃない! 災い転じて超奇跡が起きたぞ!」
「はぇぇ……? 奇跡……?」
バレルは目を丸くして固まる。
「にゃ、御主人様。これで……」
「ああ!」
みんなの顔を見回す。
「勝てる、サジに!」
「そうなのだ!?」
「あらあら~、それじゃもしかして私、誘拐された甲斐があったのかしら~?」
「結果オーライですのにゃ!」
「ああ! 起きるぞ、この街に! 『スイーツ』革命が!」




