表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/114

66.それぞれの思い

 ――行けっ!


 刺した指先から、魔剣に魔力を流し込む。

 と同時に……


「魔王の魔力のお裾分けですわ」


 バスチアンに向かって一言告げると、玉座に向かって転移する。


「は……っ!?」


 捕まえていた筈の私が消え、一気に膨らんだ魔剣にバスチアンは動けなかった。

 大きな破裂音と共に、黒紫の光がバスチアンを呑み込むと爆風が起こる。随分と見晴らしが良くなってしまった。


 ……あ、やり過ぎた?


 さっき、キーランから教えてもらった――レンがノアにやらされた事を、魔王の魔力で真似してみたのだ。


「ビーチェ、なかなか思い切りが良いな」


 ククッと笑うカルロスは、私が()()()()()()()が分かっていたみたいだ。


「……えっと、加減が分からなかったんです」


 勢いは抑えたつもりだったが、正直ここまで凄いとは……。


「……こんなっ……有り得、ん……」


 私に反撃されるとは思わなかったのだろう。

 ボロボロになりながらも、辛うじて浮いているバスチアンは私を睨みつける。


「さて、バスチアン。元とは言え私の臣下……謀反の始末はさせてもらうぞ」


 カルロスはバスチアンを見据えて、そう言った。


 玉座に座ったまま小さく指を動かすと、息も絶え絶えだったバスチアンはスッと姿を消した。


 カツーン――……


 と無機質な音だけが静かな部屋に響く。


 バスチアンが居た場所から真下に落下し、コロコロと転がった魔石。ロランはそれを拾い上げると、魔王に差し出しす。

 カルロスは、暫くその魔石を眺める。


「やはりか」と呟き、キーランを呼んだ。

 キーランもそれを凝視し頷くと、魔石を手にそのまま魔王城から姿を消した。


 魔族の核……。


 初めて、命が終わる瞬間を見た。自分や両親の時は、直接目にしたわけではない。

 物語とは違って、こんなにも重いとは――。

 たとえ許せない相手であっても、何とも言えない胸の詰まりを感じた。


「ビーチェ……」


 カルロスが、いつの間にか震える私の手を握っていた。


 ――私は知っている。


 カルロスがバスチアンに向けて指を振った時、大きな魔王の魔力が一瞬だけ、凪いだ。

 元臣下に向けての、彼なりの弔い。

 だから、私もちゃんと受け止めなければ――生半可な気持ちではなく、戦って勝つと決めたのは自分だもの。


「ええ、大丈夫です」と、微笑んで見せた。


 そして、私以外にも他人の死に大きく反応した者がいる。

 義兄の顔は、今にも倒れてしまうのではないかと思うほど、血の気を失っていた。


 そんな中、ずっと黙っていたノアがアリスに向かって歩き出す。

 ハッとしたエルネストは、震えながらも倒れているアリスを守ろうと抱きしめて庇う。


「頼む、ノア……。アリスを連れて行かないでくれ!」


「エルネスト殿下、私が連れて行くのは一人です。その体の持ち主には、用はありません」

 

 ノアはバサっと大きな銀翼を広げ、手には鳥籠のような、輝く小さな檻を持っている。


 エルネストはノアの姿に息を呑んだ。

 魔族かと思ったら実は天族だなんて、そりゃあ混乱しているだろう。


 ノアは、横たわるアリスの中から青白く光る玉を取り出し、暴れる()()を檻へと入れた。

 

『ここから出せー!』と玉は騒ぐ。


「やっと、捕まえましたよ。お前が逃げ出したせいで、可愛い元部下たちに泣きつかれて大変だったのですよ。お陰で、私は随分と迷惑を被りました。処分は天界(うえ)がしますから……覚悟してくださいね」


 鳥籠を持ったノアは、いつも以上に冷ややかな微笑を浮かべた。


『お、お前……まさか?』


 と、玉は何かを言いかけたが――ノアの視線を受けるとビクッと震え、それ以上は何も言わなかった。


「ああ、エルネスト殿下。其方のアリスはお好きにどうぞ」


 ノアはもう用は無いと踵を返す。

 玉座の前まで行きノアが跪くと、カルロスは黙って頷いた。


「では、これを届けて参ります」と、挨拶をしたノアは飛び立った。


 ……ノアって、何者なんだろう?


 またしても、頭の中は疑問符でいっぱいになってしまった。いつか絶対、聞き出したいわ。


「……んんっ」


 静かな空間に、呻き声が響く。


「あ、アリス! 気が付いたかっ!?」


 エルネストの声で、アリスが目覚めたことが分かった。


「エルネスト……殿下?」


 アリスは、ボーっとするのか頭を振り、暫く一点を見ていた。


 今、殿下って言ったわ。

 本来のアリスは、まともな令嬢なのかしら?


 ぐるりと辺りを見回し、アリスは徐に立ち上がると――グラッとよろけた。バスチアンに魔力を殆ど持って行かれたのだろう。


「大丈夫かっ!」


 慌ててエルネストが手を貸した。

 アリスは御礼を言って、エルネストに支えられながら、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。

 そして、正面までやって来ると平伏すかのように頭を下げた。


「魔王様、ベアトリーチェ様……どうか、私を裁いてください」


 毒が抜けたかのように、アリスは静かな口調でそう言った。今迄のアリスの印象とは全く違う。

 私だけでなく、アリスの横に立つエルネストも戸惑っている。


 カルロスは表情を変えず、黙ってアリスを見下ろした。


「全て、この身体の中で見ておりました。あの方は、私の心の弱さが呼び寄せてしまったです。誰でもいいから、私を愛してくれる人が欲しかった……彼女の甘い言葉に、私は自らこの体を差し出したのです」


 淡々とアリスは話す。


「それならっ、アリスは奴につけ込まれただけだろう!」


 エルネストは怒りを露わにした。


「いいえ。私も、全てを持っているベアトリーチェ様を妬む気持ちがあったのです。私が持つ光属性の力も、微々たるもの。それでも、幸せになりたかった……エルネスト殿下の隣に並びたかった」


 身分の違い――。

 儚く微笑むアリスは、エルネストが本当に好きだったのだろう。

 男爵家で虐げられていたのも、嘘ではないのかもしれない。以前、連休後から急にアリスの様子が、露骨に酷くなった事を思い出す。

 

「残念だが、私は人間を裁きはしない」

 

 カルロスの言葉に、アリスはギュッとスカートを握りしめた。多分、アリスは自分が許せないのだ。

 かといって、自害を選べばエルネストを追い詰めてしまうと分かっている。


「……だが、そうだな。私の優秀な右腕から提案があるようだ」


 カルロスは、聞こえてきた羽音に意味深長な笑みを浮かべた。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あ、双子の姉の魂はビーチェと違って転生を繰り返していたわけではなく、魂のまま天界でずっと収監(?)されていたのですね。勘違いしていました (^^;。そうか。更生の見込みのない凶悪犯の魂は転生…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ