表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/114

64.怒り

「これは……!! キーラン、いったい何が起こっているの!?」

 

 飛び出して義兄を助けたいが、キーランに止められた。とにかく状況を把握したくて、遮音結界を張ってもらい尋ねる。


 バスチアンの言った、命懸けとはこの事なのだろうか?


「レンの怪我は、予定通りなんだ。あの魔剣は、刺した相手の魔力を奪うって言ってたでしょ……だから、魔力を持たないレンなら、ただの魔剣の状態に戻せるだろうってノアが」


 ……はい?


 あの日、ノアから振られたレンへの役割って、これだったのか。道理で青い顔をしていた訳だわ。


「でも……。ただの魔剣に戻ったところで、何の意味があるの?」


 また誰かが刺されたら、魔力を奪われるだけではないだろうか?


「うーん。俺たち魔族だから、光の力がある剣で刺されたら、かなりのダメージ受けちゃうからさ。あれで傷つけられると、自己再生が難しいんだよね。魔力奪われるだけじゃなく、心臓刺されたら死んじゃうし」


 心臓刺されたら当たり前だと思ったが――。

 闇属性では、光属性を持った物は防御すらできないそうだ。急所を狙われたら、確実にやられてしまうのだと。

 だから、バスチアンはあの剣を聖剣と呼び、それを持てる勇者を召喚したのね。


「そんな物騒な剣……誰が作ったのよ」


 思わず口を突いて出る。


「……あはは。本当、誰だろ〜ねっ」


 キーランは、乾いた笑いで誤魔化した。


 ……怪しい。

 どうも、キーランはその人物を知っていそうだ。けれど、今は問答している場合ではない。


「それよりも、早く止血しないとっ」


「ああ、それはもう大丈夫だよ。魔王様が、怪我する前の状態に……って! うわっ、ヒナまだ駄目だから!」

 

 布に手を掛けようとしたとこで、キーランに全力で止められた。


「ほらっ、よく見て! もう、レンの傷は治っているでしょ? 魔王様が、怪我する前の状態に戻したんだよ」

 

 また、こっそり覗くように言われ見てみると、血溜まりはそのままだったが増えてはいない。確かに大丈夫そうだ。


「それよりも、これからだよ」


 急に真剣味を帯びたキーランは、私の髪に触ると何かを取った。髪飾りに紛れて、小さな魔石のように黒光りする物がくっ付いていたみたいだ。

 キーランは魔眼でそれを凝視すると、すぐに破壊した。


「ヒナ、バスチアンに目印付けられちゃったね」

「えっ……?」


 いつ、そんな物を付けられたのだろうか?


 バスチアンとは、一定の距離は保っていた。私に直接触れていないし。いや、触れられてはいないが魔法は使われた。

 もしかして、あの時水をかけたのは……。


「此処はね、以前と違って人間界からは入れないんだ。ヒナは魔王様の力があるから来られたけどね。でも、さっきの石……多分、向こうと繋げる魔道具だよ」


「じゃあ……!」

 

 血の気が引く。

 私は何て愚かなの――こんな簡単に、バスチアンに利用されるだなんて。

 悔しくて唇をかみしめた。


「ヒナ、そんな顔しないで。大丈夫だからさっ。ノア風に言うなら……想定内です!」


 ビシッとモノマネしたキーランに、つい笑ってしまった。


「でもね、ヒナ。まだ暫くは、この場から絶対に出てはダメだよ。ヒナの力が必要な時は、魔王様が必ず呼ぶからね」


「分かったわ」と、頷く。


 もう、絶対に失敗はしない。


 キーランは、ニコッといつもの笑顔を見せると、布の向こうに戻って行った。


 手に握りしめたままだったペンダントを首に掛けて、よしっと気合いを入れる。布の隙間から、息を殺して動向を見守ることに専念しよう。いつでもみんなの力になれるように。


 神経を耳と目に集中させ強化すると、アリスのヒステリックな声が聞こえてきた。


「よくも、私の邪魔を……! せっかく、あの子の魔力を手に入れておいたのに、全て消えてしまったじゃないっ!」

 

 ()()()


 ズンッ――……!!


 今のアリスの言葉で、部屋全体の空気が重くなった。息苦しい。

 ……これは、魔王の怒りだ。

 私の位置からは、勇者一行とキーランとロランの背中しか見えない。


「カルロス様、怒らないでください。あれは、本来なら私だけが持って生まれる力……奪われた物を取り返しただけ。あなたは、妹に騙されたのです!」


『……黙れ』


 お腹の底に響くような魔王の声は、初めて聞くものだった。


 顔を歪めながら徐々に宙に浮くアリス。


 その横には、さっきまでレンが手にしていた魔剣も浮いている。

 魔剣に向かって、魔王は魔力の球を軽く飛ばした。

 すると――魔剣は歪な風船みたいに膨らみ破裂した。

 隣のアリスは、飛び散った硬い刃の破片で傷つき、怒りと恐怖で震えている。


 あんなに小さな球でも、魔剣は吸収しきれないのだ。もし、魔王を刺していたらと思うとゾッとする。

 見ていた、レンとエルネストは真っ青だ。


「ま……魔王! 頼む、やめてくれ! 彼女の中に……本物のアリスが、中に居るって」


 エルネストは必死で訴える。

 

「そうよっ! 私が死ねば、アリスも死ぬのよ。人間を殺したら、誓約だって結べないわっ」


 勝ち誇ったように、アリスは言った。


『……それがどうした』


「えっ?」


 ああ、そうだった。


 カルロスは魔界の王なのだ。人間に興味なんてない。最初から言っていたのだ、人間界なんて簡単に滅ぼせるのだと。

 そして、魔族のみんなは、魔王が決めたのなら絶対に逆らわないのだろう。


 全ては、私のために穏便に事を運ぼうとしてくれていたのだ。今の魔王が本当なのかもしれない。


 私はこれからも「ビーチェ」と優しく囁くようなカルロスの声が聞きたいし、魔族のみんなとも仲良くしたい。

 でも……。

 狡いかもしれないけど、大切な人達にも生きていてほしいと思う。

 そう、ベアトリーチェの私は欲張りなのよっ!


 バスチアンの言葉と、アリスの言葉。所々だけど、繋がってきた。

 剣で刺され、光属性の魔力を奪われたのは……過去の私だ。

 そして、このアリスの妹だったのだろう。


 ――魔王を止められるのは私だけだ。

 

 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アリスに憑依しているのは『閑話 魔王のある一日』で軽く触れられていた「ビーチェ(の魂を持つ何度目かの生まれ変わり)の双子の姉」ということですかね。で、この双子の姉の魂も転生を繰り返していて、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ