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57.予想外ですよ

 ギイィィ――……


 閉められていた扉を押すと、木が軋み蝶番の嫌な音が響く。


 ここは、以前カルロスと一緒にデー……じゃなくて、探りにやって来た、偽ヒナタが保護されていた孤児院横の教会。


 中にあった長椅子や、講壇などは全て庭先へ出されている。孤児院の方も静かで閑散としていて、どうやら建て替えの為に今は誰もいないようだ。建て替え資金の出所は、だいたい想像がついた。


 扉を開けると、差し込む朝日でいくらかの明かりはあったものの、それでも中は薄暗い。

 何も無い、だだっ広い礼拝堂。ポツンと真ん中に椅子が置かれ、頭を垂らしグッタリした状態のオリヴィエが座らせられていた。


「……オリヴィエっ!」


 周りの気配に神経を尖らせつつ、駆け寄った。

 オリヴィエは、椅子に縛り付けられて意識は失っているものの大丈夫そうだ。オリヴィエの顔から少し、薬っぽい匂いがするから多分眠らされているだけだろう。


 無事でよかった……。

 スカートの中から、短剣を取り出して紐を切ろうとした矢先。


「ベアトリーチェ様、そのまま動かないでください」


 背後から、聞き覚えのある声がした。

 ああ、やっぱりね。


「ヒナタ様、私の弟をどうするおつもりですか?」


 後ろを振り向かないまま尋ねた。


「凄いですね、よく私だと。それに、こんな状況でも動じないなんて。……やはり、ただのご令嬢ではないのですね?」


「何を仰っているのか解りませんわ。私は普通の公爵令嬢です」


 と自分で言っておいて何だが、こんな場に一人で乗り込んでいる時点で普通じゃないとは分かっている。


「あはは! 短剣片手に何言っちゃってるのかなぁ? あんた、面白いなっ。ああ、剣は下に置いてこっちに寄越してね。じゃないと、彼に飲ませた毒の解毒剤をあげないよ」


 偽ヒナタの口調がガラリと変わった。


 ……毒!?


 このまま、オリヴィエを連れて転移することは可能だけど、毒とは厄介だ。

 ただ、オリヴィエの様子から、それが本当かは怪しいところ。はったりかもしれないが……万が一もある。解毒剤は手に入れた方が良さそうね。


 ジゼルからの借り物だけど、仕方ない。

 膝をついたまま、短剣を床に置き偽ヒナタに向かって滑らせた。不自然にならないように、反対の手を胸元の蝶に当てながら。

 

「その喋り方がヒナタ様の()ですか? 女性としてはどうかと思いますけど……」と、わざと話しかけてみる。

 

「うーん、残念! 僕は女性じゃないからね」

 

 ……えっ!?


 思わず振り向いてしまった。そこには、やはり偽ヒナタの姿。手には怪しげな小瓶を持っている。


「……その姿で、ですか?」

「仕方なくね」

「恥ずかしくないですか?」

「…………」


 顔が引き攣っている。恥ずかしいのね。


 レンが使っていた、視覚に作用し外見を変える魔道具を使用しているかも――とは思っていたが。まさか、性別まで変えていたとは。

 

「僕だって、この姿は不本意だよ。でも、聖女の力が必要だからね。おっと、この先は言えないな」

 

 何よそれ。


 中途半端な暴露で私をおちょくっているのかって言ってやりたいが……。

 これもまた、バスチアンが盗聴しているのかもしれない。公爵令嬢らしく振る舞わなければ。


「驚きですわ。でも……よくお似合いですよ、そのお姿」


 少し小馬鹿にしたように微笑むが、返事もせずにこちらを見据えてくるだけだ。


「どうせ、大したことのない外見をしてらっしゃるのでしょう? 正体をバラしているのに、その姿のままだなんて。私の周りには、素敵過ぎる男性ばかりですから。ご自分に自信がないのでしょう?」


 更に挑発し、相手の出方や性格を見極めたい。カッとなって飛びかかってきてくれたらラッキーだわ。


「さすが、魔王を復活させた悪女だね。……ちょっと、気に入っちゃった」

 

「気に入っていただいても困りますわ。私、そちらの趣味はございませんから」

 

「……じゃあ、これでどう?」

   

 レンがしていた物とは違う、ブレスレット型の魔道具を見せる。埋められた小さな魔石の数は二つ。

 ブレスレットに触れると、魔力が揺らぎ出て姿が変わった。

 つまり、偽ヒナタは魔力持ち。平民ではなく貴族の出だろう。


「まあ! そちらの方が素敵ですわ」


 カッとならないなら、(おだ)ててみる。

 魔族のみんなには劣るけど、相当な美男子だ。線は細めだが、薄茶色の髪にアーモンドアイ。


 うん、モテるわコレは。


 偽ヒナタは短剣を拾って、解毒剤を胸ポケットへ仕舞うと、こちらに向かって歩いてくる。


「……惚れちゃった?」


 クイッと顎を摘まれる。

 取られた短剣の剣先は、オリヴィエの喉に当てられ身動きが取れない。


「残念だけど、惚れないわ」


 近づく顔を睨み返す。


 一気に魔力をぶち当てたい気分だけど。

 これだけ近くなれば……押し返す振りして、小瓶にさえ触れられれば転移出来る。


 そんなことを考えていたら――突然床が消えた。




「……え?」


 私は誰かの小脇に抱えられ、宙に浮いていた。


「ビーチェ、浮気はいけないな。お仕置きが必要だと思うが、どうだろう?」


 ぷら〜んと脇に抱えられたまま見上げると、真剣な顔でアホなことを言うカルロス姿の魔王がいた。

 

「おっ、お前は誰だ!?」


 真下には、偽ヒナタ男性バージョンが叫んでいる。

 保健医カルロスの記憶そのものが消されているから、誰か分からないのだ。


 辺りをぐるっと見渡すが、オリヴィエの姿は見当たらない。

 ようやくここが魔王が作り出す異空間で、私を助けに来てくれたのだと理解できた。この体勢はどうにかしてほしいけど。


「どんなお仕置きがいいかな?」と、真顔で考えている。


「……あの、誤解です。それに恋人じゃないし、パートナーだから浮気とかないですよね?」

「パートナー…………そうなのか?」


 今そんなことを悩まないでほしい。


「それより! 勇者一行はどうしたんですか!?」


 まさか、魔王本人がやって来るとは思わなかった。


「ああ……。ノアに言われて、城を迷宮風に作り替えたからな。まだ暫くは、私の部屋に辿り着かないだろう」

「はい?」


 レン達は魔王の玉座を目指して、ひたすら歩かされている最中だそうだ。なんていうか……同情しかない。


「で、どうするのだ?」と、顔を寄せてくる。


「え……えっと、パートナーの在り方については、ノアにも立ち会ってもらって後々という事で! 今は、オリヴィエの解毒と、下の偽ヒナタをどうするかです」


「ふむ。オリヴィエは、解毒してジゼルと城へ送ろう」


 そう言うと、カルロスはパチリと指を鳴らした。


 この空間の中では、何も変化が無いのでよく分からないけど、これで一先ずは安心だわ。




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