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49.謝罪

「すみませんでしたっ!!」


 土下座……本当にする人って初めて見たわ。


 レンは魔王城に来るなり、土下座して謝った。理由は決まっている。妹についての話だ。

 

「レンの描いた容姿にそっくりな妹、ヒナタ・モチヅキは偽物だと言うのですね。つまり、レンは我々に嘘を教えていたと?」


「はいっ!! 嘘をついていましたっ!」


 凍てつく吹雪のような、ノアの冷え切った視線を全身に受けたレンは、額を床に付けたまま更に小さく縮こまる。


 ロランとキーランはレンに同情の眼差しを送った。無表情の魔王は、静かに見ているだけで何を考えているのかよく分からないが。

 ノアは、わざとレンに冷たくしているのだ。


 唇をきつく結んでいたレンは、顔を上げると神妙な面持ちで話し出した。


「本当の日向は、全くの別人と言いますか……。交換日記に書いた妹像とは、似ても似つきません。だから、それにそっくりな彼女は妹ではないと断言できます」


「ですが――」と、次の言葉を探すかの様にゆっくりと話す。

 レンの視線は、目の前の私達じゃなく、どこか遠くを見ているみたいだ。


「本物の日向の特徴を書いたところで、もうその妹には会えないのは分かっていましたから……」


 思い詰めた表情でフーッと息を吐く。


 ……え。


「妹がこの世界に来ているのは、多分間違いではないと思います。僕の考えが正しければ、妹は転生……別の人物に生まれ変わっているのではないかと」

 

 思わずレンを凝視する。

 私の視線に困った顔をして、レンは話を続けた。


「本当は、ベアトリーチェ嬢が……そうだったらいいなって思ってました。人望も厚く綺麗で聡明、何よりご家族から愛されていて。もし日向だとしたら、会って話しさえすれば、何となく直感で分かるような気がしていたのです」


「――えっ!?」


 今度は思わず声を出してしまった。


「す、すみません! 最初はそう思ったのですが……ただの勘というか、そんな気がしただけなんで! ベアトリーチェ嬢は、本気で妹の心配をしてくれていたのに……あの絵を見て、可愛い妹だとも言ってくださいましたし。話してみてよく分かったんです。ベアトリーチェ嬢は素晴らしいご令嬢で、妹の面影は全く見当たりませんでした!」


 おおっと、自己完結している。

 義兄よ……それはそれで、ちょっと失礼だと思うけど。


 つまり、レンはあの絵を見た私の反応を確かめていたのか――だとしたら、甘いわね。

 公爵令嬢ベアトリーチェとして生きてきた年数は、そう簡単には崩れないわ。惜しいけど、その勘は外れちゃったわね。


「それで、偽の妹はどうしたのですか?」とノア。


「バスチアン達の目的を、どう判断すべきか分からなかったので……そのまま妹として話をしました。記憶が所々欠落している設定らしくて、僕が言うことに適当に合わせていました。正直、複雑すぎてあまり直視することが出来なくて……。髪型と服装は、あの日に特別なイベントがあったからしていただけだと伝えておきました」


 ……そうよね。


 誰だか知らないが、あのコスプレみたいなのをやらされている人物は、なかなかに辛いだろう。孤児院の子供達の話では、面倒見の良さそうな子のような印象だ。もちろん演技の可能性も高いが。


「まあ、偽者はあちら側の人間です。何の為に用意したのかは……検討がつきますが。そのまま、勇者の妹として泳がせておくのが良いですね」


 ニッコリと微笑むノアに、レンはホッとした様だ。


「本物の妹探しはどうするつもりですか?」


「あ……。それは、暫く諦めようかと思います。今、日向が見つかったとしても、僕のせいで迷惑をかけてしまいそうですし。せっかく巻き込まないように探そうと、一緒に召喚されてしまったなんて嘘までついたのですから。妹が……幸せだったらいいんです。ただ、僕はそれを見届けたかっただけなんで。今、幸せならそれを壊したくありません」


 それが……私を探す理由?

 鼻の奥がつんとし、のどが詰まっているみたいに苦しくて、言葉が出てこない。


「まっ、奴ら潰しちゃってから、のんびり妹を探したらい〜んじゃない? ねっ、ベアトリーチェ嬢。あ、そのチョコ美味しそうだね」


 明るく言ったキーランは、軽やかに私の前に立つとレンの視界から私を遮った。

 そして、私の前に置かれていた、街で買ってきた高級チョコを摘むと、そのままパクッと食べる。


 ――私はどんな顔をしていたのだろうか?


 多分、泣きそうになっていたのかもしれない。キーランはそれを隠してくれたのだ。レンは、日向(わたし)を巻き込みたくないから探さないと言ったのだから。

 チョコを頬張る優しい笑顔に助けられた。


「ええ……そうですわ。焦ることありません」


 そうよ――。私は今、幸せだもの。

 クッと口角を上げ、いつものベアトリーチェの笑顔でレンに告げた。

 


「魔王とベアトリーチェ嬢は、いかがでしたか?」と、次にノアは私達に話を振った。


「楽しいデートだった」


 ノアの質問に、完璧に違う方向で魔王は答える。

 だから、デートじゃないってば!

 二度目のノアからのブリザード……魔王は全く動じていない。


「それは、良かったですね。ベアトリーチェ嬢、孤児院の状況はどうだったのですか?」

 

 笑顔が怖いわ、ノア。


「子供達の話では……。偽のヒナタさんが現れたのは、レン様が召喚された日ではなく、ごく最近です。たまたま街の小さなお祭りがあったらしく、日にちを覚えていました。ちょうど交換日記を始めた後ですね」


 レンは私の話を聞いて瞠目したのかと思いきや――。

「魔王とデート?」と、時間差でボソッと呟いた。


「子供達には、ハッキリと彼女が勇者の妹だとは伝えられていません。ですが、勇者と同じ髪色だから、悪い人に狙われるかもしれない。危ないから誰にも言ってはいけないと言われたそうです。今は、国の偉い人が迎えに来て、守られていると」


「その偉い人は、バスチアンか奴の手下でしょうね」


 予想通りとばかりにノアは言う。


「その教えてくれた女の子が言ってましたが……あの髪型には、相当苦戦していたようですわ。鏡の前で、度々ため息を吐いていたと」


 あの高い位置でのツインテール。良いブラシか櫛でもなければ、自分で上手く結ぶのは難しいだろう。

 まぁ、ため息の理由はそんな事じゃなさそうだけどね。



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