98.ノア視点 暗躍
更新遅くなりましたm(__)m
しかも、もやもや展開……ごめんなさい。
――やはりか。
瞬く星空の遥か上に、ギラギラと蠢く視線。
もしも、それを感じることができる人間が居たとしたら……。天界の、それも白く美しい者達から放たれているとは、到底考えもしないだろう。
ヒナの魂が、神の愛し子になれる存在だと気づかれてしまった……。
魔王がヒナを連れて、夜の空に飛び立ったのを確認し、街の中で一番高い時計塔へやって来た。
翼を閉じ、空からは見えない位置に身を隠すと、二人の動向を見守ることにする。
――否。
二人を見下ろす、無数の目を確認していると言った方が正しいだろうか。
ヒナからの『勝手に呼び出さないでほしい』という意は確かに伝えた。
だが、我が王にしてみれば、ビーチェの無事を間近で感じるまで、気が気ではなかっただろう。直ぐにでも呼び寄せたかったはずだ。
それなのに――。
魔王であるからこそ、自分の想いを抑えつけ、ヒナを王妃にするつもりはないと言い出した。あんな、仮初めの印まで作っておきながらだ……。何とも矛盾している。
まあ、逆に彼女の性格を考えれば……真実を知ったなら、無理を押してでも受けると言うに決まっているが。
全くもって、もどかしい二人だ。
もたもたしていたら、ヒナの魂の争奪戦が起こり始めてしまう。
せっかく加護を外すのに成功したというのに。思い合う二人が一緒にならなければ意味がない。
いや……。魂の消滅は防げたのだから、当初の目的は達成はしていると言えるのだが。
我ら天族にとったら、愛し子を見つけ出すことは最上の……そう、至福を得られる。選ばれた魂に神が加護を与える時だけ、その御前に立つことが許されるのだから。
人間や魔族の欲とは、また別のものだ。
消滅させられる危険はなくなったが――。
選りに選って、あの難癖ある緑髪のミハエルに、ヒナが覚醒させられてしまうとは。太古の……光属性の元とも呼べる、尊き魔力を。
私はその可能性に気づいていたが、覚醒まではさせられなかった。
それでも――その魂は加護を受け、光属性として転生を繰り返したのだから、私の天族としての役割は十分だったといえよう。
天界を離れ、魔王の眷属になってから『姫』となった彼女と再会するとは思わなかったが。
しかも、その加護が仇になるとは……。
昔話を思い出し、後悔した所で仕方ない。それを振り払うようにバッと髪をかき上げた。
一度受けた加護は、ずっと続いていく。
ここでヒナがまた加護を受ければ、光属性の保有者として転生を繰り返す。
それは、人間としたら幸せなことかもしれないが。ヒナはきっと望まないだろう。
永遠を生きる我が王が……眷属である我々が生を終えた後まで、それをただ一人指をくわえて見続けていく。そんな事、絶対にさせてなるものか!
――そろそろだな。
気の短い魔王にとって、この不愉快な時間はもう限界だろう。
天界からの不快な視線に晒され、ビーチェとの大切な時間を邪魔されているのだからな。
私が……ヒナからの伝言の他に、魔王に人間界を飛んでもらうように頼んだ。天界の目を確認する為に。
だから、魔王もこの件に関して承知している。
ついでに。
人間の乙女は星明かりの下とか、ロマンチックな状況を好むのだと助言しておいた。自然と素直になれるのだと。ヒナも、きっと喜ぶだろうとの言葉も添えて。
案の定、暫くすると人間界から二人の気配は消えた。
……魔界へ戻られたか。
瞑目し、立ったまま壁にもたれ掛かると、ジッと時が来るのを待つ。
天界からの視線も通常に戻り、残すは我が王からの思念が届けば決行できる。
決定権は、ヒナにあるのだ。
――来たか。
暫くすると、凪いでいた感覚に押し寄せる歓喜の波。
どうやら……我が王は、思いの丈をヒナに打ち明けられたようだな。予想通り、ヒナは王妃になる事を望んだのだろう。
それを感じ、自然と口元が緩む。
――では、私のすべき事はひとつだ。
閉じていた銀色の翼を広げ、羽の間に隠してあった真っ白に輝く羽を一本取り出す。
袖を捲り、自身の魔力を流せば、魔王との眷属契約の印が腕に現れる。
その丸く描かれた魔法陣の中心に向かい、その羽軸を勢いよく突き刺した。
鋭い痛みと共に、流れ込む神力。ピキピキと小さな音を立て、血管が浮き出てくる。
そしてその魔法陣はヒビ割れ、中から金色の光が漏れ出すと、パリンッと砕け散った。紫の粒子が闇に消える。
ぜぇぜぇと肩で息をすると、次第に身体は変化していく。魔王の眷属である証だった銀色の翼と髪は、本来の白い色と光を取り戻す。
――さて、準備は整った。
「これで、しばしのお別れです」
誰かに向かって言ったわけではないが……私の小さな呟きは、きっと魔王に伝わるだろう。
向かう場所は決まっている。翼を大きく広げ羽ばたくと、時計塔から足が離れた。
夜空に目立つ真っ白の光りは、閃光のように一瞬で空へと消えた。




