幕間・オルナーの回想②
今回でオルナー視点終了です。
次回からフューネ視点に戻ります。
武術に長けるニューウェースト家。
その歴史はとても古く、シェーナ王国が建国されるより前からあったと言われている。どこにも属さない、孤高のニューウェースト。
ニューウェースト家は美貌に恵まれた者が多く生まれていたが、数千年に一度、神に愛されし人とは思えない様な、美し過ぎる子が誕生していた。
シェーナ王国誕生に深く関わったニューウェースト初代女騎士、フェルリーナ・ニューウェースト。彼女こそ、神に愛されし子であり希望の光であった。フューネと同じく、誰にも剣術を習わず、人が剣を振るっている様子から体の動かし方を瞬時に理解し、一人で魔獣をやっつけた。
それまでは他の貴族と同じく、男は剣を、女は社交を、それぞれ学ばせていたがフェルリーナに才能がある事、本人が剣術を磨いて騎士になりたいと言っていたことから彼女は自ら令嬢の地位を捨て、男しか認められていなかった騎士の道に進むべく、女も捨てた。
私は、人に守られるのではなく、守りたい。自分の大切なものの盾になりたいんだ。
そう言って、フェルリーナは戦の前線に立ち続けた。男であると偽って。
しかし、ある日フェルリーナの騎士人生は突然終わりを告げる。
超大国、オルテーガ帝国が攻めてきたのだ。
攻めてきたとはいえ、その頃はシェーナ王国という国はなく、どこにも支配されていない地をどこにも属さない貴族達が騎士を雇っていただけ。
オルテーガ帝国はその地を欲しがった。理由は分からないが、領地をたくさん持っているにも関わらず、シェーナ王国となる地をわざわざ攻めずとも、もっと地下資源のある地を奪えるというのに。オルテーガ帝国はフェルリーナの管轄する騎士団に密偵を忍ばせ、内部亀裂を図った。フェルリーナは剣の腕は立つが、人の感情には疎い。徐々にお互いに不信感を抱く部下達の心を読めなかった中、オルテーガ帝国はフェルリーナの部隊と衝突した。
オルテーガ帝国の密偵は、こう噂を流していた。
『オルテーガ帝国に屈せば、命と身分は保障されるらしい。勿論妻子、兄弟も。ここで命を散らすのと、どっちが賢い』
フェルリーナがオルテーガ帝国と向かい合った時、部下達はオルテーガ帝国に屈した。自らの大切な家族を守りたいがために。だから、皆尊敬するフェルリーナに刀の切っ先を向けた。
何故、と思う間も無くフェルリーナはオルテーガ帝国の帝と思しき人物に顔を掴まれ、笑われる。そして問うた。我の妻にならないか、と。
フェルリーナは驚愕し、次に自分の腰に下げている短刀を自分で自分の喉に突き付けたという。フェルリーナは最後まで気高く、死顔は微笑を浮かべたものだった。苦痛に歪んだ顔は見せなかった。
ふと、フューネの言葉を聞いて思い出した話。後世ではその美しさと強さから伝説のワルキューレ、と言われるフェルリーナとよく似ている。
実はオルテーガ帝国の帝は幼い頃フェルリーナと出会い、一目惚れをしていた。ニューウェースト家に婚約の打診をしようとした矢先、フェルリーナ、という女が表舞台から去ったという通達が来た。一度は諦めたというが、帝になって実際に戦地に赴き刀を振るうようになって異様に強い騎士がいるという情報を耳にした。たまたまだった。ふと興味が湧いて調べてみて、その噂の人物が幼き頃からずっと想ってきた人だったなんて。今まで押さえてきた衝動で、我慢できずフェルリーナを一気に包囲し、そして、自らの前で絶命させてしまった。オルテーガ帝国の帝がフェルリーナに言った言葉は本物だった。妻になって欲しい、と。フェルリーナを見つけた日、たくさんいた妃と離婚した。令嬢としか相手をしてこなかった自分は、戦いに身を投じ、不利になれば命を散らす覚悟のある騎士とやり合うのだという自覚が足りていなかったのだと、当時の帝は手記に綴っている。
フェルリーナの遺体は、オルテーガ帝国の地で眠っている。その後、フェルリーナを殺してしまった事で気が狂い、自害したオルテーガ帝国の帝の隣で。
自分の妹がフェルリーナの様な道に進んでしまったら。
フューネの美貌を独占したいと思う怪しからん奴が出てきて、フューネを苦しませたら。
「おにいちゃま?」
一人悶々としていると、フューネが心配そうに声をかけてきた。カップを置き、立ち上がるフューネ。
魔物の森から帰宅し、僕の部屋でお茶を啜っていた。フューネの好きな焼き菓子もある。
「ここ、きゅってしてる。なやみすぎないで?」
ツンツン、と眉間を突かれた。
綺麗な、深みのある碧眼には一切の曇りがない。
フェルリーナは公の舞台に立った後、令嬢から騎士になった。幸い、フューネは未だ公の場に立った事がない。
要は、フューネの美しさに誰も気づかなければ良いのだ。気づかれたとしても、名前が分からなければ、良い。
「フューネ」
愛しい妹の名前を口の中で転がす。名を呼べば、フューネは僕の瞳をじっと見つめてくれる。
まだ、間に合う。
「騎士になりたいの?」
「うん、なりたい」
「女の子は騎士になれないよ、だから、男の子にならなくちゃいけない。良いの?」
キョトンとした顔で頷く。そんなの分かり切っている、何故問うのだ、と言った顔だ。
「うん、だっておにいちゃまたちみたいにつよくなりたいもん。れいじょうなんて、やだ」
「政略結婚はさせないし、もしフューネに好きな人ができたらその人と結婚できるんだよ」
フューネと誰かが結婚。
自分で言っておきながら苦しくなる。
「ひとをすきになることなんて、ない」
青い瞳が黒く見えたのは、気のせいだろうか。
「じゃあ、明日から僕たちに混じって剣の稽古を付けてもらおうか!」
一瞬見た黒い瞳に気を取られてリュートに気づかなかった。
勝手に人の部屋に入ってきた自由奔放な兄を苦々しげな顔で見てから、問う。フューネの焼き菓子を食べようとしていたので思い切り手を叩いておいた。
「許可は」
「勿論とってあるさ」
リュートは叩かれた手を振りながら言った。
父は、自分の姉が自由に生きられず、恋人がいたのに、親に勝手に決められた、他国の貴族に嫁いでいった為、フューネは自由に生きて欲しいと思っている。
「なら、良いか」
その日の夜、父と兄と三人でこれからについて話し合った。
フェルリーナの人生を歩まない様に。
悲惨な最期を迎えない様に。
朝日が顔を出すまで話し合いは行われ、結局この方法しかない、という結論に至った。
騎士になるにはやはり男装しかなく、男の格好でいれば、社交界で変装し影を薄くしていれば、目を付けられない。
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そうして、今だ。
何故かフューネは自分がブスだから変装している、と勘違いし、ホイホイ人気の少ない場所で変装キットを外している。
それで、王太子と皇太子をたらしこんだ。男装をすればしたでフローラ、という今学期入学者の華をたらしこんだ。
挙げ句の果てに、フューネを巡って、フューネと手合わせだ。
本人だとバレていないのは良い事だが、知っているとかなり滑稽な絵図になっている事に思わず吹き出してしまいそうだ。
「オルナー先輩」
ザーク殿下が近づいてきて審判を頼んできた。フューネを見れば、目をキラキラさせている。
「是非、剣術の強いオルナー先輩に見て頂きたい」
フューネはどこかの貴族の護衛を演じているのか。平民が貴族にするのと同じお辞儀をしてきた。
「分かった。だが、まず兄と遊んで頂きたい。リュートは、剣の優れたナバル殿下、ザーク殿下と剣を交えるのを一ヶ月前から楽しみにしていたから」
ちらりとフューネを見て付け加えた。
「そちらの騎士も、是非」
今のフューネは、令嬢ではなく、ラレンスという名の騎士。であれば、多少暴れても大丈夫だろう。
それに、成長した妹の剣の腕前を見てみたかった。
「じゃあ、参りましょうか」
そう言ってナバル殿下と護衛騎士、ザーク殿下、フローラ嬢、フューネを先頭に校内にある格闘場へ向かった。
次回の更新は12月4日になります。
日にちが空いてしまいますが、これからも読んで頂けますととても嬉しいです。
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