episode.3
本編を読んでいないとさっぱりわかりませんので、先に本編を読まれることをお勧めします。
*◆*◇*◆*◇*
『花に水をあげるのは、誰?』
*◆*◇*◆*◇*
◆影で暗躍!頑張れラフィール兄さん
王子の婚約者になってから、彼女はあまり笑わなくなった。
もう、妹と遊んでいた時のような笑顔を見ることはできないんだろうか。
学園に入ってしばらく経つと、彼女はつらそうな顔をするようになった。視線があうと、ふんわり笑顔を返してくれるが、誰も見ていない場所であのつらそうな顔をしているのかと思うと、もやもやする。
妹にさりげなく聞いてみると、王子が浮気しているからだと教えられた。
――――浮気?
「ハハッ・・・。冗談だろう。」
別に「浮気」自体は特別不思議なことじゃない。親が決めた婚約者が気に入らないからと、浮気するやつは何処にでもいる。
だが、王子も彼女を好きなはずだ。だから、だから、俺は。
「・・・本当だったら?」
翌日調べてみたら、一部にはもう有名な話らしいことがわかった。王子と側近達が、一人の少女を特別扱いしていると。
学年が違うから、まだ情報が来ていなかっただけで、すぐにでも噂として蔓延しそうな勢いだった。
彼女は王子を大事にしていたはずだ。それなのに、そんな彼女を裏切るなんて。
―――王子がいらないというのなら、俺がもらう。
「リィ。顔色が悪いが、大丈夫か?」
「ラフィール様。大丈夫ですわ。」
綺麗に笑う。綺麗に笑えば笑うほど、君の笑顔が歪に見える。
―――我慢しているだろう彼女を泣かせてやりたい。
彼女を泣かす方法なんて、知り尽くしている。そっと、頭を撫でるだけでいい。つらくて、つらくて、でも耐えて我慢している彼女を泣かせて慰めるのは、昔から俺の役目だったのだから。
「・・・どうした?」
「ラフィール様。な、なんでもッ、ありませ・・・、んの。」
「昔みたいに、ラフィでいいぞ。そんなつらそうな顔して、大丈夫もないだろう。馬鹿だな。」
「馬鹿って言わないで下さいませ!」
俺の態度に何かが緩んだのだろう、彼女は泣き笑いのような、でも、少し嬉しそうな顔で、睨んできた。
「さぁ、お兄さんに言ってみなさい。」
「くすくす。」
ぽつり、ぽつりと彼女が話す内容を聞く。調べていた王子の浮気の詳細を。
「なるほどな。」
「もう、殿下は私の話を聞いてはくださらないのです。」
「なら、殿下の婚約者候補を辞めたらどうだ?」
「え?」
彼女は不思議そうな顔をした。
「・・・候補?」
「リィは、婚約者候補だろう?」
彼女の中に言葉が浸透してから、告げた。
「殿下に好きな方ができたのなら、リィは候補を降りて、本当に大事にしてくれるやつと結婚すればいい。」
「婚約者じゃなくなっても、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だろう?」
「おとうさまが・・・。」
「アルバートにも殿下の状況を見てもらって、味方になってもらえばいい。アルバートも妹がこんな酷い扱いを受けていると知ったら、協力してくれるさ。」
「お兄様も?」
「あぁ。」
「私は・・・酷い事をされているの?」
ぽつり。不思議そうに聞かれた。彼女の中に落とした小石は思いのほか、大きな大きな波紋になったようだ。
「婚約者がいるのに、堂々と浮気して、それを隠そうともしないのだから、酷いことだろう?」
「浮気・・・。」
「リィは、まだ殿下のことが好きなのか?」
―――わからない。
また、ぽつりと彼女は言った。
殿下の婚約者以外の道があることに、頭がついていっていない感じがした。
今日はこれ以上はやめたほうがいいな。
「アルバートには俺が言っておくから。リィはゆっくり休め。な?」
「うん。」
こんなに無防備な彼女を一人で返すわけにもいかず、妹を呼んでもらい、事情を話して一緒に帰らせた。
去り際に、こっそり妹に言われた言葉が、頭から離れないことに苦笑する。
―――お兄様、リィリのこと頼みましたわ!リィリと姉妹になるのを楽しみにしておりますわね。
我が妹君には、俺の心の中は筒抜けらしい。困ったものだ。
読んで頂いたことに感謝を。
乙女ゲームだったら、攻略したいな、ラフィ君。