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1-016.リエント王国王城観光所?

 当初の予定通り冒険者のライセンスカードを貰い、念願の冒険者となったアッシュはアリスに会うべく王城へと向かっていた。


「もうアッシュ。そんな不機嫌な顔するんじゃないの。ハリセンボンみたいよ」


 付けられたランクに納得できないと終始不貞腐れて歩くアッシュの頬をジュネがつつく。


「君は納得できないのかもしれないけど。ランクが高ければ関所の通過とかいろんな恩恵が受けられる。いずれかならず必要になるものだ。むしろ運がよかったと思ったほうがいい」

「・・・・・」

「いい加減にしろ」


 プス。爪で刺された。猫の爪は鋭くて地味に痛かった。プシューと音をたてて膨らんだ頬の空気が抜ける。


「君はちゃんと下積みをしたかったのかもしれないけど。そんなのは後でもできるじゃないか。人が親切でやったことを何も知らない若造がぐだぐだと不貞腐れてるとか不愉快だ。串刺しにするぞ。川原でバーベキューだ」

「ジュネ。それは言いすぎだわ。たとえ前世の記憶持ちでも前世のアッシュが心まで大人だったかは分からないのよ?子供のまま年を取った大人だったかもしれないでしょ?精神年齢の低い不憫な男性だったかもしれないでしょ?いい年の癖に結婚もしないで子供も居ない。あの世には金は持っていけないのだからと散財しまくりの独身だったかもしれないでしょ?」

「サマンサさん。俺が悪かったんで謝りますから地味にディスるのやめてください!」


 アッシュは涙目になっていた。


「ごめんよ」

「ジュネさんも不憫なもの眼で見て謝らないでください。潤んだ猫の瞳で上目遣いとかほんと心えぐられるんでやめてください。俺が悪かったです許してください」


 そうこうしている間にお城が近づいてその全貌が見えてきた。そしてアッシュは目の前に聳え立つ立派な城に言葉を失った。城は一つの芸術作品のようだった。瓦かと思ったら一つ一つを瓦に見えるように掘られた岩の屋根。壁一つ一つにも細かな彫刻が施され。窓には色彩豊かでありながら物語性を感じさせる一枚絵のステンドグラスがはめられている。

 芸術作品のようなお城だった。

 ただなんだろう?どこかで見たような既視感を覚える。


「あれ?アッシュはもしかして芸術とか好きなタイプ?」

「え?お城は芸術家の作品なんですか?」

「うん。初代国王一行に前世もちの芸術家がいてね。ほら、あの、サラダに英語で家族的な名前の建物で有名な人」

「家族を英語でというよりはスペイン語で家族。英語では親友といったところかしら」


 英語で家族といったらファミリー。サラダファミリ???


「あ!?もしかしてサグラダ・ファミリアですか?」

「そうそれ。正解!」

「ガウディ転生してたんですね」

「でもこれ。教会ではなくてお城なのよね」

「まあまあ。そこは言わないお約束さ。あいつ。今度こそ完成まで生きるんだっていって完成前に死んだけどね」

「一度ならずに二度までもとなると悔しかったでしょうね」


 ジュネさんは困った顔で肩をすくめる。


「どうだろうね」

「というと?」

「あいつ。芸術は爆発だ。今世ではいい色彩感覚を手に入れた。俺は無敵だ。俺はフラストレーションのままに作り続ける。だってさ。常に沸き続けるイメージに変更変更。用は完成させる気が無かったんだよね」


 懐かしさに目をすぼめ。ここではない過去を見るジュネさん。哀愁漂う姿に俺は口を閉じた。

 さりげなく流してたけど。芸術は爆発だ、は別の日本人芸術家の言葉だったような。え~とえ~と。棟方志功?違うそれは青森県の版画家だ。そうそう。大阪府の太陽の塔作った岡本太郎だ。少しスッキリした。あれ?あと話の内容からするとジュネさんって初代国王の時代から生きてるってことだよな。何歳なんだ?


「考えるな。口にするな。抑圧をかけて頭の中からそれを消せ!」


 フシャー!毛を逆立てたジュネさんの気迫にビビッてしまう。


「わ、わかりました」


 ジュネさんの野生を宿した獣の眼に心臓が止まるかと思った。まったく女性の感は侮れない。


 王城の外周を取り囲む城壁に作られた正門前まできた。

 正門へと続く道は中央に馬車二台が通れる幅の道があり、その両端に一段段差をつけて歩道が設けられている。歩きだからもちろん歩道を歩いてきた。馬車と歩行者で道が別れているのだから当然正門にも大小の二つの門が用意されていた。

 そして歩行者用の門の上には看板があった。

 ここから先リエント王国王城観光物産展。


「・・・」


 ん?見間違いかな?もう一度見るが同じだった。観光物産展とある。


「そちらは王城に作られた観光スペースなんですよ」


 いつ来たんだろう?隣からひょっこりとアリスが顔を出した。


「王城に観光スペースあるの?」

「お金は大切なんです」


 疑う俺にぷんぷんと頬を膨らませる姿がかわいらしい。疑ってごめんなさい。というかアリスがかわいい。


「それに」

「それに?」


 首を傾げてもったいぶるアリスに釣られて俺も首を傾げる。


「私の国が魅力的な国なんだって知ってもらいたいじゃないですか」


 両手をもじもじと絡ませながら答えるアリスがか~わ~い~い。

 はっ!目端にいた長老でにやける自分の気持ち悪さを想像して現実に戻る。


「へ~?なになに?」


 気を取り直して見取り図を見てみる。

『リエント王国歴史館』

『リエント王国物産展――ぜひ土産物購入の際はぜひどうぞ』

『聖生物ヌンサ牧場――何とあのヌンサに会える!』

 ん?

 目をこすってからもう一度見てみる。

『聖生物ヌンサ牧場――何とあのヌンサに会える!』


「ああ、ヌンサ村の収入源の一つでの。出張で来ているものがおるんじゃ」

「仕事なんですか?」

「イェスザッツライトじゃ」


 長老がびしりと親指を立ててサムズアップする。

 へ~。こんな仕事をしているヌンサがいるんだ。牧場の部分はあえて無視。ツッコンでたまるか。


「そういえばアッシュはまだ会ったことなかったわね」

「うむ。せっかくじゃから顔合わせしとくかの」


 サマンサさんと長老曰く、担当しているのはまだ会ったことのないヌンサみたいだ。歩き出した二人の後をアリスと一緒について行く。

 聖生物ヌンサ牧場の看板がある扉のない出入口を潜ると一面の壁がない部屋に出る。壁のない向こう側は木の柵に囲まれた小さな牧草地になっていた。

 風に揺られる短い牧草の中に二人並んでヌンサが座っている。


「あ~だりぃ~」

「その内面からにじみ出るアホさを隠したらどうだ?肉体が魂に引っ張られてるぞ」

「無機物を愛する変態に言われたくない」

「道端の石ころよりも価値がないからといってすねるな。むしろ道端の石のほうが貴様よりも愛嬌があるから不思議だ。母親の中に愛嬌を忘れてきたのではないか?」

「お前の相手するほうが不毛だったわ。むしろ相手してた俺は人類史に残る聖者になれるかもしれない。やば。そう考えるとお前が生きてるだけで世界における俺の価値が上がるから不思議~。いままで生きててくれてありがとう。もう死んでいいよ」

「肉体が価値をなくす前に私が魂を外に出してやる手伝いをしてやろうか?」


 何だこのヌンサは?互いに非難しあって口の悪さがすごい。何で一緒に居るんだ?と疑問に思えるほど仲が悪そうだ。

 しかし近づくに連れ二人の姿がはっきりしてくるとそれも無理の無いことなのかもしれないと思った。片方は灰青の背に白い腹の眼鏡をかけたイルカで、もう片方は黒の背に白い腹のシャチのヌンサだった。どちらも魚というより哺乳類で頭もよく人間に友好的。人の好む姿かたちも相まって好印象のイメージしかないが、実はシャチはイルカや鯨を捕食するし、水族館ではシャチとイルカは鳴き声を上げて喧嘩するほど仲が悪かったりする。つまり前世でも仲が悪いもの同士の組み合わせなのだ。しかしさすがに人間の手足が生えたイルカとシャチの姿はシュール過ぎて脳がバグりそうだった。


「あ~今日の昼はなんだろう~?働かなくて食う飯は最高だぜ~」


『・・・・・』


 だらけきった二人の姿とその言葉に場の空気がピシリと固まったのを感じた。

 主にサマンサさんから出る無言の圧力が空気を重くする。


「おい待て!?長老が居るぞ」

「やべっ!?サマンサさんだ!」


 シャチのヌンサがこちらに気づく。視線は主にサマンサさんに釘付けだった。

 二人揃って慌てふためいて立ち上がるとなぜだか直立不動で敬礼をした。

 意味がわからない。

 なぜ敬礼?


『・・・・・』


 反応に困って言葉を捜していると。


「おいちょっとまて、これで本当にいいのか?」

「ああ、そうか。俺ら仕事でここに来てるんだった」

「つまり普通に仕事してればいいということか」

「そうだな。普通に仕事してれば・・・・・」


 急に動きを止めたイルカのヌンサが呆けた顔で助けを求めてシャチのヌンサを見る。


「どうした?あほな顔して?いつもあほな顔しているが一際あほに見えるぞ。まったく、普通に仕事すれば・・・・・」


 同じく急に動きを止めて呆けた顔になる。そして目が合うとお互いに疑問を口にした。


『普通に仕事って?』


 二人一緒に首をかしげた。こいつら仲悪そうに見えて息ピッタリだな。


『・・・・・』


 沈黙が流れて片方がハッと正気に戻る。


「そうか。俺たちはヌンサがどんな存在か知ってもらうためにここにいるんだ」

「つまりヌンサとして普通にしていればいいということか」

「そうだ。普通にいつもどおりにしてれば・・・・・え~と?普通?」

「おい何してる。普通にすれば・・・・・え~と?普通?」

『え~と?え~と?』


 やがて二人は地面に体躯すわりをして空を見上げる。


『普通って何だろう?』


 すみきった瞳には広い大空が映っていた。

 確かに普通って難しいよな。というか。そもそもヌンサ牧場の仕事が分からない。ちなみにあとで事務員もとい飼育員の人に聞いたところ。そこにいてくれればいいだけとのことでそれだけで給料が貰える他、衣食住国持ちとのことだった。

 ともかく仕事は仕事。ヌンサについての見識を広めるための活動なわけでこんな姿をサマンサさんが許すはずがないわけで。


「それでごまかされるわけないでしょ」


 クイクイとサマンサさんの口の端が動いて雷が落ちた。


 ドーーーン


『あぎゃああああああああ』


 二人は雷に打たれて痺れて焦げた。

 ぷすぷすと煙を上げる二人を指差して笑うジュネさんを視界の端に捕らえながら、俺はこの場所で疑問に思っていたことを口にする。


「ところで。なんでここはガラスで隔てられてるんですか?」


 そう。実は一面だけ壁の無い開けた部屋だと思ったらガラスが張られていたのだ。部屋と草原を一枚の分厚いガラス隔てていた。


「ば、ばかやろう。なんて怖いことを言うんだ」

「そうだ。危険なやつが来たらどうする」


 哺乳類といえどさすがヌンサ。復活してガラスに張り付いた二人が抗議の声を上げる。

 なるほど。このガラスはいわゆるヌンサを守る盾だったのか。ガラスの柵に守られて動物園を思い出す。いわゆる前世のパンダ商売。くちゃ寝している姿を見せるだけでいい。ただヌンサは動物じゃない。言葉も通じる。魚人で人類だ。見世物になるのは気分的によくない。こう、なんだろうか、著名人との対談。いや、この場合はウサギとのふれあいコーナーみたいな。ヌンサふれあいコーナーでも作ったほうがいいのでは?と思ってしまう。


「でもこれだと見世物みたいですよね。人同士言葉が通じるのだからから、会話してふれあうくらいでいいんじゃないですか?」

「ふれあいとか、なにそれ怖い!」

「見ず知らずの人間と和気藹々とふれあえるわけないだろ」


 もっともな意見を返された。うん。おれも見ず知らずのこわもてのおっさんとかと触れ合えないわ。あと前世でもそうだったが子供は遠慮をしらないから何されるかわかったもんじゃない。これに関しては納得するほかなかった。


「しかし普通ってどうすればいいんだろうな?」

「改めて考えるとわからないものだな」

「そうですね」


 普通って難しいよな。自分や周囲の常識が一般常識だと思ったら違っていたことなんてよくある。国や地域が変われば考え方も変わるから特にだ。

 ガラス越しにうんうんと頷いて共感していると。


「まあ、常識的に考えて人に迷惑をかけず、嫌悪感を抱かせない程度の常識の範囲内で過ごすことじゃないかの?」


 長老が割り込んできた。

 その場にいた長老以外が目を見開いたまま長老を見て時が止まった。そして再起動とともに瞳をそらして。


『あ、う、うん。そう(ね)(だね)(だな)』


 気まずい雰囲気をかもし出して四人で顔を合わせてひそひそと話す。


「常識を語る非常識。非常識なものほど常識を語るとはよくいったものだな」

「十人十色というように普通も個々人で違うものだ。常識だと語って人に押し付けるものではないな。まったく長老に教えられるとは・・・」

「人のふり見て我がふり直せと言い返してやりたいところだけどね」

「そうね。みんな気をつけましょうね」


 そうだよな。俺も思い込みを人に押し付けないように気をつけよう。ただサマンサさんの雷が落ちてないことからも悪いことは言ってないんだよな。長老だからで人徳ある人が言ったらためになる言葉にも聞こえるし。


「なんじゃきさまら!」


 長老は俺たちの態度にご立腹だ。


「わ、私はタメになりましたよ」


 アリスだけが長老に優しかった。

 口元でぎゅっと両拳を握り締めて強調する姿がかわいい。


「アリスぅ~!」

「抱きつこうとするな!」


 パンッ!

 感極まったキモイ泣き顔の長老がドサクサに紛れてアリスに抱きつこうとしたのを平手叩き打ちで阻止した。


「は、早すぎて見えなかっただと!?」

「なんてツッコミの速さだ!」

「アッシュのツッコミは百八式まであるぜ」

『なんだって!?』

「ジュネさん。うそ言わなくていいですから」


 驚く二人を余所にジュネを嗜める。こうやって誤解が広まっていくんだろうな。


「おいおい。君はヌンサ(理不尽)なんだぜ?すべては理不尽なほどにいくらでも真実になるのさ」


 ジュネさんの言葉は後で真実になる気がするから厄介だ。


「そういえば挨拶がまだだったな」


 急に思い出した二人が自己紹介をしてくれた。


「俺はバンドウイルカのヌンサでガレス。化学系錬金術を嗜んでいる。隣にいる筋肉シャチを黙らせるためにメントスキャンディとコーラが必要なときは声をかけてくれ」


 メントスキャンディコーラが必要な状況がわからない。


「私はシャチのヌンサでビギナ・ギナだ。肉体強化特化の魔法剣舞士だ。そこの本体眼鏡を殺したい場合は声をかけてくれ」


 こっちも物騒なことしか言わない。混ぜるな危険要素を感じる二人に俺も挨拶を返そうとしたら。


「こやつはツッコミの合いの手で合手(アッシュ)じゃ。名前のとおりのやつだと思っとくれればいい」


 長老がシャシャリ出てきた。


「その紹介やめろ!」


 パーン!

 いつの間にか山田くんに渡されたハリセンで長老を叩き飛ばした。

 ぐるぐると回転しながら転がり飛ぶ長老を見てガレスとビギナは『なるほど』と納得するのだった。


ふと思いいたったので久し振りに投稿(/ω\)マイペース過ぎる

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