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勇者御一行と俺。  作者: あんる
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続いちゃいました。




転生、というものを君は信じるだろうか。


俺は信じているつもりも信じていないつもりもなかったけど、実際この身をもって体験してしまっているため、否定は出来ない。


前世で俺は魔法とは無縁の世界にいた。

もちろん、勇者だとか魔王なんて存在もなくて。

平和な世界だった。


魔法があったら、なんて異世界の小説が溢れる世界だった。


だけど、まさか。

俺がその世界に生まれ落ちようとはね。







「騙していたのか、俺らを」


ギリっと奥歯を噛み締める音が聞こえてきそうな程、こちらを睨み付けているクラディウス。


「騙してないよ。魔王か、なんて聞かれなかったし」

「そういうことじゃねえ!!なんで俺らと行動したんだ!?」

「だって面白そうだったから」


なんでと言われてもそれに尽きる。


「それは、僕達を騙すことが?」


怒り心頭のクラディウスの隣から前へ出て、続けるのはロイ。


「だから騙してないって。勇者という存在に興味を持ってたし、たまには城の外にも出たかったからさ」

「ルイス……あんたは本当にそれが理由だっていうの?」

「うん、そうだよ。実際、楽しかったしね」


俺の言葉にエルミーナは複雑そうに顔を歪めた。


「君、本当に魔王ですか?」


皆、その言葉を発した人物、ユーウェンに視線を向けた。


「おい、人間。発言に気を付けろ」


唸るように鬼の少年がユーウェンに殺気を飛ばす。


「ギオ、やめろ。ユーウェンさんが疑問に思うのも無理ないよ。だって俺、魔族っぽくないし。


それに、人間だしね」


ユーウェン以外が驚いたようにこちらを向く。


「ルイス様!なんでこんな奴ら庇うんだよ!!さっさと殺っちまえばいいだろ!?」

「ギオ、勝手なことするなよ?」


少しだけ厳しい視線を投げれば、ギオはうっ、と言葉を詰まらせ、ぶすっと不貞腐れて横を向く。


「どういうことだ?お前、人間の癖に魔王なのか?」


ギオから鋭い殺気が飛ばされ、レシアも冷たい視線をクラディウスに投げている。

まぁ、確かに今の発言は二人には不愉快なものだろう。


苦笑しながらもクラディウスの質問に答える。


「まあね。魔王として生まれたのがたまたま人間だったってだけだよ」

「そんなことあるのか」

「あるよ。色んな種族が魔王をしてきたし、その中に人間がいたっておかしくないでしょ?」

「じゃあなんで人間を苦しめるの!?」


エルミーナが泣きそうな顔でこちらを睨む。


「別に人間だからってわけじゃないよ。国同士のいざこざなんてどこでだってあるでしょ?そこに種族の違いとかで違う理由を挙げたりすることもあるけど、基本、隣の芝は青いってね」

「だが、お前らは俺らを襲うだろう!」

「それ、逆も言えるんじゃないかな?」


苦虫を潰したような顔をするクラディウス。


「それで、貴方は一体何がしたいのです?」


ユーウェンがいつもの笑みを消し、無表情で俺を見る。


「何がって?」


こてん、と首を傾げて訊ねる。

その様子にユーウェンは眉間に皺を寄せた。


「私達を殺すつもりなのか、そうでないのか、です」


そんなユーウェンの言葉に、俺はふう、と息を吐く。

俺の何気ない一挙一動に皆は神経を張り詰めて見ていた。


「なんでそんなことしなきゃいけないの?」


理解出来ないと言わんばかりに、そんな疑問を投げれば、ユーウェンはますます眉を寄せた。


「ならば、何故魔王なんかしているのです?こんなところで魔族の王なんてものをする必要は……」


その刹那。

ガンッ、と鈍く大きな音が響く。

ギオが刀でユーウェンへと襲いかかり、ユーウェンが魔具で対抗していた。


「ユーウェン!!」


エルミーナがすかさず援護に入ろうと魔法を放つ。

渦巻く風がギオを取り込もうとするが、その前に距離をとっている。

風に取り込まれていたら、その身は切り傷でいっぱいになっていたことだろう。


両手で刀を上段で構えるギオに、ユーウェンを始めとする全員がすぐに動けるように戦闘態勢に入っていた。


「勝手なことをするな、と俺は言ったな?」


床からまるで蔓のような形に変形した石がギオを足元から拘束し、足を、腹を、腕を、首を、締めあげる。


「うぐぅ!があっ、あぁ!?」


もがくギオは徐々に動かせる部位を失っていく。


俺は苦しむギオの前まで歩いていく。

その間、ロイ達は俺を警戒してその態勢を崩すことなく伺っている。


「ギオ、俺の言うことが聞けるよね?」


覗きこんで聞けば、苦しそうなギオは呻くことしか出来ないが、必死に首を縦に振ろうとしていた。


「ったく。お前の悪い癖だよ。その短気なところ、直してよね」


膝を着いて、息を整えるギオを見下ろしながら、呆れたように言う。


「まあ、怒ってくれることは嬉しいけどさ」


複雑そうな顔でこちらを見上げたギオは、やはり不貞腐れた表情で下がった。


さて、とロイ達に視線を移せば、そこには相変わらず警戒している勇者達がいた。


「今の、なに?土属魔法ではないよね。床石の変形って……」

「いや?土属魔法だよ。石も結局、土だからね。ただ土を変形させるよりも難しいけど」

「それにしたってあの速さでの変形は」

「それは慣れだよ。特にここの部屋は俺の城の中でもよく魔術を使うところでもあるしね」


難しい顔でエルミーナがこちらを見つめている。


「魔術が使えること、隠していたのか」

「隠してないよ。使えとは言われてないし」

「……それで通すつもりか」


先程と同じような応酬をする俺とクラディウス。

じとり、と睨むクラディウスに俺は苦笑した。


「まあ、その方が都合が良かったし。魔王だなんて言っても信じてくれるかもわからないし、急に襲い掛かられても嫌じゃん?魔術だって使えることがわかったら皆怪しむでしょ?それに俺は見た目子どもだから、ミーナに拗ねられても困るし」

「拗ねないよ!」


反射的に答えたのだろう、はっとしたエルミーナは口を噤む。

ミーナとはエルミーナの愛称だ。

彼女がそう呼ぶことを望んだから、そう呼ぶようにした。


「実際は子どもじゃないのか」

「精神的にはそうとは言いづらいかな。でも生まれて12年ってのは本当」


少年、というべき外見である。

前世では成人していた記憶があるので、精神まで子どもだとは思いたくない。

ちなみにギオは俺と同い年。


「ねえ、ルイス。俺達を殺すつもりはないんでしょ?じゃあどうしたいの?俺らにこのまま帰れって言ってるの?」


それまでずっと静観していたロイが口を開いた。


「うん。俺を倒すのが目的なら戦うけど、殺すつもりも殺されるつもりもないし、じゃあ帰るかーでいいと思うよ?あ、でも良かったらうちの国観光してく?うち泊まってく?大歓迎だよ!」


にっこり笑ってそう言えば、クラディウスとエルミーナは唖然としているし、ロイは腕を組んで悩み、アリアは困った様子で頬に手を当て、ユーウェンは頭痛がするといわんばかりにこめかみを抑えている。


レシアは相変わらず無表情で何考えているかわかんないが、ギオは思いっきり嫌そうに顔を歪めた。


「ダメ?」


皆を見渡して、首を傾げる。

だってさ、別に良くない?

俺は勇者御一行を気に入ってるし、彼らだって俺が魔王と名乗るまでは良くしてくれていた。


「ダ、ダメに決まってるだろ!?お前は一体何を考えているんだ!!」


気を取り戻したクラディウスは馬鹿か、と俺を怒鳴り飛ばす。


えー、いいじゃん。


一番、ノってきてくれそうな人に照準を定める。


「ね、ロイだって観光したいよね?人の国にはないものもあるよ!ね、うち泊まっていってくれるでしょ?」

「うーん、まあ珍しいもの見れそうだよね」


竜に育てられたロイは固定概念がない。

魔王だから、魔族だから、なんて人間達の悪意で染め上げられたイメージからは恐らく一番遠い人間だろう。


「アリアさん、人の国では手に入らないお茶とかもあるよ?他にも魔獣だけど、ふわっふわで可愛い生き物とかいるんだよ?見たくない?」

「まあ。それは、気になるわ」


ふんわり、と微笑むアリア。

彼女の趣味はお茶を淹れて、嗜むこと。

あと可愛いもの好きだから、子どもとか動物とかついつい可愛がっちゃう人。


この二人をこちら側に傾ける。


ユーウェンとエルミーナも好奇心の塊だ。

警戒はするだろうが、この二人がいいというなら付いてくるだろう。


問題は、一人。


「おい、まさか本気じゃないだろうな?」


凄むクラディウスに、ロイが宥めるようにまぁまぁと言い、アリアは困ったように笑う。

ユーウェンとエルミーナはまだ悩んでいるようだ。

いや、エルミーナは気まずそうにしているということは、既に気持ちはこちら側にあるのだろう。


「嘘だろ?あいつは魔王だぞ!」

「確かに魔王だけど、俺はみんなに危害を加えた覚えはないよ」

「はっ、馬鹿にしてんのか?何考えて俺らといたのかわかんねぇけどな、騙されるとわかってて突っ込んでいく奴がいるかよ!」

「だから騙してないし、騙すつもりもないよ!」

「うるせぇ!魔王だってこと黙って俺らといたってことが既にそういうことだろうが!」


言い争う俺らに、今にも飛び出しそうなギオと静観するレシア。

ロイは城の中を見渡して、アリアは俺らを見守っている。

エルミーナはあわあわとクラディウスと俺を交互に見、ユーウェンはギオとレシアを観察し始めていた。


むう、と黙る俺に、クラディウスはふん、と鼻を鳴らす。


なんて大人気ないんだ!


「わかった、わかったよ!じゃあクラディウスさんはどうしたいの!」

「どうしたいって」

「ダメなんでしょ!観光とかうち泊まるとか!じゃあ帰るの?そうじゃないんでしょ?ってことは何、俺を殺したいわけ?」


ねえ?

そうなの?


そう問いかければ、クラディウスは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「魔王は…っ、倒すべきだ!」

「なぜ?」

「お前がいる限り、人間は平和に暮らせない!」

「なぜ?」

「……っ!お前が!お前らが!俺らを殺すだろう!?愉快そうに殺す魔族を、恐怖で泣き叫びながら殺される人を俺は見たことがある!そんなことが許されるか!」

「……人間もそういう奴はいるよ。魔族にだって、そういう奴もいればそうじゃない奴もいる」


何かを言いたいが、言い返せない。

クラディウスは苦い顔でこちらを睨むばかりだ。


「それに俺を殺したところでそういう奴らが出てこないわけじゃないし、俺が死んでも次の魔王が出てくるよ。例え、魔族が滅んだとしても、人間は平和になることが出来るのかな」


これは、前世からの疑問だ。

世界が平和になる。

そんなものは幸せな奴からの観点だろう。

平和になったとしても金がない奴は飢えるし、人と違うものは排他される。

世の常だ。

そういう者が出ないように、制度を整えることは出来るだろう。

意識の問題だ。


まあ、彼らは俺を殺し、魔族を滅ぼすことでその夢への第一歩になると考えたのだろうが、そんなことをしてもあまり変わりはないんだよ。


「では、皆様。お部屋にご案内致します。お疲れでしょう。湯浴みの用意がございますので、その後私がお食事の部屋へご案内します」


クラディウスが押し黙り、俺がそんなクラディウスを眺め、誰もが声を発せずにいたそんな中。


業務を忠実に遂行するレシアの淡々とした言葉が響いた。


どうやらレシアの中で既に結論は出ていたようです。

流石、レシアさんです。


「あー、確かに疲れたかな。今日のお風呂は?」

「ユベルの葉の湯でございます」

「お、いいね。リラックス出来そう〜」

「陛下は早急に湯浴みをして頂き、執務をお願いします」

「げ。いいじゃん、帰ってきたばかりだよ?」

「どのくらい決済が溜まっているか予想した後の言葉でございますか?」

「……はい」


ちえー、とレシアのお小言を聞き入れながら、ふと視線が集まっていることに気付く。


「え、なに?」

「なんか、ルイスいつもと違う」

「そうね、もっと冷静な子だったような」

「家帰ってきて素が出たのかな?今まで気でも張ってたの?」


俺の問いかけに、上からエルミーナ、アリア、ロイ。

ぱちくり、と目を瞬かせているエルミーナを見て、俺は気恥しかし気に頬を掻く。


「そうかな?自分では変わらないつもりなんだけど」


くすくす、アリアが笑う。


孤児院の子達と照れ方がそっくり。


そんなことを言われて、俺はそそくさと自分の部屋へと戻った。






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