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その存在は胎動するだけだった。

だが、ある時彼の領域に進入した物があった。

それは卵を砕き、中のものをこの世に降り立たせる。

生まれてはいけない物が――




そして彼は翼を広げ、悠々と飛行を開始する。

彼が通る先は夜のない世界を夜に染めていく。

あれは……星か?いや、遠い回線の末端が発するの輝きだ。

星もいつか消えていくだろうに、その存在は笑ってくるくるを飛び回る。

終わりの時が近づいていた。





「大変ですカミタニ主任!モンスピのサーバーの中に不明なプログラムの固まりが!」


「落ち着きなさい、そのくらいいつもあるでしょ?ファジイジャッジのバグの集積じゃない


カミタニはそういってコーヒーを一口飲む。


「そうなんですが……今回はなんと、キャラクター化しています!」


「キャラクター化しようと消せば終わりでしょ?」


「それが……消せないんです。しかもそいつはバグを引きずったまま移動しています。このままではモンスピ全てがバグに覆い尽くされてしまいます!」


カミタニはブハッ、とコーヒーを吹き出した。


「対処法のめどは付いてる!?」


「ごく一部だけですが……それは……」


「それは?」


「中のプレイヤーに倒してもらうことです!」


ガッシャーン


カミタニはズッこけた。


「プレイヤーに頼るなんて出来るわけ無いでしょ?そもそもバグなのよ!同じくバグな位の物じゃなきゃ正常を保てない!」


「先輩、居たじゃないですか……時間加速を凌駕する演算能力を持つ少年が!」


「一般人にゲームの存続という重責を背負わせるの!?いくらなんでもひどすぎる!彼の心もバグに蝕まれるかもしれないのよ!?」


「ですが、それ以外に方法はありません!いまはまだモンスピの鯖内部に収まっていますが、バグがネットワークを経由してよそに広がればどんな惨事が起こることか……」


「……仕方ない、社長に裁可を仰いで。それから電脳緊急事態の発令に向けネットワーク公正管理委員会に連絡するわ!」


「了解しましたー!」




そして社長室、社長は2代目の気の弱い男である。


「カミタニです。入ります」


「あ、カミタニくん……どうしたのかね?」


カミタニはこの上司が苦手だった。決断力のない所が気に入らない。


「モンスター・スピリット・オンラインに内部からしか取り除けないバグが発生しました」


「いつもどおり対処できないのかい?」


「無理ですね。演算加速を使って時間領域をゆがめています。このまま行けばネットワークを通して他のサーバーにも影響を始めるかもしれません」


「なんてことだ」


「つきましては、このことをネットワーク公正委員会に連絡致します」


「!?待ちなさい!!公正委員会は駄目だ、我が社の評判に傷が!」


「しかし問題は抜き差しならぬところまで迫っています


「うぐぅぅぅ……問題が、ゲーム全てが汚染される直前ではダメかね?」


「そんなことしたら顧客のキャラデータが全て吹っ飛んでしまいます!!それに、公正委員会でも納められるか解らないのに、最悪は電脳カタストロフが起きます!」


「だめかなぁ……」


「駄目です!」


「だめかぁ……じゃあ良いよ、もういいよ。公正委員会に連絡してよ」


「了解!」


そして、バグとの戦争が始まる。





俺達は噴水前広場にいた。

特に示し合わせたわけでもなく、ミミさん、ダイスケさん、先輩までそろっている。


「今日はどこに狩りに行く?」


「そうだなー」


俺達は雑談しながらとぼとぼ歩いていた。

そのときである。

俺は光の輪に包まれて、体が消えだした。


「お、おい!なんだそりゃ!」


「UFO!?聞いたこと無いわよ!?」


「大丈夫っすGM呼び出しっす!」


そして俺は殺風景な事務室に呼び出されたのだった。




「こんにちは、ライト君」


カミタニさんと会うのはこれで二回目だ。


「うっす。以前はお世話になりましたっす」


「今回は単刀直入に言うわ」


「また自分がエラーを起こしたんすか?」


「そうでないとも言える、そうであるとも言えるわ」


「へぇ」


「今度生まれたバグわね、キャラクターの形をしているの」


そして見て頂戴、とカミタニさんが言うと、空中に画像が表示された。


角の生えた頭部、長い口、甲殻質の体、それらは全て黒い!

こいつは…………


「サーペント・ドラゴニュート……」


「そうこいつはこのモンスターの姿をとって、どんどんゲーム世界の浸食を開始しているの」


「浸食?」


「そう、この世界に夜はないでしょ?でも奴が通った後は夜のようになる。と、言っても夜ではなく、浸食されて表示が消えた状態なんだけど……」


「そのぽつぽつ星がきらめいてるのはなんすか?」


「……多分だけど、ネットワーク上で繋がってる空間への道だと思うわ。奴がここに入ったら……」


「恐ろしいことになるっすね」


「いま、ネットワーク公正委員会が動いてるけど、奴を止めるには時間が掛かるわ。それまでには少なくとも、このゲーム世界は無くなるでしょうね……」


「そりゃあ許せないっす!……でも何で自分が呼ばれたんすか?」


そしてカミタニさんは一拍置き、大きくため息をついて口を開いた。


「……このバグが存在するのは、あなたの行動のせいです」


「えっ、ええーーーっ!!」


「前にあなたは、時間加速演算を超えて思考を行ったでしょう。そのときの演算結果がバグとして処理され、バグだまりに入り、ああしてキャラクターの形をとった、と私たちは推測しています」


「……つまり、自分の責任なんすね……」


「そう気負わないで、あのモンスターが出来たのは私たちのミスのせいよ?」


「そうはいっても……」


「そして、ここから先があなたに話す大事なことなの」


「……なんすか?」


カミタニさんは髪をかき上げ、俺は唾をごくりと飲んだ。


「あのモンスターは、時間加速のシステムそのものに介入できます。ですから、一般のキャラクターはほぼ止めることが出来ます。そうすれば一方的に、あのドラゴニュートの力で蹂躙されるだけです」


「……倒せるのは、コンピューターに勝てる自分、だけっすか」


「あなたには拒否権がある。必ずしもあのモンスターと戦う必要はないわ……だって、あなたの脳でPCの言語を扱う行為をするのだから、万が一死亡すればあなたの脳に何が起こるか……」


「………………いえ、戦うっす。武士道とは死ぬことと見つけたりっす!!」


心は決まる。今時命を賭けて戦えるなら、それも本望だ。


「ふふっ、あなたもやっぱり武士なのね……」


「うっす!」


「ではあいつに対抗する手段として、可能な限りのサポートを上げましょう」


「どんな感じすか?」


「まず、装備を調えましょう」


「革鎧なんか欲しいっすねー」


「あのドラゴニュートにはそれは無意味よ。その代わり可能な限り全ステータスを上げる指輪を出すわ」


そしてダイヤモンドの指輪が机の上に生えてくる。


「おお、これがそういう指輪っすか」


そして俺は指輪を左手の中指にはめた。


「これだけは、変身してもなくならないわ。変身してみて?」


俺はジャッカロープに変身する。すると左腕には指輪がはまっていた。


「位置や大きさも調整してくれるんすね!」


「あとは少しの間ならしをしててね?」


「うっす、あ、これ付けた状態のステータス見てないっすね」

俺はヒトに戻ってステータスを見る。



ライト ヒト・ソウル

強さ:人間を完全に超えた。


身体:神速。

精神:無敵。

魔法:自我速度制御。


所持スピリット

ヒト・スピリット

ゾンビ・スピリット

ジャッカロープ・スピリット

レッサーオルトロス・スピリット

レッドドラゴン・ドラゴニュート・スピリット


所持ソウル

ソコラビット・ソウル×2

マンキー・ソウル

フォレストビー・ソウル



なんかすごいことになってるー!?

GM権限でステータスを覗き込んだカミタニさんも、これは…と驚いていた。


「レッドドラゴン・ドラゴニュートスピリット、ってどこで手に入れたの?」


「森で出会ったちびのドラゴンがくれたっす」


「そんな……あのレアモンスターがなつくはずが……」


「最初出会った時怪我してたんすよ、それを治してあげたらどうもある程度なつくようになったっす」


「そんな……予想外だわ……でもいいえ、これでサーペント・ドラゴニュートへの対抗策が出来たわね」


「しかし鱗装備してないのに何でっすかね。あ、化球の材料に混ぜてたか」


「刀の材料って……つくづく規格外ね」


「うっす」


「じゃあとにかく、あとで内の車がそっちに行ってあなたを連れて行くから」


「何でっすか?」


「あなたの脳が先回りしてもエラーを起こさない機器を用意するためよ」


「そうっすか……その前に、みんなに挨拶していって良いすか?」


「もちろん、でも、慣らし運転も忘れないでね?」


そして俺は光に包まれ、元の場所へと戻った。

みんなは律儀にも様々なことをしながら待っていてくれた。


「って先輩!ダイスケさん!こんな所で構えるのは駄目っすよ!!」


「ぬぅ」


「いいじゃねーかよぅ」


そして二人は構えを解く。

横でメイとミミさんがもうどうにでもして、という顔で疲れていた。


「ところでみんな、話があるっす」


俺はかしこまって仲間内を集め、小さな声で言った。


「このゲームは現在、機材のバグに寄り、滅びかけっす」


「何!?」「どういう事!?」「……」


「…………それは、あなたに関係しているのね」


みんなが驚く中、メイだけが静かに呟く。

たった6日だけど、ずいぶん長いつきあいの気がする戦友には解って貰えたらしい。

そして見上げたメイの顔は、母親のように優しかった。


「うっす。じぶんの責任っす。ヘタしたら全ネットが危険にさらされるとんでもない事態っす」


「何か他の対策はないの?」


「……一番確実なのはきっと自分っす。命を賭けてでも、あいつは止めなきゃ行けない……例えゲームでも、自分の尻ぬぐいは自分でしたいっす」


「はぁ、良いわ。行ってらっしゃい。武士に二言はないんでしょ?」


「うっす!」





優しい笑顔に見送られながら、俺は体の慣らし運転に出る。


で、驚いた。


飛び跳ねれば家をひとっ跳びにてまだ余る。

剣を振るえば衝撃波が出、はしっても衝撃波が出る。

しかしそれもしばらくすれば慣れてきた。

思考を加速すれば普通に走るのとそう変わらないからだ。

そして時にモンスターを倒し、木々の間を跳ね回り、町に宙返り半身ひねりを繰り出して着地したとき、VRギアからの警告が響いた。

どうやら時間が来たらしい。


そして俺がログアウトすると、家の前にスーツを着た男達が居る、とかーちゃんが声を上げた。


「大丈夫だよ、かーちゃん。俺の迎えなんだ」


「何をしたの?怖いこと?不正?ついに人を斬り殺したの!?」


「ははは、そんなことしないよ。ただ……最後になるかもしれない」


「えっ、ちょっと!待ちなさい!」


「母ちゃん。俺は武士だ。そんな身分じゃなくても、心の中は武士なんだ。解ってくれよ」


「……本当に……しょうがない子だねぇ……」


そういってかーちゃんは俺を一度抱きしめた。

しばらく、末期の包容が続く。

そしてかーちゃんに解放された時、俺は命の取り合いに歩き出した。


「初めまして早瀬明雄っす」


スーツの男に挨拶すると、彼は柔らかい口調で答えた。


「お噂はかねがね。伊藤と申します。ささ。時間が惜しいので早く」


「うっす」


そして黒い車に乗り、俺達は30ぷんほど走った」




……これは……ネットワーク公安委員会のビルだ。

立派な造形は金がかかっているのを解らせる。

そして俺は中をしばらく歩き、小さな部屋にたどり着いた。


「ここにVRのマシンがあるっすか?」


「そうです。ここからログインして戦ってもらいます」


「うっす」


「入る前にブドウ糖をどうぞ」


そして室内に居た女性がトレーを持って、ラムネっぽいものを差し出してきた。

俺はそれを幾粒か食べ、これが末期の飯にならないことを祈る。

そして半ベッド型のVRマシンが動き、俺はそこに腰掛けた。


「システム正常!」


横ではスーツの人たちがモニタリングを開始している。


「リミッター解除確認!」


なにやら物騒な事も聞こえた。

そして頭の前にめっとが降りてくる。

これでダイブだ。



……未練は、ない。



クライマックスに入って参りました。

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