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鉱石を採掘しに洞窟に入るにあたって、俺はゾンビに変身した。

アンデッドなら夜目が利くかもしれないし、呼吸もしていないからガスも怖くないだろう。

俺がゾンビになるのを見たミミさんもゾンビに変身し、ピッケルを構えて付いてきた。

多分同じような考えなんだろう。


「いやぁー今までゾンビだと便利そうだなって思ってきたけど、ゾンビで採掘に行ける日が来るとはね!」


ごぽ、と口の端から粘液を出しつつミミさんが笑う。

他人がなるゾンビって意外と嫌なんだなぁ……

そんな気分の問題はさておき、問題はメイである。

彼女だけはゾンビになれないし、かといって放っていくわけにもいかない。


「メイはどうするっすか?」


「あー、私そんなに深いところに行かないでサポートしよっかな」


鉱石を運び出す役目も必要そうだし、と言う。

それを聞いたミミさんは鞄から折りたたみの背負い袋を出し、カンテラと一緒にメイに渡してくれた。


「ありがとっ。じゃあ行きましょ」


そして俺達は洞窟に潜るのだった。





洞窟の中は意外と広い。

そしてうっすら湿っているようだった。

思ったより物がしっかり見えるのが助かる。流石ゾンビだ。


「なんか気配があるっすねー……ちょっとうるさい?」


俺はきょろきょろを首を振って音?の出所を探る。

するとミミさんが訝って俺に声を掛けた。


「……なにきょろきょろしてるの?コウモリなんかはたまにいるけど……」


なるほど、それの気配か。

音?はそいつらの笹鳴きかもしれない。すごく高い音なんだろう。


「いや、多分コウモリっすね。音が聞こえたもんで」


「……どういう耳なの……?」


「なんか聞こえるもんで……」


次の瞬間、俺は、あ、と気が付いた。

耳で解る生き物になればいいじゃないか。


「ちょっと変身します」


「え?うん」


「何に?」


言うが早いか俺はジャッカロープに変身して耳を澄ませる。

すると視界は真っ暗になるが、音の反響で驚くほど鮮明に回りの状況が理解できた。


「……いる……いるっす。そっちを左の奥に曲がっていくと、コウモリの群れが居るっす」


「……ウサギの耳ならそのくらい聞こえるのね」


じゃあ右に行きましょう、と言うミミさんに俺は続けて言葉を返す。


「えーっと……右の奥……にはなんだろう……下を流れる水の音?がするっす」


「そう、地下水脈に繋がってるわね。この場合気を付けるべきことは?」


振られたメイは少し困って口を開いた。


「えぇっと、水……だから、鉄砲水が来るかも、とか?」


「それもないとは言えないっすが、もっと怖いのは落とし穴っすね」


「落とし穴?」


訪ねるメイに俺は続ける。


「地下水脈は文字通り地面の下を通ってるっす。んで、洞窟は地面の下だから、水とギリギリ接触するかしないかの空間なんすね。すると、地面の一部には水に浸食されて薄くなった場所がある可能性もあるんす」


文字通り、落とし穴。踏んだら地下水脈にご招待という場所があるかもしれない。

しかしこんな地形でよく石炭や鉄鉱石が出る物だ。いや、逆に出やすいのかな?自分、詳しくはないけれども。


「はい正解。そこまで深くには行かないけど、足下はちゃんと確認しながら歩くのよー」


「「はーい」」




「だいたいここら辺が鉄鉱石の鉱脈ねー……」


夜目が利くと楽だわー、とミミさん。

実際、白黒に近いが岩の凹凸や遠近がしっかり見えている。


「まだ大して歩いてないから持って帰るのも楽そうね」


カンテラを掲げながらメイが言う。

メイは光の範囲しか見えていないだろうに、と思ったらメイがこんな事を言い出した。


「私……あんまり光要らないかも。この明かりだけで洞窟の凹凸とか見えちゃってるのよね」


なんと。

あ、そういえば。


「そういえばエンプーサって夢魔……とか言うのじゃなかったすか?」


「ああ!夜の魔物だから夜目が利くのね!」


ここで発覚する便利な事実。夜がないから解らなかった。

しかしエンプーサって高性能だなぁ。ヒトの上位互換って感じだ。


「ずいぶん便利なスピリットね。どうやって手に入れたの?」


「キャラクリエイト時に付いてきたんです。理由は謎で……」


「ふーん?エンプーサ……ねぇ。エロいからかしらね、フフッ」


ミミさんは言うが早いかガッ、とメイの尻たぶを掴んで笑う。


「ひゃぁあっ!?」


捕まれたメイは悲鳴をあげて飛び上がった。そりゃ当然だ。


「な、何するのよ!!」


そうだ、俺もしたいんだぞ。


「何ってーメイちゃんがエロいからつい」


ミミさんはそういって指をワキワキさせる。けど……


「ミミさん。ゾンビ状態でやるとホラーにしかならないっす」


「しかも微妙にぬめるから触られ心地が気持ち悪いのよ!」


「あ、それは普通にゴメン……」


ゾンビに撫でられるのは確かに嫌だなー。




と、いったじゃれ合いはともかく。

俺とミミさんはピッケルを振るって壁から鉱石を掘り出す。

さび色っぽい重い石がそれらしい。

素振りの気分でざくざく掘り進めると、あっという間にメイの鞄いっぱいに石が溜まった。


「早いねー」


「ゾンビだと力が強いのもあるっすけど、反動の痛みや疲れがないってのもあるっすね」


「ゾンビ様々ね、じゃあ私は外に鉱石を置きに行ってくるから」


運び出した鉱石は洞窟の入り口付近の所に積んでいってもらう手筈だ。


「コウモリに気を付けるっすよー」


「はーい」


返事もそこそこに、メイは軽やかにステップを踏んで足場の悪い洞窟内部を駆け抜けていった。

本当、機動力もあって便利なスピリットだ。

でも俺にあの角と羽が生えている様は想像したくもないので、やっぱり人を選ぶんだろうな。


「で、あの子の事、どーなのよ?」


と、隣でピッケルを振るっていたミミさんが急にそんなことを言い出した。


「どうってなにっすか?」


あまずい微妙にうわずった。


「なにってーナニがナニよー」


男と女でしょー?とか言われても!


「メイとは組んで三日目っすよ!?まだパーティーも固定してないっす!!」


「ふーん、ま・だ、なんだぁ?」


ミミさんは腕を組んでこちらに圧力を掛けてくる。

胸が!胸が!


腐りかけてて醒めるっす。


「ミミさん、ゾンビで迫るのは普通にキモいのでやめてください」


「……ゴメン、私もちょっとキモかった」


ゾンビ、つらい。




「で、これ石炭鉱脈っすね」


見るからに黒くてぬめるような光沢のある鉱石の層が見て取れる。

石炭で間違いないだろう。


「どんどん掘っていくっすよ!……ん?」


で、ピッケルを突き入れた傍の地層にふと目がいく。

真っ白な地層だ。


「ミミさーん。この白いのって石灰っすよね」


「そうね、水脈に浸食されて出来た洞窟みたいだし、元々多いんでしょうね」


「ふーん、多いんすか」


じゃあ、と思い当たるところがあり、俺は石灰石も多少集めることにした。


「ふふふっ、詳しいのね」


「基本、先輩の受け売りっす」


「先輩って、ケンの事?」


ミミさんは少し意外そうな顔をして言う。


「あ、やっぱ意外っすか?まぁ先輩人付き合い悪いっすもんねー」


「そーなのよ、自分は武士だーとか、たまに本気で言ってる気がしてね」


ああ、脳裏にありありと浮かぶ。肩で風切って竹刀持ってる。……いつもの剣先輩である。


「多分、本気っすよ……」


3年前の病気がまだ治らないまま、他人が認める領域まで至ってしまった人だから……


「あんたも苦労するわね……でも受け売りって?」


「暇な時間、武具の材料からできあがりまでを楽しそうに講釈されたっす」


スウェーデン鋼の青みが良いだの和鉄の赤みが良い触ったら暖かみがあるだのはそうそう聞く台詞じゃないと思う。


「あぁ……それ私もされたわ……」


「良かったっすね、友達認定っすよ」


俺以外あと一人しか聞いたことないし。


「おーい」


と、言ってたらメイが帰ってきた。


「良かったのかなぁ……」


「良かったんじゃないすか?」


「なにが?」


「まぁ、ナニっすよ」


「ナニって、なによ」


暗闇の中で意味のない会話が続く。

それはさておき。


「ともかく、この石炭の山を持って帰ってそれで終わりっす」


「おぉ、やっと終わりかぁ」


「メイにはしんどい思いさせたっすね」


「メイちゃんは働き者だからねー、お嫁さんにする人が幸せだよー」


「ゲームでなきゃこんなに動かないって」


ミミさんのからかいにもメイは動じず笑って流す。

まぁ、俺もゲームだと思うからこんな労働も楽しんでやれたりしてる面もある。


「さ、これ積み込んで帰ろ」


と、言ったメイの手に、俺はそっと手を重ねる。


「え、ちょっ!」


「おおっ!?」


しー、と指を立てるジェスチャーをした。


「……」


「ーっ……」


「な、なにかな?」


瞬間、俺はジャッカロープになり、次いでヒトになって確信した。

ブワッ、と毛穴全てから汗が出る。


「なにか、なにか馬鹿でかい物が昇ってくる!」


「「ええーーっ!?」」


「走れ!」


言うより先に俺はオルトロスに変身。

片方の首でミミさんの襟を噛み、尻尾でメイを巻きあげて走り出す!


「ちょっ、まっ!!」


「うぉおおおはやぁあああ!!」


ミミさんがゾンビの力で首っ玉に抱きついてくる。

メイは全速力で走っているようだが、俺の速度には追いつかないらしく岩に叩き付けられないだけで一杯なようだ。

しかしこの殺気の前にはどちらも構っている気にはなれない!

ひたすら逃げるしかない!!


「「アオォォオオオオオンッ!!!」」





ドドドドドドドドッッ!!!!


後ろからは爆音が追いかけてくる。

そして殺気が俺を追い越していく!


絶叫する二人を乗せた俺は無我夢中に走り、洞窟の分岐を外の空気の臭いだけを頼りに駆け抜けていた。


だが……



逃げ切れない!!



俺は視界に飛びつくコウモリを牙で跳ね飛ばし、分岐の向こうの広間に辿り着く。

そしてそこは……行き止まりだった。


「そんな……」


確かにそこは外に繋がっている、が、切り立った垂直の壁に阻まれ、駆け上がる事などままならない。


「「うぇぇ……」」


二人は吐きそうな顔で目を回している。

こうなってはもうどうにもならない。

ただ、立ち向かおう!


そして俺はゾンビになって二人を背し、ピッケルを構えた。


「二人も構えてください!」


「おえ、解った!」


メイは一足早く立ち直って脚を構える。

そしてへたり込んでいたミミさんはヒトに戻って叫ぶ。


「ちょ、まっ!まって!これ使って!!」


瞬間、後ろから投げられた物を俺は反射的に掴む。それは1mほどの西洋剣だった。


「有り難く!」


そして俺が正眼に構えた瞬間、それは訪れた。


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