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もう1時間は経ったろうか、たき火を囲んで薬草と痺れ草を集めていた俺の耳朶に、ぽちゃんという水音が届く。

バッとそっちを向くと、一匹の、60cmほどの蛙が水面から出てくる所だった。

緩んでいた!こんなに近くまで気付かないなんて!


「ッ!多分アシッドフロッグっす!」


「え、え!?」


メイの方も少し弛緩していたのだろう、驚いて飛び上がり、そこら中を見回す。

その隙を逃すようなかわいげのある蛙ではない。


『ゲェコ!』


弾丸のように飛びかかる蛙を俺はギリギリ回避する。

が、蛙も然る者ですごい粘着性の舌がいつの間にか俺に張り付いて居て、その勢いで引き倒されてしまう。


「イテテテ!」


素肌に張り付いていた舌は酸でも纏っているのだろう、ぴりぴりと痛む。


「そこぉ!」


『ゲッ!』


メイが跳び蹴りを掛けると、蛙は毒霧?を吹き出して対抗した!


「きゃぁー!!」


「クッソォ!!」


俺は毒霧にも構わずテブテジュを突き入れる。

手応えあった!

そして剣を引き抜くと……まずい!先端が溶けている!


「体液は強酸性っす!気を付けて!」


とは言った物のメイは責めあぐねて距離を置いている。

いや、寝ているドラゴンを守るように立っているのだ。


『ゲコッ』


そして飛び跳ねる蛙の一撃がメイを強かに打ち付ける。

何とか跳ね起きた俺は、もう一度テブテジュを構えて蛙を打ち据えた。


バキッ!


そして溶けかけたテブテジュは力に耐えきれず折れてしまう。

だが蛙は俺に向かってきた!

俺は折れた剣を片手で持ち、添えるように左手を伸ばした。


『ゲコォ!』


「イィイイヤァアア!」


跳びはねる蛙の口に、満身の突きがえぐり込まれる。

蛙は声もなく一度びくん、と痙攣すると、そのまま動かなくなった。




そんなこんなで、俺達は結構長い時間をたき火の周りで過ごした。

間いくらかの敵が襲ってきたが、何とかなっている。

アシッドフロッグはナイフまで溶けてはかなわないので、解体も出来ずにそのままだ。

と、そのとき、赤いドラゴンがもぞもぞ動き出した。


「お、目が覚めたみたいっす」


俺は一応ナイフを手に身構えておく。

と、メイがドラゴンに近寄っていった。


「もう大丈夫よーほら怖くない」


そういって魚の串焼きを手に近づいていくと、ドラゴンは匂いに反応したのかふんふんを鼻を動かしてこちらを見る。

そしてパクリと串焼きに噛みついた。


『みゅーっ』


ドラゴンはそのまま旨そうに串焼きを齧り続ける。

どうやら飯を食えるくらいには回復している様だ。

生命力の強いことで。


『きゅう!』


ドラゴンは一鳴きして串焼きを食べ終える。

どうやらもっとと言っているのではあるまいか。


「しゃーないっすねー。ほら」


今度は俺が串焼きを取って食わせてみる。

するとドラゴンはまたも食いついてきて、ばりばりむしゃむしゃとあっという間に平らげてしまった。


『きゅう!!』


どうやらもっと欲しいらしい。

次いでメイが串焼きを差し出すと、それもまたあっという間に平らげる。


「大食いねぇ」


『みゅう?』


その後もどんどんほしがるのでとりあえず与えた。

串焼きが無くなる頃にはドラゴンも満腹にになったのか、ひっくり返っていびきを立て始める。


「のんきなもんっすねー」


「特殊な行動をするレアモンスターなのかしらねぇ。このゲームってテイミングってあったかしら?」


無かったと思うが、メイは出来れば仲間にしたいと言う切なげな顔をしていた。

やめて、ちょっと心が揺れる。

でもこのゲームのモンスターがヒトの管理下に置かれる事は多分ないのだ。

野生動物は野生に返すように、このドラゴンとも分かれるべきだろう。


「テイミングは多分無理っすよ、次会ったときは敵かもしれないんす。あんまり情を持たない方が……」


『みゅう』


言うが早いか、起きあがったドラゴンはぐーっと伸びをすると、こちらに一声を掛けて向こうに行ってしまう。


「あっ!まって!」


メイ画素の後を追うので俺は仕方なく後を追うことにした。

が、走り出したドラゴンがかなり俊敏らしく、視界の中を飛び回る赤い影はどんどん遠ざかっていく。


「あきらめるっすよ。奴には野生がお似合いっす」


「うぅー……」


そうしてメイが後ろ髪を引かれつつ、俺達ははじまりの町へと戻る事にした。




「気を取り直すっすよ。いつかアレに変身出来るようになったりすればいいんすから」


「それ根本的な解決になってないー……」


しょげるメイを励まして、俺達は町に入った。

そういえばミミというヒトが剣のことについて知っているはずだ。


「自分の剣なくなっちゃったんで、新しいのが欲しいんすよね」


せっかく作ったのにあっという間の寿命だった。


「あー。剣がないとヒトでの戦闘が難しいもんね」


「っす。南で露店してるミミってヒトが鉄の剣について詳しいって先輩に聞いたんすけど……」


またテブテジュを作ってもいいがどうせならという感もある。


「ふーん、ヒトってことはプレイヤーか。生産職みたいなのかしら?」


そして俺達は露店街に入り、ミミとおぼしきヒトを探していた。

すると前から口論が聞こえてくる……


「このゲームに武器なんかいらねーっつってんだよ!スピリットがありゃなんとでもなんだろうが!」

「はぁ!?武器を使いこなしてこその人間でしょうが!だいたいスピリットに変身しても武器を使う事だってあるでしょ!」

「装備が反映されないのにそんなもんあるか!だいたいスピリットで武器を使うなんて器用な真似出来るわけねーよ!」

「そりゃあんたが出来ないだけでしょ!」

「んだとぉー!?」


茶色い髪の青年と、緑の髪をした小さくて一部の大きい少女が口論をしていた。


「ちょっといいっすか。何を口論してるんすか?」


少し聞き捨てならなかった俺は、人だかりの中を割り、冷静に二人の間に割って入る。

メイの方は俺の動向を見て、という感じだ。


「なんだお前!関係ないだろ!!」


「こいつが武器の事を馬鹿にするから教えてやってんのよ!武器がどんなにすばらしいか!」


「このゲームじゃ大したことねぇよ!それがしたいなら別のゲームやれってんだ!」


「なぁにぉお!」


「はいはいちょっと落ち着くっす」


俺は二人を手で制して話をまとめると言った。


「そっちのお兄さんは、このゲームじゃスピリットで武器を使えないしヒトでは戦えないから武器の存在に意味がない。と」


「そうだ!武器が使いたきゃこのゲームやめろ!」


「無いところで四苦八苦して作るから面白いんじゃない!わかんない奴ね!」


「はいはいどうどう、そっちのお姉さんはスピリットでも武器は使えるし、ヒトでも戦える。武器の可能性はまだまだある。と」


「そうよ!私の剣を使いこなせばモンスターだってバッサバサなんだから!」


「使いこなせねーよ!システム補助もないのに!」


「そこは腕でなんとかしなさいよ!ゲーマーのくせに!」



「わかったっす。俺が証明するっす」



「「は?」」


「自分はそっちのお姉さんが作った剣で戦うんで、そっちのお兄さんはスピリットに変身して戦ってほしいっす」


「あぁ、それなら良いぞ!そっちの肩を持つんだ、どうされても文句はねぇだろうな!」


「飛び入りで頼むのは申し訳ないけど、この剣を使って!!」


そうして手渡されたのは、全長90mほどの西洋剣。

赤いグリップは両手で握る長さで、十字型の鍔や柄頭も鉄なのだろう、銀色に輝く刀身とあわせて、とても質実剛健な感じを受ける。

そして剣をブンッと一振りし、試しに正眼に構えてみた。


――少し、重いか。


だがやってやれないほどではない。慣れの問題だ。

……と、集中力を増していた俺の目の前に、半透明のウィンドウが表示された。


『PvP OK?』


YESとNOが並んでいたので、ためらいなくYESを選択する。

このゲームにPvPシステムがあったとは驚きだ。

そして視界の向こうでは同じく驚いた様子の青年がYESを選択し、次の瞬間にはサンドストーンゴーレムに変身していた。


「人型なのに武器は要らないんすか」


「持ってたって消えちまうんだ!だから要らないってことだろ!」


この青年はアイテムの持ち越しのことを知らないのだろう。

わざわざ教える必要もないか、わざわざ剣の効きにくい相手になったことだし、と俺は剣先をピタリと相手の喉に付けた。


「じゃあ、死ぬまでやるっす」


その瞬間、カウントダウンをしていたPvPの表示が0になり、ゴングが鳴った。


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