10
「調子はどうだぁ」
部活の休み中、剣先輩に声を掛けられた。
もちろんモンスター・スピリットの話だ。
「うっす、相方見つけたり武器作ったり、オルトロスになれたり、まぁいろいろやってるっす」
「そうか、そりゃ良かった。ところでどんな武器を作ったんだ?」
「テブテジュってやつっす。狼の牙を刃にしたのこぎりみたいな剣っすね」
「ふむ……じゃあ、お前は鉄の剣を作る気はないのか?」
「あー……先々はあるっす」
「そうかそうか、じゃあ南の方で露店してるミミってプレイヤーを捜すと良いぞ」
「それは情報はありがとうございます」
「なに、いいよ」
「ところで……錬金術ってあるみたいなんですが、どうやったら使えるようになったりするんでしょう」
「練金屋ならたしか南西ブロックのはずれにあったはずだぜ?でも錬金術かぁ」
「普通のポーションなんかが出来たら便利になるっすね!」
「そうだなっと、ここからは剣道だ。礼!」
「おっす!!」
そして二人は竹刀を構えたのだった。
今日もメイと一緒にゲームの世界を探索する。
その前に錬金屋の話や、ミミというプレイヤーの話をした。
「ふぅん、そういうのあるんだ?」
「みたいっすねー」
「私も別の変身手に入れたら武器がほしくなるかもしれないし、いってみたいわね」
「すっね。でもとりあえず今日は南の湖の様子を見てからにするっす」
「そうね、予定だし」
で、俺達は南門から出て、すぐ近くの湖の畔に来ていた。
灌木がまばらに生える水辺は意外と美しい。
「ここの敵はバブリースライム、アクアフィッシュ、アシッドフロッグよ。どれも特殊攻撃を使ってくるらしいから気をつけてね」
「うっす!」
こうして俺達は岸を歩いて探索をはじめる。
すると水面にぷかりと複数ゼリー状の物が浮かんでいる。
「多分バブリースライムっすね」
「水の中じゃぁ仕掛けられないわね」
と、ぼやいていると、バブリースライムの群れはすいすいと水面を泳いでこちらにやってきた。
「来るっす!」
「体液が酸性だから気を付けて!」
と言うが早いか、バブリースライムは水面で体を震わせ、粘つく弾丸を放射してきた。
「うわぁ!」
結構な弾幕だ!
俺とメイは飛び退いて回避するが、弾丸が追いかけてくる方が早い。
「こなくそぉっ!」
俺はテブテジュで飛んでくる球を打ち払う。
べっとりとした液がテブテジュの上でしゅうしゅう音を立てていた。
武器が壊れたらまずい!
そして俺は一瞬テブテジュを手放すと、ゾンビになって再度掴み湖に飛び込んだ」
「どうするの!?」
きれいな水の中は視界は良好、案の定ゾンビには呼吸がいらなかった。
そして水中から見たスライムには核のような物がある。
多分弱点だ!
「ゴボッ!」
気合いを入れてスライムを突くと一撃が核に刺さらんとする……が、鋭さが足りない。
「ゴボボォ!」
ついで俺はなぎ払いでスライムを切り、体積を減らす方向に出た。
スライム達はその攻撃におびえ、当たるやつはゾンビの力で跳ね飛ばされ、次々陸に上がっていく。
「チャンス!食らえぇ!」
陸に上がる瞬間は無防備である。
メイがサッカーの様に核を思い切り蹴ると、核は飛んでいきそのままスライムは動かなくなってとろりと水に溶けていった。
「っしゃぁ!まず一匹!」
俺も水中から剣を振り回してスライムを攻撃する。
すると一撃が核に当たり、スライムはまたとろりと溶けた。
しばらく後、こうして陸上と水中からの挟み撃ちにより、スライム達はたおされたのだった。
「ぷよぷよ部分は水になっちゃったけど、素材だったりするんすかねぇ」
「この核もそうかもよ。蹴り飛ばしたのは無傷だからもったいなかったかも」
「そうっすね。何にせよ遠距離攻撃で弾幕張られるのはきつかったすね」
「そうねー、こっちも遠距離攻撃がほしいわ」
と、喋っていると遠くからメイに光球が飛んでくる。
死んだスライムのソウルだろう。よく飛んでくるものだ。
「よっしソウルゲット!」
そうだ、遠距離攻撃といえば……これがあった。
俺はオルトロスに変身する。
「あー、それって火炎放射とか出来たっけ?」
「なんか出来る気がするんで多分出せるっすね」
「多分ねぇ、ファジィジャッジもきわまれりだわ」
「っすねー、とりあえずやってみるっす」
俺は気合いを込めて口から出すつもりでやってみる。
ボウッ!
拳ほどの火が発射され、着弾地点が燃えた。
「射撃は出来るのね、でも今じゃこの程度か」
「そうっすねぇ」
ところで、超大型犬サイズのこれなら出来るかもしれないと言うことがあった。
「ところでメイ、もしかしたら今の自分に乗れないっすか?」
「ああ、騎乗ね。やってみるわ」
といってメイがオルトロスになった俺にまたがる。
……尻の感触が。
「いけそうっす、でも落ちないように手も使ってしっかり捕まってほしいっすね」
「うんっ」
そしてメイの柔らかな体が俺に押しつけられ、しなやかな手が首に回された。
おおう。薄くてもやらかい!
あと犬系になったせいかすごい良い匂いがしてるのがわかる!
「じゃ、じゃあ行くっす!」
そして俺は何かを振り切るように、湖の周辺を駆け出すのだった。
進行方向からびゅっと水が飛び出してきた。
またスライムだろうか、気配を感じて急ブレーキを掛けることで避けたが、次いでの射撃がこちらをねらう。
「あぶねぇ!」
「うわっ!」
メイを振り落とし掛ける勢いで飛び跳ねると、その地点に水がかかる。
結構な速度だから受ければ打撲ぐらいにはなるだろう。
「降りてっす!」
「うん!」
メイが飛び降りて地面を転がり立ち上がる。
その間に俺は水の射撃方向にむかって火を吐いた。
『シュッ!』
と、着弾する直前に水が盛り上がって炎をせき止めた。
なんだ!?
『シュシュー!』
次の瞬間、水の球に入った40cmほどの青い魚が水面から飛び出してきた!
「多分アクアフィッシュっす!」
「水を操るのね!」
ぼいんぼいんと跳ね回る魚は、水の放射の弾幕を張ってきた。
そして俺達は左右にステップし、水の放射を避けながら攻撃を試みる。
「チェヤァ!」
「やぁぁ!」
バシャッ!
水の盾が俺の牙を止め、メイの攻撃も水に阻まれて水球を弾くだけになる。
「げほっ!こいつ堅いっす!」
「何か手はないの!?」
手……!
「しっぽを使うっす!動きを止めさせて!」
「了解!」
メイは水を避けながらぼよんぼよん跳ねる魚に襲い掛かる。
が、何発かを食らってしまったようで、その顔には苦悶が走っていた。
「こんのぉぉ!」
ガン!と音がして水球はメイに覆い被さられた。
水は急いではい出そうともがいているが、わずかな隙があればそれでチャンスだ!
「ッシャァ!」
しっぽを前につきだして水球に突きこみ、全力で毒を吐き出した!
「シュシュシュ!?」
「ガボッ!逃げるっす!」
と言った物の、魚に逃げられたメイはぐったりしており、マトモに動けそうにない。
俺も顔面から水を受けたりして、かなり痛みがあった。
「くそっ!」
俺はとっさにメイの脚に噛みついて走り出す。
後ろから魚が突いてくるがそれは無視だ!
「あがががが!」
引きずられるメイがうめくが気にしてはいけない!
追撃を避けて走れ!
そしてしばらく走っていると、目に見えて弾幕が衰えてきた。
効いてきたか!
水球の中に毒を入れたのだ、えらからダイレクトに食らうと思っていたが、うまくいったらしい。
振り返ればふらふらになった魚が水中に戻ろうとしていた。
俺はとっさに小回りのきくジャッカロープに変身し、頭突きの一発をお見舞いする!
「リャァァ!」
『シャシャ!?』
ズン!
そして角がアクアフィッシュを串刺しにした。
その一撃を最後に水球は流れて落ち、魚は動きを止めた。
魚から一粒の光球が浮き上がり、メイに吸い込まれていった。
「うー痛い」
「がまんするっす」
俺も顔面が痛い。あざだらけだ。
このゲームにどんな回復アイテムがあるか解らないが、自然回復頼りが基本だ。
で、ヒトに戻った俺は試しにアクアフィッシュを捌いていた。
白身だなぁ。
淡水魚なので生で食べるのは止そう。
苦しむメイを横目に、草をちぎって集め、灌木の一部をへし折って集める。
そしてオルトロスに変身して火を一口吐き出す。
それだけでたき火完了。多少もくもく煙が濃いが、許容範囲内だ。
その前に灌木の串で止めたアクアフィッシュの肉を並べていく。
おお、なんだかおいしそうだ、わくわくしてくる。岩塩の粉も振りかけたので塩焼きになるだろう。
そういや岩塩は西だったかな…探せばまだいろいろあるかもしれないなぁ。
「うわっ煙っ!」
風向きの関係でメイが燻されているが、そこら辺は仕方ない。
「うーわなんか顔がぴりぴりする……毒草とかじゃないの?」
「そうだったら困るっすけど……」
ところでメイの顔のあざがさっきより引いている気がする。
「あざ引いてきたっすね。回復早いなぁ」
俺の顔のあざはまだ青タンのままなのに。
ってあれ?
「あざ、目に見える速度で引いてないっすか?」
「へ!?」
驚いたメイが水面を見ると、さっきのぼこぼこからかなりあざが引いている。
というか動いてもそんなに強い痛みが無かった。
「……もしかして……」
俺はむせるのを覚悟で煙を大きく吸い込んでみる。
「ゲホ!ゴホッ!フゥー……あ、口の痛みがマシっす」
口腔内にぶち込まれた跡はさすがに痛かった。やられると予想してなきゃ溺れてるところだったし。
「ってことはこの煙、というか燃料の中に回復アイテムになる物があるのかしら!」
「そうっすね、どの草がそうかはわかんないんすけど」
とりあえず今は煙に当たろう、ということで二人して燻される時間が続いた。
「げほ、魚が焼けてきたっすねー」
「そうねー……こほっ」
しばらくの間燻されていた俺達の体はすっかりよくなり、あざもほぼ目立たないレベルにまで引いていた。
「じゃ、試しに一つ食べてみるっすよ」
俺はそういってメイに串を一本渡し、自分も一つ手に取る。
「ほいほーい」
そして両者一斉に噛みついた。
うめっ!
「うまいっすね!なんつーかこう、鯛みたいな!」
「もっと生臭かったりするかと思ってたけど、予想外においしいわね……」
「かみしめるとうまみがじわっと出てくるっすねぇ」
「これならもっと他の料理にも出来そうねぇ」
「そっすねー、蒸すとか揚げ物とかムニエルとかも良さそうっす」
「言ってたら食べたくなってきたじゃない」
「でも倒すのはそこそこ苦労するんすよねー」
「そうねぇ」
と、喋っていたら気配がして俺は飛び起きテブテジュを構える。
気配の方向は水辺ではなく草むらの方だ。
鬼が出るか蛇が出るか、テブテジュで草を切り払い待ちかまえると果たしてやってきた物は……
『みゅう』
小型の……ドラゴン!?
それは全長40cmほどの、赤い鱗を持ち角の生えたトカゲのような物がそこにいた。
『みゅ……』
……ふらついている?血の匂いもする。
「かっ、かわいい!」
メイはのんきにそんなことを言っているが、相手は手負いの獣だ。油断なんて出来ない。
しかし構えて殺気を当てないようにじりじりと様子を見ていると、ドラゴンはぱたりと倒れ込んでしまった。
「えっ!死んじゃった!?」
「いや、まだ気配があるから生きてるっす。傷に耐えきれなくなって気絶したんじゃないっすかね」
「よっし!助けよう!」
「えー……いやまぁ、いいっすけどね」
助けたら襲われた、では冗談みたいなものだなぁ。
とりあえず傷を何とかしないといけない。
俺は倒れた龍に近づき、容態を詳しく調べる。
細かい傷が無数にあり、特に腹部に大きな傷があった。
内臓に達していればアウトかもしれない。
生命力はさすがドラゴンと言うべきか、血はおおよそ止まっている。
とりあえず出血多量に伴う低体温で死なないよう、メイに頼んで出してもらったマンキーの毛皮を敷いて寝かせ、さらに毛皮をかぶせる。
「これっ!使えないかしら!」
メイが一抱え近場の草をもぎってきたらしい。そういえばこの中に薬草?があるのか。
「ばくちを打つわけにはいかないっすから、試してみるっす」
「え?どうやって」
「こうやってっす」
俺はナイフを手の甲に走らせ、傷を付ける。
「うわっ血がっ!」
次いで草の中の一本を取り、噛んで柔らかくした物を手の甲に貼り付けた。
しばらく待って草を剥がしても、血は止まらない
傷を付けては草を張る。
その作業を数回繰り返すと、明確にしびれが残るものや、止血をする物があった。
「多分、この草っす」
痺れた口では喋りにくいが、その柔らかい葉をした渋い草は明らかに手の傷を癒した。
「で、この草を……」
まず、傷口を水袋の水で洗い、草は口の中で噛んでペースト状にする。
そしてそのペーストを各部の傷に塗りつけ、口にも含ませる。
『キュゥー……』
どうやら渋みに反応したらしい。
だがこれはまだ元気な証拠だ。
俺は次いでナイフを持ち出し、自分の服の一部を裂いた。
これで包帯が出来る。
それをつかって中身が出てこない様にしばり、止血した。
「これで一応出来ることはやったっす」
あとは火の傍で凍えない様に見守るだけだ。
「大丈夫かしら……」
「大丈夫っすよ……多分」
そして俺達はたき火の傍でドラゴンを見守る事にした。




