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スプリット・スピリット(2019年)※最終話

 八月八日。

 名呑町に至る海路含めた全てのルートは警察と自衛隊により封鎖され、「立入禁止/KEEP OUT」と書かれた黄色と黒のロープが張られた。各局テレビクルー達はその前で何やら放送していたが、やがて本社からの連絡を受けて去って行った。

 名呑町内部ではそこかしこでリリジョン101信者が雪崩のように身投げをしていた。その様子をスマホで撮影している者もいるにはいたが、そもそも信者でない者は圧倒的少数派であり、信者達にリンチにあって死んだ撮影者が出てからは、そういう者はいなくなった。

 信者でない者は、家の窓から静かに入水自殺を眺めていた。人間が減り静かになっていく町は、次第に世紀末の様相を呈していた。


 そんな中、鋭い目をした無口な少年とクルクルと巻いた茶髪が色白の肌に映えた少女が名呑公園にやってきた。態度はあまり良いものではない。少年コカゲはろくに挨拶もしなかったし、少女ウミネネは欠伸を隠さない。二人ともまだ半分眠っているように緩慢な動作だったが、反対にウミネネの持っているボストンバッグだけはバタバタと中身が蠢いて飛び出さんばかりだ。

 十五歳の双子は朝から急に岩本に呼び出されて不機嫌だったのだ。園内の名呑池――通称「へそ池」で落ち合うと言われたが、彼らの家からは遠かった。

「あれ、カナメ君は?」

 岩本が尋ねる。

「父さんには教えんかった。うるさいけん、僕ら二人だけでやる」

「そうか……」

 岩本は一瞬不安に思ったが、表情には出さなかった。

「あとでジュース買ってあげるからさ、やる気出せよ」

 岩本はおどけた冗談のつもりだった。

 やる気も何もコカゲは母親とリリジョン101のことを忘れたことはない。やる気? あるに決まっている。むしろ使命だと思う。しかし岩本の肩の力を抜いてくれようとしている気持ちだけは理解した。

 コカゲは一瞬でそこまで考えて返事をする。

「うん、思春期としてはそういうガキ扱いは嬉しくないね」

 一方、ウミネネは単純に岩本を無視していると、三十過ぎの女性が話し掛けてきた。

「はじめまして乾より子です。名呑高校の先生やってます、えへ」

 途端にウミネネは大きな瞳をきらきらさせ、笑顔で尋ねた。

「その『えへ』って何」

 空気が凍りつく。コカゲは頭を抱えて目を閉じ、彼女に耳打ちする。

「それ聞いたらいかんやろ」

「え。そうなの? どうして」

「それは……」

 コカゲは数秒考えた。沈黙に、乾が困ったような顔で二人を見ている。

「キャラ作りやけん?」

 乾が二人に話を止めるように無理矢理割って入り、強引に笑った。しかし目は全く笑っていなかった。

「これは口癖で。えへ」

 岩本がそんなことより、と叫んだ。彼は後ろで、へそ池に飛び込もうとしている信者を必死に押さえていた。

「そう。そんなことよりへそ池に潜ってもらいたいの、えへ。名呑内海に出没する『それ』については私も聞いたわ。深海にいるんですってね。まあ、簡単に言うとこの町を女性に見立てると、頭、首、心臓、へそ、膣がある。で、そこがおへそ」

 乾はへそ池を指した。ここから海は遠いが、潮風の匂いがしている。池とは言いながら、海水なのだった。

「海に繋がってる。そのへその緒の道――『緒の道』を通ってほしいの、えへ。私の仮説だと、そこのどこかに子宮にあたる『それ』の巣があるから。それに『ゑべす』になった信者たちもいるだろうし、危険だから無理にとは」

 コカゲはその場でおもむろに服を脱ぎ出した。ウミネネはすたすたと鞄を持って公園のトイレへ向かう。乾は一応離れて目を背けていた。


 数分後、女子トイレから白濁した半透明の化け物が現れた。トカゲのように四肢で這いながら、頭部に切れたように線が入り、大口が開いた。

 乾が目を大きく見開く。

「話には聞いていたけれど……やっぱり伝説の人魚? いやゑべす? みたいだわ」

 信者たちを拘束した岩本が答える。

「水族館の科学技術で作られた生命体らしい。名前はアマネオだとさ」

「ヒトの手による母神アマネオの再来……か。あの双子は全然自覚はないみたいだけれどね」

 アマネオは勢いよくそのまま池の縁に全裸で立つコカゲを丸呑みする。咀嚼された身体がアマネオの体内に溶けだし、ウミネネの神経系と結び付く。コカゲの脳はそのまま残り、ウミネネの脳は引き延ばされて全身に巡った。局在する赤い臓器が脈動し、自身が生きているということを見せつけるようだった。

 アマネオはへそ池にずるりと飛び込んでいった。蓮の葉のような感覚器だけを水面に残して緒の道を潜っていく。腕が解けて触手となり、それがイカのエンペラのように変形してヒラヒラと水を撫でる。狭い穴だけに、すぐ光がなくなって視界は暗くなる。

「さっさと行って終わらせようよ。コカゲ」

 動きながら、双子は思考で会話している。復讐は二人の間で幼い頃に決めた運命だった。指示を聞くため水面に置いた感覚器はアマネオの腰部に細く繋がっている。

「そうやけど。ウミネネ大丈夫なんか。今日の自殺騒動、あの宗教らしいし。最近あの教祖が夢に出てくるって言いよったやろ。なんか変な影響受けたりすんなよ」

 全体が流線型に変化し、まるで長い尾を持つ魚になって速度が増す。

「あの教祖はいつも見捨てないでって言ってるね。でも、コカゲはいっつも私を心配しすぎ! そんなに信用ない?」

「だってウミネネは時々アホやもん」

 二人はケンカしながら、既に水深三百メートルを越えている。アマネオは皮膚感覚が鋭く、自動的に気圧を考えて変化していく。かつて信者だったであろうヒトラシキと何度もすれ違った。飛び込んだものの、心が「それ」と融合共生するのを拒否てしまった者の末路であり、マハカメリア宮のように「星の落とし子」へもなることのできない哀れなヒトの成れの果ての姿。

 二人は彼らとすれ違うたびに黙った。

 更に深く潜ると「それ」と一体化した信者――ゑべすたちが何かに群がっているのに出くわした。中心にいるのはヒトラシキ。それがピラニアの群れに肉を落としたように、食い千切られてボロボロに肉片が漂っている。

「うわ……共食いとかドン引きするわ」

 こちらに気がつくと襲いかかってきた。ウミネネは鼻歌まじりに水を蹴る。


★★★★


 地上では岩本と乾に話しかけてきた者がいた。迷彩服を着たガタイのいい男。

「ツナギを使っているのはお前らか」

 岩本が眼鏡をかけ直してその顔を何度も見る。すぐさま鞄からファイルを取り出してパラパラめくると、人差し指を立てた。

「そう言う君は城戸ユウキ」

 それから乾に、リリジョン101の幹部だった人です、と小声で言った。城戸の眉が下がり、表情が暗くなる。

「頼みがある」

 ツナギやヒトラシキのデータが揃った古びた紙。そこには、一番下に「雨多ノ島水族館長萩尾弓子」と書かれていた。

「カメちゃんを、そしてヒカリを助けてやってくれないか」


★★★★


 深海。

 へそ池を下降していったアマネオが辿り着いたのは、かつてナツとカナメもやってきた場所――海底遺跡だった。

 壁に絵が刻まれている。蝙蝠の羽と触手の怪物「星の落とし子」。その下には人魚「ゑべす」達。更に下に、ひょろ長い二本足の集団「ヒト」。

 壁画は明らかに支配と上下関係を示していた。わかりにくいが、そこの隠れた穴の奥にどうやら「巣」――乾が言うところの「子宮」――がありそうだった。

 アマネオは潜るのを止め、ゆらゆらと波に漂う。水上に残してきた感覚器から声が伝わってくる。

「二人とも、どう? 話はわかったかしら、えへ。でもマハカメリア宮をどうするかはあなたたちが決めたらいい。神話の再現。捨てられたヒルコ=ゑべす=それ。そしてそれを救うこの土地の母神あまねお。あなた達が使っているそれも、偶然とはいえアマネオ。何が正しいのかはわからない、えへ。多分後世の人が私みたいに歴史を見て好きに判断することなんだと思う。だから好きにやるといいわ」

 感覚器は聞くことしかできない。双子は潜りながら一方的な説明をひたすら受けた。

「ああ、時々廃墟の水族館に明かりがついてることがあったのってそういうことだったんだ。あのおばちゃん、まだ色々やってたんだなー」

 ウミネネの思念は冷静だった。

「そうじゃないやろ。なんで母さんを殺したような奴らを助けないかんの」

 突然アマネオが動きを止めた。視界が開け、そこに「それ」と「ゑべす」が数十匹もいた。先程の城戸の資料情報を考えてもくぐり抜けるのは難しい。

「どうしようコカゲ」

 ウミネネが泣きそうな声を出した。コカゲは嬉しそうに、仕方ないなと笑った。

「どうするも何も、正面から行くよ」


 堂々と巣へと足を踏み入れた。

 途端に「それ」が群がってきたが、すぐに離れていった。アマネオは「それ」に擬態していた。姿を真似ることで攻撃対象から外れたのだ。

 巣は劇場ホールのように天井が高かった。壁にはかつてのゑべす達が彫ったのだろう、非ユークリッド幾何学的な歪んだ模様がびっしりと刻まれている。「それ」らは中央にせり出した台座を取り囲むように泳いでいた。台を見上げると、巨大なタコのような触腕がうねっていた。一つ一つの吸盤がウミネネの身長ほどもある。触腕は全て筋肉質でできているため、捕まったら容赦無く締め上げられて引きちぎられるだろう。もしくは叩きつけられるだけで終わりか。

「あれが教祖か」

 白い衣をまとった巨人がいた。しかし巨人だとしても深海に生身で人間がいるはずがなかった。衣に見えたのは動きを感知する膜だった。

 他の「それ」が回収してきた信者の死体やヒトラシキ、ゑべすの死体を見るや、巨人は当然のように頭が裂けた。そこには牙が並んでいた。次々に丸呑みにして、あっという間に二メートルはあるタピオカのような卵に変えて産んだ。

「あんなのを助けろって?」

 それきりコカゲは黙った。城戸から聞いた話を何度も確認する。「それ」から作られたツナギやアマネオは基本的に「それ」と同じ能力を持つ。「それ」の「食べることでヒトをヒトラシキに変化させる能力」を逆転させることさえできる。

 つまり、アマネオはヒトラシキからヒトへと戻すことができるらしかった。それを踏まえての「カメちゃんを、ユーミを助けてくれ」であった。しかし、コカゲはどうするべきか途方に暮れていた。ウミネネが先に動き出した。

「ウミネネ、いきなり何!」

 アマネオは巨人の口元から伸びている触腕にわざと捕まって口に入った。食道から腹の奥に進む。

「……こっちから赤ちゃんの泣き声がする」

 コカゲには一切聞こえなかったが、進むにつれて納得させられるような光景が広がっていく。白く光る身体の内部には葦の葉がたまっている箇所があった。かきわけながら進むと、内壁に傷をつけるように無数の文字が彫り込まれている場所に出た。

「人の名前が沢山ならんどるけど」

 コカゲは何がなんだかわからなかったが、ウミネネの直感を信じることにした。

「これを全部消すのよ」

 アマネオは触手を器用に使い、葦の葉で名前を擦る。全ての名前を消すと光りだして巨体が消え、人間サイズの「それ」が現れた。身体に大きく「カメちゃん」と刻まれていた。

「こいつを食べて産み出せば、人間に戻せるのよね」

 そこでコカゲがアマネオの動きを止めた。ウミネネが身体を動かそうとしても無駄だった。深海に沈んでいく魚の死骸のような、コカゲの暗く重たい思念が彼女に入ってくる。

「ウミネネちょっと待って。助けるん? ウチらが母さんがおらんで色々言われたり父さんが悪く言われたりするの、全部元を辿ればコイツのせいやのに」

 唯一ウミネネが自由に動かせたアマネオの頭が開き、触手をカメちゃんと書かれたそれに巻き付けた。そのままウミネネはコカゲを無視して丸呑みにする。彼女は逡巡し、唸り、自分の思う単純な気持ちを表現した。

「助けるっていうか。別に殺してもいいけどさ。あんなのがいたら漁師さんが困る。海で遊べなくなるし。私、海好きだし。でも、あの美術の先生を殺した時に、コカゲは叩かれたでしょ? 殺したのは私だったのに」

「あれは僕がそう命令したからで――」

 アマネオの周囲を無数の「それ」「ゑべす」が囲んで集まっていく。もう正体はバレているらしく逃げ場はない。

「私、考えたんだよ? 考えるの面倒臭いし嫌いだけど、考えるのやめてコカゲの言うこと聞いてたら楽だけど、それでコカゲが叩かれることがあったりするなら、そういうの嫌だから、だったら私だって一生懸命考えてからやらなきゃって。私達は何?」

「兄弟だよ。双子の」

「違うよ。相棒だよ」

 アマネオの動きが止まり、ウミネネとコカゲはカメちゃんとの共有夢を見る。


 周囲の海水が消え、気圧も無くなりいつの間にか二人は川べりに佇んでいる。ウミネネが赤ん坊の泣き声を聞いた。

 突然、白い霧から葦の舟に乗った赤子が流れてきた。

「お母さん、お母さん」

 こどもが叫ぶ。ウミネネが駆け出そうとするのをコカゲが止める。しかし手を弾かれ強引に通られてしまった。ウミネネは赤ん坊のカメちゃんを抱き上げて頬を叩く。

 コカゲは「ひどいことするなあ」と思いつつ、何故か少し笑いが漏れた。

「私、君のお母さんじゃないよ。甘えんなこのマザコン野郎。自分でやらかしたことは自分で責任とれ!」

 マハカメリア宮は赤ん坊から大人に戻る。


 霧が晴れていくような気分。二人は共有夢から戻ってきた。

「ウミネネ、グッジョブだ。あとは信者の人達も片っ端から助けちまおう」

 コカゲがニヤッと口の端を上げて笑った。

 アマネオはマハカメリア宮を腹に入れたまま、傍にあったヒトラシキや何かの卵やゑべすを手当たり次第に丸呑みしていく。その度にアマネオの身体は巨大になっていった。

 コカゲがチラリと周囲をみやるとマハカメリア宮がいた場所――巣の最深部には更に裂け目があり、その奥深くの暗闇には何かぎょろついた巨大な目と星々の瞬く暗黒空間が広がっていたが、崩れた岩が降ってきて塞がれてしまった。

 名呑町に伝わる変な生き物はもしかしてあそこから?

 しかし今は考えないことにした。そんな余裕はなかった。

「ウミネネ……へへ」

「なにコカゲきもちわるい」

「ウチらが膨らんどるけん、来た道が戻れん。他の道も細すぎてどうにもならん。ハハ……」

「他人を助けようとして自分達が死ぬとか、確かに笑うしかないね」

 アマネオは水風船のようにぱんぱんに膨らんで巣の壁を圧迫し、やがてヒビが入って海底遺跡の崩壊が始まった。

 天井から降ってきた瓦礫で海中に砂埃が上がり、何も見えなくなる。そこへ隕石のように大量の岩が落ちてくる。

 膨らんだアマネオの身体を岩片が切り裂いていく。

「大丈夫か! 何があったんだ!? こっちは揺れ始めて、津波が雨多ノ島を呑み込んで」

 感覚器を通じて岩本の声が聞こえたが、それも途中で切れた。

 裂けた部分からアマネオの肉片と内臓の一部がまろび出ていく。生き残ったゑべす達が硬いハサミや突起物を出して捨て身の攻撃を仕掛けてくるが、アマネオはもう彼らを呑み込む余裕はない。ただただ身を縮めて腹と頭を抱えて胎児のように丸くなってやり過ごす。

「私達、死ぬのかな……死ぬよね」

「わからんけど、うん。身動きとれんし。たぶん」

 ゑべす達の攻撃で視神経をやられて視界がブラックアウトすると、とうとうウミネネが不安で泣き出した。


 暗闇の中で僕らはひとり。

 瓦礫でゑべす達が潰される音がする。

 断末魔。

 次は自分かもしれん。

 グシャ。

 怖い。

 どうにかできると思ったんよ。

 僕ら二人でどうにかしたかったんよ。

 しっかりやっていけるって、ちゃんとしてるって、僕らは皆に示さなきゃいけんしさ。

 ちっと浅はかやった。

 父さんはうるさく止めたやろうな。

 僕ら、迷惑かけてばっかりやん。

 そういえば父さんが喜ぶようなことしたことないし。

 二人でこれをやり遂げたら、ちっとは喜んでくれるかいなって思ったんだった。父さんいっつも難しい顔するけんさ。

 親は子どもの成長を喜ぶって聞くけんさ。

 でもあの阿呆のウミネネがさ、自分でちゃんと考えようって言い出したんよ、父さん。

 また家族を失くさせてしまう。

 母さんが死んだ時のあの顔。

 怖いけん、僕、嫌なんよ。

 あ、泣きそう。

 ごめん。


 その時、何が起こったのか二人にはわからなかった。後になっても誰にも説明はできなかった。

 アマネオが勝手に二人を自分から分離して、腹部に再構成した。まだ目の覚めない二人は「それ」やヒトラシキやゑべすなど他のゴチャゴチャしたものと一緒に分厚いゼラチン質のブヨブヨした球体――卵――に押し込められた。

 アマネオは腹部からそれを切り離すと、身体を限りなく薄く引き伸ばして水流を作った。卵は水流に漂って下降し、細い道に沿って形を変化させながらくぐり抜けていく。

 アマネオはその間、卵の上面に張り付いて降ってくる岩片や瓦礫を身を挺して防いでいた。肉片を飛び散らせながら、それでも卵を離さなかった。

 やがて卵は上昇を始める。

 暗闇から光の射す方へ。

 明るさに双子が目を覚ます頃には、岩片は降ってこなくなっていた。アマネオはボロボロになってもう見る影もなかった。汚らしいゴミが付着しているようにしか見えず、それはもはや海藻のように波に揺られているだけだった。

 やがてアマネオは海上から射す光の中、卵から剥がれ落ちて暗い海の底へゆっくりと消えていった。

 二人はいつまでもそれを見つめていた。


 卵は雨多ノ島の海岸に打ち上げられた。一斉にアマネオの卵から人間が産み出される。ヒトラシキもゑべすも全て元の人間に再構成されていた。マハカメリア宮も蓮田ヒカリも裸体で砂まみれになってその中にいた。

 ユーミ館長や乾らと一緒にボートでやってきた城戸が二人を見つけ、その背中を叩いた。

「カメちゃん、大丈夫か」

 泣いて抱きつく。マハカメリア宮は不思議そうな顔で自分の手足を見た。それから横の蓮田ヒカリを眺めて全てを悟った。信者たちの視線の中、立ち上がってリリジョン101の解散を宣言する。

 そして蓮田ヒカリや城戸ともども深々と頭を下げる。乾は彼らに話を聞きたくてうずうずしている。

 それを尻目にコカゲとウミネネがお互いに叩きあってふざけていると、岩本と館長がジュースを持ってやってきた。ソーダを開けて奪い合うように飲む。

「ありがとう。たかがジュースでこんなに喜ぶなんて。いい子たちだ」

 岩本のぽろりと出た一言に、コカゲは不機嫌そうな顔で立ち上がる。

「ウミネネ、行こうや。腹減った。父さんがメシ作っとるかも。黙って出てきたけん、今頃パニックで探し回っとるかな?」

「カナメ君は、怒ってると思うな。早く帰ってあげなさい?」

 館長の言葉にウミネネは砂浜を駆け出した。

「うん!」

 そのまま海に飛び込む。

 数秒して、呆然とした表情で浮かんできた。いつもの癖でアマネオがいるかのように飛び込んでしまったのだった。

「ポンポン舟で帰ろう。ウミネネ」

「……うん」


 まだ昼前だった。人々は空腹だった。

 快晴の空には入道雲が漂うが、双子はそんなもの全く見ていなかった。

 ウミネネがポンポン舟から振り返ると、雨多ノ島は津波でグチャグチャになっていた。神社跡も水族館の廃墟も家々や遊びに行った公園も林も全て流されていた。

 勿論、知っている人々も。

 コカゲは同じ風景を見てから、心配そうにウミネネの顔を覗き込んだ。

 それでもウミネネの腹が鳴ったので。

 コカゲ達は笑った。

読んで頂きありがとうございました。

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