6-1 ゲーセンへ行き
終業式が終わった。
明日から、いや只今から夏休みの始まりだ。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
母親の朝子の声がベランダの方から聞こえた。
正悟は部屋に向かい、鞄を床に置くと私服に着替えた。昼前に下校しているから腹の虫が絶賛鳴いている。キッチンへ向かうと白皿に盛られてラップに包まれた焼きそばがテーブルに置かれていた。
「お昼は焼きそばね。昨日のおかずが冷蔵庫にあるから」
ガーデニングと庭いじりと家庭菜園の中途半端どりの作業をしながら朝子が正悟に声をかけた。正悟は生返事をしながら一度ラップを外してふわりとかけ直して焼きそばをレンジで温めるのだった。
オレンジ色に染まるレンジを見ながらふと先日のアレを思い出した。
焼きそばと同レベルにはしたくないのだが、確かにあの時正悟もふわりとしかしながら確実に祥子に包まれていた。時間的概念は完全になかったが、今にして思えば2分以上は微動だにしなかったはずだ。
好きとか愛しているというのは間違いではないが適当ではない。適切な言葉が見つからない空間に満たされていた2人は祥子からの頬への口づけで幕を閉じた。アメリカ生活が長い祥子ではあるがハグの類ではなく、あれはかろうじて理性で唇を外していたが意味合いは完全に恋人としてのキスだった。
正悟は何もできず、動けずにいた。
思わず右頬に手をやった。確かに感じた祥子の印。あの後、祥子は何事もなかったかのように振る舞った。自然すぎる不自然さに正悟は問いただすこともできず、自宅まで送られたのだった。
果たして何が正解なのか。正しい行動とは何か。真の気持ちは何なのか、それに素直に従えばいいのか、考えるのは世間体か。流浪の心をとらえることが出来ず正悟自身も彷徨っていた。
「何してんの、あんた」
いつからそこにいたのか。朝子が声をかけた。
「え、いや別に」
涙が出ていたわけでもないが、両手で顔をひと拭きした。既にレンジからは温め終わったから早く取り出せとアラームが鳴っている。焼きそばと一緒に温かくなった皿を取りだし、すぐに食べ始めた。中の部分がまだ冷えていたが、きっと今の自分にはお似合いなのだと食べながら感じる正悟だった。
特にすることはない。
友達がいないわけでもないが、ここ最近は休日になると祥子と出かけていることが多いことに今更ながら気付かされた。約束もしていないのに今から急に友達と遊びに行くのも暑くて面倒くさい。久しぶりにレゴブロックで遊んでみようか。
そんな事を考えて汗ばんだ背中を畳から離したところにあの声が聞こえてきた。
「こんにちはー。正ちゃんいるー?」
ひどく久しぶりに聞こえたのは気のせいか。玄関に向かうといつもの格好の祥子がいた。
「どうしたの?」
「暇? だったら遊びに行かない?」
今までだったらすぐに返事で来たのだが、何故か一拍間が開く正悟。
「うん……暇、だけど。どこに行くの?」
「ちょっとね、ゲーセンとか」
祥子の口から出てくるとは思えなかった場所だった。てっきり先日の続きのような言葉を想像していた正悟はどこか拍子抜けをして素直にOKを出すのだった。




