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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
4・カフェ
14/43

4-4 翔子と彩香

 彩香が私の前を歩いている。

 あまり表には出さないようにしているみたいだが、どうやら彩香は怒っているらしかった。普段よりやや速足。付いてきているのか振り向きもしない。

 原因はカフェでの出来事だろうが、それにしても仮に少年の言う通りだとして彩香が何故そのような行動をとったのか私も理解できなかった。

『僕が推理できるのは2台の携帯をつかってさっき男の人から電話がかかってきたように細工したってことくらいかな。着信があった時に片手が鞄の中で見えなかったから。理由まで考えられないけど』

 少年の耳打ちは私にとって衝撃だった。どうやら最後の質問で携帯を2台持っているのは間違いないと判断できたが、だからといって態と細工をする必要性が私にはわからなかった。



 翔子たちがさっきまでいたカフェでは正悟が自分の推理を祥子に話していた。

「彩香さんってすごいと思ったんだ。車のエアコンの水なんて普通なかなか気づかないよね。たまたまさっきテーブル下が視界に入ったんだけど、下を見ることもなく片手が鞄の中にあって何だか不自然な格好に見えたんだ。だから細工しているかもしれないって思ったんだけど……」

 正悟をじっと見つめた後、祥子は視線を外してなにやら考えはじめた。そして若干の後悔をするのだった。

「こんなことだったらしっかり見ておくんだったなー。しゃべっている言葉は聞こえていたけど、そこまで気にしてなかったし。ただね、正ちゃんの携帯トリックが事実だとすると、その原因にあたるものがいくつか考えられるんだけど……」

「え、あるの? 教えて!」

「まず、彼氏からの電話がトリック細工でウソだとすると、原因は見栄を張るという事が基本だと思うの。だって直前までダメ彼氏の愚痴を言っていたんだもん、男を見る目がないなんて自分で自分の価値を落としているようなものでしょ? でも自分で救いの手を入れることで自分の地位の保持を狙った。ただ、そうすると不思議なのよね」

「何が?」

「だって、携帯トリックをやろうと最初から思っている時点で例のカーエアコンの話を含めて全部グルなのよ? どうしてそんな面倒くさい事をやらなきゃいけないのよ」

「そう。僕もそこまで考えたんだ。あれがトリックだと一連が狙ったものになるんだ。だけどそこまでする理由がわからなくて」

 そこで祥子がビシッと指さしポーズを決めた。ちょうど『Z』で有名な決め台詞のように。

「そこで名探偵祥子様の登場よ! 私の推理はズバリ……あっちの彼女は翔子ちゃんのことが好きだと思う」

「……え?」

 ふさがらなくなった開いた口から辛うじて言葉が漏れた。正悟の推理と反対方向の斜め上をいく答えだったからだ。

「そもそも片方はばっちり決めているのに翔子ちゃんはファッションに全然興味がなさそうだし、あの2人が不釣合いなのは理解できるでしょ? 共通点がまるでないし、きっと腐れ縁的存在だと思うのよね」

「はー」

「カーエアコンの話は出来すぎだと思うのよ。理屈はわかるけど、普通そこまで確認することはないと思うの。私が思うにもしかしたら彼氏がいるという事もウソじゃないかな? そんなウソをついてまで腐れ縁相手に話すメリット。それは友情ではなく愛情よ」

「……そこだよ。何だか急に話が飛んだような気が」

「飛んでなんかないって。ほら、男の子だって好きな女の子をいじめたりするでしょ? あの彼女は見た目以上に根は真面目ね。ギャルにしては礼儀正しい感じもしたし。彼女は自分を演じていたのよ。それは翔子ちゃんを好きである事を隠すあまりの反動ね。一緒にいたいけど、理由もないのにベタベタしてられない。だったら男の相談話という大義名分を間に入れて2人だけのショッピング……なんてどう? 最近はテレビでオカマタレントが出ているけど、レズタレントなんて聞かないじゃない。世間ですらそんな感じなのに女性が同性を好きなんてそう簡単に公表できないと思うのよ、しかも長年友達でいた相手に。真面目であれば尚更ね」

「んー」

「ただね、彼女は女性ではなく翔子ちゃんが好きなんだと思うよ。翔子ちゃんってとてもカッコイイでしょ。髪も短くてナチュラルだしメイクもしないし仕草も中性的でしょ。女性でありながら男性に近い部分に惹かれたんじゃないかな」

「そう……なのかな?」

「まっ、あくまで私の推理だけどね」

 あれだけ推理をまくし立てておきながら祥子はその一言で片づけた。半分以上氷が解けたレモンティーは薄く少しだけ苦かった。



(ったく、あの子供は何なのよ。危うくバレるところだったじゃない。こんな事が翔子に知られたりしたらこの世の終わりよ!)

 カツカツとヒールの音が普段より早く鳴る。まだこの動揺した顔を見せるわけにはいかなかった。

 きっかけは高校の文化祭だった。クラスの出し物はたこ焼き屋だったのだが、演劇部から宝塚のようなスタイルの劇をやりたいとの希望で当時から打って付けの翔子に直接オファーがきた。そういったややこしいものは断ると思っていたのだが『クラスの男子が女装したらやる』なんて条件を出し、お祭り展開もあって一部の男子を道連れにして、女性は男装を男性は女装をした劇を上演した。その頃は登下校もクラスも別で疎遠になりかけていたが、興味本位で観てみたら翔子のはまり様に驚いた。そして一目惚れをした。

 その後は想像に任せるが、今日に限っては1か月前から考えていた作戦の実行当日だ。社会人になって互いに会う機会も少なくなり、何らかの口実をつくる必要性が出てきた。翔子はこの程度の誘いなら断ることはないが、それでもただ会うだけでは緊張してこちらの話が続かない。

「彩香、早いよ」

 後ろから声をかけられようやく彩香は速度を緩めた。そしていつもと同じ姿に戻った。

「どうかしたの?」

 低くしかし丁寧な声。これがカフェでのやりとりが原因であることは既に気付いているはずだ。それでも翔子は多くを詮索することなく私に任せるように広げた質問をした。きっと私が適当な理由で返しても深追いしないだろう。

 翔子は優しい。そんなことを言うと彼女は否定するが、優しさというのはベタベタ世話をする事ではなく相手を尊重する事だ。

「翔子は卑怯だね」

 振り返った彩香が見せた涙。もう限界だ。これ以上我慢できそうにない。

「え……弱ったな……」

 目の前で涙を流す彩香を翔子はそう言いながらも肩に手を回した。細い手だったが今の彩香には十分すぎるほど頼もしく感じられた。




 4・カフェ  完

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