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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
4・カフェ
13/43

4-3 翔子と正悟

 テレビの小学生探偵じゃあるまいし。たいして期待はしていないが、このモヤモヤを晴らしてほしい気持ちもあった。彩香はしばらく戻ってこないし、このちびっこがどれだけ応えてくれるか見届けてみよう。

「今日もだけど、先週も暑かったよね」

「そうだね」

「お姉ちゃんはこの季節の昼下がりに車の中で人を待つとしたらどうする?」

「車の中で? だったらエアコンをつけて寝て待っているね」

「そうなんだよね。夏だから車内は暑いし、窓を開けても走ってないから風頼りは難しい。外の木陰で待つ選択肢もあるけど、これから彼女を乗せることがわかっているならエアコンをつけて中で待っているのが賢い選択だと思うんだ」

「だろうね。……あっ」

 そこで私は気付いた。いや、気づかされたが正しいか。順を追って丁寧に推理を話す少年はあえて自信を見せずに子供の殻をかぶっていた。

「うん。エアコンをつければ水が垂れる。さっきあの人も言っていたけど、道が坂になっていただろうから、車の下から水が落ちて流れていたんだと思うよ。『ついさっき着いた』では言い訳できないほどに」

 私の中でその殻にひびが入っているように見えるのは気のせいだろうか。隣の席の会話にこれだけ意識を持ち、さらに限られた情報だけでここまでに至る頭脳。まさに身体は子供、頭脳は大人じゃないか。

 私はすっかり感心の域を超えていたが、そんな少年が不思議な事を言い出した。

「でも、あの人って不思議な人だよね。エアコンの水に気付くほどの洞察力とあの演技力を持ちあわせるなんて」

「演技力? 彩香が他に何かやったかな?」

「あ……。んー、ただのこじつけだし勝手すぎるからちょっとこの場では言えないけど」

 無事に解決したと思われた話にこの一言でまた新たな謎が発生した。

「正ちゃん、何だか知らないうちにまた解決しちゃったね」

 そうだ。忘れていたが、少年の前には女性がいた。見た目は若そうだが確実に30以上だろう。兄弟にしては年が離れすぎているからきっと親子だ。とたんに私は少年から目をそらした。そういえばさっきからずっと少年を見ていた。

 そこに彩香が戻ってきた。

「翔子、おまたせ。まだ時間あるでしょ? 買い物付き合ってね」

 すると少年の母親が急に振り返り、私を見た。何かあったのか。

「……ああ、貴方がショウコさんね?」

「はい。……もしかして貴方もショウコさんですか?」

「ええ。『ネ』に『羊』と書く祥子です」

「そうなんですか。私の方は『はばたく』の翔子なんです」

 今まで私の周囲にいそうでいなかったショウコがこんなところにいるなんて。これじゃ私もショウコお母さんではないか。……あれ、何変な事を考えているのだろう。

 そんな私が見えない動揺をしている間に少年は彩香に核心をつく質問をした。

「ねえ、もしかしてお姉ちゃんって携帯2つ持ってる?」

「は? 何でそれを……ほら、早く行こうよ」

 慌てるように私を急かした彩香だったが、今ので少年の目の色が変わったのを私は見逃さなかった。もしかして今の質問は先ほどの謎の解明に繋がっているのではないか。私は再び少年に視線を向けた。それに気づいた少年はばつが悪い顔をし、私に耳打ちをしてきた。

 それは私にとって衝撃の内容だった。

「ほら、翔子。行くよ!」

 動けなかった私に彩香は少し苛立ちながら声を強めた。

「う、うん」

 もう少し少年から話しを聞きたかったが主導権を握っている彩香に逆らうこともできず、短い後ろ髪を引かれながらカフェをあとにした。



 ちょっとした嵐の過ぎ去ったあと。

「すごいね、正ちゃん。いつの間にかまた解決しちゃったね!」

 ようやく2人きりになり安心した祥子が正悟相手に口をきいた。

「うん……」

「どうしたの、残念そうな顔して。あ、もしかしてさっきの内緒話でしょ。あれは何だったの?」

「んー、あれは事実だと思うんだけどな。だけどその理由がわからないし……」

「なになに。人間関係なら人生経験豊富な祥子お姉さんが解決してあげるわよ」

「じゃあ、聞いてみようかな。あのね――」

 正悟は要点をまとめながらゆっくり話し始めた。

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