第71話「ネメシア再訪」
第71話です。
物語は二つに分かれて進み始めます。
救うためにネメシアへ向かう者たち。
そして真実を探るため王都に残る者たち。
それぞれの選択が、これからの流れを大きく変えていきます。
ガイオの邸宅を出たあとも、誰もすぐには口を開かなかった。
それぞれが考えている。
同じことを。
――助けられるのか。
――間に合うのか。
ギルドの扉を押し開けた瞬間、いつもの喧騒が耳に流れ込んできた。
だが、その中にわずかな違和感が混じる。
視線だ。
レオンたちへ向けられている。
「お戻りになりましたか」
受付の職員が、静かに頭を下げた。
その声で、周囲の空気が引き締まる。
レオンは足を止めず、そのまま前へ出た。
「報告だ」
「はい」
短いやり取り。
それだけで場が整う。
「通路は確認したが、詳しいことは何もわからない」
紙に走るペンの音。
そして、次の言葉。
「あと――行方不明者は、生きている」
その一言で、空気が変わった。
ざわめきが広がる。
「本当か……」
「助かるのか……」
声が漏れる。
押し殺した希望。
職員の目も、わずかに揺れていた。
「現在の位置は――」
問いかけ。
ほんの一瞬の間。
レオンは静かに答える。
「……まだ、特定できていない」
嘘ではない。
だが、すべてでもない。
「だが、助け出せる」
はっきりと告げる。
「そのために、時間がほしい」
言葉は短い。
だが、揺るがない。
職員は視線を落とし、考え――やがて頷いた。
「承知しました」
「ですが、長くは……」
「分かっている」
それで終わりだった。
外へ出る。
空気が軽い。
リズが息を吐いた。
「……なんとかいけたね」
「ギリギリだ」
レオンは答える。
悠真が前を見たまま言った。
「ここからが本番だな」
誰も否定しない。
ダービラが静かに続ける。
「変身カードは一枚、十万マニーだ」
リズが眉をひそめる。
「……高すぎじゃない」
「元々は地上で悪魔たちが紛れ込むためのものだ」
ダービラは淡々とした声で言う。
「悪魔にとっては必要な道具。人間には高く売らせてもらう」
「足元を見てるってことか」
悠真が笑う。
苦笑いだった。
「まあな。でも――」
視線を上げる。
「それで助かるなら、払うしかない」
レオンが頷く。
「残っているのは」
「二十人前後」
悠真が答える。
短い沈黙。
「……二百万か」
誰が言ったのか分からない。
だが、その重さは全員が感じていた。
「ガイオが貸してくれた」
レオンの一言。
それだけで現実になる。
助けられる。
その代わり、背負うものも増える。
ララが小さく息を吐いた。
「……よかった」
心からの言葉だった。
だが。
そのまま、少しだけ黙る。
視線が、レオンへ向く。
一歩、踏み出す。
「……私も」
声が出る。
だが、続かない。
分かっている。
言われる前に。
レオンが口を開いた。
「今回は無理だ」
短い。
それだけだった。
一瞬。
ララの表情が揺れる。
本当に一瞬だけ。
そして――
「……うん」
頷く。
笑う。
ちゃんと笑った。
「分かってる」
視線を逸らす。
「だから任せる」
その声は、もう揺れていなかった。
リズが横で軽く肩を叩く。
「私たちもやることあるしね」
「ヴァルクのこと、調べるわ」
ローディアスも静かに言った。
「そっちは任せとけ」
役割は決まった。
北の未開拓地。
あの通路。
空間が歪んでいる。
見えているのに、触れられない。
そんな感覚。
レオンが一歩踏み出した。
その瞬間――
「……っ」
空気が変わる。
重い。
肺に何かが流れ込む。
息が浅くなる。
「これが……魔素か」
低く呟く。
苦しい。
だが。
わずかに口元が歪む。
「面白いな」
ダービラがカードを差し出す。
「人間のままでは無理だ」
悠真とレオンはダービラに変身する。
そして、通路へ入る。
感覚が歪む。
一瞬の空白。
そして――
ネメシア。
暗い。
だが、広い。
遠くに光。
動く影。
街がある。
「……ここが」
レオンが見渡す。
初めての景色。
地下とは思えない世界。
「思ったより……普通だな」
悠真が笑う。
「だろ?」
ダービラが何かを取り出す。
小さな魔道具。
淡く光る。
「ちょっと来てくれる?」
短く呟く。
静寂。
数秒。
何も起きない――
と思った瞬間。
空気が揺れる。
「……呼ばれたか?」
軽い声。
闇の中から、一体の悪魔が現れた。
「こいつはトンプーだ」
「悪いな、わざわざ」
「いいってことよ」
トンプーは笑う。
「ダービラには世話になってるしな」
軽い。
だが、頼れる雰囲気。
「で、人間だったな」
「ああ」
そこからは時間がかかった。
ネメシアは広い。
人は散っている。
一人、また一人。
声をかける。
疑われる。
信じてもらえない。
それでも。
「地上へ戻れる」
悠真が言う。
それだけで、ついてくる者もいた。
やがて。
二十人。
全員が揃う。
トンプーが前に出る。
「触れろ」
一人ずつ。
姿が変わる。
同じ姿へ。
同じ存在へ。
そして――
通路へ。
一人。
また一人。
消えていく。
全員、地上へ戻った。
静けさが残る。
悠真が息を吐く。
「……終わったな」
「いや」
レオンが言う。
「ここからだ」
ダービラが振り返る。
「行くぞ」
視線の先。
光が集まる場所。
「トリトリニア」
悪魔の繁華街。
情報が集まる場所。
悠真が歩き出す。
レオンも続く。
ネメシアの奥へ。
真実を掴むために。
第71話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きく二つのポイントがあります。
まず一つ目は「救出」。
ネメシアに残された冒険者たちを、
お金という現実的な手段で助ける流れになりました。
この世界では
力だけではなく“資金”もまた重要な要素です。
ガイオの存在がここで活きてきています。
そして二つ目。
ララの選択です。
本当はレオンと共に行きたかった。
それでも状況を理解して、王都に残ることを選びました。
この小さな葛藤は、
今後の関係性にも少しずつ影響していきます。
またネメシア側では、
ただの救出では終わらず、
「情報を取りに行く」という次の目的が動き出しました。
舞台は悪魔の繁華街トリトリニアへ。
ここからは
・ネメシアの深掘り
・ヴァルク・レイドルの思惑
・王家との繋がり
このあたりが徐々に明らかになっていきます。
次回はネメシア編を中心に、
さらに踏み込んだ情報と動きが出てくる予定です。
引き続きよろしくお願いします。




