第70話「依頼の裏側」
第70話です。
舞台はガイオの邸宅へ。
ネメシアから戻った悠真の話、
そして新たに見えてきた“依頼の違和感”。
点だった情報が、少しずつ線になり始めます。
王都グランセルの中心部。
石造りの街並みの中でも、ひときわ異彩を放つ建物があった。
高い塀に囲まれた広大な敷地。その奥に構える邸宅は、もはや一つの城と言っても差し支えない規模だ。
「……でかすぎない?」
門をくぐりながら、リズが空を見上げて呟く。
「商人の家ってレベルじゃないよね」
「慣れろ」
レオンは淡々と答える。
「ここがガイオの拠点だ」
整えられた庭園を抜け、建物へ入る。
中はさらに別世界だった。
磨き上げられた床、天井まで届く柱、静かに配置された調度品の数々。
「……これ、お城じゃないの?」
リズが小声で言う。
「違うけど、近いわね」
ララが苦笑する。
通された応接室は広く、全員が座っても余裕がある。
ほどなくして、扉が開いた。
「おう」
軽い声と共にガイオが入ってくる。
いつもの調子だが、その視線は鋭い。
「戻ったか」
レオンが言う。
「悠真が戻ってきた」
ガイオの眉がわずかに動いた。
「……ほう」
視線が悠真へ向く。
そしてその隣。
「……で、そっちは?」
同じ顔がもう一人。
ダービラが変身した姿だ。
悠真が肩をすくめる。
「俺じゃない」
「変身カードだ」
「中身は別人」
ガイオが小さく笑う。
「面白いもん使ってるな」
その直後だった。
空気が、わずかに揺れる。
ダービラの姿が歪んだ。
「……あっ」
悠真が声を漏らす。
「そろそろ時間だな」
次の瞬間、姿が崩れ――
角を持つ悪魔の姿へ戻る。
一瞬の沈黙。
「……は?」
ガイオが完全に固まった。
目が止まっている。
「おい待て」
一歩引く。
「本物か?」
その反応に対して――
リズは肩をすくめる。
「うん、それさっきも見た」
あっさりと言う。
ララも落ち着いたまま頷く。
「変身カードの効果よ」
「一時間で切れるの」
ガイオがゆっくりと二人を見る。
「……お前ら、なんでそんな普通なんだ」
「ここに来る前に見てるから」
リズが即答する。
ダービラは静かに言った。
「敵ではない」
悠真が補足する。
「ネメシアでいろいろ世話になったんだ」
「案内役ってとこだ」
ガイオはしばらく黙っていたが――
やがて小さく息を吐いた。
「……なるほどな」
驚きは残っている。
だが、それ以上に興味が勝っていた。
「面白いもん連れてきたな」
視線を戻す。
「で?」
「何があった」
悠真は椅子に腰を下ろし、息を整える。
「気づいたらネメシアって場所に落ちてた」
そこから、ゆっくりと話し始める。
地下に広がる国。
悪魔たちの生活。
冒険者たちが閉じ込められている現状。
出口の条件。
変身しなければ通れないこと。
そして――
「とにかくお金が必要だ」
静かに言った。
「全部、金で動いてる」
部屋が静まり返る。
レオンが口を開く。
「……全員助ける気か」
悠真は即答した。
「当たり前だろ」
迷いはない。
ガイオが小さく笑う。
「いい顔してるじゃねえか」
だがすぐに現実に戻る。
「で、金は?」
「出るために使い切った」
「だろうな」
即答だった。
レオンが言う。
「ガイオ、貸してもらえないか」
ガイオは腕を組み、少し考える。
そして。
「いいぞ」
あっさり言った。
リズが目を丸くする。
「え、いいの?」
「ただし」
ガイオが指を立てる。
「タダじゃねえ」
「働いて返してもらう」
悠真が笑う。
「当然だな」
少しだけ空気が緩む。
だが。
レオンが静かに言った。
「……一つ、気になることがある」
ガイオが視線を向ける。
「なんだ」
「今回の依頼だ」
「なぜギルドなんだ」
ララも頷く。
「中央区域が関わるなら、騎士団のはずよ」
ガイオは目を細める。
「……いいところに気づくな」
ゆっくりと立ち上がる。
部屋を歩きながら、言葉を重ねる。
「中央が動くなら騎士団だ」
「それが普通だ」
「だが今回は違う」
足を止める。
「つまり――王家の意思じゃない」
悠真が眉をひそめる。
「じゃあ誰だ」
ガイオは指を折る。
「条件を整理するぞ」
「中央に関われる立場」
「騎士団を使えない理由がある」
「情報を隠したい」
「それでいて独自に動ける」
一瞬の沈黙。
「……限られるな」
レオンが言う。
「貴族か」
「ああ」
ガイオは頷く。
「それもかなりの上位貴族だ」
さらに続ける。
「最近、妙に動いてるやつがいる」
「資金が流れてる」
「人も動いてる」
視線が鋭くなる。
「しかも中央に近いとなると」
ララが小さく言う。
「……絞れるの?」
「ほぼな」
ガイオは短く答える。
そして。
「確証はねえが……」
一呼吸置く。
「可能性が一番高いのは――」
その名前を口にする。
「ヴァルク・レイドルだ」
空気が変わる。
ただの依頼ではない。
裏がある。
それが、はっきりと形になった瞬間だった。
悠真が静かに言う。
「その通路……ネメシアに繋がってる」
全員の視線が揃う。
「つまり」
レオンが続ける。
「そいつは、それを知っているか……気づいた」
ガイオが頷く。
「そういうことだ」
ダービラが小さく呟く。
「……その名前、聞いたことがあるような」
全員がそちらを見る。
「ネメシアでもな」
静かな声。
さらに空気が重くなる。
ただの貴族ではない。
そう確信した瞬間だった。
レオンが言う。
「……どうする」
悠真は迷わず答えた。
「決まってる」
短く言う。
「まずは冒険者たちを助ける」
そして。
「そのついでに、全部暴く」
静かだが、確かな決意だった。
ガイオが笑う。
「面白くなってきたな」
その一言で。
物語は、さらに深い場所へと進み始めた。
第70話を読んでいただきありがとうございます。
今回は大きな戦闘はありませんが、
物語の“裏側”が動き出す重要な回となりました。
まず悠真側。
ネメシアの現状、
閉じ込められている人たち、
そして「お金がなければ助けられない」という現実。
ここからは単なる冒険ではなく、
“救うための行動”が軸になっていきます。
そしてガイオ。
今回は
・情報網
・判断力
・裏の顔
このあたりをしっかり見せる回でもあります。
さらに、依頼の違和感から見えてきたもの。
・騎士団ではない
・王家の意思ではない
・裏で動く存在
その結果として浮かび上がった貴族、
ヴァルク・レイドル。
ここからは
王家
貴族
ネメシア
それぞれの思惑が交差していきます。
そしてダービラ。
ネメシア側の視点を持つ存在として、
今後も重要な役割を担っていきます。
次回は
・具体的な行動方針
・ネメシア救出の準備
・そして貴族側の動き
このあたりに踏み込んでいく予定です。
引き続きよろしくお願いします。




