第68話「壊した者」
第68話です。
物語は大きく動き始めます。
王都側では、ついに“原因”に辿り着き、
悠真側では“行動”が始まる。
それぞれの選択が、これからの展開を大きく左右していきます。
王都グランセルへ戻ると、三人は迷わずガイオの元へ向かった。
地下に設置した転移陣のおかげで移動は一瞬だったが、状況は何も変わっていない。
悠真はまだ戻っていない。
それだけが、現実として重くのしかかっていた。
最奥の部屋。
重厚な扉の向こう。
中に入ると、ガイオはすでに椅子に腰掛けていた。
「戻ったか」
今は仕事の顔だった。
軽口はない。
目だけで状況を測っている。
レオンは短く言う。
「話がある」
「だろうな」
ガイオが顎で促す。
「まあ座れ」
三人は向かいに座った。
レオンが切り出す。
「王都外縁の異変だが」
「結界があった」
「ただし、正常じゃない」
ララが続ける。
「歪んでいました」
「封じられていたものが、無理やり開けられた感じです」
リズも補足する。
「あと、音がしてて……言葉みたいな」
ガイオは腕を組み、考える。
「……おそらく祭壇だな」
低く呟く。
「昔、儀式に使われていた場所だ」
「やっぱり知ってるのか」
「詳しいことはわからん」
即答だった。
「詳しい構造や儀式の内容は、中央区域の管理だ」
ララが顔を上げる。
「中央……」
「王族と一部の貴族、騎士団しか入れない区域だ」
ガイオは続ける。
「つまり」
「俺でも知らない領域だ」
その一言は重かった。
王都でも指折りの商人であるガイオですら、届かない場所。
「……じゃあ」
リズが言う。
「そこに行くしかないってこと?」
「そうなるな」
ガイオはあっさりと言った。
レオンが静かに立ち上がる。
「行くしかないか」
「待て」
ガイオが止める。
「正面からは無理だ」
「何か方法を探すしかない」
レオンは一瞬だけ考え、頷いた。
「……分かってる」
三人は部屋を出る。
向かう先は、決まっていた。
冒険者ギルド。
あそこなら、何か情報があるはず。
そう考えていた。
だが。
扉を開けた瞬間、空気が違った。
ざわめきが広がっている。
視線が、一点に集まっていた。
「……あれ」
リズが小さく呟く。
ララも気づく。
そして、レオンも。
そこに立っていたのは――
ローディアスだった。
鎧は着ていない。
だが、その存在感は消えていない。
むしろ、静かに立っているだけで周囲の空気を変えている。
王都の英雄。
そう呼ばれていた男。
「……ローディアス」
レオンが声をかける。
男はゆっくりと振り向いた。
その目には、どこか疲れがあった。
「……おお、レオンか」
短い言葉。
だが、その奥に何かを抱えているのが分かる。
レオンは迷わず言った。
「外縁の異変、何か知ってるか」
一瞬の沈黙。
そして。
ローディアスは、はっきりと答えた。
「あの結界を壊したのは――俺だ」
空気が凍る。
周囲のざわめきが一気に止まった。
ララが息を飲む。
リズも言葉を失う。
レオンだけが、静かに見ていた。
「……理由は」
短く問う。
ローディアスは目を伏せた。
「……娘がいる」
ゆっくりと口を開く。
「難病にかかって苦しんでいる」
「回復魔法では治らない」
「薬もない」
静かな声。
だが、その一言一言に重みがあった。
「だから……可能性に賭けた」
顔を上げる。
「神々の国に行けば、願いが叶う」
「そんな話を聞いた」
ララが小さく呟く。
「……それで」
「ああ」
ローディアスは頷く。
「昔、聞いたことがあった場所を思い出した」
「祭壇のことだ」
レオンが続ける。
「強引に開けたのか」
「……そうだ」
短い返事。
「正規の方法じゃない」
「だから、制御できなかった」
拳を握る。
「異変が起きた」
「危険を感じて……その場を離れた」
静寂。
そして、ローディアスは続けた。
「……今日、報告に来た」
「謝るために」
視線を落とす。
「だが……遅かった」
「すでに、犠牲者が出ていた」
その言葉は重かった。
ララの表情が揺れる。
だが、何も言わない。
レオンが聞く。
「神々の国については」
ローディアスは首を横に振った。
「噂だけだ」
「確証はない」
「行き方も分からない」
短く答える。
つまり。
ここまでだった。
得られる情報は。
レオンは静かに言った。
「……中央区域か」
ローディアスは目を上げる。
「そこなら、何かあるかもしれない」
それが、今できる唯一の道だった。
レオンは頷く。
「ああ」
ララも、リズも頷く。
やることは決まった。
中央区域へ向かう。
そのための方法を探す。
一方、その頃。
ネメシアでは。
薄暗い空間の中で、悠真は立っていた。
目の前には、水面。
そこに映る自分の姿は――
人ではなかった。
「……これが、悪魔か」
低く呟く。
ダービラの姿。
完全に再現されている。
「違和感は?」
後ろから声がする。
本物のダービラだ。
「……ないな」
「普通に動ける」
「なら問題ない」
ダービラが頷く。
「時間は限られてる」
「行くぞ」
悠真は振り返る。
ネメシアの街。
そこにいる人間たち。
一瞬だけ目を閉じる。
「……絶対、戻るからな」
小さく呟く。
そして前を見る。
出口へ。
悪魔専用の通路。
暗く、歪んだ空間。
「覚悟はいいか」
ダービラが言う。
悠真は笑った。
「ああ」
二人は同時に、一歩踏み出す。
地上へと続く道へ。
第68話を読んでいただきありがとうございます。
今回はレオン側と悠真側、両方が一歩前に進む回となりました。
まずレオンたち。
王都外縁の異変の原因が、ローディアスによるものであると判明しました。
彼は敵ではなく、
「娘を救いたい」という強い想いから行動した人物です。
その結果として起きてしまった悲劇。
ただの悪ではなく、
“選択の代償”として描いています。
そして悠真側。
ネメシアからの脱出がいよいよ始まります。
変身という新たな力を手に入れ、
危険な通路を越えて地上へ。
ここから再び二つの世界が交わっていきます。
また、中央区域という新たな目的も明確になりました。
・神々の国への手がかり
・王都の核心
すべてがそこに繋がっていきます。
次回は、地上に戻った悠真たちと
レオンたちの動きが交差していく展開へ。
引き続きよろしくお願いします。




