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不殺の剣と、百回の死

アルトワ館での生活が始まって数日。

俺は館の豪華な食事で体力を蓄え、図書室で知識を漁る日々を送っていた。

その平穏が認められたのか、脳内にあの無機質な声が響く。

《環境の安定を確認。セーブデータを更新します》

《リトライ・ポイントが「アルトワ館・客室」に上書きされました》

「よし……これでようやく、あの森とおさらばだ」

チェックポイントが更新された。つまり、ここからは**「館の中でどれだけ死んでも、森まで戻されずに済む」**ということだ。

そんな俺の「死ぬ準備」が整ったのを見計らったかのように、エルーシアが中庭に俺を呼び出した。

「今日から私が、お前に剣を教える」

銀色の髪を高く結んだ彼女が、木剣を構える。

「まずは私の踏み込みに反応してみろ。……行くぞ」

「ああ、いつでも――」

言い終わる前だった。

視界からエルーシアが消えた。

(速っ――)

ガッ!!

首の骨が折れる音が、脳内に直接響いた。

手加減はされていたはずだ。だが、彼女の「踏み込み」の風圧と衝撃は、レベル5の5歳児の耐久力を容易に上回った。

《死亡を確認しました》

《リトライを実行します》

視界が戻る。場所はさっきの客室ではなく、訓練開始直前の「中庭」だ。

(※リトライスキルが空気を読んで、訓練開始直前に自動で微調整してくれたらしい)

「――っ!」

俺は彼女が動く前に、心臓の鼓動を一つ分だけ早めて左に跳んだ。

「ほう。……だが、甘い」

今度は脇腹。

内臓を破裂させる衝撃が走り、俺は再び意識を手放した。

《死亡を確認しました》

……十回、二十回と「死」を積み重ねる。

一度死ぬたびに、彼女の重心の移動、筋肉の収縮、剣筋の癖が「データ」として脳に蓄積されていく。

リトライ地点が中庭になったおかげで、高速で死の反復横跳びが可能になった。

(……見えた。右足の親指に力が入る時、彼女は必ず斜め下から切り上げてくる)

五十回目。

俺はエルーシアが動く瞬間、木剣を「置いておく」ように差し出した。

「っ……!?」

初めて、エルーシアの表情に驚愕が走った。

彼女の木剣が俺の木剣に弾かれ、空を切る。

5歳児が、王国屈指の剣士の一撃を完全に「予測」して受け流したのだ。

「……信じられん。お前、今私の動きを読んでいたのか?」

エルーシアが距離を取り、戦慄したように俺を見る。

彼女の主観では、出会ってからわずか数分。

その短時間で、俺の動きが劇的に、それこそ別人のように進化しているのだ。

「……勘だよ。あんたが分かりやすい動きをしてるだけだ」

「分かりやすい、だと……? 私の剣が?」

彼女のプライドを適度に刺激しつつ、俺は荒い息を整える。

実際には、俺はこの数分間で**『百回近く』死んでいる。**

《条件達成:短時間での大量死亡を確認》

《死亡ボーナス:スキル【超感覚Lv1】が覚醒しました》

《スキル【身体強化Lv1】を獲得しました》

「ハッ……ハハハ! 最高だ」

死ぬたびに身体能力が底上げされ、世界がスローに見えてくる。

エルーシアの瞳に、畏怖に似た光が灯る。

「……お前、笑いながら戦うのか。死を恐れぬどころか、まるで『先を知っている』かのように……」

彼女は再び、今度は本気の構えを取った。

「面白い。ナナシ、お前を一人前の戦士として認めよう。……日が暮れるまで、死ぬ気で来い」

「……ああ。死ぬ気どころか、死ぬまでやるよ」

俺は不敵に笑い、再び「死の予習」を開始した。

この日、俺はさらに百回以上の死を数え――日の入りとともに、騎士団の精鋭すら凌駕する「予測回避」の技術をその身に刻んでいた。

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