死の王の尋問(リトライ・インタロゲーション)
パキンッ!
無機質な音と共に、クロムの顔を覆っていた白仮面が粉々に砕け散った。
現れたのは、冷汗にまみれ、恐怖で瞳孔が開ききった若い男の顔だった。
「ひ、ひぃぃっ……! くるな、くるな化け物……!」
「化け物? 失礼だな。お前たちが勝手に『特異点』だの『バグ』だの呼んで、消しに来たんじゃないか」
ナナシは、浮いた状態のクロムをそのまま床に叩きつける。
凄まじい衝撃。だが、ナナシは絶妙な魔力操作でクロムを「死なせない程度」に加減していた。
死なれたら、情報が手に入らない。
「ナナシ……本当に、お前なの……?」
拘束から解かれたエルーシアが、震える声で問いかける。
助けられた安堵よりも、目の前の幼児が放つ「正体不明のプレッシャー」への戸惑いが勝っていた。
「あぁ、エルーシア。……ちょっと怖いもの見せちゃうけど、向こうで閣下を介抱してて」
ナナシは振り返らずにそう告げると、再びクロムの視線を支配した。
「さて、おじさん。お前らの目的はわかった。歴史の『固定』、だっけ? じゃあ、その計画の拠点はどこだ? 次は誰が来る? 組織のトップはどこのどいつだ?」
「い、言うわけがないだろう……! 情報を漏らせば、私の魂は術式によって消滅――」
「あぁ、それね」
ナナシはクロムの胸元に手をかざす。
そこには組織が施した「口封じ」の呪印が脈打っていた。
「お前らの理屈なら、この人生で言えなきゃ終わりなんだろうけど。……俺の理屈は違うんだわ」
ナナシの指先に、地下で覚醒させた『魔力吸収』の渦が発生する。
「喋るまで殺して、リセットして、また殺す。……お前の魂に刻まれた呪いごと、俺が何万回でも『解析』してやるよ。全部吐くのが先か、お前の精神が摩耗して消えるのが先か……試してみるか?」
「……っ!? 貴様、狂って……!」
クロムは背筋が凍りついた。
目の前の子供は、自分の命だけでなく、「相手の死」すらもリソースとして計算に入れている。
特異点を消しに来たつもりが、自分たちが特異点の「餌」にされていたのだ。
「ま、待て! 言う! 言うから……!」
「……よし。まずは、その『黒い手紙』の送り主の名前からだ」
ナナシが冷たく微笑んだその時。
クロムの影が、突如としてどす黒く肥大化した。
「――そこまでだ、クロム。無能を晒しすぎたな」
影の中から響く、ノイズの混じったような重低音。
クロムの体が、内側から膨れ上がり始める。
「あ……が、あぁぁああ!! 助け……っ!」
「ちっ、遠隔での『強制終了』か!」
ナナシが手を伸ばすが、クロムの体は一瞬で黒い霧へと霧散し、その場には砕けた仮面だけが残された。
「……逃げられたか。いや、消されたのか」
静寂が戻った執務室。
ナナシの足元には、クロムが持っていた黒い手紙の残骸だけが落ちている。
レベルは30。力は手に入れた。だが、敵の正体は想像以上に深く、狡猾だった。
「……まぁいい。一度姿を現したなら、もう隠れ通せるとは思うなよ」
ナナシは、青白い魔力をゆっくりと霧散させ、元の「5歳の子供」の瞳に戻る。
そして、ガタガタと震えながら自分を見つめている伯爵とエルーシアの方へ、いつものように歩いていった。
「……終わったよ、エルーシア。……お腹空いちゃった。朝ごはん、まだ残ってるかな?」
投稿遅れてすみません!!




