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6話




柳生さんからのまさかの決闘の申し出に戸惑う僕。

それはそうだろう、出されたのが彼女の拳ではなく決闘の申し込み用紙だったのだから。


彼女は取り出した申込書を保管室のカウンターテーブルの上でさらさらと書き込んで、僕に押し付ける様に渡してきた。


「私の記入項目は既に終わった。

明日までに自分の項目を書いて昼放課までに持ってこい」


彼女はそれだけを言って、持っていた刀を近くの壁に立てかけた後、保管室から去って行った。

残された僕はしばらく動くことが出来なかった。


「仕事の邪魔になるから、さっさと出てけ」


はい。





幽鬼のようにフラフラと保管室から出た僕。


「よう!柳生とは上手く…って、どうした!?」


意気消沈な僕に向かって声を掛けた人物に視線を向けると、そこには服部が居た。

もしかして、僕が出てくるのを待っていてくれたのだろうか?


「おいおい、目が死んでいるぞ。

もしかして…柳生と何かあったのか?」


珍しく、本気で僕を心配する服部から零れた柳生さんの名に血の気が引いた。


「ちょ!?本当に大丈夫か!?顔色が青を通り越して白くなってるぞ!!」


両肩を掴まれ、ガクガクと揺らしてくる服部。

そうだ、僕には心強い忍者の友達が居たんだ!

この状況を打破する可能性を秘めたマイフレンドの両肩を逃がさないように掴んだ僕は涙を流しながら世界の中心で愛を叫ぶように懇願した。


「助けてください!!」


状況が理解できずに戸惑う服部に、僕は武器保管室で起こった事を包み隠す事なく服部に伝えた。


「普通に犯罪だな」


「やめて!そんな哀れなモノを見るような目でぼくを見ないで!!」


涙を流して叫びながら廊下に膝を付く。

わかってる!!そんなことぐらい自分が理解しているんだ!!


そんな僕に服部が憐れむように声を掛けてきた。


「高山…お前は妄想を拗らせるくらいに柳生が好きなんだな。

分かった。とりあえず、仲直りは後回しにして目の前に迫っている決闘(処刑)を回避しよう。

このままだと高山の命はないからな」


決闘が処刑と聞こえたが、その通りなので何も言わずに服部に協力を仰ぐことにした。


「とりあえず、場所を変えよう。

このままだと先生方に指導される」


服部に言われ、チラリと職員室を見てみると何人もの先生たちが廊下で騒ぐ僕らを厳しい目で見つめていた。


お仕事中にすみません。


「よし、じゃあ場所を変えるついでに、処刑回避の為に必要な人材を捕獲しよう」


「捕獲!?」


服部の物騒な響きに不安を感じながらも、僕は服部を信じて彼の後を付いて行った。





服部の先導によって僕が辿り着いたのは用具室の扉の前だった。

ここを利用するのは美化委員や用務員さんぐらいだと思うのだけど、誰に協力をお願いするのだろうか?

服部曰く、捕獲しようとしている人物がここに居るらしいのだが、僕には全く想像が付かない。


少なくとも、服部の知り合いであって、僕の知り合いではないのだろう。

服部が、ガラリと用具室の扉を開けると


「ハァハァ……」


用具室の壁に聴診器を当てて、ハァハァと興奮している見知った石沢(変態)が居た。

ああ…そういえば用無室の隣は女子更衣室だったな。


「服部、今すぐ通報しよう。

ここにとんでもないド変態が居る」


「落ち着け、高山。そんな事をすれば、お前も柳生へのセクハラで逮捕されるぞ?」


「待って待って通報は止めてっ!!…お、俺はただ、壁の防音性能をチェックしていただけなんだ!!」


さすがにここまで犯行の現場を見られているにも関わらず、証拠である聴診器を慌てて、ズボンのポケットに隠そうとしている目の前の石沢(変態)と僕を一緒にしないでほしい。


服部が言っていた協力者とは、もしかしてこの変態なのだろうか?

正直、前かがみで言い訳をする彼には不安しか感じないのだけど……。


「通報されたくなかったら、黙って俺達に付いてこい」


異論は許さないと睨み付ける服部を前に項垂れる盗聴犯石沢。

僕らは変態を連れて、誰も居ない自分たちの教室へと戻って来た。


教室に入った僕らは近くの机を囲うようにして座る。


「で?二人は俺に何をさせたいんだよ?」


僕らの空気から何かを要求されると感じ取った石沢は嫌そうな表情をしながら僕らに問いかける。


「そうだな…まず、お前に協力を頼む前に現状を理解してもらおう」


服部は神妙な表情で事の顛末を石沢に語って聞かせた。

そして、石沢の反応は……。


「なに、妄想でテロ行為してんだよ」


コイツにだけは言われなくないが、反論が出来ない!!


「まあ、今説明したように高山のテロ行為ならぬ、エロ行為によって柳生がキレて決闘をする事になった。

でだ、高山の処刑を回避する為に柳生に決闘を取り下げさせる。

その為に石沢、お前を呼んだんだ」


「まあ、別に協力してもいいけどよ。

で、俺は何をすればいいんだ?」


「それはだな……高山、申請書を出してくれ」


「うん」


服部に促され、鞄に仕舞っていた申請書を机に上に出す。

すると、服部は僕が記入する事になる自信が勝者になった場合に敗者へ要求する項目に指先とトントンと叩いた。


「ここに、柳生がドン引くようなド変態な要求を書き込んで、取りやめさせるんだ」


「君は僕を殺す気か!?」


そんな要求が書かれた申請書を柳生さんに見せようものなら僕は決闘を待たずに処刑されるだろう。


「安心しろ。お前の名誉は死ぬが命は助かる」


「安心できないよ!!そんな事をされたら卒業までボッチ確定じゃないか!?」


「分かった。つまり俺は高山の名誉を抹殺できるような要求を書けばいいんだな?」


「僕の話を聞いてよ!!」


なんて奴らだ!

こいつ等は助けるフリして僕を社会的に抹殺するつもりだ!!


「落ち着けよ、柳生に殺されそうになったら助けてやるからよ。

それにだ、名誉なんて頑張ればいくらでも回復できるだろう?」


「そうだ、服部の言う通りだぜ。

生きていれば名誉なんていくらでも回復できる」


「………わかったよ」


二人の言葉に反論できなくなった僕は肩を落として了承した。

そうだ、命があればいくらでも回復する余地があるんだ。


「じゃあ石沢、記入を頼む」


「おう、任せておけ!!」


突然、乗り気となった石沢は自分の鞄から筆記用具を取り出し、申請書に記入を始めた

一体どんな要求を書くのだろうか?

僕が不安で胸をドキドキさせていると、彼は満足した表情で僕らに自分が書いた要求を見せた。





《奴隷妻となって欲しい》




「てっめぇ、マジでぶっ殺すぞこの変態野郎がぁぁあああ!!!」


一瞬で度肝を抜かれたが、怒りに任せて石沢に飛び掛かって馬乗りになる。

一体何を考えて居るんだこの変態は!?

最悪だよ!!そして間違いなく、僕は柳生さんに殺されるよ!!


「このクソド変態野郎ッ!!

いくら何でも書いていい事と悪い事があるぞゴルァ!!」


「お前の妄想だろ!?奉仕してもらいたいんだろ!?」


「誰が奴隷にしたいと言った!?僕が望んだのはメイドさんや新妻さんがやってくれるような嬉し恥ずかしのサービスじゃボケェ!!」


「おい!お前ら落ち着けよ!!こんな状況を他人に見られたら……」


ピロリン♪


石沢に殴りかかろうとした僕を羽交い絞めにして止める服部の言葉の後に僕ら三人以外に誰も居ない教室で電子音が鳴り響く。

一気に頭が冷えた僕らが、ゆっくりと音のした方に顔を動かすと……。


ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪


スマホのシャッターを連打する女子生徒が居た。


グッ!


そして、彼女は僕らに視線を合わせ笑顔で親指を立てた後、颯爽とその場から去って行った。


ヤバい!!


『ちょっとまてぇぇぇええええ!!』


彼女と僕らの熱い鬼ごっこが始まった。

しかし、彼女は普通の女子高生ではなく武闘派が集まる天龍寺学園の生徒だ。

その足は俊敏で、僕ら三人が教室の外に出た時には影も形も見えなかった。


「畜生ッ、もう見えねぇよ!!

服部!!おまえ忍者だろ!?《分身の術》でも使って探せよ!!」


「そうだよ!上位成績者なんだから、女子の一人くらい探すのは余裕だろ!?」


「うるせぇよクソザコ共!!気配が探れねぇだろ!!」


床に耳を当てて、気配を探る忍者服部。

頼む、お前だけが頼りなんだ!!

僕ら二人の願いを一心に受けた、服部が顔を上げる。


「駄目だ、音が聞こえねぇ!!たぶん隠れているか、一階に飛び降りやがったんだ!!

急いで探すぞ!!」


「「おう!!」」


入学して以来、今までにない程の一体感を感じながら僕らは学園中を走り周った。

僕らならきっと見つけられる!!!



「このバカ野郎共!!廊下を全速力で走る奴があるか!!」



めでたく僕らは九条先生に捕獲。

生徒指導室へと連行され、複数の先生方から熱い説教を虚ろな目と表情で受ける事となった。



僕ら三人の尊厳と名誉は完全に呼吸を停止した。



本当に…僕にはこの学園は厳しすぎるよ……。






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