2話
「うう……」
ジリジリと自室で激しく鳴り響く目覚まし時計に起こされた僕は今日も筋肉痛に痛む体をゆっくりと
起こして制服に着替える。
いつも通りの朝だが、今日は一味違う。
《決闘》システムが今日から僕ら一年生に適応されると同時に相手は二年生ではあるが、一年生初の決闘が開始される。
そう、学校のアイドルの柳生さんとあの坂田先輩の決闘だ。
「宗助っ!!今日こそご先祖様より代々伝わりし、我が《無明新陰流》の修行をせんか!!」
ドカン!と力ずくで開けたであろうドアの大きな音と共に僕の部屋に乱入して来た父さん。
今日は相手をしている余裕がないので、僕は父さんを無視して、そのまま朝食を食べる為に
一階へと向かう。
「………」
そして、僕の部屋で一人ポツンと残された父さんが、一階に降りて来たのはこの五分後の事だった。
1
父さんは無視された事が余程ショックだったのか、朝食ではいつも以上に静かだった。
少しやり過ぎてしまったかもしれないが、最強の剣士である男が息子の無視で傷つき過ぎでは
ないだろうか?
しおれた父さんを一瞥した後、朝食を一気に口の中に掻き込んだ僕は一目散に学校へと全速力で向かった。
「よぉ、高山。
今日はいつもよりも早いな」
「おはよう服部。
そういう君も今日は早いじゃないか」
「まぁな」
廊下で呼吸を整えた僕が自分の教室に辿り着くと、既に沢山のクラスメイト達が自身の席に座って居たり、友人たちと談笑をしていた。
勿論、彼等が話題にしているのは柳生さんと坂田先輩の決闘についてだ。
僕と服部もその例に漏れず、簡単な挨拶を済ませると決闘についての話題になった。
「そうそう、決闘相手の坂田について色々と調べてみたぜ」
「本当!?」
「おいおい、俺を誰だと思ってんだ?
服部一族の俺なら、これくらいの情報収集は余裕だぜ」
ニヤリと得意げに笑った、服部から坂田先輩について語られる。
坂田 幸一。
天龍寺高校の二年生。
一族が代々経営している《坂田重工》の一人息子で、幼いころから英才教育を受けており、成績は武術を含めて上の中。
元女優だった母親のお陰で容姿に恵まれており、女性を常にとっかえひっかえしている。
「うん、正直言って見たまんまな先輩だね。
死ねばいいのに」
「ああ、俺もこの情報を見た時は二次元嫁一筋の俺ですら殺意が沸いたね。
コイツは見た目通りの激アマお坊ちゃんのクソ野郎だ。
だから、コイツの祖父は一人息子に甘い両親に変わって、精神面を鍛えさせる為にこの高校に坂田を
入学させたらしい。
わざわざ逃げないように『退学したら、一族から追放する』と釘を刺されてね。
だが……」
「全然、鍛えられてないね」
服部の言葉に即答する僕に頷く服部。
「そうだ。
寧ろ奴の状態は悪化している」
「そこが分からない。
なんで武術家でもないのに、この高校に入ってあの態度を貫けるのさ?
激アマお坊ちゃんならすぐに根を上げて逃げ出すはずだよ」
そう、僕のクラスにもかつては居た激アマお坊ちゃんや過酷な授業に続けていく自信を無くしたクラスメイトをこの目で見てきている。
服部の話に出て来た坂田先輩なら彼等の様に辞めてしまってもおかしくないのだけれど……。
世の中が注目し、国が運営するこの学園に限ってあり得ないとは思うが、思わず坂田先輩の不正を疑ってしまう。
「勿論、奴や奴の実家からは不正はなかった。
奴が逃げ出さず続けてこれたのは奴自身に単純明快な理由があったのさ」
「理由?」
「《才能》だよ」
才能。
服部のこの言葉は僕の胸にストンと落ちて僕の中のモヤモヤをスッキリとさせた。
人間は平等ではない生まれた環境や才能によって常に格差に晒されている。
僕のような才能のカケラもない凡人を納得させるには十分な理由だった。
「アイツは体に恵まれ、武術の才能もあった。
奴の実家が大金叩いて雇った達人達の指導もあって、入学当初は凡人レベルだった奴は一年で、アッと言う間に上位成績者の仲間入り。
そして、武術関連の成績が伸びるのと比例して今の状態に仕上がったという事だ。
激アマお坊ちゃんの根性を鍛えなおす所か悪化させたことに現会長である奴の祖父は頭を抱えているらしい。」
「上位成績者……」
柳生さんは確かに強いと思う。
基礎授業では何度も周回遅れにされ、常にトップを独走している。
だが、それは体力面のみに限った話であり、僕は彼女が戦った姿を一度も見ていない。
故に、一年以上この学校で戦い続けている才能を持った上級生に勝てるのだろうか?
勝てたとしても大きなケガをしてしまうのではないだろうか?
そんな悪い想像をしたところでホームルーム開始のベルが鳴った。
僕らの話は終了し、他のクラスメイト達も各々の席へと帰っていく。
「まあ、心配しなさんな。
上位成績者と言っても奴は一番下だ、決闘の結果はすぐに出る。
でだ、話は変わるんだが柳生の事が心配でたまらない親友に、いい商談があるんだが……」
2
ソワソワとした雰囲気の中で授業が終わった事で、僕を含めた生徒達は一目散に学園にある決闘専用のスタジアムに来ていた。
スタジアムに入ると観客席は生徒達が埋め尽くし、学校に設置されている自販機で買ったと思われる缶ジュースを片手に二人の生徒達が戦うのを待っている。
僕は服部から購買販売されている昼飯を奢る代わりに、確保してもらった
最前列の席でリンクを見ていた。
あり得ない未来だが……もし、万が一にも俺に決闘なんて話が舞い込んできたら、こんな衆人観衆が居る中でやらなくてはならないのだろうか?
リング中央でボコられた挙句に生徒達に見られる自分自身を想像して身震いをする。
ぼ、僕は安定した将来の為にここに居るんだ。
武術を習うのならまだしも、決闘なんて冗談じゃない!!
「お?二人が出て来たぜ」
リングへの入り口の西口と東口から腰に日本刀を差した状態で姿を現した二人にスタジアムが
盛り上がる。
二人が中央に向かいゆっくりと歩いて距離を詰めていく。
二人の距離が数メートルとなった所で南口から我がクラスの副担任である九条先生が右手にマイクを
持って、獰猛な笑みを浮かべながら姿を現した。
『あーこれより、一年の柳生と二年の坂田の決闘を始める。
柳生が勝てば、坂田は金輪際柳生に関わる事が出来なくなり、退学だ。
逆に坂田が勝てば、柳生は坂田に絶対服従を誓って嫁となる。』
絶対服従と嫁という単語でスタジアムに柳生さんのファンであろう生徒達の殺意の咆哮が響き渡る。
僕自身も気づけば、喉よ裂けろ!と言わんばかりに叫んでいた。
だが、それもすぐに収まった。
『うるせぇんだよ!クソガキ共!!
柳生が決めた条件なんだから、外野が騒ぐんじゃねぇ!!』
倍返しと言わんばかりに咆哮する九条先生の声に観客が黙り込んだからだ。
でも、結婚っていくら何でもありえないだろう!?
無茶苦茶だ!!
『本人たちの意思と保護者の確認も完了し、条件に同意する事を記した誓約書もある!!
文句がある奴は俺が相手をしてやるぜ!!』
マイクを持っていない手で握り拳を作る先生に立ち向かう者は誰一人としていなかった。
『よし!静かになった所でパンフレットにも書かれていたと思うが、新入生の為にルールを説明する!!
試合開始のブザーが鳴ったら決闘開始。
相手に参ったと言わせるか、戦闘不能に追い込んだ方が勝ちだ!!
単純で分かりやすいだろ?
もちろん、戦闘不能であるかどうかは審判である俺が判断する!
決闘が終わった後に追撃したらペナルティがあるから気を付けろよ!!』
まさに力こそが全ての世界。
僕は本当にとんでもない学園に入学したのだと本当の意味で理解した。




