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3話


学園の怖さを本当の意味で理解した僕はリング中央の二人…特に柳生さんへと視線が固定されていた。

彼女は何故、あんな条件で決闘を了承したのだろう?

あの内容は彼女にとって得る物は何一つなく、不利すぎる。


「まさに人生を掛けた大勝負って奴だな」


「そうかな……。柳生さんの人生は掛かっているかも知れないけど、先輩は退学でしょ?

先輩はやり直しが効くかも知れないけど柳生さんは……」


「なに言ってんだよ。

坂田は退学したら一族から追放されるんだぜ」


ああ、確かにそんな話を服部から聞いていたな……。


「才能だけで世間を知らないボンボン息子が約束されていた将来の権力と巨万の富が無くなるんだ。

かなり痛いと思うし……大企業なんて裏で何をやっているのか分からねぇからな。

他の会社への就職もかなり厳しくなると思うぞ」


「……それでも僕は柳生さんを応援したいな」


「それはそうだ!憎いイケメンよりも美女!!

俺も柳生を応援するぜ!!」


僕らがそんな話をしていると決闘開始のブザーがスタジアムに鳴り響いた。



1



ブザーが鳴ったと同時に抜刀し、上段の構えをとる坂田先輩。

それに対し、柳生さんは柄に手を掛けておらず自然体のまま。

もしかして緊張しているのだろうか?


「緊張しているのかな?僕は君を手に入れる為なら容赦なく打ち込むよ?」


「……」


上段の構えを取ながらイヤらしい笑みを浮かべる坂田先輩。

それに対し、柳生さんは黙ったまま。

一体何を考えて居るのだろうか?


「構えないのなら…遠慮なくいかせてもらうよ!!」


上段の構えから真っすぐに振り下ろされる真向斬り。

鍛えられた両手から振り下ろされるその斬撃はかなりの速度が出ている。


避けられない!!


何もしない彼女に、観客席の誰もが彼女の悲劇を想像する。

しかし……。


「……え?」


坂田先輩が振り下ろした刀は柳生さんに当たる事なく大きく空振って、リンクの床を叩いた。

リンクに叩きつけられる形となった刀は甲高い音を立て、切っ先折れて勢いよく宙を舞う。

先輩は起こった事が信じられず間抜けた声を漏らし……。


いつの間にか、背後に回った彼女の手刀によっての一撃によって意識を刈り取られた。


白眼を剥いたまま、糸の切れた人形を彷彿とさせるようにリンクに崩れ落ちた先輩が動く気配はない。

勝敗が決まったと言うのにあまりの速さと彼女の見せた圧倒的な実力の前に観客席はとても静かだった。


『あー、勝者は柳生。

決闘の条約に則り、現時刻をもって坂田は退学とする。

坂田ァ…お前も男なら、もうちょっと粘れよ』


九条先生は呆れた様子で柳生さんの勝利宣言をすると気絶した坂田先輩を脇に抱えてスタスタとリンクの外へと出て行った。


こうして開始三十秒も経たずに一撃で終わったこの決闘は僕ら一年の伝説となった。



2



坂田先輩が退学となり、伝説の決闘が終わった一週間後の昼休み。

驚くべきごとに、柳生さんはあれから毎日のように沢山の男子から決闘を申し込まれており、一日に何度も決闘を行っている。


学園の生徒達からはこの無謀とも言える彼らの行動を《柳生チャレンジ》と呼んでいる。

勝てばデート、負ければ二度と決闘を申し込まない事を条件に繰り広げられる漢達の夢の特攻劇。


勿論、決闘に勝利した者はなく、決闘を申し込んだ全員がリンクのシミとなって消えている。


勝てば柳生さんとデートだけど……クソザコで貧弱モヤシの僕には夢のまた夢。

例えイケメンに生まれ変わったとしても、彼女とはデートどころか手をつなぐこともないだろう。


あったとしたらそれは悪魔の悪戯か、神の奇跡だ。

僕はただのクラスメイトで、今もこうして食堂に向かう彼女の後姿を遠くから見ているだけで幸せだ。


「おいおい、また柳生を見てんのかよ。

まさか、お前も例の《柳生チャレンジ》がしたいのか?」


購買のパンを片手に僕の席へとやって来た服部は呆れた表情を浮かべている。


「いやいや、僕には無理だよ。

逆立ちどころか死んでも彼女には勝てないよ」


僕の様なモヤシボーイでは億が一でも勝ち目がない。

宝くじにチャレンジした方が、まだ一等を当てられる自信がある。


「まぁな。《気》も使えないお前さんじゃあ、チャレンジの失敗者と何も変わらない。

だが、最近だと柳生にボコられに行く物好きな奴も居るし……。

なんだ、高山はもしかしてボコられたい方なのか?」


「お願いだから、あんな変態達と僕を一緒にしないで」


ドン引きした顔でとんでもないことを言って来る悪友に即答する僕。

僕は殴られて喜ぶ、性癖は持ち合わせていない。


「まあ、いいけどさ。

柳生にお近づきになりたいなら武道家の卵を卒業して《気》の扱い方を知った方がいいぞ。

アレが使えるのと、使えないのとでは雲泥の差だからな」


漫画やゲームで有名な《気》。

自身の持つエネルギーを力に変換し、超人的な身体能力を発揮する力であり、武道家の卵を卒業した証とも言われている。


学園に在籍している生徒の中にはほんの一部の上位成績者が扱えると噂では聞いているが、武道家を目指していない僕には縁がない話だ。


午後、何時もの様にボロ雑巾となった僕は寄り道をする事なく自宅へと帰った。

何故なら、今日から僕は父さんと剣の稽古をする事になっているからだ



3



自宅に帰った僕は胴着に着替えて、重くなった足を引きずりながら家の近くにある道場に入る。

道場の中心では父さんが真剣な表情で正座をしてこちらを見ていた。

父さんの横には刀が置いてあるせいだろうか?威圧感が半端ない。


「俺の前まで来い。

お前に渡すものがある」


恐る恐る父さんの前まで移動して正座をする。


「…これをやる。

明日からこれを身に着けておけ」


そして、渡される刀。

父さんの雰囲気に呑まれ、思わず受け取ると両手にずっしりとした重みが伝わって来る。


「刃は潰してある。

我が高山家のご先祖様から代々、受け継いできた刀だ。

俺も、あの学園の生徒だった時に帯剣していた」


竹刀を振るう物だと思っていた僕は突然渡された刀に戸惑いを覚える。

これから一体、どんな特訓が行われるのだろうか?


「うむ、これでお前は今日から立派な《無明神明流》の伝承者だ。

免許皆伝おめでとう」


「…は?」


「いやー、明日から道場の事はよろしくな!

父さんは母さんと海外旅行に行ってくるから」


「いやいや、父さん何言ってんの!?

稽古は!?修行は!?」


何かに解き放たれたように表情が朗らかになった父さん。

僕は意味が分からず、父さんは動揺する僕を何故か懐かしそうな表情で見つめていた。


「宗助。伝承者となったお前には我が《無明新陰流》の真実を伝えよう」


「この訳の分からない状況で何を聞けと!?本当に何言ってるのさ!?」


父さんは道場の真ん中で吠える僕を無視し、懐から一冊の古い書物を取り出して、一族の秘密を語り始めた。


江戸時代の真っただ中、偶然にも伊勢で行われていた宝くじで僕のご先祖様は偶然にも大金を手に入れた。

しかし、気弱だったご先祖様は、突然舞い込んできた大金に恐怖したらしい。

必要以上のお金の使い道に困っていたご先祖様は道端で刀を販売していた貧乏な刀匠と出会う。

小さな飲食店の跡取り息子で、刀に縁がなく、刀に対して憧れを持っていたご先祖様は宝くじが当たった記念に、刀匠から一振りだけ購入したそうな。


生まれて初めて腰に差した刀にご先祖様は感動したようで、高ぶる思いを抑えきれずに刀匠に色々と話しかけたらしい。


刀匠もそんなご先祖様に始めは困惑していたが、自分の打った刀を購入して喜んでくれたご先祖様とはすぐに打ち解けて仲良くなったみたいだ。


二人は刀の話題から身の上話をするようになり、ご先祖様は貧乏な刀匠にはいつか刀匠が有名になる事を信じて、支えてくれる家族が居る事を知る。


お人好しだったご先祖様は、刀匠の話を信じて大金の中から自分の生活に必要な分だけを抜き取って、それ以外を金を全て分け与えたらしい。


勿論、完全な善意だけでなく大金を早く手放したいという打算もあっての行動だった。


大金を渡されそうになった刀匠は始めは断ったらしいが、ご先祖様の善意と生活の苦しさから、最後にはお金を受け取った。

ご先祖様の行動に感激した刀匠は、ご先祖様に沢山のお礼と感謝を述べ、一つの約束をしてくれたのだ。


『貴方の御恩に報いる為に我が人生で打つ、最高の一振りを貴方に必ず渡す』


お金の返済ではなく、刀匠らしいお礼を何時か受け取る事を約束したご先祖様は、約束の時が来た時の為に刀匠に住所を教えた後、人を助けた幸福感を胸に抱いて実家の飲食店に帰ったそうだ。


それから数十年後、ご先祖様が刀匠との約束をすっかり忘れていた頃。

約束した刀匠が一振りの刀を持って、やって来たのだ。


律儀にやって来た刀匠と話をして約束を思い出したご先祖様は、その刀を受け取った刀の銘と刀匠の名前を聞いてびっくり仰天。


「刀の銘は《護行剣村正(ごぎょうけんむらまさ)》。

刀匠の名は今もその名を遺す伝説の刀匠、千子村正《せんごむらまさ》だ」



4



汚い書物を広げ、僕に村正の名前を見せ付ける父さん。

確かにその書物と刀が本物だったらすごい。

でも、本物だったら刃は潰さないだろう。


村正は歴史に名を遺す日本が誇る伝説の刀匠だ。

彼の打った刀は国宝級の代物で、妖刀伝説にもなった大変貴重なお宝である。

故に父さんの言っている事が大嘘である事が良く分かる。

これに騙されるのはよっぽどのバカだけだ。


「全く、僕が修行を断って来たからってこんな嘘をつかなくてもいいじゃないか。

わざわざ、小道具を揃えるなんてちょっと悪質だよ」


僕は不機嫌さを隠す事なく、父さんを非難した。

しかし、父さんは今まで見た事のない優しい目をするだけで、僕の言葉に反応はしなかった。

本当に今日は、何を考えて居るのか分からない。


「…わかった。

俺は、もうこれ以上は何も言わない。

この刀を使った時にでも連絡するといい」


父さんは古い書物を懐にいれ、道場を去って行った。



…………。



特訓は!?



※ストックが切れそうなので、ここから更新はゆっくりとなります。

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