第45話:押し付けられる理由
「結城クン、結城クン、現実に戻ってきたまえ、結城クン」
《はっ!》
喜屋武に声掛けされ、結城は我に帰る。
「どうやら、キミも戎の特殊効果にやられたか?まだ耐性はあると思ったが」
「へっ?ボク、どうしてました?特殊効果って?たいせい?」
気付けば戎は既にケージに戻っており、結城は首を傾げるしかなかった。
喜屋武は軽快にレクサスを操りながら、
「そう、耐性。正確には耐和性とでも言うべきかな」
結城は後部席から身を乗り出し、
「何なんすか?その“たいわせい”って?」
「耐和性・・・、俺の造語だがね。言ってみれば、“和み”に対する耐久性さ。今回、課長の所で戎が和みの効果を発揮してしまったので、課長の娘さん勉強を全くしなくなってね。ほら、今年、受験だろ?だからさ」
喜屋武は口元をニヤつかせ、
「いや、それってホントに戎が原因ですか?元々勉強あんまり出来なかっ・・・」
結城の疑問を喜屋武が遮り、
「バカを言っちゃいけない。課長ん所の娘さんは、聖クリストファー国際学園の常にトップ10に入る秀才だぜ」
《嘘ぉ・・・。聖クリストファー・・・、聞いた事ある。確か・・・》
「あの嬢ちゃん坊ちゃんが集まる、大阪でも有名な進学校の一つの?」
喜屋武はコクリと頷き、
「あぁ。そこに通ってる娘さんが戎にハマって、全く勉強が手につかず。模試の成績も急降下なんだとさ。これじゃあ、本番の受験も危ないって事でね。だから、課長も見兼ねて戎を引き離す事にしたのさ。実に不思議な気持ちにさせる猫だと思うね」
「は、はぁ・・・」
《でも、だからって・・・。何でまたボクんトコなんだ?》
喜屋武はクスっと笑って、
「腑に落ちない顔だね、結城クン」
「そりゃそうですよ、喜屋武さん」
結城は食い下がるが、喜屋武はクールに、
「残念ながら業務命令だ。諦めたまえ。とは言っても、キミに全てを任せるのも可哀相なんで・・・」
「えっ、どうにかなるんですか?」
「猫を何処かにやるのはどうにもならんが、課長の恩情で猫缶と猫砂が結城クンの所に届くはずだよ。事件解決までの間。今朝、経理に申請していたから」
「は、はぁ・・・、ありがとうございます」
《なんだ、そっちか・・・。つまり、ボクの家に猫が増えるのは確定なんだ》
「でも、あんまり猫が増えるとマンションの大家さんが・・・」
結城は、もう一度食い下がってみた。
「安心したまえ、結城クン。そんな事もあろうかとあのキミの部屋ね、最初から犬や猫10匹までOKだから。帰って契約書よく見たまえ」
「へっ?」
《何ですとー?ははははは・・・。そりゃ、ボクが押し付けられる理由だ。そういや、キャシーとイヴって、猫が増えるの大丈夫なのかな?静かだけど・・・》
気になった結城がキャシーに顔を向ける。
《あっ、やっぱり》
結城の予想通りキャシーは、イヴを膝に抱えたまま静かに昼寝の真っ最中だった。




