第44話:和みの戎
《まぁ、奥さんの妊娠が発覚したから、布袋がウチに来るのは理解るよ。でも、戎は何で?》
結城は思わず喜屋武さんに尋ねた。
「布袋の件は仕方ないですよね。もしかして、迫水課長の預かってた戎も・・・、まさか、妊・・・」
喜屋武があっけらかんと、
「そう、察しがいいねー、結城クン。課長の所もだ」
「!!!!!」
《うっ、嘘だ~~~。そんなご都合主義的な安易な展開、ボクは認めないぞ。課長ん所も、妊娠だなんて・・・》
刹那、喜屋武がシニカルに口角を上げ、
「プッ。な訳無かろう。結城クン、考えてもみたまえ」
《ははははは・・・。だよな・・・。でも、だとしたら何で?》
う~ん、と首を傾げる結城に、喜屋武さんは肩を竦め、
「結城クン、キミは戎をじっくり見た事はあるかい?」
「へっ?」
「“へっ”じゃない。布袋の代わりに戎を出してみな」
「は、はい・・・」
結城は素直に従うしかない。
布袋を抱え上げ、元居たケージに置く。
《つか、布袋どんだけ思いんだよ。ほんとに・・・》
そっと戎に声掛けする。
「戎、ちょっと出ておいで」
戎のケージの扉を開け、左手を中に入れる。
《今度は噛まれないよな・・・。あっ、冷たい・・・》
戎がざらついた舌で、ボクの指を舐めたのが理解った。
結城は戎の首根っこを掴み、
「さぁ、出ておいで、戎」
一気に引っ張り出した。
《ちょっと強引だったかな・・・》
普通の大人サイズの戎は、スポンと飛び出すと結城の膝に座る。
《ボクを見つめる・・・。見つめ・・・。見つ・・・。ぷっ。ぷぷぷぷぷ》
「はっはっはっはっはぁ~、お前、戎、本当に・・・。ぷぷぷぷぷ」
結城は声を大にして笑った。
《戎、お前、そんな顔だったっけ?戎にしてみれば、何で笑われるのか理解らないかもしれかいけど。まぁ、模様だもんな》
偶然とは恐ろしい。
戎は他の姉弟たち同様、白地がベースなんだけど、顔の部分が・・・。
いや、正確には顔だけに、黒い模様が入っていた。
下顎に顎髭、両目の上に楕円型の麿眉の様に。
《これだけなら、まだ格好悪くも無いんだろうけど。鼻の下に線型の模様・・・。真ん中なら理解るよ、何で少しズレて右の鼻の穴の下にあるのかなぁ》
コレ、どうみても鼻毛が“こんにちは”してる様か、黒い鼻水が垂れてる様にしか見えない。
鼻が黒かったら余り気にならないんだろうけど、残念ながら戎の鼻は綺麗なピンクだった。
《本当に模様だよな?》
結城は戎の鼻の下を左指で擦ってみた。
戎はされるがままである。
《消えない・・・》
もう一度確かめる。
《本当に模様かな?》
結城は戎の両脇に手を入れ、目の高さに迄抱え上げる。
マジマジと見た。
《本当に模様だ・・・》
しかもよく見ると、戎って他の姉弟に比べ少し寄り目がちなので、
《子供顔に見える。黒目がちだし。お前、男の子で良かったな。女の子だったら、嫁の貰い手が・・・》
戎は首を傾げ、可愛くニャアと鳴く。
《ヤバい・・・、和む。平穏とゆーか、心のオアシスとゆーか、言葉が足りないけどそんな感じ。ガラス窓越しの光りも柔らかく暖かい。あぁ、日本は平和だ》
事件なんか、もうどうでも良くなってきた。




